魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
魔王軍は非常事態に陥った。
ベルリーザ帝国の不審を正すべく魔王様は一軍を率いて出発した。
魔王軍は精強であり万に一つも敗れるなんて事はない……筈だった。
実際に緒戦は奇襲を受けたにも関わらず魔王軍は完勝した。
しかし、それが相手の策だったとしたら……。
事態は最悪だ。
魔王様は討ち死にしヒルベルダ様とアルシーが行方知れず。
最高権力者を突如失った魔王軍は散り散りに霧散した。
そして今、俺達も敵に取り囲まれている。
こちらの戦力はセレル様を除いて6人、敵は数千、笑ってしまう戦力差だ。
しかも場所は密度の低い林の中で凹凸はなく周りも見渡す限り平地だ。
身を隠す所もなくまごまごしていたら数ですり潰されるのがオチだ。
俺はシャルルに励まされこの囲いを一点突破する事とした。
矢継ぎ早に仲間達へ役割分担を指示すると探索スキルでせめて囲いの薄い部分を探した。
うーむ、薄い所など無いな。
それでも10時の方向に一部囲いが手薄な部分を見つけた。
そちらはサンダルファン王国ではないのだが今更そんな事は関係ない。
逃げなきゃここで全員死ぬ。
仇も取れずこんな所で死んでたまるか!
「頼むっ! アドナエル、サンダネル!」
俺は手綱を引き突撃を2頭に伝える。
周りには敵しか見えないが2頭は俺達の意図を理解し操作通りに走り出した。
「ジータンッ! 射程に入ったら前方を攻撃頼む!」
「もう撃てるぞ、いくぞぃ」
まぢかい、凄い射程だな。
俺達の突撃に相手も気づき前方の軍が駆け出してきた所へカウンター気味にジータンの魔法が襲った。
威力を絞り爆撃範囲に重きを置いた魔法コントロールだ。
見事である。
ジータンの卓越した魔力コントロールと的確な爆破範囲に舌を巻く。
爆炎と煙が燻り死屍累々の戦場を2頭の馬と馬車が駆け抜ける。
それでも俺達はたった6人、前方が抜けたとしても四方八方から攻撃を受ける。
後方はガンマル、アルノートとファルスで左右と上空、リリアはセレルを見ながら馬車の中から前方の血路を俺と共に探してくれている。
「イナバさん、あっちに抜けるにゃん!」
「わかったぁ!! おらぁああ!」
リリアの助言通りに何とか馬車を操縦する。
確かに若干前方が薄くなった様に思えた、抜けろぉおおお!!
「大将!! まずいぞ!! 罠だ!!」
「えっ?!」
俺がアルノートの声に反応するより前に手薄になった前方の軍が左右に割れ魔導士の一隊が現れた。
既に詠唱が終わっており魔法が撃ち出される寸前なのが分かった。
「まずぅうううい!!」
手綱を引き絞り無理やり馬車の方向を変えようとするが間に合わない。
突然、背中のシャルルが光る。
『主! 魔法障壁を張ってみます! 主も手を貸してください!』
分かった!
俺は手綱を持ちながら片手でシャルルを後ろ手に掴む。
そして魔力を流し込む。
『よし、よし、うむむ、少し多いですけどぉ……、えいやぁ!』
魔導士団の魔法攻撃が放たれる直前にシャルルの魔法障壁が間に合った。
魔導士団の放ったファイヤーボールが障壁にバンバン着弾する。
すっぽりと包み込むような障壁はよく馬車を守ってくれたが数が多い。
ジータンが反撃してくれているが多勢に無勢だ。
『ううっ、これは……キツイですね』
何発も着弾している圧力で馬車の速度が制限されていき、その為、ますます激しい攻撃にさらされる。
『……マズいです、主、馬車を走らせて! 早く!』
「む、無理だ! く、みんな、馬車から脱出する準備をしろ!!」
アルノートとファルス、ガンマルとジータンが魔導士団から影になる方向に飛び降りる、そしてリリアもセレル様を背負い馬車から脱出する。
「イナバさんも早くでるにゃ!!」
「分かってる!」
魔導士団から今度は雷撃系の魔法が一斉に放たれるのが見えた瞬間に俺は御者台から後方に向かって飛び降りた。
アドナエルとサンダネルは馬車を引きながら猛スピードで敵軍に突っ込んでいく。
すまない……アドナエル、サンダネル……。
地面に伏せた状態で馬車に敵の魔法が着弾し爆発するのが見えた。
ああ、くそっ。
俺は近くの大きな木を背に周りの様子を伺う。
暗いので魔法の灯りしか見えないが四方を遠巻きに囲まれている。
周りからゴブリン小隊とセレル様を背負ったリリアが近づいてきた。
良かった、無事……でもないけど生きていたか。
「大将、どうする……?」
「どうもこうもないな、機動力がなくなって事体は絶望的だ……」
「……にゃあ~」
魔王、魔王、お前の力で何とかならんか?
(お前、俺を破壊兵器かなんかだと思ってる? 一人でこれはキツイぜ?! せめてあの魔法娘でも居てくれたらな……)
アルシーは生きてるっ!
(……わかってるよ、誰も死んだなんて言ってないぜ、落ち着け)
そ、そうだったな、すまない。
(いや、いい。それで……どうする?)
ここでの最高戦力は驕りでもなんでもなく俺達だ。
魔王、お前には地獄まで付き合ってもらうぜ。
(別にいいわ、地獄は俺のテリトリーだしな)
『やはり私達の行先は地獄ですか』
(おお、お前もいたよな。ほんじゃあ奴らに目に物を見せてやるか)
すまないな、2人とも……。
『何を諦めているんですか、さっきは地獄なんかに行かないと言っていたくせに』
そうだったな、じゃあ死地を切り開きに行くとするか。
「ゴブリン小隊とリリアはこのままサンダルファン王国に向かってくれ、ただ国王派が既にやられていたらエルンヘイムに脱出しろ、セレル様を頼むぞ」
「何言ってるにゃん?! 一人で囮にでもなるつもりにゃんか?!」
「そうだぜ、大将。一人で行くなんて無茶だ」
「とはいえ、ここで皆で戦ったとしても勝ち目はないぞ、それならサンダルファン王国から援軍を呼んできてくれ。驕っているつもりはないが一番生き残る可能性が高いのは俺だしな」
最大戦力である俺がこの場に残り、皆の血路を抉じ開ける。
必ず全員を生き残らせてみせるぞ。
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