魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
エルンヘイムへの旅の途中で遭遇したリザードマンと火竜を何とか退けた俺とアルシー。
「イナバ殿ぉ――っ! アルシィ殿ぉ――っ! 大丈夫かぁ――!」
「イナバさぁ――ん! 生きてるにゃんかぁ――っ!?」
ヒルベルダ様とリリアが大慌てでこちらに向かってくる。
「ああ、忘れてたばい、あんた達も大丈夫やけんか?」
「ひどいね、アルシー、あっちも相当大変そうだったぞ」
俺がそう言うとアルシーは俺の肩をガシッと掴み顔を寄せ言った。
「……はっきり言うけん、私は……魔王様以上に大事な存在はおらんよ」
……っ!
びっくりするからやめろや、そういう事言うの。
「あ! そう言えば他のリザードマン達はどうしたとっ!?」
「ぐはっ!」
アルシーは俺を放り出し横転した馬車を振り返る。
ひっくり返った俺はしこたま後頭部をぶつけた。
痛い……。
結果だけ言おう。
リザードマンは全滅していた。
俺の4匹の部下ゴブリンによって。
「こちらは片付いたぜ、大将」
「準備運動にもならん」
「凄い墜落だったねぇ~、回復しとく?」
「若いもんは元気じゃの」
おいおい、一斉にしゃべるな。
俺は後頭部をさすりながらゴブリン隊に近づく。
「流石だね、みんな」
リザードマンの残骸を観察するが大体が一刀の元に切り伏せられている。
そこには相当な実力差が見て取れる、彼らの努力の賜物であるな。
「馬車の中は確認したかい?」
俺はアルノートに問いかける。
「いや、まだだぞ」
「ならば、俺が確認しよう」
「危険だ、大将。俺も行こう」
アルノートの過保護に少々ムッとしたが俺は現状弱小ゴブリンである。
過度な心配にも「それもそうか」と納得する。
ドラゴンを撤退させたとは言え油断すればきっとすぐ死ぬ。
「わかった、頼む」
心無しか嬉しそうな彼を連れ立ち救助した馬車の方に向かう。
横転しているのでドアが上を向いている為、アルノートに手を借りながら馬車の上段に登っていく。
そしてアルノートが馬車の扉に手を掛ける。
俺が静かに頷くと彼は素早く扉を開け車内に向けて牽制の剣を向けた。
そこまで広くない車内である。
ひと目で見渡せる空間にその娘はいた。
一見、人のように見えるがその娘も額に角がある。
間違いなくオーガだと思われるがまだ幼く小さな身体を更に縮めて震えていた。
アルノートが殺気を込めすぎた所為であろうか。
襲撃を受けた挙句に凶悪なゴブリンが乱暴に扉を開ければ誰だってああなるよな。
よし! 俺が……。
……と、その時になって俺も自分がゴブリンである事を思い出した。
だめだ、こりゃ。
アルシー達かヒルベルダ様を連れてこよう。
「イナバ殿、誰か生存者はいたかな?」
一旦馬車から降りようとした時に丁度、ヒルベルダ様が下から声をかけてくれた。
「ああ、良かった、ヒルベルダ様。 オーガの少女が生きていましたが酷く怯えてしまって……、俺達は見てくれがこんな感じなので呼びに行こうと思ってました」
「……オーガの少女……わかった、私が話してみよう」
そう言うとヒルベルダ様は馬車に登りドアからその少女を覗き込んだ。
なにか心当たりがあるのか、珍しく強ばった表情を浮かべている。
「なんて事だ……」
ヒルベルダ様は少女の顔を確認するなり絶句してしまった。
「どうしたのですか?」
俺が尋ねると彼女は苦しそうな表情を浮かべて答える。
「オーガの一団という事で嫌な予感が初めからあってね……馬車にもそれっぽい紋章が付いてたので何かの間違いであってほしいと思っていたのだけど……このオーガの少女は我が魔王軍、……お父様の同盟国、サンダルファン王女のセレル様だ」
な……んだと……。
リアルでこのセリフを言うとは思わなかった。
サンダルファンと言えば魔王マルファスが旗揚げ当時から協力し合ってきた超友好国だ、早く少女を保護して魔王様に報告しなければ……。
「セレル様、私の声がわかるかぃ? ヒルベルダだ」
俺が考えるより早くヒルベルダ様は馬車の扉から車内に静かに飛び降り脅かさぬ様、気をつけながら少女に声を掛けた、さすがだ。
「……本当に……ヒルベルダ姉様ですか」
か細い声がそれに答える。
良かった、意思の疎通は取れそうだ。
しかも姉さまか、慕われてるんだな。
彼女に任せておけば少女……セレル様の方は大丈夫そうだ。
一言、一言、言葉を交わす内に絶望の表情に塗り潰されていたセレナ様の顔にも希望の光が浮かび始めた。
「大将! ちょっといいか?」
俺がホッと一息ついていると仲間の元に戻り現場を確認していたアルノートから、お呼びがかかった。
「なんか刺客の手がかりでもあったか?」
魔王様への報告の際に敵の当たり位は付けておけたら嬉しい。
「これ、見てくれ」
累々と横たわる数十体のリザードマンの残骸がそこにはあった。
そのうちの一匹をアルファスが蹴飛ばし仰向けにひっくり返す。
そして鎧の胸当ての部分を剣先で切り裂いた。
「んっ? なんだ?」
よく意図を汲み取れずアルノートに答えを促す。
「大将、……このトカゲ、ベルリーザの紋章付けてる、まずいぜ」
「えっ!?」
……ベルリーザ。
なんと魔王様の同盟国を襲った敵も魔王様の同盟国だった。
どうなってんだ。
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