魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
グラントックの名宿『月の湯』で一夜を明かした俺達。
女性陣は温泉と酒盛りの後、ぐっすり眠り疲れも完全に吹っ飛んでご機嫌である。
俺はというと昨晩の膝枕以来、セレル様があからさまな好意を向けてくれるお陰でドッキドキになってしまいあまり眠れなかった。
まあ、でも悪い気はしない。
嬉しくない訳がない、未来の奥さんとこんなに早く会えるとは思わなかったしな。
……ゲームではどうやって出会うんだったかな。
忘れるという事は特に印象に残るイベントではなかったのだろう。
広間の部屋に全員集まり今後の予定を摺り合わせる。
ブリーフィングとまではいかないが重要な時間だ。
まずはヒルベルダ様が口を開く。
「では今日はこのままエルンへイム、つまりは魔王城の城下町に向かうが何か質問はあるかい?」
「やる事は大まかに3つありますね。もちろん魔王様の意向を伺う必要があるとは思いますが第1にエルンヘイムに到着後、今までの経緯を魔王様に話す、第2にサンダルファンにおもむきセレル様の安否を王様と首脳に伝える、当たり前だがニルス様陣営にはばれない様に、第3にベルリーザに向かい皇帝ルゼブナックに真意を確認する、かな」
「真意もなにもにゃいんじゃにゃいの?」
「そりゃあそうやけど問答無用に! とは行かんけんね」
「そうだね、焦りは禁物だけど事は迅速に処理をしなければならない案件だ。魔王様には早急に事情を説明してすぐに次の段階に進まなければいけない」
「……とするとどうするんだい? サンダルファンからベルリーザ、その逆でも当然だけど結構な距離だよ」
「魔王城から急いで回るにゃん?」
「うーん、大丈夫やろうか。サンダルファンも小国とはいえ姫ば、さらわれた事に気づきゃあ何ばするか分からんしベルリーザも叛意ばもっとー事はほぼ確実やけん、放っとくと危なかて思うばい」
「うん、なので魔王城を出発する時には二手に別れようと思う」
俺は昨日グラントックに向かう時からずっと考えていた策をみんなに打ち明けた。
「正式な使者で向かうとはしてもなるべく身を隠しつつ王城に紛れ込まなければいけないサンダルファンには俺とリリアで、ベルリーザには疑惑の真偽を確かめるという目的があるので権威が必要だ。だからアルシーとヒルベルダ様が軍を率いて向かってもらうのが一番適切だろうと思う。セレル様は軍に護衛を頼んでアルシー達と一緒に……」
「嫌ですっ!」
「えっ?」
まさか、拒否されるとは思わなかった俺は動揺してしまう。
セレル様は昨晩とは全然違う雰囲気だ。
断固とした決意で絶対引かない気迫を感じさせる。
繊細に見えて彼女も王族なのだと思い知る。
俺の考えを読んだのかリリアがニヨニヨしながら近づいてくる。
「イナバさぁーん、セレル様も連れて行ってあげたらいいにゃん? 魔王様から隠密部隊を借りて姫の護衛にすればいいにゃん。(いやー可愛いにゃんね)」
最後は俺にしか聞こえないほどの小声で囁いた。
「私からも頼む、イナバ殿。ここでセレル様を故郷に連れて帰れなければ次はいつ戻れるかは分からないだろう。せめて別れの一時を王夫妻とセレル様に」
そうか、やはり俺は未だにこの世界を現実とは受け入れられていないのかもな。
セレル様も両親がいるんだ、しかも国の動向次第では……この歳でもう会えない可能性さえあるんだよな。
まあ、リリアのは面白がっているだけだろうけどな。
「わかりました、魔王様に相談してみますね」
「あ、有難うございます!」
や、やめて、そんなキラキラした瞳でゴブリンを見ないで。
そ、それじゃーみんな、出発するよーっ!
☆★☆★☆★
エルンへイムへの道中。
昨日と同じ様に馬車を中心として探索スキルを展開させて危機管理は万全だ。
まあ、馬車を走らせるたびに昨日みたいな事があったら俺のパーティーは姫だらけになってしまう。
今日中には平和に魔王城城下町に着く事だろう。
VRのゲーム上でもマルファス様の魔王城の美しさにはため息が出たもんだ。
自分の城を作る時に大いに参考にさせて頂いた。
それを現実のこの世界で見れるのは本当に楽しみである。
……んっ?
今、俺の探索スキルになにかが引っかかった気がする。
気のせいかな?
いや、違う、この違和感を蔑ろにしたらきっと後悔する。
でもこんな感覚は初めてだな、もしかして……
名前:イナバ(♂)
種族:ゴブリン将軍
称号:伝説のゴブリン大将軍Ⅳ
レベル:60
HP:752/752
MP:585/585
固有スキル:再生 LV7
:成長促進 LV8
:絶影 LV7
常時スキル:言語LV9、打撃武器LV7、体術LV5、
身体強化LV4、探索LV4
魔法スキル:【炎属性】ファイヤーボール LVMAX
ファイヤーウォール LV10
:【風属性】ウインドウヒール LVMAX
キュアウインドウ LV10
……やはり探索のレベルが上がっている。
何げにファイヤーボールとウインドウヒールがLV10を超えてMAXになってるが今はそこじゃない。
探索スキルに映る俺達を追う様に動く点。
これが今までと違い着色されているのだ。
中心にいる俺達5人とアドナエルとサンダネルは白い四角で表示されており、その後ろから赤い点が、……8、10、15、18、20か。
結構多いな。
しかもこの点、俺が集中しないと消えてしまいそうになる。
意識阻害か気配カットの魔法でもかけているのだろうか。
知能の低い野良モンスターなら良いのだがこいつら明らかに統率が取れてやがる。
左右後方の森の中に6人づつ、後方8人が扇状に距離をあけて付けて来ている。
俺達の戦力を探っているのか?
もしニルス王子からの追手だとしたら昨日も結構な数を撃退したのはもう王子の耳に伝わっているはずだ。
これが全軍と思わない方が良いかもしれないな。
手綱を握る俺の隣には今日はセレル様がいてアルシー達は後方を警戒している。
「セレル様、恐らく敵襲です。みんなを呼んでもらえますか?」
「もしかして兄様の……、わかりました。お待ちください」
セレル様はほとんど一瞬で俺と同じ結論に至った。
昨日から今日にかけて、出会って何日も経っていないのだが俺のセレル様に対する評価はかなり上がっている。
この姫様は最初の襲撃時こそ動揺の局地にいたが、それからは至って冷静に俺達の話を聞きほぼ俺の判断と同じ結論に至ってきた。
俺と同じだから器量良しなどと自惚れてはいないがセレル様はまだ12歳だ。
こんな追い詰められた状況で前世で26歳の俺と同じ判断が出来るのは大した物ではないだろうか。
ここまで読んでくださり有難うございます。
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