魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
しかし今日の戦いで感じたけど俺の中にいる魔王はメチャクチャ強いな。
あいつが覚醒している間も俺の意識はある。
そしてロマリアスと対峙していた時は俺の人格で魔王の能力が使えた。
ただ、大ダコと戦っていた時の記憶は全くない。
俺が気をやっている時は魔王の意識が優先で浮上してくるらしい。
それで俺はある事を確信した。
あいつは俺の魔王時代より全然強い。
これが何を表すのかと言うと俺とあいつの世界線は違う可能性があるという事だ。
ゲームでプレイしていた頃の俺こと、量産ゴブリンが成長して魔王になったが理不尽勇者に敗れた後、この世界に飛ばされた伝説のゴブリンが今の俺だ。
正直な話、大ダコやロマリアスと戦った時の力があれば理不尽勇者にもいい勝負が出来るのではないかと俺は思っている。
もちろん、パーティ全員でこられたら負けないだろうが勝つのも難しいだろう。
でもその時は俺も仲間と共に戦えるので勝機は十分にあると言えよう。
つまりはあいつの力はそれだけ強いという事だ。
ただしそれは本来ありえない。
俺が理不尽勇者に負けなければこの世界に来る事はない。
あいつも理不尽勇者に負けた記憶を持っていたしその他の記憶も俺と大体同じだ。
だけど例えばあいつの使っていた魔法、あれは何語だ?
確か……ヴァンヴェンティー・エルディンガラーフォール、だったかな。
ゲームの頃の魔法にあんな名前や破壊力のものはない。
格闘能力もゲーム時代の俺を軽く凌駕している。
はっきり言って俺とあいつは別物だ。
……そう言えば、あいつ、シャルルの事も知っていたな。
う――ん、……まあ、俺が考えてもわかる訳ないか。
どうせここには俺一人しかいないのだ、本人に聞いてみるか。
答えてくれるかは不明だけどな。
おい、魔王、起きてるか?
少し話できるか?
……。
やっぱり、無理なのか。
(なんだ、なにか用か?)
おー、頭の中にあいつの声がする。
お前、通常時も会話できるのか、シャルルみたいだな。
(当たり前だ、この念話はシャルルに習ったからな)
えっ?
確かにシャルルと話すのと全く同じ感じだが……
なあ、シャルル、どういう事かわかるか?
俺は立てかけてあったシャルルを右手に持ち話しかけてみる。
こいつとも戦いの後は必要最小限の会話しかしていないが。
『あなたの考察はスキャニングしていました。私は魔王に念話を教えた記憶は主様以外ありません。あなたと魔王は大きな括りではありますが同一の存在です。念話が使える点については何も不思議はないと思いますが』
おい! 勝手に頭の中を覗くのはやめろ。
そうだった、こいつには俺の思考がダダ漏れなんだった。
気をつけなければ。
うん……そうだな。
本来であれば俺の成長した姿が魔王であって同じスキルが使えるのは何ら不思議はない。
ただ、俺の知っている能力より魔王が能力が高すぎる。
そこは引っかかる所だ。
そのへんはどうなんだ? シャルル。
『その点については私にもわかりません。とは言え魔力を無駄に流し込む所などはあなたにそっくりですよ。振りの軌道も別人とは思えません。主の思い違いでは?』
(そうだぜ、ゴブリン。俺はお前だ。俺はお前が魔王になった姿だよ。何が問題なんだ?)
『そうですよ、魔王と意見があうのは些か微妙な感情がありますがしばらくゴブリンでいる事によって余計に強く感じたのだと思いますよ』
(おいっナチュラルにディスるのやめろ! 俺は強く感じる、のではなく強いし頭も切れるんだぞ!)
『自分で言う所が痛々しいですね! キレ散らかすの間違いじゃないんですか? 感情のまま動きそうな野生感がプンプンしますよ!』
(なんだ! ゴルァ! やるか! へし折るぞ!)
『やってごらんなさい! 意思だけの存在など力づくで消し去ってやりますよ!』
おいおい、落ち着けよ、二人共。
俺の頭の中で喧嘩すんな!
魔王よ、お前はなにか心当たりないか?
俺はあの勇者にやられた後に本当に死んだのか?
(おいおい、そこから疑うのか、何度も言うが俺はお前だ。それは本当だ)
そうかぁ、俺が俺に嘘をつくとも思えないしな。
そしてインテリジェンスウェポンであるシャルルも主である俺に嘘をつくとは思えない、という事はこの答えは今はでない、そういう事だ。
分からない事を今考えても仕方がない、時間の無駄だ。
『いえ、主様の中にあるその魔王某が本当に主様と同一線上にあると判断できなければ信用するのも危ういと思われます。敵対するとなれば私がその人格ごと消し去って差し上げますが……』
(……おもしろい、棍棒風情が俺をどうこう出来るというのか?)
『試してみますか? 私は一向に構いませんが』
待て待て待て!
だから念話同士で喧嘩するなというのに!
シャルルよ、分からないからと結論を急ぐのは時期尚早だ。
情報不足で分からない事を考える必要は今の仕事ではないという事だよ。
それにだ、魔王が敵対するとは思えないしその力は今後も必要になってくる。
『むぅ、主がそう仰るのであれば、これ以上の問答はやめましょう。ただ彼の者の力は膨大すぎますし頼りすぎるのも危険だという事を申し上げておきます』
有難うな、シャルル。
忠告もしっかりと頭に入れておく
……恐らくその心配はないと思うが十分に気をつけるよ。
(ふん、本体であるお前に不利益が生じる様な事はせんがな。シャルル! 俺の方が役に立つ事をいずれ証明してやるからな、楽しみにしてろ)
『ふっ、望むところです』
いい加減、不毛な議論で煽りあうんじゃない、お前達。
シャルル、魔王、俺の話に付き合ってくれて有難うな。
それにしてもお前等、仲いいな。
(『そんな訳あるか(ありません)!』)
……。
そろそろ寝るとするかな。
『わかりました、ゆっくりと休んでください。主様』
(おうっ、またな)
2人の声がしなくなったのを確認して俺はシャルルをベッドの隣にある机に優しく立てかける。
俺と魔王が一直線上の存在じゃなかったとしても他人とは思えないんだよな。
基本的にはシャルルも魔王も俺の事を考えてくれている。
その期待には答えたいものだ。
俺はいつの間にか夢の世界へと引き込まれていった。
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