魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
俺はアルシーから元の世界に戻る人間は身体が維持できないという衝撃の真実の理由を聞いた。
アルシーは更に話を続ける。
「それから魔王様は一人では限界やて思うた。他種族との戦闘や領内の繁栄も考えなならず、自分だけでは、もう無理やと感じ始めたんや。そこで同じゲームばプレイしとった有能なプレイヤーをばスカウトして協力ば得ようとしたんや。私も途中から魔王様の手伝いばしとったけん、序盤の話は昔にグリッシュ様から伝え聞いただけばってん……。イナバ様ば、こん世界に来るっちゅう話ば受けた時、魔王様は大層迷うたが苦悩の姿ば側で見てきたグリッシュ様には藁にも縋る思いの魔王様の気持ちはとんでもなく分かる話や言うとった。巻き込まれたイナバ様にはほんなこつ気の毒かて思うと」
そう言ってアルシーは悲しげな表情を浮かべ俯いてしまった。
確かに、魔王という重責を担って更に自身の帰還方法まで当てもなく探し続け、信じられない事に半ばまでその真相を解明した
――と思ったら、その方法は正しいはずなのに絶対に使えないときたら俺だったらそこで心が折れて諦めてしまうかもしれない。
しかもその当時はまだ魔王にはなっておらず有象無象から幹部、そして魔王候補になりたてでこれから勢力を取り纏めて拡大させなくてはならない時期だったという。
一癖も二癖もある他の魔王候補の妨害工作にもめげず仲間達と力を合わせてそれらを打破してきたそうだ。
一時期は他勢力の罠や暗躍に嵌まり仕えてた魔王がやられてしまった事もあったみたいだ。
それでも魔王は転移した俺を探し出して、この世界に平和を取り戻した後に一緒に元の世界に戻る方法を探そうと考えたんだ。
いいぜ、やってやる。
今は他に方法はないし諦める訳にもいかない。
「アルシー、俺は魔王と一緒にこの世界の平和を取り戻し元の世界に戻る方法を探したいな」
拳を握り締めてそう宣言する俺を見てアルシーは驚く。
「そ、そうと。有難う、イナバ。魔王様の力になってくれん。お願いするけん」
そう話したアルシーの笑顔はどことなく寂しそうであるが俺の言葉に驚愕の表情を浮かべた。
「アルシーも俺達の世界に来るか? 魔王と俺が元の世界に戻ったらアルシーも寂しいもんな」
「え?」
「まだ、本当に平和にできるかどうかも分からないし元の世界に戻って身体を維持する方法も探さなければいけないけど……それも何とかしてみせるさ。……まあ、確証のない話ばかりしてても仕方ないしどれだけの時間が必要かもわからないけどな」
「……イナバは元の世界に戻りたいんかい?」
アルシーに言われて俺は端と気づいた。
元の世界で読んだライトノベルの主人公の様に俺には別に帰る理由、待っている家族や知人、恋人等そもそもいないという事を。
気づいてより一層、悲しくなったのは内緒だ。
「……そう言われると確かに俺には元の世界に身内はいないな。あはは、案外この世界を平和にしたら居心地がよくなるかもしれない。そうしたらそれはそれで皆で一緒に暮らせばいい」
俺のふんわりとした優柔不断な提案にアルシーは最初は戸惑っていたが、やがてその顔に優しい微笑みを浮かべた。
「そうやけん、そうやけん。私達はこれからも一緒に頑張るばい。皆一緒ばい」
残りの酒をあおった後に人知れずにアルシーは目尻に溜まった涙をそっと拭った。
もう一人になるのは嫌だ。
どこに行こうがこのゴブリンに付いて行きたいと彼女は思うのだ。
「二人だけで盛り上がってズルイにゃー! 私も一緒がいいにゃー!」
俺とアルシーの会話を聞いていたリリアが仲間外れにするなと言わんばかりに割り込んできた。
私は必要とされている。
私にはずっと一緒にいられる仲間がいる。
アルシーはこの日を生涯忘れまいと決心したのだった。
☆★☆★☆★
イナバ様は凄い人だと思う。
訓練初期でホブゴブリンを倒してしまったり、敵軍に落とされたウェルニーを私と二人で奪い返そうと言い出したり。
完全無欠な攻撃力はないし強力無比な魔法を制御出来るわけでもない。
ウェルニーでは私がイナバ様のピンチを救えましたが一人で戦局を覆す訳でもありません。
まあ、私も少々暴走しかけて危なかったのですが……。
それでも彼には期待してしまう何かがあります。
魔王様もその何とも言えぬイナバ様の力に望みをかけたのでしょうか。
今夜、イナバ様と食事をした時に彼はこの世界を平和にすると言いました。
なんだか出来そうな気がするのがなんとも不思議な気分です。
私と魔王軍の皆が全力でかかっても悪化の一途を辿っていったこの世界に平和を取り戻すなんて今は夢かも知れない。
けれど、イナバ様と一緒なら出来そうな気がします。
そしていつの日か3人で……
魔王様とイナバ様と私でのんびり暮らしたいと思います。
あ、グリッシュ様も仲間に入れてあげましょう。
仮にどこの世界に住もうとも皆で一緒に生きていきます。
それが今の私の夢であり目標になりました。
三人での夕食を終えた俺達はギルドで借りている部屋に戻った。
食事処の2階にも部屋はあったのだが2部屋取れなかった為だ。
まあ、アルシーに関しては今更な気もするがリリアもいたので、念のためな。
夕食の際になにか吹っ切れたのかアルシーは酒を美味しそうに飲んでいた。
その為、大層なご機嫌モードになり俺と一緒に寝ると言い始めたがリリアが担いで彼女達の部屋に連れ帰ってくれた。
お陰で今、俺は自分用に借りた部屋で一人きりだ。
「ふぅーっ、今日は疲れたな」
俺はシャルルを机に立てかけベッドに寝転がった。
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