魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
俺達は魔王城の城下町エルンへイムに向かうべくウェルニーを立った。
その道中、探索魔法の練習をしていたら戦闘中の2つの集団を見つけた。
現地に駆けつけると襲われていたのはオーガの一段。
どうしたものかと考えるまもなく近くまで来た俺達の馬車も火球による不意討ちをうけ、戦闘に巻き込まれるのだった。
その相手は十数体のリザードマン部隊とそれを駆る1頭の火竜。
オーガの部隊が簡単に追い詰められた理由も分かる。
火竜なんてのは災害級のモンスターだ。
災害級がなぜリザードマン如きに使われているのかわからんが何とかしないと俺達もここでオーガ同様、全滅するだけだ。
「準備はいいですか? ヒルベルダ様」
「もちろんだよ……と言いたい所だけど自信はそんなに無い。イナバ殿、アルシー殿、手早くお願いしたい」
「努力します、お願いします」
「わかったよ、アドナエル、サンダネル、力を借りるよ!」
俺はヒルベルダ様と御者を交代しアルシーと作戦決行の準備をする。
その間も馬車は火球を避けながら蛇行運転している。
「リリアも頼んだよ!」
「火竜に向けて遠距離の攻撃とヒルベルダ様の護衛にゃんね、まかせろにゃん」
執拗に追いかけてくる火竜の攻撃をヒルベルダ様の手綱裁きで避け、リリアが剣から衝撃波を放ち遠距離から火竜を挑発する。
遠距離という事もありそれ自体にはあまり効果はなく火竜は避ける事なくリリアの攻撃を跳ね返している。
「やはりさすが火竜、化物にゃんね」
とは言え、火竜もなかなか俺達を仕留められないこの状況に苛立っているようだ。
なんと咆哮を上げながら馬車に向けて急降下してきた。
「や、やばいにゃーっ! ヒルベルダ様! 急いで避けるにゃぁー!」
「くっ! リリア殿、しっかり捕まってくれ!」
ヒルベルダ様は2頭の馬に手綱を打ち速度を上げるが火竜を振り切れるはずもなく馬車は急降下からの爪の一撃を食らってしまう。
「「きゃぁああああ――――っ!!」」
馬車の側面が大きく破損し吹き飛ばされるがアドナエルとサンダネルは何とか踏ん張り再び駆け始める。
本当に強くて頼もしい馬だ。
馬? ……まあ、いいか。
それからヒルベルダ様は火竜に翻弄されるながらも何とか馬車を右に左に操作して火球による攻撃から守っていた。
リリアも上手く急降下の爪攻撃を遠距離攻撃で撃退している。
なかなか良いコンビネーションであるがヒルベルダ様本人が作戦前に言っていた様に長くは保ちそうにない。
事態は結構深刻である。
であるが、現状、俺とアルシーには奴らの攻撃は全く影響がない。
それもそのはずで俺達2人は作戦開始直後に火球による攻撃の砂埃を煙幕がわりに馬車から離脱したからである。
アルシー本人は浮遊魔法で、俺はアルシーに魔法を掛けてもらい重力をカットしてもらい彼女に持ち上げてもらっている。
もともとただの日本人である俺に急上昇のGはキツかったが現在俺達は火竜の更に上空300メートル程にいる。
火竜がリザードマンに操られ低空を飛んでいるのが功を奏した。
実の所、俺は軽い高所恐怖症であるがそんな事も言っていられない。
ただ今は攻撃の機会を狙い続けている。
火竜にではない、やつに搭乗しているリザードマンにだ。
竜に乗っている以上、やつもドラゴンライダーでありその強さは計り知れない。
だが竜を駆っている身で更に上空から自分が攻撃を受けるとは夢にも思うまい。
なんて考えてる間に火球による攻撃がまた馬車を掠めてしまった。
馬車から黒煙が上がっている、もう時間はない。
「アルシー、じゃあ行ってくる。この気配カットの魔法は竜にも效果あるんだよな?」
「もちろんばい! そうでなければ今頃二人共、竜の高い探索能力に引っかかっとるよ」
「わかった、(……シャルル、魔力はまだ必要かい?)」
『もういいです、もういいです。多いですよ』
(了解、では行くぞ!)
ハンドサインでアルシーに合図を送ると俺の身体に重力が戻り落下を始める。
気配カットの魔法は激しく動いたり動揺すると解けてしまうという。
俺は四肢を伸ばし全身に風を受けながらグングンと火竜に近づいていく。
火竜に乗るリザードマンは鎧と兜で身を固めている。
だがそんなものは俺の魔力を満タンに込めたシャルルには紙も同然である。
しかしながら俺がアルシー達に作戦を伝えた時に余りにその内容が無謀な為、頭がおかしいと言われた理由。
俺が火竜のすぐ脇を自由落下しリザードマンの首をはねるというものだ。
チャンスは一瞬。
『主様、ラインを合わせます。準備はいいですね』
「いつでも。人生で一番集中してるよ」
『ではっ!』
火竜の飛行ラインに自由落下しながらラインを合わせる。
なんとシャルルは自分を装備した者を数分ではあるがその者の思考通りに飛ばす事が出来るという……まあ、縦横無尽に空を飛べる様な優れたスキルではなく高高度からだと落ちながら左右に移動できる程度という事だ。
それでも今の俺には十分。
正直、俺は最初ただ単に火竜の真上に落っことしてもらうつもりだった。
だが、シャルルに諭されよくよく考えると高速で動く火竜の上に落とすなんていう力技はとんでもない無理ゲーだという事にようやく気づく。
シャルルは呆れながらこの能力を教えてくれ助力を約束してくれた。
風を感じながらシャルルが予測する火竜の飛行ラインに座標を移していく。
左脇にシャルルを構え俺はその一瞬を待った。
引き続き火竜は火球を吐き続けている。
気は焦るが落ち着け、俺。
『今ですっ!』
「はぁっ!」
俺は気合と共にシャルルを一閃。
狙い通り火竜に搭乗していたリザードマンの首に一撃を加えると、それは自重によりグラリと傾き暗闇に吸い込まれる様に落ちていった。
そして急に制御を失った火竜は一度大きな咆哮を上げてどこかへ飛び去った。
「賭けに……勝ったか……」
ほっと一息つくが俺はいまだ落下中であった。
最後の仕上げにアルシーが魔法で再度制御し俺の身体を地面へ静かに下ろせばミッション完了である。
「アルシーッ! 頼むよ!」
「まぁかせるばぁーいっ!」
アルシーの大きな声が聞こえ、それと同時にグッと重力に抵抗する力が身体に伝わってきたが……。
「あっ、あかん。これは無理ばぁいっ!」
「えっ!? なんだって!?」
俺は嫌な予感がしてアルシーに尋ねるが答えよりも先に地面に激突した。
どかぁぁぁあああ――ん!!
余りの轟音と砂埃でさすがに目眩や耳鳴りを感じるがそれもすぐに治まっていく。
頭を振りながら俺は身体を起こした。
まじ、おれ、じょうぶ。
「痛たたっ」
「イナバ様ぁ――っ!! 大丈夫かぁ――っ!!」
アルシーが大慌てで降りてくる。
大きなクレーターを作って俺は地面に墜落した。
埃だらけで身体中が軋むが痛みはすぐに引いていく。
「ああ、大丈夫だ。なんともない」
「良かったばーい! すまなかったとぉー!」
「わかってんだろう、俺はこんな事では死なんよ」
俺は身体の埃を払いながらアルシーに答える。
オロオロしてたアルシーだが俺が無事な様子にホッと息をつく。
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