魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
目の前に広がる真紅の視界を抜けるとそこには炎に巻かれたゴブリン達が右往左往していたり黒焦げになって倒れているのが見えた。
これは……ひどい。
匂いがきつい、倒れそうだ。
とはいえ、その間にも魔法の輪からは次々とゴブリンが出現してくる。
量産型ゴブリンからホブゴブリン、ゴブリンソルジャー、ゴブリンプリースト、アーチャー、ソーサラーにジェネラル、キング……、もう呆れる位に次から次へと出てくる出てくる。
うむむっ、
数えるのも面倒になった俺は蟻の様に這い出てくるゴブリン軍団に圧力を掛けるべくファイヤーウォールに少々の指向性を持たせて放った。
本来、この魔法は固定式で放った魔法が動く事はないがちょっとした工夫でこんな事もできる。
意表をつかれたゴブリン共は慌てて散開しようとするが巻き込まれて爆散する。
だが倒れるゴブリンの後方からどんどん増援のゴブリンが止めどなく出てくる。
うん、これはキリがないね。
シャルル、ちょっと手を貸してくれないか?
『分かっておりますよ、私にファイヤーウォールの魔力を込めなさい、可能ならば数発分』
わかった、こんな感じかな?
『あー、そうですね、そうですね……。うん、……うん、多いですね、……多いです、多いって!』
え? あれ?
ペンダントは……ある。
何で魔力制御できてないのかな?
えーと……、こうかな?
『う―ん、一時期の堤防決壊の様な雑味は消えましたが……、元々の魔力量も多いのに強制的に制御してこれでは……、あー、やばい、やばい。これはやばいですよ、もう無理です、……えいっ!』
シャルルは何やら独り言を呟きながら明滅すると俺を中心としてファイヤーウォールを数秒おきに外周に向けレーダー波の様に360度複数回展開した。
逃げ場のない炎の壁が通過する度に溢れ出たゴブリン達が悲鳴と共に消し炭になっていく。
不思議な事に壁まで到達すると炎の壁は自動的に消火されるから延焼が防げる。
上空を見ると狼煙の様に煙を棚引かせながらアルシーが右へ左へ飛び回っているのが見えた。
かなりの修羅場な光景なはずだがなんか笑ってしまった。
✩★✩★✩★
訓練が始まって30分程が過ぎた頃には場内で動けているのは俺だけとなった。
黒焦げになったゴブリン達の亡骸は数分が経つと光に包まれ消えてなくなった。
そしてその光は俺のステータスプレートに吸い込まれ何時ぞやの様にレベルがバンバン上がっていった。
こんな簡単でいいのかと思うほどに……だ。
「……ちょっとやりすぎたかな……?」
地面を見ると衣服の所々に焦げ目が付いたアルシーが転がっていた。
大丈夫か……この人。
「……イナバ様、新しか魔法の運用も完璧ばい。これで今後の戦闘も安泰やね」
アルシーがムクッと身体を起こす。
意外とタフだった。
そのまま立ち上がり一回転するとアルシーは淡い光に包まれ焦げ跡が消えた。
便利だな、それ。
『どげんな? 服だけ時間ば巻き戻したっちゃ。イナバ様も薄汚れたらこん魔法でさっぱりさせちゃるけんね』
うん、思ったよりも精神的にタフだった。
「有難う、アルシー。これでレベル2の炎魔法も上手く使えそうだよ」
シャルルも有難うな、お前を通して魔法を発動させるだけでも戦いのバリエーションが増える。
『構いませんよ、何てことないです。ただし魔法制御はまだまだ暴れてますね、精進してください』
はいはい、わかったよ。
「あ、イナバ様。忘れとった、風魔法も試してみるばい」
アルシーは世間話でもするかの如く近づいてきて……
ブスりっ
痛ぁーいっ!
俺の腕に何かの針を突き刺した。
無尽蔵な回復力を誇る俺でもダメージを受ければ痛い。
「何するんだよ! チクチクチクチクと、そんな細くても刺さると痛いんだぞ!」
突き刺された針を抜きながら自分は何を当たり前の事を言ってるんだろうと思いつつアルシーに抗議した。
「大した毒ではないばい、キュアウインドウの効果を試すには少し薄い毒やけんが万一の場合に備えてるとよ」
ドクンっ!
あれ?
何か身体がすこぶるダルい。
アルシー、毒とか言ってなかったか?
ああ、そうか、こんな時のキュアウインドウか。
キュアウインドウは風魔法のレベル2の魔法。
詠唱部分は存在するが状態異常とレベルに差があれば呪文名だけで発動する。
はれ?
口元も痺れて上手く呪文を唱えられない。
「ヒュアフインホー!」
やばい、やばい。
訓練中の毒で死ぬ!
いや、俺は毒なんかでは死なない。
回復するそばから毒ダメも入っていく。
苦しぃ―いっ!
「ほれ! 真面目にやりんさいっ!」
俺がもんどり打って苦しんでいるとアルシーに胸ぐらを掴まれてビンタされた。
苦しいやら痛いやらで大変だが瞬間的に口元がしっかりして呪文名を詠唱できた。
「キュ、キュアウインドウ」
呪文が発動すると俺の身体は仄かな光に包まれて毒素が根こそぎ消えた。
あーっ、楽だ、死ぬかと思ったよ。
死なないけど。
「お疲れ様ばい、イナバ様。これで新しか魔法の運用は大丈夫やけんな」
呑気なアルシーの言葉を最後に俺は意識を手放した。
毒、きょわい……
スパルタ・ブラック極まれりと言っても良いギルド訓練の翌日。
あの後、俺はアルシーに宙を浮かされてギルドの部屋に運ばれたらしい。
俺は空輸荷物かよ。
確か俺は魔王軍の期待の星らしいのだが扱いには不満がある。
まあ、そんな事を言っても仕方ないか。
そんな感じで気を取り直し今日はアルシーとリリアを連れ一緒にギルドに来た。
ちなみに俺以外の2人は既に魔王軍ギルドに所属済みだという。
リリアに至っては壊滅してしまったがギルドの元隠密部隊隊長だから分かる。
アルシーも所属とは思わなかったが正規軍とギルドの掛持ちってできるのか。
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