魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
アルシーとリリアはギルド隣接の酒場兼食堂でお茶を嗜んでいる。
その間に俺はギルド所属の為の説明を受けに来たのだが……。
どうしてこうどこの世界でも説明を聞くという作業はこんなに苦しいのか。
入学や入社説明会然り、入会説明然り。
まぁこういうイベント自体、俺は苦手だ。
大抵終わってから思い出そうとしても話の内容が思い出せない。
散々それで苦労したのでいつしか俺はスマホという文明の利器を使い録音するというスキルを身につけたのだ。
だが当たり前だがこの世界でそのスキルは使えない。
なので今俺はとても真面目に職員さんの話を聞いている。
ゴブリンになって脳みそが小さくなったせいなのか、真面目に人の話を聞くという事だけなのに非常に疲れるのだ。
『関係ないですよ、主の知能が低いだけです』
(おい、バカにするのはやめてもらおうか)
『ギルドの説明でそんなに疲弊しないでください、ほら話しかけられてますよ』
(えっ?)
気が付くと目の前の悪魔族の娘が大きな緋色の瞳で俺を凝視していた。
「イナバさん? 聞いてましたか?」
俺は今、受付悪魔嬢と机を挟んで座りギルドの入会、所属についての説明を受けていた。
「……、あ、はい。えっと、受けられる依頼の範囲は自己ランクの上下1段階で依頼数は自己責任で幾らでも受けられる、但し期日に間に合わなかったり途中で辞退する場合は違約金がかかる。ランクの上昇条件は依頼達成数が基本で高ランクになる程にその内容や早さが求められる。その他に……」
「あ、イナバさん、わかりました。もういいです、いいです」
俺は前の世界で数多のゲームをクリアしてきた。
その中にギルドと名の付く施設も無数に存在した。
いつしか俺は沢山のルールを全て記憶してしまったのだ。
俺様をあんまりなめないで頂きたい。
とはいえ、一から丁寧に説明してくれたのは感謝だ。
俺はギルドの名札を大いに持ち上げている立派なバストを見た、いや、逆だ。
女性悪魔特有の豊満なバストに持ち上げられている名札を見たんだ。
「アリア」と書かれているが、悪魔にしちゃあ可愛い名前だな。
「名札を付けてますので見るな……と言いませんが少しは遠慮してください」
おっと、アリアにダメ出しを受けた。
ちょっとガン見しすぎたか。
「ギルドの規則は理解していただいたみたいですね、良かったです。――で、先程書いて頂いた書類を元に作成したギルドカードがこちらです。皆様、ステータスカードと一緒にして保管している方が多いですね」
「おー、これが俺のギルドカードか。ランクは……あれだけ大戦果だしても最低のFなのか」
「それは、仕方ない……と言いたい所ですが魔王様より忖度する様に指示を頂いてまして出来る限りの優遇をいたします」
「そう言うのって極力言わない方が良いんじゃないの?」
「構いませんよ、元々昔から存在したギルドには魔王軍は介入しておらず、もっと組織としてバラバラで影響力も小さいものでした。それを現魔王様がギルドに持たせる権限などを整備して役割を持たせ委託したのです。つまりはマルファス様が現在の魔王軍ギルドの組織を作ったといっても過言ではないのですよ」
へぇ、
ゲームの頃のギルドは既に魔王軍が仕切っていたし元々そういう組織なんだと思っていたよ。
「その代わりに条件という訳ではないのですがイナバ様には魔王城の城下町エルンヘイムギルドまで行って頂きます。エルンヘイムの魔王軍ギルドであれば現状のランクでも今までの戦果を鑑みて種族進化を受ける事が出来るとの連絡を受けております。……まあ、私の推測になりますがランクも合わせて無理矢理にでもあげるつもりではないですかね」
「いいのかい!? そんな特別扱いで」
「構いませんよ、(中略)マルファス様が作った組織なのですから」
「そうかぁ、……わかった、このままエルンへイムに向かえば良いんだね?」
「そうです、向こうのギルドも分かってはいると思いますがウェルニーのギルド長が念の為と書状を用意してくださいました。こちらをお持ちください」
「おぉ―っ! それは助かる、有難う」
俺はアリアから明らかに良い紙で出来た便箋を受け取った。
封蝋されたそれはよくテレビなんかで見た代物と同じだ。
俺も大分この世界の文字を読めるようになった。
封筒の表側はエルンへイムの魔王軍ギルド宛で担当者名が入っており、裏側は魔王軍ギルドのウェルニー支部というロゴが印刷されていた。
魔法によるものだろうか?
この世界の魔法は便利だし恐らくは印刷も魔法でできるのだろう。
ただ、このロゴなのだが。
明らかに俺達の世界の国民的RPGのロゴデザインをパクっている。
他に
他愛もない事を考えながらアルシーとリリアの待つ酒場のテーブルに近づくとその上には空になった大量の皿やらグラスやらが並んでいた。
これ、全部食ったの? やばくない?
「思ったよか早かとね、イナバ様」
「もう少し時間かかっても良かったにょに」
うん、あと少し遅かったら積み上げられた皿やグラスがバランス崩壊して大惨事になる事請け合いだな。
店主も店員も2人の事をまるで化物を見る様な怯えた目で見ているのでそろそろその食欲は控えようか。
そもそも酒場の食事というものはあくまで脇役でしかないにも関わらずなぜにこの2人はここでその食欲を解放してしまったのか。
……ああ、俺がギルドに行ったから単純に一番近いここで待ってたというのが真相なのだがとてつもなく理不尽を感じて仕方がないのは何故だろう。
はいはい、2人は連れて帰ります。
だからそんな目で見ないでください。
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