魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
第69話 ゴブの華麗なる種族進化
案内されたのは魔王軍ギルドの建物最深部の部屋だった。
扉を抜けたその部屋は窓がないが一段高い中央部にある巨大な水晶の玉が淡く光っている為、ほのかに明るい。
ギルマスはその水晶に近づいて行き手を触れると何やら呟いた。
そして魔力を開放しグングンと高めていく。
おいおい、ついさっきまで戦闘してたはずなのにまだこんなに余裕があるんかい。
さっきのは本当に手加減していたんだな、落ち込むぜ。
ギルマスが魔力を高めるに合わせて水晶の輝きがさらに増していく。
いつまでも続くかと思われた光景であるが一定の強さまで輝きが達するとギルマスは魔力の放出を抑えだんだんと光量も落ち着いていった。
「うんうん、これが種族進化の水晶だよ。効果を発動させたのでイナバ君、触れてみてごらん」
「いよいよか……」
「イナバ、ようやくやなあ」
俺とアルシーには感慨深いイベントだ。
一歩一歩と水晶に近づいていく。
「イナバ殿、まずは第一歩だね」
「イナバ様、おめでとうございます」
「にゃふふ、とうとう
三者三様の声掛けである。
俺はギルマスに促された様に水晶に手を触れた。
すると……、
一瞬のうちに目の前が真っ白になる。
白い世界で自分の様子も分からなくなる。
ゴブリンからオークに身体が再構成されているのか。
この世界に転移してきたあの日。
あの時も意識があればこんな感じだったのかもしれない。
全身の皮膚の下をなにかが蠢いているようだ。
とりあえず何が言いたいかというと……。
うぉぉぉおおおおっ!
気持ち悪い! 悍ましい!
感覚的には自分の身体を掻き抱いているつもりなのだが実際はどうなっているのか分からない。
何かが身体を這う感じが俺の思考力を容赦なくガリガリ削って奪っていく。
そもそもの話、ゴブリンとオークでは肉体の質量からして違うのにどうやったらこんな風に進化できるんだろうな……等と意外に冷静な事を考えながら俺は意識を手放した。
…………
……
どれだけの時間がたっただろうか。
俺はいつの間にか気を失っていたようだ。
目を覚ますとアルシー達が俺を心配そうに覗き込んでいた。
非常に怠いが上半身を起こしてみた。
起きてから気が付いたが何といつぞやの様にセレル様がヒザ枕をしてくれていたらしい、……そういうのは記憶がある時にやって欲しいものだ。
あれ?
なんだか皆が小さくなった気がする。
ん?
違うな、俺が大きくなっているのか。
身体を確認してみる。
目に見える部分の肌は毛に覆われている。
顔を触ってみると少しふっくらしたみたいだ。
鼻が上を向いており口からは牙が出ている。
耳は顔の両側になく、少し上に移動し垂れている。
これはあれだな……うん……あれだ……いのしし(豚)だ。
俺が肩を落として落ち込んでいるとアルシーが耳元で囁いた。
「イナバ……、あいらしかばい。大丈夫、あいらしか。すぐに次ん種族進化ば目指そう」
アルシー、その慰める様な物言い……心に来るので止めて。
リリアは変顔で必死に笑いを堪えておりセレル様は優しく微笑んでいる。
そして……ギルマスだが。
「うんうん、イナバ君。随分可愛らしい姿になったね。無事オークになれたみたいだよ、ぷぷっ」
こいつ! 笑いやがったな! 俺が強くなったら一方的に殴ってやる!
ああ、絶対ニダ!!
「それはそうとイナバ君、先に言っておくけど今回は自分より強いものとの戦闘で種族進化の条件をクリアできたけど、次からキッカケのアイテムなんかが必要になる事もあるからね、うんうん。イナバ君がなりたい進化に沿った条件が必要になる訳だ」
なるほど、ゴブリンからオークへの進化は自分よりも強いものと戦闘をして勝利を収めるというのが条件という事か。
危ない、勝ちきらないと進化失敗だったというわけか。
すると今後の進化は経験値とともにその条件をクリアすれば良い訳だな。
「ギルマス、聞いてもいいにゃ?」
リリアがギルマスに話しかけた。
「うんうん、何かな? リリア君」
「私とセレル様も経験を積めば種族進化できるかにゃ?」
「え? 私もですか?」
リリアの言葉を聞いてセレル様は驚いている。
そんな2人をギルマスはグルグル眼鏡をかけ直して見つめる。
「うんうん、リリア君もセレルちゃんもまだまだ伸び代はあるね、大丈夫。種族進化できるよ。あと……アルシーさんは――」
「うちゃ上位種やけん、もう進化はできんばい」
「ふむ、そうだね」
「セレル様ー! 良かったにゃ、イナバさんの役に立ちたい言うてたにゃんね」
「そ、そうですけど……。私もイナバ様のお役に立ちたいというのは、その……、内緒って言ったじゃ……ごにょごにょ」
どうやらリリアとセレル様は強くなる余地がまだあるがアルシーはもうとても強いという事か。
上位種って何だろう?
ハイ・エルフとか……そんな感じだろうか。
アルシーならあり得るな。
なんたって移動魔法砲台セクシーアルシー様だものな。
「イナバ様は失礼な事ば考えとーね」
秒で目を反らしたね。
アルシーはシャルルの次に感が鋭い。
ばれたら地獄だ。
リリアとセレル様は強くなれると嬉しそうに喜び合っていた。
そうそう、この2人も良い機会なので得意属性をギルドで調べたらしい。
なんとリリアが風の他に闇魔法、セレル様が水の他に光魔法に適性があった。
2属性持ちは貴重だし得意を伸ばしてもらえば戦力アップになるな。
二人にも機を見て種族進化を受けてもらう為にギルドでステータスプレートの手配をしよう。
それにしてもリリアはともかくセレル様まで戦闘のセンスがあるとは……。
護衛なんてその内にいらなくなるんじゃないか。
さすが未来のマイワイフww
さあ、満を持して!!
俺は自分のステータスプレートを確認してみた。
頼むぞぉ!
名前:イナバ(♂)
種族:平オーク
称号:ぶた
レベル:60
HP:1055/1055
MP:672/672
固有スキル:再生 LV7
:成長促進 LV8
:神速【進化!】 LV1
常時スキル:言語LV9、打撃武器LV7、体術LV5、
身体強化LV4、探索LV4
魔法スキル:【炎属性】ファイヤーボール LVMAX
ファイヤーウォール LV10
:【風属性】ウインドウヒール LVMAX
キュアウインドウ LV10
……このステータスプレートを作ったのは誰か。
称号がぶたってさあ。
生物学名じゃないか。
しかも日本語だしな!
俺に対する悪意しか感じねえ。
まあ、ステータスは筋力を中心に上がっているから文句はないけど……。
おっ! 絶影が進化して神速にランクアップしている。
例によってアルシーとリリアが覗き込んできて腹を抱えて笑っている。
ヒルベルダ様も俯いて震えている。
……いいんですよ、そこは笑ってもね。
いや、むしろ笑ってください。
セレル様はいつもどおり優しく、優しく微笑んでいる。
「イナバ様、オークは強靭な筋肉と荒れた生活環境でも生き抜いていける生命力を持っています。暴れまわって鬼畜なイメージがありますが、元々は非常に知力が高く繁殖力も……その……強いので……そんな落ち込む事ないですよ!」
とうとうヒルベルダ様まで腹を抱えて笑い始めた。
セレル様は赤く染めた頬に手をあて照れながらお慕い申しております……等と小声で悶えている。
そんな様子をいつの間にか笑いつかれたのか、皆が生暖かい笑顔で見守っている。
皆が楽しいなら……、
まあ、いいか。
ここまで読んでくださり有難うございます。
70話を費やしてようやくの種族進化。
この後はもう少しサクサクと進化していきます(*´Д`)
宜しければ評価いただけると嬉しいです(*´▽`*)