魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
俺もシャルルの無茶ぶりに答えて再度構え直す。
これ位の事に応じられなければこの先なんてないだろう。
いい加減、ゴブリンとおさらばしないと。
進化はこの後も幾つも残ってるんだ。
俺はギルマスの一挙手一投足を見逃すまいと目を凝らす。
――と、次の瞬間、ギルマスがその凄まじい瞬発力で突撃してくる。
俺の目の前にギルマスの一撃が迫る!
最早、見えてるとかそういう次元ではない!
適当に気配を感じて避ける!
どぅうううえいっ!
うぉ!
鼻先、数ミリをギルマスの闘気満々な刀が通り過ぎる。
低い鼻がなくなるじゃねぇか!
全然見えないぞ!
シャルル、どういう事だ!
ギルマスと同じスキルが使えるんじゃないのかよ!
『魔力を全身に巡らせなさい! スキルを発動させなさい!』
シャルルが俺の心を読み、そう叫ぶ。
「魔力を! 身体に流せばいいんだな!」
そういう発動条件があるなら先に言ってくれませんかね!
『基本ですよ』
はいはい、基本、基本……。
俺は全身に魔力を流し、改めてギルマスを見やる。
ギルマスは攻撃を躱されたにも関わらずリラックスした姿勢で俺が魔力を流すのを確認してから剣を構え直した。
「うんうん、今の体裁きはなかなか良かったですよ。私の攻撃を食らってる間にもどんどん良くなっていきますね。他にもっと策はありますか? 見せてください!」
つくづく手を抜かれているのが分かる。
こんな事でこの試験を切り抜けられるのだろうか。
だが、わざわざ待ってくれるのなら根性見せて再度アタックだ。
神速スキルとやらはギルマスの専売特許じゃない事を教えてやるよ。
手に持ったシャルルを右肩に担ぎ、前傾姿勢になると地面を蹴り突撃した。
ギルマスに迫る瞬間、シャルルを振りかぶり叩きつける!
――がギルマスの刀で防がれた。
後方に飛び距離を取るがギルマスは付いてくる。
刀の一閃をシャルルに左手を添えて受け止める。
全身を巡る魔力の一部をシャルルに流すと淡い光を放ち始めた。
最初の頃よりもギルマスの動きが分かるし攻撃の重さもマシになってる気がする。
あ、動きは見えないぞ、分かるだけだ。
『いきますよ』
「了解」
シャルルの合図に答えると力をこめて刀を押し返してマスターを引き離した。
シャルルを一度引いてからフルスイング!
するとシャルルから光の刃が伸びマスターに迫っていく。
ギルマスの刀も光を放ちながら長く伸びて、こちらに振るわれる!
「これで終わりです!」
終わりにするんかい!
合格させる気、全くないな。
このギルドマスターは!
「うぉぉぉおおおおお――っ!!」
二つの光の刃が交錯する!
ずがぁ――ん!!
もう何回吹き飛ばされたか分からないが今度は何で吹き飛ばされたのかは分かったので姿勢制御の対応はできた。
空中で回転し態勢を立て直す。
何度も吹き飛ばされていなかったら上下も分からなかった事だろう。
もういい加減慣れた。。。
魔力を足の裏から放出させ落下速度を緩和させ着地した。
魔力の制御も少しはうまくなったかな。
ギルマスも華麗に回転し着地。
「やはり期待した通りでしたね、イナバ君、君は素晴らしい」
本当に嫌になる、ギルマスは俺を褒めたたえるが俺はまだ弱い。
その証拠にギルマスは完全無欠に無傷だ。
服に埃もついていないし乱れてもいない。
会った時の姿のまま全く同じ。
ただし、彼の愛用の剣が折れているのをのぞいて……だが。
俺の種族進化昇任試験はギルマスの武器破壊で終了した。
彼の武器、
戦いの後、シャルルは最後の一撃に全てを込めてしまったのか眠っていた。
いや、比喩表現とか武器の休眠とかじゃなく、いびきをかいて寝ていた。
武器が、いびきをかくの初めて聞いたよ。
しかも器用に俺の頭の中だけでな。
試験が終わり俺達は闘技場の観客席に移動して席に座っている。
セレル様が俺のヒザに座ろうとしたが隣の席に移動してもらった。
心なしかむくれている様な気がするが気のせいか。
リリアが悪戯心まる出しの顔で見てくるが無視だ。
「うんうん、凄かったね。イナバ君のラストのあの一撃」
あの一撃とやらを受けたギルマスは小奇麗な姿で座り微笑んでいる。
武器をへし折ったとはいえ俺の全力の一撃がここまで効いてないと今後不安になるな……、もっと精進しなければ。
「うんうん、僕の天叢雲をへし折るとは恐れ入ったよ。文句なしに合格だね」
そう言うと刀の刃に左手を沿え、魔力を注ぎながら折れてしまった剣先の方向に手を動かしていく。
――すると、天叢雲の折れた剣先が復活した。
なにそれ? 復元機能がある剣なの?
「うんうん、種族進化だったね。レニー、手続きを頼むよ」
「もう済んでます。種族進化施設の使用許可もおりていますよ」
ギルマスの隣に控えていたレニーが書類に目を通しながら答えた。
……いくら何でも速すぎんか?
いや、まあ手続きで待たされるより100倍マシだけどさ。
「うんうん、流石だね。では一休みしてから早速始めようか」
ギルマスにとってレニーなる受付嬢がこれ位の仕事をするのは織り込み済らしい。
言葉とは裏腹に然程、驚いた様子は見られない。
と言うかこの人は出会ってから徹頭徹尾この感じだが。
「はい、わかりました。では、皆様こちらをどうぞ」
レニーはそう言うと、お茶の入ったコップが乗ったトレーを取り出して俺達に振舞い始めた。
「有難う」
手渡されたお茶の入ったコップは手に取るとほんのりと暖かく……と言っても温い訳でもなく、ちょうどいい温度で喉の渇きを潤す事ができた。
短い間だがとても優秀な受付嬢である事がわかる。
「イナバ! イナバ! さっきの試験、凄かったやなあ。最後、急に速うなったし攻撃も光って伸びたっちゃね」
「そうですね、イナバ様。戦闘中に急に能力が上がったように見えました」
アルシーとセレル様が先ほどの戦闘を褒め称えてくれた。
実際に戦闘中に能力上がったんだけどな、挙句、スキルまで増えたんだけどな。
詳しく説明しようと思うのだがなかなか、それは難しい。
なぜならシャルルはなぜか俺以外と話そうとしないからだ。
武器が喋ってスキルを直に頭に書き込んで使い方まで身体に覚えさせてくれました……などと信じてくれるだろうか。
ふっと、セレル様と目があった。
セレル様は先程から俺の背中のシャルルを見つめていたが目が合うとニコリと微笑んだ。
『……主様、あの少女は何者ですか? あの子は私がインテリジェンスウェポンと気づいているのかもしれません』
え? セレル様が?
まさかぁ……小さな可愛い鬼族の少女だよ……だよな?
……と言うか起きたんかい、お前さん。
『私が眠っている間に何かしましたか? したのなら素直に白状すれば……』
するかっ!
可愛いお姉さんになってから出直せ。
『可愛い、お姉さんねぇ……了解』
シャルルが何か俺の頭の中で呟いているが聞かなかった事にする。
全員が一息ついた頃ギルマスが声をかけた。
「うんうん、では皆さん。そろそろ種族進化の施設にご案内しますよ。」
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