魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
「イナバ様、私の方でも捕捉していたけん、……いつ始めると?」
アルシーは戦闘脳だから驚かない。
ヒルベルダ様とリリアも遮光幕から顔を出している、狭くないのか。
「幸い奴らは俺達を警戒しているのか、かなり距離を取っている。この先の道は俺の探索スキルだとあと100メートルほどで大きく左にカーブしていくはずだ。なので徐々に速度を上げて後方の奴らの視界から外れ次第そのまま森の中に陣取り戦闘を始める」
「いきなり攻撃してもし敵ではなかったらどうするんだい?」
「その時は……俺とアルシーで回復させて謝罪しますよ」
「その必要はないと思うにゃよ、常識としてあんな風に、「追いかけてますよ」と言わんばかりの歩き方は不審がられても仕方ないにゃ。万一、訴えられても私達だけの過失にはならないはずにゃ」
「それは……経験則かい?」
「そうにゃ、私はこれでも尾行のプロにゃ」
「よし、それじゃあ少しずつ速度を上げていくぞ。セレル様、振り落とされない様に掴まってくださいね」
「はいっ!」
彼女はなぜか俺にしがみつく。
とても良い香りが鼻腔をくすぐり思わずうっとりしてしまう。
「いやー、可愛いにゃんねー」
うるさいぞ! リリア。
俺が手綱を1度叩いてアドナエルとサンダネルに意思を伝えると2頭は速やかに加速し始めた。
と、同時にマップの赤点もそれに合わせて速度を上げ始める。
どうやら俺達が怪しんでいる事に気づいたのだろう。
だが、俺達の馬車を引く2頭は優秀な馬?なのでいくら隠密の部隊が速度を上げようと人の足ではジリジリと離されていく。
相手方もこれでは不味いと思ったのか後方8人の内、3人を先行させる。
この速度は……、この3人は騎乗してるな。
同一座標に存在してる為なのか馬の存在まではわからなかったぜ。
かと言って今更、作戦変更出来ないしするつもりもない、俺達は更に速度を上げ左カーブに侵入していく。
……いまだ!
左カーブの一本道の先を左右の木々が隠した瞬間、俺は更に手綱を引き左の森に馬車を導く。
現代の日本程ではないが舗装された道から凸凹地面に出たのでガタガタと馬車が揺れるが元々頑強な作りの為、なんとか走れている。
俺は激しく揺れながら後方の様子を探る。
すると……予想通りの動きを見せ始めた。
森に入って動きの鈍った俺達を森側にいる6人が行く先を阻む様に展開、後方から追ってきた8人は半分が森に入り後方を封鎖、半分が道路側を封鎖、残りの森右側にいた6人は回り込んで馬車を追ってきた。
この動きの御蔭で誤射という恐れはなくなったのは幸いであるな。
さてと……シャルル、用意はいいかい?
『……ようやく私の出番ですか。あ、魔力の補填はもう十分です』
「わ、わかった。しかし、こうまで予想通りに動いてくれるとは……、なんか罠かと思う位に」
『そんな事はやってみれば分かります。さあ、薙ぎ払いましょー』
なんか、最近シャルルまで脳筋になってきて怖いんですけど。
俺は
「さあてっ! 行ってこぉおおいっ!!」
『意味不明な掛け声はやめてください、主!』
「ええっ?! 何てぇっ?!」
俺は(変な?)掛け声と共に前方にいるであろう6人に向けてシャルルを横薙ぎに振るった。
実は探索スキルを頼りにしている為、前方の敵は肉眼では見えず捕捉できない。
なのでそんな敵を倒そうとする時に周りの環境はどうなるかというと……。
森の木ごと、薙ぎ払うっ!!
すると森の木がシャルルが通り過ぎた線から轟音をたてて地面に倒れる。
その中に魔族らしき
その数、6つ!
「前方開けたにゃんかっ?!」
よせっ! リリア、それはフラグだ!
前方の切り株になった木々を避けて馬車を飛ばす。
その時、俺の探索スキルに馬車と同等の速度で走る敵影をとらえた。
これは俺達が速度を上げた時に飛び出した3騎だ。
しかも奴らが騎乗しているのは馬ではなかった。
なんと走りトカゲだった。
強靭な2本足で走る走りトカゲは前足に鋭い爪がある。
もちろんそれは攻撃の時に使われる事が多く今回も例外はない。
一気に目の前に現れた1頭がサンダネルを爪で襲撃しようとするが俺は手綱を引き上げ辛うじて直撃を避けるが攻撃は流れて馬車の車輪に掠る。
「うわぁああ――っ!!」
車輪は回転を妨害され馬車は大きく横滑りして横転する。
俺は馬車が横滑りしてる間に隣で飛ばされそうになっていたセレル様を抱えて外に放り出されるのを防ぐ為に馬車の中に飛び込む。
まあ、横滑りしてる馬車に飛び込むんだからあちらこちらに当たって目の前がチカチカするがセレル様を無傷で助ける事ができた。
「イナバ殿は楽しそうだね」
「イナバさん、遊んでないにゃ! くるにゃよ! アルシーさんが一人で迎撃してるにゃっ!」
……解せぬ、遊んでるわけではないのだけどな。
俺が頑張ると大抵こうなる。
おっと、アルシーの救援に急がねば。
くっそ、どうして俺達の旅はこうやって邪魔ばかりはいるのか。
そんな風に心の中で一人で悪態をついていると不意に外が静かになった。
どかあああぁぁぁぁ――ん!!!
「うわぁっ! なんだ?!」
不意に起こった爆発音に驚き馬車の遮光幕をまくって外を見る。
すると森の外から武装した複数の騎乗兵が馬上から敵を魔法で攻撃していた。
「魔王軍だよ! 父上の軍が救援に来てくれたんだ!」
「えっ? 魔王軍ですか?」
「助かったにゃー、森の戦いは得意だにゃ、この数は骨が折れると思ったにゃ」
「さすが魔王軍やけん、魔法の破壊力も精度も一級品やね」
凄いな、いくらエルンヘイムが近いとはいえこんな馬車1台が襲撃されてるのをよくも見つけられたものだな。
その後はもう殲滅戦だった。
小国の隠密部隊が魔王軍直属の軍に勝てる理由は無かった。
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