魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
俺とギルマスが試合開始と同時に剣を交えるべく闘技場中央に飛び込んでいく。
ギルマスは余裕なのか薄らと笑顔を浮かべているが不思議と不快感はない。
いいね、イケメンはさっ!
なんて関係無い事を考えている暇はない。
ギルマスが物凄いスピードで俺の死角から剣を繰り出してくるが何とかシャルルで受け止め対応する。
油断すると身体で受けてしまいそうな速さだが手も足も出ない様な段階ではない事に内心ホッとする。
これならば勝ちきれないかもしれないが無様に負ける事もない。
小生意気なギルマスを倒して試験をクリアするのが第一目標だったが最悪試験さえクリアできればいいんだ。
――等と志の低い雑念を抱きながら戦っているとギルマスがニッコリと笑った。
「うんうん、さすがイナバ君だね。これ位は余裕だよね。では、少しづつ上げていくよ! 死なない様に気をつけてね!」
「えっ?」
『いけない! 主様、相手をよく見なさい!』
シャルルが慌てた様子で俺に言う――が、それを脳で理解する前に俺は弾き飛ばされた。
一直線に壁に向かって吹っ飛ぶ。
ぐはっ!
壁にぶち当たった俺は肺の空気を一気に吐き出しズルズル地面に落ちる。
「まだ! いきますよ!」
ギルマスの追撃がくる!
何も見えなかった。
俺はどうして吹き飛んだんだ?
壁を背に倒れ込んでいるとシャルルから危機を知らせる声がかかる。
『次が来ます! 早く避けなさい!』
混乱する頭を根性で整理してすぐにそこから離脱する。
どかぁ――――ん!!
ギルマスの追撃が1秒前まで俺がいた所に叩き込まれる。
闘技場全体が揺れ、轟音が響き渡る。
なんだなんだなんだ、やばいやばいやばい。
『落ち着きなさい! 主様、聞こえてますか!』
考えがまとまらないまま、ギルマスから距離を取ろうとするが振り切れない。
素早さに少しは自信のあった俺だが並走するギルマスが浮かべる笑顔に気が散るし流石にイラっとする。
懸命にシャルルが俺を落ち着かせようとするが俺の耳には届いていない。
「それで全力ですか! イナバ君」
シャルルの懸命の努力も虚しく、あっという間に追いつかれた俺は再び無様に何かに吹き飛ばされる。
「ぶはっ!」
巻き戻しの様に壁に叩きつけられた俺は巻き上がる粉塵に咳き込みながら、なんとか冷静さを取り戻すべく務める。
ギルマスは少しの距離を置いて微笑みながら、こちらを見ている。
姿勢は戦闘開始時と変わらない。
休日のフリーターの様なだらしない格好に変わりないが癪に障る位に自然体だ。
「シャルル、正直、俺にはギルマスの攻撃が何も見えなかった。一体何を食らって吹き飛ばされたんだ?」
情けない話だが対抗する案が全く思い浮かばない俺はようやく伝説の武器であり相棒のシャルルに助言を頼む。
『やっと聞く耳ができましたか。……あなたは一撃、二撃目、共に刀の一撃で吹き飛ばされました、それは事実です。ギルマスは特別な技などは使用しておりません。ただ、あなたが視認できる限界を更に超えた神速スキルを行使しています。また彼は刀に闘気を付与し長さを自在に可変できるようです。その為、間合いをとるのが難しく、あなたは反応する事ができなかった』
神速だって?
俺の限界を超える早さだと……、しかも刀身に闘気を付与して長さを伸ばすだと。
速いうえに攻撃範囲が反則級に広いのかよ。
そんなやつにどうする対処するか……。
「視認できないとなると……どうすればいいんだ」
分からない事は素直にシャルル先生に聞いてみよう。
『そうですね……、主様にもこの戦闘中に同じスキルを会得してもらいましょう』
「は?」
何言っているんだ、この喋る棍棒は。
こんな短時間で、そんな事が出来るわけないだろう。
いや進化しに来てるんだけども。
『棍棒でも貴方の頭くらいならカチ割れますが?』
「嫌だなぁ―、ゴブリンジョークじゃないですかぁ、シャルル様……で? 会得ってどういう事?」
『うーん、今すぐ説明してもいいのですが戦闘中なので時間がありませんね。ちょっと失礼します』
突然、シャルルが発光し俺の頭に神速スキルの概要が、そして身体に電流の様な刺激が走った。
「ぐわっ!」
不意を突かれたので思わず驚きの声が出てしまった。
「おや、大丈夫ですか? イナバ君」
様子のおかしい俺を見てギルマスが心配そうに声をかけてくる。
打ち所でも悪かったのかと思われているのだろう。
まあ、それもあるのだが、実際には頭にスキルの情報が強引に書き込まれ身体には今までにない力が流しこまれ正直な話、俺は大混乱の真っ最中だった。
ギルマスは怪訝な顔で俺を見ているがあまりに痛くて頭を抱えてしまう。
『ふん!』
「わあ!」
シャルルが再度、気合の声を上げると痛む頭がスッキリした。
途端に俺の頭の中にあるスキルの極意が次々と浮かんでくる。
なるほど、そういう事か、ふむふむ……。
身体強化の瞬間的な出力を力ではなくスピードに振り切るのか……。
下半身だけではなく全身の筋肉を魔力で補強しないとズタボロになってしまうな……。
――んっ?
不意にギルマスと目が合った。
彼が何かに納得したかの様ににっこりと笑う。
……ああ、そうか。
今は試験中だったな。
俺は軽く頭を振って立ち上がった。
「うんうん、イナバ君? 大丈夫ですか? 一旦、中止しますか?」
ギルマスが何が楽しいのかにっこりとしながら思ってもいない事を言う。
やはりなかなか良い根性しとるな、このギルマス。
「イナバ様ぁ――っ! 無理したらいけんよぉー! 日ば改めるばぁーい!」
「作戦の立て直しにゃーっ! 今日はもう止めるにゃあー!」
「ギルドマスター、一度止めますか?」
観客席からアルシー達から心配の声とレニーからも伺いが入る。
いやいやいや、せっかく能力が覚醒しかけてるのに止めるなんて……!
ヒルベルダ様とセレル様もそんな心配そうな顔しなさんなって。
ゴブリンさんが何とかするぞ。
「いや、続けるぞ。マスター、続行だ」
俺はシャルルを構えてすっくと立ち上がる。
ギルマスはしばらく俺の顔を覗いていたが「そうこなくては!」とでも言いたげに微笑んだ。
「うんうん、わかりました。続けましょうか。レニー! 続行です」
そう言って再度、剣を構え闘気をまとわせる。
何かを悟ったのか先ほどよりも一段階、魔力が強くなった気がする。
『主様、今、神速スキルの概要と使用方法を少々強引に主の頭の中に刷り込みました。まあ、もともとは主が使えてたスキルです。今のが思い出すキッカケになるでしょう。使いこなせるのも時間の問題ですよ』
「俺が元々……、ああ、魔王の頃にか。分かった、可も不可も無いし、やってみるか!」
ここまで読んでくださり有難うございます。
宜しければ評価いただけると嬉しいです(*´▽`*)