魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
最大戦力である俺がこの場に残り、皆の血路を抉じ開ける。
必ず全員を生き残らせてみせるぞ。
俺が決意の程を漲らせているとアルノートが声をかけてくる。
「なら俺も残るぜ、大将」
「だめだ、純粋なアタッカーはこの中でお前しかいない。リリアを助けてやってほしい」
「ならば、わしが残ろうか」
「「「ジータン?!」」」
ゴブリン軍団が声を揃えて驚きの声をあげた。
「どのみちわしは逃げるのには向いとらん。足手纏いになるで、ここで固定砲台にでもなろう」
「何を……?!」
「もちろん死ぬつもりはないぞ、耄碌ジジイの面倒はみてくれんとのぅ」
「……」
言葉とは裏腹にジータンの瞳には覚悟の色が見えた。
これ以上にとやかく言うのは不粋か……。
「みんな、配置についたか?」
俺達を囲む軍の灯りが強くなってきた。
暗闇に潜む俺達を爆撃魔法で燻りだす準備だろうか。
「いつでも良いぞ」
「大将、絶対に死ぬんじゃねぇぞ。新しい世を創るんだからな」
「本当にゃんよ。アルシーさんはきっと生きてるにゃん。なのにあんたが居なかったらなんと言い訳すればいいにゃん」
「分かってるよ。いくぞっ!!」
俺達は一斉にそれぞれ駆け出した。
「いくぞ、シャルル、頼む!」
「はいっ! それぇぇぇえええええっ!!」
予めシャルルに流しておいた魔力を使って彼女は光の剣を伸ばし始めた。
俺はそれを待って前方の敵を盛大に薙ぎ払う。
「ぐぉぉぉおおおおおりやぁぁぁああああっ!!」
真っ暗で見えないが前方を包囲している敵軍から悲鳴の様な鳴き声が聞こえる。
ざまぁ見ろだぁ!
「行けっ!! みんな、走れぇえええっ!!」
俺の合図と共に前方に開いた包囲の穴にゴブリン小隊とリリアが全力で駆ける。
後を追おうとしたモンスター達を今度はジータンの魔法が撃つ。
俺もファイヤーボールを無数に発生させ右に左に撃ちこんで敵軍を翻弄する。
何とか小隊達が駆け抜ける間の時間を稼げているか。
んっ?
そう言えば俺は欠片が残れば復活するんだっけか?
実は俺って不死身なんじゃないの?
『過信してはいけません。いくら主でも魔法で一片も残らずにこの世から消し飛ばされたら終わりです』
こわっ、わかったよ。
死なない様に頑張るよ。
俺の探索スキルで皆が安全圏まで逃れた事を知る。
案外とこの包囲も薄いのかもしれないな。
とは言えここに残ったのはたった2人。
いづれはじり貧だろ。
おい、魔王、お前は俺から分離できんのか?
お前が居れば少しはやり返す事も可能だろう。
(出来るわけないだろ、俺とお前は同じ身体を共有してるんだ。多重人格とも少し違うがこの身体から出るのは不可能だ)
ダメか……、残念。
『主! よそ見しないで!』
「えっ?!」
シャルルの声に反応すると同時に目前に迫った攻撃魔法に気づいた。
またやっちまったっ! そう思った瞬間に射線を何かが遮った。
「ぐはぁぁぁあああ!」
ジータンっ?!
「大丈夫かっ?! すまない、俺がボーッとしてたばかりに……」
「イナバ殿! まだわしらは倒れる訳にはいかん! わしらが破れたらゴブリン小隊なぞ簡単に追いつかれすり潰されるじゃろう! しっかりせよ!」
全く! 俺はみんなに叱咤されてばかりだ。
本当に嫌になるぜ。
「すまん、わかったぞ、ジータン。今回復してやる」
俺は攻撃の来た方に出来る限りのファイヤーボールを飛ばしながら反対の手でジータンを回復した。
「ぐぅぅぅ、イナバ殿の回復はこの老体に堪えますわい。出力がデカすぎる」
「う、精進はしているんだよ」
「さぁ、気合い入れてまだまだ戦いますぞ」
俺とジータン、そしてシャルルは次々と迫る敵軍を倒して倒して倒しまくった。
幸い再生スキルのお陰で俺自身は疲労は無いし体力も魔力も尽きない。
いわば殺戮マシーンの様に延々と戦い続ける事が出来る。
ただ流石に手足を吹き飛ばされたり本来であれば致命傷をうけたりすると再生までに時間がかかる。
その間にも敵の攻撃にさらされている訳なので堪ったものではない。
もちろんその攻撃はジータンにも向けられる。
俺とは違い、とてつもなく強いが彼は所詮ゴブリンだ。
何度目になるだろうか、彼が倒れた時に急いで駆け寄り回復をかけた。
……が反応がない。
「おいっ! どうした! ジータン、返事をしろ!」
『もう、無理ですよ、ジータンは全てを出し切って戦いました……』
「そんな……、俺の親衛隊になってくれるんじゃなかったのか……約束したじゃないか」
『ジータンは死力を尽くしました、もう……いいでしょう』
「お前ら……許さんぞ……」
俺の魔力が飛躍的に大きくなり辺りに地響きがなり始める。
石や木が地面から引きはがされ空中に浮かび始めた。
様子がおかしい事に気づいた敵軍が四方八方から魔法を撃ちこんだり切り込んできたりしているが俺の魔力で魔法は防がれ無効化され剣や槍などの武器が俺に届く事は全くなかった。
『こ、これは……いけません!』
「お前らぁぁぁあああっ!! いい加減にしろぉぉぉおおおおっ!!!」
俺を中心として凄まじい魔力が展開され辺りは完全に真っ白な光に包まれる。
光に包まれた敵の軍は一瞬の間もなく塵になり消し飛んでいく。
あっという間に恐慌状態に陥った敵軍は蜘蛛の子を散らす様に散り散りになるが魔力の光から誰一人として逃れる事は不可能だ。
猛威を振るう光の帯は戦場の隅まで行き渡り無慈悲に存在する生命体を次々と消し飛ばしていく。
光が収まったその時、辺りは噓の様に静まり返っていた。
そこに立っている者は一人もいなかった。
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