魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
俺達は魔王城の城下町エルンへイムに向かう事となった。
アルシーとリリアにはすぐに予定を伝える事が出来たがヒルベルダ様と助っ人2名には連絡が遅くなってしまった。
本来、ウェルニーを拠点として活動する予定だった事もあり急な変更の所為で助っ人2名は残念ながらパーティに合流出来ない事となった、残念だ。
よって今のメンツは俺、アルシー、リリア、ヒルベルダ様の4名である。
通常パーティーの最低人数には達していない為、大規模戦闘やダンジョン向きではないものの割かしバランスは良い方ではないだろうか。
道中で不足人員も補充できれば良いが世の中そんなに上手くはいかないか。
ヒルベルダ様とは翌日、ギルド入口で合流するよう約束し俺達3人は新たな旅の準備をしてからギルドの部屋で一晩休んだ。
そして翌朝、朝食を済ませるとエルンへイムに向かう為、馬車をギルドに付ける。
我々の馬車はこの街に到着時に乗り捨てたも同然だったが衛兵が保護してくれていて詰所からギルドに連絡が来た。
あの戦いの最中に放置したにも関わらずアドナエルとサンダネルが無事だった事を聞いた時には安心したものだ、……忘れてなんていないぞ。
「そろそろ出発するけん、イナバ様。明朝までにはエルンヘイムに着きたかばい」
準備はアルシーがすっかり終わらせて俺は馬車に乗り込むだけだった。
馬車の中には既にリリアとヒルベルダ様が座っている。
俺は御者台にいるアルシーの隣に座った。
今日もいつも通り小さくて可憐で有能な幼女だ。
「待たせてすまなかったな、確かに早々にエルンへイムの魔王軍ギルドに着いてオークにならんといかん。……豚は不本意だがさっさとゴブからオサラバしたい」
後半は俺自身に言い聞かせるように呟いた。
アルシーがアドナエルとサンダネルの手綱を引くと馬車はゆっくり出発する。
ウェルニーを出発して街道に出る。
昨日の激戦が嘘のような、よく晴れた日だ。
俺の故郷もこんな感じの風景だった。
隣街まで数十キロもあり場所によってはコンビニまで歩くと遭難する恐れもある。
その代わり、自然が色濃く残っており都会とは違う時間の流れを味わう事が出来る。
故郷にいた頃は異世界に飛ばされて人もやめてゴブリンになる人生なんて思いつきもしなかった、いや魔物だから魔生……かな?
街の復興の手伝いが中途半端になってしまったが実際、俺達に出来る事は少なく、何より速く強くなりこの世界を平和にするのが最適解だという結論に至った。
魔王の後ろ盾も得た事だし俺にしかできない事をやるべきだろう。
俺は御者台で手綱を握るアルシーに尋ねる。
「アルシー、俺も馬車を引く事が出来るようになるかな?」
「イナバ様も馬車ば引いてみると? では、私の隣に座ってくれん」
アルシーは手綱を引く片手を離し、隣のスペースを叩く。
二人共、小さいが意外と狭いのでアルシーに軽く密着する感じになる。
緑色のゴブリンがほんのり赤くなっても可愛くない。
気にしない様にアルシーを見る。
「イナバ様、アドナエルとサンダネルは馬車ば引くとに慣れとるけん、出発は「前進」ん声がけで歩き始める。加速も軽めに手綱ば叩けば2頭には通じるばい」
すごいな。
通常の馬車の操作などは良く分からないがこの2頭については余程人に慣れているようだ。
もしくは非常に頭が良いのか、いや、そもそも生命体なのか?
ただ単にそういう風に作られて……。
う、なんか2頭から殺気が出た気がした、余計な事は考えるまい。
「なるほど、曲がる時や停車する時はどうするんだ」
思考を変えると殺気は徐々におさまった。
良かった……。
「曲がる時は旋回したか方向に手綱ば比較的強めに引いてくれん。馬ん頭がそちらば向く位引いて大丈夫ばい。停車させる時は両手で手綱ば引いてくれん。ウェルニーに着いた時に私がしたんごとばい」
ああ、あの急停車ね……。
あの時は吹っ飛ばされるかと思ったが、あの急停車は滅多にやる事はないだろう。
「ふむ……、頭では分かったが実際にやらないとわからないな。どこかで練習できないかな」
これから先の旅で必ずしもアルシーが近くにいるとは限らないしなるべく自分自身で何でも出来る様になりたい。
「これからやってみればよかたい」
アルシーがサラリと言って手綱を引くと馬車がゆっくりと停車した。
「え? これでいきなりやるの? 大丈夫かな」
「何事もやってみらんと上達しゃんばい。張り倒しゃるー前に早うこちらに座りんしゃい」
御者台から後ろに下がり俺に場所を空けるアルシー。
張り倒されたくはないので仕方なく俺は御者台に座る事にする。
そんな俺をみて満足したのか今度はアルシーが俺の座っていた場所に腰を掛ける。
またまた密着状態になり少々キョどるがすぐに気を取り直して手綱を握り直した。
小柄なゴブリンがオドオドとしながら手綱を握り、冷や汗を掻いている姿はそれほど微笑ましくはない。
「前進」
俺は習った通り、アドナエルとサンダネルに号令をかけた。
――するとゆっくりと2頭は前進をする。
街道を進む馬車はサスペンションも甘く、必ずしも乗り心地は良くないが殺伐としたブラック企業で過ごしてきた俺には例え上辺だけとは言えこの世界の平和は懐かしくもあり、とても気持ちが良い。
たまにすれ違う馬車は行商人や旅の乗合でパッと見は平和そのもの。
今代魔王が追い詰められている状況とはとても思えない。
アドナエルとサンダネルのお陰で数刻も経てば大分俺も落ち着いてきた。
もともと2頭の馬は非常に賢くアルシーの言っていた通り、道に沿って勝手に進んでくれるし分岐に差し掛かっても曲がりたい方向に気持ち程度、手綱を引いてやると曲がってくれる。
まあ、多少、遊びが少ないハンドルの車に乗っている気分になるが総合的には非常に楽である。
ここまで読んでくださり有難うございます。
宜しければ評価いただけると嬉しいです(*´▽`*)