魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
「くそっ! 何なんだよ! あの火の玉は!」
どれだけ走ったかは分からない。
何故かあの火の玉は俺の逃げる先に向かって落ち続けてきている。
その間にゴブリン達は木にぶち当たったり穴に落ちたり1匹、また1匹と脱落していき、とうとう逃走を続けているのは俺だけになってしまった。
周りのゴブリンよりもなぜか俺の敏捷度は高かったらしく何とか逃げ延びている。
……というか、長距離を走り疲労困憊のはずなのだが身体は元気なのだ。
それでも、所詮はゴブリンの俺が隕石からいつまでも逃れ続けるのは難しい。
まるで誘導ミサイルの如く火の玉がついてくるこの状況では雑魚ゴブリンさんの死亡フラグは紛れもない確定要素である。
それでも諦めずに走っていると視界の彼方に自分の姿を映した川が見えてきた。
はっ、逃げに逃げ惑って結局スタート地点に戻ってきていたのか。
とはいえ、もう猶予はない!
俺は一目散に駆け続け川に飛び込む。
「うわっ!」
想像より速い水流に翻弄されながら着弾点から少しでも離れる為に意を決し流れに身を任せた。
溺れない様に水から何とか顔を出しグングンと近づいてくる着弾までのタイミングを計る。
俺を急に見失った火の玉は地面に向けて一直線に落下してきた。
着弾まで……3、2、1、今!
大きく息を吸い込み、水の中に完全に潜る。
衝撃に備えて身体を丸くすると次の瞬間、世界が揺れ爆音が水中にも響き渡る。
水中の岩や川底に身体を何度もぶつけて痛い思いはするが致命傷には至らない。
身体を何とか反転させ背面になり水面を見ると瓦礫が吹き飛ぶ様が見えた。
あぶねー、あと少しでも迷ってたらマジ死ぬ所だった。
息も限界になり、慎重に水面から頭を上げると、もうもうと煙をあげる爆心地が見えた。
水流が速いので流されすぎない様に気をつけて川岸まで泳ぎ陸に上がる。
くそっ、当たり前だが、ずぶ濡れだ。
俺はTシャツの水を絞りながら慎重に爆心地に近づく。
そこは中心に黒い岩の様なものがめり込み周りは見事に抉れて砂煙が巻き上がっていた。
目を凝らしてそれを見ているとグラグラ動き始めた。
動きはだんだん激しくなり、終いに中からガンガンと蹴る音が聞こえてくる。
なに、あれ……?
「き――っ! なして開かんとね!? これ!」
訛っている。
聞こえてくる声は少女の様だがやや耳が痛くなる甲高いものだ。
暴れ回るそれに気をつけて近くに寄ると表面にオープンという文字とボタンがあるのが見えた。
「おい! 中から開かないのか!?」
「見て分からんっつか! 開かんけん困っとんやろうが!」
せっかく声を掛けたのに、ひどい言い草だな。まあいい。
「外から開くかもしれない! 大人しくしてくれ!」
「それやったら早う開けてくれん! 全く気が利かんね!」
放置しとこうかな、これ――、
一瞬、迷ったが静かになったので、外側のボタンを押した。
すると、長方形の扉が浮かび外側に降りてきて中から音速もかくやと言わんばかりの高速キックが飛んできた。キックは的確に顔面のど真ん中をとらえ、俺は盛大に吹っ飛んだ。
「グワ――――ッ!!!」
俺は木々をなぎ倒し、何本目かの大木に叩きつけられて逆さまのままずり落ちる。
つ、痛恨の一撃……、俺、か弱いゴブリンなのに……、死んじゃう……。
「なにモタモタしとったんか! 開けらるんやったら、さっさと開けてくれんっちゃ!」
出てきた少女が何か怒りながら俺の方に飛んできた。
今の……俺が悪い?
「あ、あの、俺、今のキックで死にかけなんですが……」
逆さのまま俺は、そう訴える。
「何ば言いよるんか、ドラゴンよりも強か身体ば持っとるクセに甘か事ゆわんでくれんね」
は? 何を言っているんだ、この子は。
身体中がもうギシギシと軋んで……、軋んで……。
あれ? 確かにあんまり痛くないな。
「魔王様は特別なスキル持っとるけん、そう簡単には死なんとよ」
「え? どういう事?」
俺は体を起こして少女の方に歩いて行った。
確かに痛みは引いている。
「そん前に自己紹介ばしようかね。私は魔王軍妖魔魔術師兵団長グリッシュ様ん配下、アルセイスと申しますばい。アルシーて呼んでくれんね。グリッシュ様より特命ば受けて魔王様の冒険ばサポートする為に参上仕ったっちゃね」
「魔王軍……妖魔魔術師兵団……!? グリッシュ!? グリッシュって言ったのか!?」
九州訛りっぽい話し方をする少女は今確かにグリッシュといった。
……やはり本当にここは過去の世界なのか。
グリッシュが……四天王の皆が無事なのか。
俺は緩くなった涙腺を引き締めアルシーと名乗った少女の方に向き直った。
「うんうん、グリッシュ様ん言う通りやなあ。特殊なスキルば取得して転移されてきたようばい。私の鑑定魔法で魔王様のステータスば確認したが再生と超成長と絶影……スキルがなんと3つも、しかも全てがレアスキルやけん、やけん、あんたは死なんよ、むしろ簡単に死ぬ方が難しいとよ」
「レアスキル!? それって超上級の、ゲームの頃でも中々習得する事が出来なかったレアスキルの事か!? それに俺をサポートって……これから一緒に居てくれるって事かい?」
俺はアルシーの肩を掴み矢継ぎ早に質問を投げかける。
アルシーは面食らいながらもそれに答えてくれようとしている。
「そ、そうばい。これから魔王様の生活に密着して成長ば見守る為に来たんばい。実ば言うと私もこん時間軸の存在やなかとです。そもそもここは魔王様が初めてこん世界にきた当時の時間軸になりますけん。グリッシュ様は魔王軍が敗退する事ば事前に予測して打てる策ば全て打ったと。自分の配下ん中でばり優秀と名高か私ば魔王様が遡る時間に合わせて派遣してくれたっちゃ」
アルシーと名乗る少女は腕を組み、薄い胸を張って得意げに説明してくれた。
「魔王様は再生スキルばお陰で、ごっつか死ににくうなっとりまして多少んダメージは瞬間的に回復するけん。やけん、多少無理な戦闘ばしたっちゃ平気やし、そん分、経験値が沢山入るとに成長も速まるっつーメリットが得られるやけんね。更に更に絶影んスキルはこん世界でトップクラスの敏捷度と器用さの成長率ば誇るばい。こりゃ並ぶもんなしな強者になるしかなか!」
アルシーはまたまた薄い胸を張って自分の事の様に得意げに説明してくれた。
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