魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
「兄は父の魔王マルファス様との頑なな共闘路線に不満を持っていました。確かにマルファス様はこのエルロア島に於いて有力な魔王候補の一人ですが、兄は常々マルファス様の戦争を出来る限り避ける対話路線を……その、……温いと口癖の様に非難しておりました。」
セレル様は俺達の反応を見ながら申し訳なさそうに語る。
ヒルベルダ様もアルシーも気にせず続けて、と彼女に続きを促す。
「ここからは私の推測も混じりますが兄はベルリーザと同盟を結び……父を退位させ自分が王位につきマルファス様に対峙しようとしているのではないでしょうか。いえ、野心だけは高い兄の事です、行く行くはベルリーザさえも利用し大陸に討って出るつもりなのかも……」
「なんて大それた……」
「
一通りの話を終えてふぅと息をつくセレル様。
話すだけ話して少し落ち着きを取り戻せたみたいだ。
対照的に今の話をどう落とし込むかで若干やつれているヒルベルタ様。
どうもこの人は普段はクールだが厄介事が立て続けに起こると脆いな。
マルファス様の後をこの人が引き継ぐのならしっかり支えないと。
「これからどうしますか? ヒルベルタ様」
「えっ!? ああ、えっと……」
まごまごするヒルベルタ様を見て「あ、これ今からでも支えんといかんわ」と思った俺は考えをまとめる。
「俺の考えを話しても?」
「よ、よろしく頼む」
「まあ、やる事は一択ですがね。このままセレル様をサンダルファン王国に戻すのは危険と思います。恐らくニルス様は今回の関与の証拠は残していないでしょうしまだ表立って王に反抗はしていないでしょう。が、セレル様の誘拐に計画性が垣間見えました。ベルリーザからニルス王子に人が派遣されている可能性も考えられます。まあ、色々と推測はできますが今は姫は私達が保護するべきだと思います。もちろんサンダルファンの首脳には内密に伝えておく必要があるでしょうけど」
「なるほどね、そうすると父上と合流するかい? イナバ殿」
「……そうですね、ヒルベルタ様とセレル様には先にマルファス様の元に向かってもらおうかとも迷ったのですが先の事を考えると全員で行った方がいいかと」
「なしてや? イナバ様、私達でサンダルファン王国に向かい王に会うのも良い案だと思うやけんけど……」
「そうだね、でも魔王様から書状を預かった方が確実だろう。それに危険な場所に行くなら種族進化してから向かいたいと思う」
「それもそうやけんね。私達で王に説明する自信ないばい。仮に王が納得してくれても面倒な首脳がいないとも限らんけんね。マルファス様に協力お願いするばい」
「わかったよ、それじゃあセレル様も恐縮ですが御足労を……」
「もちろんです、お願いします」
「イナバさん、少し順路から逸れたにゃんがこの先に街があるにゃん、どうせだからそこで今日は休みにゃんか?」
「ふむ、……そうしようか、まだ日は高いけど戦闘後だしセレル様もお疲れだと思いますし」
「恐縮ですわ」
俺の言葉にセレル様は素直に従った。
目に見える以上に彼女も疲弊しているのだろう。
俺達はリリアの提案を採用しこの先の街、グラントックに向かう事にした。
馬車を30分も走らせると元通りではないが街道に戻る事ができた。
馬車の面々にホッとした雰囲気が溢れる。
俺も手綱を握りながらぼんやりと考え事をする位には余裕が出てきた。
次の街、グラントックか。
ゲームの頃は特に印象に残らない街道の街だった気がする。
リリアなら街の情報をなにか知ってるかもしれないな。
確認してみるか。
「リリア、ちょっといい……か……?」
「あ……イナバ様、今は……」
俺は御者台から身体を捻り馬車の遮光幕をまくりあげる。
なぜかアルシーが驚いた顔で俺を見てくる。
そんな俺の目に入った光景は……とっても肌色だった。
上半身を晒し身体をふいているヒルベルタ様とリリア、セレル様と目が合う。
そして時が止まる馬車の中……。
魔王の娘でありながら魔王親衛隊のヒルベルダ様。
少女の様な姿でも魔王軍最強の戦士、そんな彼女も出る所は出て締まる所は締まっている、それにしても綺麗な肌だ。
リリアも身体は人間のそれなので限りなく肌色だ。
ヒルベルダ様程では無いが身体のラインは丸みを帯びとても美しい。
びっくりして瞳孔が開いているのが猫っぽくて可愛い。
そして最後にセレル様。
まだまだ発育途上の線の細い身体であるが繊細でガラス細工の様な儚さが良い。
きっと同意してくださる男子諸君は沢山いるはずだ。
同士達と共に大いに愛でて育て上げ……。
自分の嗜好に集中している俺を余所に急に馬車の時間が動いた。
「「「きゃああああああああ――っ!!」」」
これは大惨事。
「あ、いや、ゴメ……」
「いつまで見てるんにゃあ――っ!」
「ぶふわぁっ!!」
リリアが繰り出した右ストレートが俺の顔面にクリーンヒット。
俺は御者台を通り過ぎて車外に吹き飛びアルシーが慌てて回収に来てくれたのはどうでも良い話である。
吹き飛んでいる間に見えた遥か遠くの山々に薄く雪が積もっている風景がとても綺麗だったのは覚えている。
☆★☆★☆★
私は兄に裏切られ他国に拐われる寸前に同盟国の姫に救われた。
急に馬車が横転し外から激しい戦いの音が聞こえてきた時は逃げるチャンスだと思ったが窓から見たドラゴンの姿とブレスの爆発音に完全に怯んでしまった。
だから音が止みヒルベルダ様の声が聞こえた瞬間、涙が溢れてきた。
……まあ、その前に目の前に現れたゴブリンには絶望しか有りませんでしたが。
聞けばマルファス様、ヒルベルダ様と共闘されてる強力なゴブリン様だと言う。
確かに彼から醸し出されている雰囲気はよくよく落ち着いてみればとても優しく心地の良いものだった。
ゴブリンであるはずなのに私達、悪魔族と似て人間臭い仕草や言動をされる。
知能は高く彼の考えや戦略には無謀な所も多いが大胆であり通常の教育をなされた士官には思いつかない発想力を秘めている。
なによりも遠い昔から知っていた様な身内の様な安心感が彼にはあった。
これは一体どういう事なのだろうか。
きっと私は裏切りに巻き込まれ少しおかしくなったのだろう。
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