魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
駆け回る羊亭は木造の2階建ての建物だ。
そこかしこにまだ復旧しきれていない部分はあるものの何とか営業は出来ている。
ファンタジー物に良くある1階部分が食堂兼酒場、2階に部屋があり宿を借りる事が出来る。
1階は年期の入った太い木の柱に支えられて、梁も立派な木材を使用している。
壁も木造であるので傷んでいる箇所がやや目立つが骨組みは頑丈なので修繕は容易だろう。
床は年季が入り薄汚れているが、決して不潔なわけではなく全体的にはいい雰囲気を醸し出している。
幾度となく感じた事だが平和な時に訪れたいと思える店だ。
食堂には20個位のテーブルが並んでいて7割程が客で埋まっている。
オスゴブリン、女魔族、メス猫人族という珍しい組み合わせである俺達はなるべく目立たない様に端っこのテーブルを選んで椅子に座った。
ラノベ小説や古き良きRPGにあった絡まれイベントは小説やゲームで俺つぇぇえええ展開に持ち込めるから良いのであって今現在の状況でかち合ったらウザい事この上ない。
この世界の住人であるリリアに自分達の希望を伝えて適当に飲み物と食事のオーダーを済ます。
ややあって先の飲み物が配膳されると囁かな乾杯の後、俺は本題に入る。
「今後について……まずは魔王軍に協力して自分達の強化に努めたいんだけどどうかな?」
「にゃるほど、そうすると取り急ぎは種族進化の為の試験にゃんね」
リリアの言葉に俺は頷くとそこにアルシーが入ってきた。
「あ、イナバ様、大事な事言い忘れてたばい」
「ん? なんだい、アルシー」
「種族進化の件やけん実は試験ば受くるにはギルドに所属はもちろんやけど担当ギルドで実績ば少し積む必要があるとよ」
なんだと?
そんな話は初耳だが。
出来れば情報は最初に全部出して頂きたいのだが……。
忘れてたんなら仕方ないか。
「実績というのは具体的に言うと何をすればいいんだ?」
「ギルドの依頼をこなすと、内容にもよるっちゃがイナバはこの街の解放なんかに十分貢献しとるけん、すぐ終わると思うばい」
おっ、割かし簡単で良かった。
いやいや、簡単とは言えゲームの頃でも十分死にかけたし転移した今となっては命懸けだ、気を引き締めていこう。
まあ、でもロマリアスはズタボロにしてやったし側近を一人倒した。
しばらくはこちらに手を出してこないと思われる。
混んでいる割には配膳が早く話をしている内に次々と料理が運ばれてきた。
サラダ――、爽やかな風味と特徴的な苦味と辛味、深い緑色の葉にしまった茎はクレソン、それに塩漬けにした肉を燻製にしたベーコンっぽいものが乗っている。そしてかかっているドレッシングみたいなものが俺の大好きなびっくり〇ン〇―のそれにそっくりな味だった。マジ美味い!
肉の串焼き――、不思議な味がしたが北海道の阿寒湖温泉で食べた美味いエゾシカに似ていた。
赤身が多く、ジューシーで柔らかく臭みもない。適切に処理されたエゾシカの肉はとても美味かった記憶があるがそれに近い。
最後にスープ――、ジャガイモだ。正確に言うならじゃがいものポタージュ風スープだろう。小さな固まりがゴロっと入っているが、その食感はまんまジャガイモだ。
どれも俺の世界の食材や料理を思い出させる。
異世界にきて食事で苦労するのではないかと思っていたから俺はほとほと運が良い……事もないか、ゴブリンになっているし。
よほど俺が嬉しそうに食べていたのだろう。
俺を見てアルシーはニコニコ、リリアは少し呆れている。
「あ、悪い、二人共。前の世界の味に近かったので嬉しくなってしまった」
話の途中にも関わらず俺は二人を放置して一心不乱で食事にのめり込んでしまった事を詫びた。
「構わんばい。イナバ様の世界の料理ば研究したんや。お口にあったのなら良かったばい」
「それにしても、もう少し落ち着いて食べたらどうにゃ。見てて見苦しいにゃ」
リリアよ、その言葉、お前にそのまま返そう。
料亭でのお前の食べっぷりは猫そのものだったぞ。
アルシーは本当に普段は優しい、戦いに身を置かなければ可憐な少女だ。
「そう言やあイナバ様、魔王様と知り合いやったんやね」
「ふにゃっ!? イナバさん、魔王様と知り合いなにょか!?」
「えっ!? アルシー、それは!?」
アルシーが突然、とんでもない事を言い出した。
俺と魔王……叔父さんとの関係がバレたら……、バレたら……、
まあ、いいか。
リリアには遅かれ早かれ俺の素性も話そうと思ってたからな。
「そうだな、俺と魔王は同郷だ」
俺の言葉を聞きアルシーは静かに頷きリリアは驚きの余りに毛を逆立て固まった。
「イナバ様もご理解いただけたと。リリアにも私達の事情ば話すべきたい」
確かに。
リリアは種族進化の試験同行について打診をした時もとても協力的だった。
実力もあるし今後も頼もしい仲間として付き合っていきたい。
そうと決まれば……。
「わかったよ、アルシー。リリアに話があるんだけど……大丈夫か? リリア」
リリアは話の展開に完全に乗り遅れて未だ固まっていた。
猫特有の瞳孔の開いた驚いた顔のままなので少し可愛い。
「にゃ、にゃにゃにゃにゃにゃ――っ! ……つかれたにゃーん」
勝手に暴れて勝手に疲れている。
そしてフッと俺を見ると焦りながら話し始めた。
「ふにゃぁ~、これまで数々の失礼をば、謝罪するにゃん。命だけは……命だけはお助けを~」
おいおい、まて。
何も酷い事はしないよ。
俺は耳をたたんで丸くなって土下座しているリリアを何とか宥めて自分達の話を聞くように言い聞かせた。
そして……
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