魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
ウェルニーを敵の襲撃から救った俺達は魔王軍ギルドで特例として下位ランクでの種族進化を認められた。
その代わりの条件にしては軽すぎる感じがするのだが魔王軍城下町のエルンへイムにある魔王軍ギルド本部へ赴く事となったのだ。
その道すがら、ある一団に襲われている馬車を助けてみるとそこにはなんと魔王軍の同盟国サンダルファン王国の王女が乗っていた。
王女の話から明確な謀略の気配を感じ取った俺達は行動を開始した。
王女を救ってから馬車を走らせ数刻。
襲撃現場から一番近い街、グラントックにたどり着いた。
俺の記憶には余り残ってなかったが、そこは小さくはない、とは言え賑やかとまでは言えない穏やかな時の流れる平和な街だった。
「ちょっと案内所に行ってくるよ」
「表で待ってるけん、おねがいすると」
俺は馬車から降りて街の案内所に向かう。
とりあえず今晩の宿を早急に決めなければいけない。
俺は受付の女性に最低限の希望と予算を伝えると幾つかの宿を紹介してもらえた。
今晩という事で苦労するかと覚悟していたのだが思ったよりも多めの紹介をしてもらえてホッとする、と同時にその内の一軒の紹介用紙に目を奪われた。
『露天風呂付き特別室空きあります』
露天風呂だとっ!?
なんでも急なキャンセルが出たらしく宿側もダメ元で案内所に連絡してきたとか。
確かに特別室と銘打つにはお値段がリーズナブルだ。
……それでも普通の宿の2倍以上するけどな。
俺は受付の女性に一旦仮押さえを依頼し皆の意見を聞く為に外の馬車に戻る。
「そこにしよう! 露天風呂付きなんて最高だね、なに、お金なら気にするな」
「そうやけん! ゆっくり湯に浸かりたいとよ」
「私も構わにゃいよ、猫人族でもお風呂嫌いではにゃいから」
「わ、私も異存ありません」
予想はしていたが異論は出なかったしヒルベルダ様に至っては勘定は任せる的な男らしい事を言ってくれている。
「イナバ殿、ギルドカードを見せてくれるかな?」
んっ?
ヒルベルダ様に言われるがまま、俺はギルドカードを彼女に見せる。
すると、彼女は懐からクレジットカードの様なものを取り出し俺のギルドカードに重ねた。
彼女のカードが光を帯び、その光が俺のカードに吸い込まれる。
「これでお金の移動完了だよ。有耶無耶になってたウェルニー解放のご褒美も含まれているよ。確認してみてくれるかな? カードの裏に記載されている」
「あ、そうなんですか。どれどれ……」
確かにカードの裏側に数字が記載され……。
8桁、8桁だ。
「こ、こ、こんな、大金を、もらっていいんですか?」
「イナバ殿、ウェルニーをあれだけの軍勢の襲撃から解放したのだよ、私個人的には少ない位だと思うよ。今後もこんな風に移動する事もあるだろうから、その資金の足しにちょうど良いだろうよ」
あまりの大金に驚き震えているとヒルベルダ様は、くっくと笑いながら言う。
そ、そんなものか。
まあ、でもどこの世界でもお金は必要か。
「さあ、受付で予約を済ましておいで」
「は、はいっ!」
俺はヒルベルダ様に押し出される様に案内所の中に戻り予約を済ませる。
俺達5人分の宿代を払ってもギルドカードには沢山のお金が残った。
しかし、カードに直接チャージや資金移動が出来るのは便利だな。
……このお金は大切に使おう。
☆★☆★☆★
「……ここか」
予約した宿に着くとそこは完全に日本の高級旅館だった。
ウェルニーでヒルベルダ様に案内してもらった日本食のお店といい、この世界には結構な日本人が転移してきているのではないかと感じさせる。
宿の名前は「グラントック月の湯」
玄関の両側の壁は上から下へ水か流れている。
日本の温泉宿で見た事のあるおしゃれな演出の一つだ。
屋内に入ると正面にフロントがありホテルマンっぽい制服をきた男性が2人が微笑んで立っている。
「グラントック月の湯にようこそ、イナバ様方」
当たり前だが既に案内所から連絡が来ているらしく話が早い。
俺は宿泊台帳に必要事項を記入し部屋の鍵をもらった。
日本の旅館だと仲居さんやベルボーイさんが部屋まで案内してくれる感覚だがこの世界では違うようだ。
部屋の位置だけ説明され自分で向かう仕組みだ。
俺的にはこちらの方が気が楽でいい。
俺以外のみんなも荷物は片手に収まる程度だったり魔法で別空間にしまっているので身軽な為、人手は必要としていない。
俺達が借りた部屋は広い部屋が1つ、寝室が3つある豪華な部屋だった。
必然的にアルシーとリリア、ヒルベルダ様とセレル様が同室に分かれ俺が残りの1部屋を使わせてもらう事になった。
今は5人とも大きな部屋に集まりソファでゆっくり寛いでいる。
「ふう、何にしろ宿が取れて一安心だね」
「そうですね、ちょっと贅沢な宿になってしまいましたけど……」
「何言ってるばい、イナバ様。お金は使う時に使わなければ腐るけん」
「なんかどっかで聞いた事あるにゃんね」
宿に入ったとはいえまだ時間で言えば夕方過ぎ。
男女でそれぞれお風呂にはいる位の時間はある。
「夕食までまだ少し時間があるから、とりあえず女性陣で先にお風呂に入って欲しいんだけど……」
「何言うとるんか、イナバ様。いまこそ一緒に入浴する時やけん!」
「あー、そうだね。イナバ殿なら別に大丈夫じゃないかな」
「なに言うとるんにゃー、そんな呑気にゃ事を言っていたらみんな気づかない内に子供が出来てるにゃー! イナバはゴブリンにゃよーっ!」
確かに俺はゴブリンではあるが酷い言われ様である。
そんなに警戒しなくともそもそも一緒になんか入らない……いや、入れるなら入りたいけど……襲ったりしないから子供だって出来ない……いや、合意の上ならあんな事やこんな事もしてみたいけど……。
……違う違う、そうじゃない。
気を取り直して再度、先に入浴する様に言おうと思った時、俺の横で声がした。
「いいではありませんか。私もイナバ様と一緒に入りたいです」
「……セ、セレル様?!」
どうしてそういう事になるのか。
セレル様は顔を真っ赤にして、それでいてとても楽しそうな顔で俺を見ていた。
わりといい性格しとるぞ、この姫様。。。
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