魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
いい機会なので今後の旅の安全を期す為に探索スキルの常時発動を試してみよう。
現状のLVだと直径数キロメートルの範囲が感知可能だが持続時間がまだ短い。
探索スキルを使うとその範囲のマップが目の前に浮かびそのマップ上に存在する生命体の存在をキャッチする事ができる。
あくまで生命体の存在をキャッチできる訳であるが敵味方の区別はつかない。
そう考えるとまだまだ未完成なスキルであり進化の余地はあるはずだ。
ギリギリまで発動時間を伸ばしに伸ばして効果が切れ次第、再度発動する。
例によって俺のMPは一瞬にして回復する訳だが常時スキルを発動すれば多少は疲れるし、これを繰り返す事により探索スキルのLVとMP最大値、両方の鍛錬となる訳だ。
ちなみに限界まで魔法やスキルを鍛えておけば、俺自身の身体LV上昇で新たな上位魔法やスキルが制限解除される事もある。
細かいシステムの仕組みは、やはり前の世界の魔王立志伝に近い仕様だ。
近い仕様という事は細部で違う所もある。
恐らくだが俺達の世界でゲームとして適切に表現されている仕様が、より現実世界よりに調整されていると言うのが一番感覚としてしっくりくるだろうか。
自分で言ってても、ここら辺のルールについては把握するのが少々面倒くさい。
限界まで頑張ると実力が伸びるなんてどこかのサ○ヤ人みたいな仕組みだ。
何度目かの発動で探索の網に何かが引っかかった。
10個弱の点がほぼ倍の点に囲まれている。
「アルシー、この先に何かいる。詳細は不明だが少数が大勢に襲われている様だ」
俺がそう言うとアルシーは愛用の杖を取り出し臨戦態勢に入ってくれた。
「ふう、全く……無事に目的地に着くにはどうしたら良いのやろうね」
悪態をつきながらもアルシーは微笑んで馬車の2人に状況を伝えに行く。
やはり強い人というのは戦闘脳なのだろうか。
俺はアドナエルとサンダネルに手綱を打つ。
確かにアルシーの言う事も尤もだ。
ゲームならプレイヤーを飽きさせない様に次から次へとイベントを起こさなければならないが、現実に自分がそういう立場になってみると結構大変なペースで厄介事がやってくる。
「すまない、少し急いでくれ!」
直接、話しかけて応えてくれるかは不明だったし機嫌を損ねないか不安だったが思い切って俺は2頭の馬に声を掛けた。
元来、優秀なアドナエルとサンダネルは俺の意思と不安もきちんと正確に汲み取り、目的地の方角に向け凄い勢いで駆け出してくれた。
馬車は速度を上げ、瞬く間に目的地に近づいていく。
アルシーの言う通り、早く城下町にたどり着きたいと言われると辛い所だが見つけてしまった以上は助けないと目覚めが悪い。
ゲームの世界でも犠牲になる命は沢山あった。
でもそれはゲームの中の話であってそれは仮想世界なのだ。
だがしかし今の俺にはこの世界こそが現実。
クドイようであるが放っては置けない。
魔物になったせいで五感が上がっているのだろうか。
まだ遠いが目を凝らすと前方の街道から少し外れた所に横転した馬車と馬車を囲んでいる影を段々と鮮明に捉える事ができる様になった。
風に乗って漂ってくる濃厚な血の匂いも感じられた。
「アドナエル! サンダネル! あそこだ!」
2頭に向け目的地の指示を出すと馬車は一目散にそちらを目指す。
「イナバ様、あげん細かかとが見えると? 一体どげん視力しとんや、化物と?」
アルシーが馬車から帰ってきて俺に声を掛ける。
うん、軽くディスられた気がしたが見えるもんは仕方ない。
近づくにつれて更に現場の状況が分かってきた。
既に横転してボロボロの馬車を護衛が密集形態で守っているものの取り囲まれた相手の兵士達にじわじわと追い詰められている状態だ。
馬車の周りの地面は黒焦げになり抉れてしまっており、そこかしこから黒煙が上がっており何とも言えない異臭が鼻をつく。
馬車の御者台の人影はグッタリして動かず武装をしている護衛も奮闘虚しくその数をどんどん減らしていく。
護衛の額に角が見える。
部隊はどうやらオーガの集団らしいがそれがこんなにも簡単にやられるなんて。
囲んでいるのはリザードマンの戦士達であり、通常なら例え少数でもオーガ達が負ける要素はないはずだ。
……と、アドナエルとサンダネルが指示を出していないにも関わらず目的地から離れる様に急激に斜めに走り始めた。
「どうしたんだ!? アドナエル! サンダネル!」
「イナバ様! 上ばみてくれん!」
アルシーの声を聞いて上空を見た俺は驚愕する。
と、同時に俺達の乗る馬車、スレスレの所に火球が撃ち込まれ爆発した。
どかぁああ――――んっ!!
「うわぁああああ――っ!」
「イナバ様! 手綱をしっかりと持つばいっ!」
火球の爆発に晒され服飛ばされそうになる俺をアルシーが後ろから抱きつく様にしがみつき必死に支えてくれている。
「どうしたんだっ! この衝げ……えっ!?」
「アルシーさんっ! 大丈夫にゃかっ!?」
馬車からヒルベルダ様とリリアが顔を出して俺達の状況に驚愕していたが直ぐに理解してアルシーの手助けに回り俺を支えてくれた。
「火竜だ! 上から狙われてる!」
「なんだって!? 何で災害級の魔物が!?」
「そんな事わからんにゃ! とにかく逃げなきゃやられるだけにゃ!」
「また来るばい! イナバ様!」
その間も火球は馬車を狙って撃ち込まれていく。
アドナエルとサンダネルは俺よりも早く気付き最速で回避を始めてくれたのだ。
上空にいたのは火竜に乗ったリザードマンだった。
危うく俺達の馬車もオーガの二の舞に……。
ミイラ取りがミイラになる所だった。
俺は皆のお陰で体制を建て直し手綱を握り直す。
「アドナエル! サンダネル! 大回りでもいい、転回して俺が火竜を見れるように出来るか!?」
2頭の馬は「まかせろ!」とでも言うかの様に同時に嘶き、馬車はゆっくりと、しかし確実に転回し始めた。
『仕留めるしかないですね、主様』
シャルルが俺に声を掛ける。
「そうだな、出来ると思うか?」
『当り前の事を聞くのは愚か者のする事ですよ』
「愚者で悪かったな。みんな、俺に考えがある。ちょっと近くに来てくれ」
「上空から狙われ続けとーよ、どげんして反撃するんか」
アルシーが俺にしがみつきながら顔を俺の方に向ける……。
まじ、アルシー、美少女で困る……。
ヒルベルダ様とリリアも俺の近づく。
そう頼んだんだから当たり前なのだが……ドキドキ。
俺は心の動揺を抑え手短にみんなに作戦を伝えた。
「……イナバ様はあたおかやね」
「褒めてくれて有難う」
この世界に来てからの俺の戦いに余裕なんて一つもなかった。
さて、またまた無謀な戦いをはじめるか。
ここまで読んでくださり有難うございます。
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