魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
「――っ、――っ!」
俺が色々と考え事をしている間もアルシーは何か話しかけてきたような気もするが俺は考え事に夢中で聞こえていなかった。
やがて彼女は痺れを切らした様におもむろに俺の右手を掴むと小さなナイフを取り出して指の先をザクリと……刺したーーーっ!
ゴブリンだからか青色の血が滴る指先をアルシーは完全にホールドしてペンダントに垂らしている。
超回復があるはずなのになぜか血は止まらず指先がジンジンしてくる。
うーむ、それにしても痛い。
「ちょっと、アルシー。血が止まらないし痛いんだけどこれなんなの?」
「こげんして血液中の魔力ば記憶させな、こんペンダントは機能せんけん。魔力ば記憶させる事により本来では骨が折れる魔力制御もほとんど無意識で行う事が出来るんや。やけんしょんなかっちゃよ」
抗議する俺に目線もくれずアルシーが何やら呟くと俺の血液が垂らされたペンダントは白光を放ち始めた――と同時に俺自信も光り始め身体の芯から新たな力を湧いてくるのを感じた。
「これで魔法制御を習得できたのか? 何か力が湧くのは感じたけど魔力的に何か変わった気がしないんだけど……」
「そうやなあ、ステータスプレートに追加されたはずやけん、確認ばお願いすると。炎魔法も風魔法もデメリット無しに使用できる様になってると思うばい」
「たったこれだけでか、凄いね……どれどれ」
俺は自分のステータスプレートを見る。
名前:イナバ(♂)
種族:ゴブリン将軍
称号:伝説のゴブリン大将軍Ⅳ
レベル:50
HP:677/677
MP:482/482
固有スキル:再生 LV7
:成長促進 LV8
:絶影 LV7
常時スキル:言語LV8、打撃武器LV7、体術LV4、
身体強化LV3、探索LV3
魔法スキル:【炎属性】ファイヤーボールLV10+
:【風属性】ウインドウヒールLV10+
……うん、なんか地味に+が付いたけど。
これで魔力制御が可能になったのかな。
「アルシー、無事に魔力制御を習得できたみたいだよ。魔法のレベルの隣に+が付いた」
「良かたいね。これであん頭のオカシイ大出力魔法が是正されるんに戦いやすうなるはずばい。まあ、逆にいやあこんペンダントば外した時には大惨事リターンズになるけん。気をつけるっちゃ」
やはりなにか刺を感じる。
心外な風評被害だ。
「それと、イナバ様、もう1段階上階層魔法ば開放するばい、炎と風のレベル2やけん。これからこん世界で戦うに当たり大いに役立つ思うとよ」
おー、レベル2の魔法か!
ゲーム時代には汎用性が無かったのか、或いは弱すぎたのか余り記憶にない魔法だが実際に使えるとなると多少は嬉しいもんだ。
制御なしのアホ出力のファイヤーボールとウインドウヒールは凄まじく強力だが唯々使い勝手が悪かった。
ペンダントのお陰で制御が付けば余計な神経を使わずに魔法が使える。
そして新たなレベルの魔法習得。
これは本当にデカイ!
ステータスプレートに触れるといつかの訓練時と同じ様に情報ウインドウが開く。
映し出される画面にはこれも同じ様に【火】と【風】がアクティブ状態だ。
先ず【火】に触れると画面が切り替わりファイヤーボールのレベルがMAXになっているのが分かり、その下にファイヤーウォールという新しい魔法の名前が見えた。
手を触れてみると表示が一瞬光りファイヤーボールの時と同じく知識やイメージが頭の中に溢れてきた。
やはりこれは俺が魔王の頃に培ったものだ。
ファイヤーボールだけでは不便な部分もあったが新しい魔法を覚えた事で戦闘にも幅が広がりそうだ。
ちなみにその後、風魔法のキュアウインドウも覚えた。
これは文字通り身体の浄化を行いあらゆる状態異常を解除する魔法だ。
「イナバ様、無事に新しい魔法は開放できたと?」
「うん、無事にね。早速だけど使ってみたいな」
「それは任せとくたい。これの出番やね」
アルシーは以前の訓練時に使った直径1メートルほどの輪を取り出し訓練場の端に走って行き地面に設置した。
あれ? もしかしてゴブリンラッシュがくるのか?
「イナバ様、今回は魔法も格闘もあの頃とは格段にレベルが上がっとるけん、500体位召喚しようか思っちょる。なんや、今の実力やったら吹いて飛ばせる程度で準備運動にもならんばい」
500体だと!?
「アルシー! 何度も言わすな、多すぎるんだって! しかも今は屋内だぞ!」
「訓練―― 開始!」
あーっ、もう!
アルシーがそう叫ぶと魔力をまとった輪の中から何かが次々と飛び出してきた。
最初は豆粒の様な大きさだが徐々にゴブリンのサイズになりこちらに襲いかかってくる。
俺は一旦距離を取るために反対側の端まで後退する。
単にゴブリンのサイズと言ったのだがゴブリンにも色々な種族がおり大きいものやら小柄なものやらいる訳でそれらがほぼほぼ一斉にこちらに向かってくるのだ。
まずはその勢いを止めなければ俺などイチコロだ。
ただ今回の俺は焦らない。
新たな魔法を得た時に同時に俺は魔王の頃の経験も取り戻した。
本来の魔王の力が解放されていれば人外な破壊力を出せるがそう上手くいかない。
だが目くらましや攪乱くらいには使えるだろう。
左手で練りこんだ魔力を前方の広範囲に展開し炎に転換するイメージで……。
「ファイヤーウォール!」
目の前が真っ赤になった。
分厚い炎の壁が目の前に広がりゴブリン共の汚い悲鳴が聞こえる。
「熱いっ! 熱! 熱! わ――っ、燃え移ったばい!」
なんか覚えのある訛りのある声が聞こえるし想定より魔法の規模も大きかったが多分気のせいだろう。
本当に制御が効いてるのか? と思ったがそれも今考える事ではない!
とにかくゴブリン共がひるんだ今がチャンスだ!
自分の魔力で起こした炎に術者は焼かれない。
フレンドリーファイヤーはあるからアルシーは焦げるけどな!
単純なこの世界のルールであるがこれが実は強い。
俺はシャルルを構え阿鼻叫喚図が広がる前方に向かい突っ込んでいった。
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