魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
サンダルファン王国はエルンヘイムの西側、標高はそこまで高くないが途中に山脈が南北に走っている為、道中はなかなか厳しい。
リーザ隊の駐屯地がその山脈の手前にあるので出発と同時に山登りだ。
リーザ隊は1,000余りの遊撃部隊と共に駐屯していた。
その中から300程が今回の随伴兵としてついて来てくれている。
四天王時代は悪魔剣士団の団長だったが今は遊撃部隊なんだな。
指揮官は馬鹿だなぁ、リーザの部隊は機動力を与えて突撃させればアホみたいに強いんだぞ。
回り込んだりする遊撃部隊ではその本領は発揮できない。
やはりゆくゆくは俺の軍にスカウトして鬼神の様な強い部隊にしよう。
なんて思っているうちに山脈の中腹辺りまで部隊は進んだ。
数百メートルの低い山だが景色が良くて驚く。
周りの景色を愛でるなんてこの世界に転移してきて以来か。
いや、アルシーと旅に出て馬車から眺めたか……、アルシー。
その時、リーザの放った斥候隊が帰ってきた。
ここを越えてもう少し奥に入った所に山賊らしき一団のねぐらをあるらしい。
それだけなら何て事のない、普段なら無視して良い情報だ。
彼らが運ぶ麻袋からセレル様らしき少女の目撃情報がなかったら……の話だ。
てっきり捕まるならニルス王子の手に落ちているかと思ったのでまだマシな状況に少しホッとした。
しかし急がないと未来の嫁の貞操が非常に危険だ、急がねば。
気を急いている俺よりも更に焦っている人がいた。
「早く! 早く? 助けに行きますわよ! 姫様のピンチが貞操なのですわよ!」
「隊長、落ち着いてください。そんな事では上手くいくものも失敗しますよ」
「あなたは何を落ち着いているんですの?! セレル様が、セレル様がぁぁあ!」
「おちついてくださーい(すぱぁ――ん)!」
あ、リーザ、引っぱたかれた。
存外にスパルタだな、あの部下の人。
どうやら落ち着いたらしいので話を聞こう。
どうやらこの山を越えて森の方に入った先に中規模の砦が築かれているそうだ。
いくら少数とは言え300の隊を率いて砦に向かえば直ぐにバレる。
前回のトラウマも刺激されそうだけど少数で偵察し隙を突いてから本隊を投入するという作戦で行く事にした。
偵察部隊はリーザ、俺、潜入スキルの高いリーザの部下3人だ。
リーザの筆頭部下の人(イツハさんと言う名らしい)は本隊の指揮をとるらしい。
やはり優秀なんだな、あの人は。
ジータンは病み上がりと言う事で300の隊と待機だ。
その後俺達5人は部隊を先行して山を越え木の陰に隠れながら砦の近くに来た。
まだお昼位だが森の近くなので回りは薄暗い。
砦には魔法の明かりが灯されており近づくと見つかってしまいそうだ。
さて……どうするか。
「何者ですのっ?!」
「「「えっ?!」」」
リーザの声に何人かが反応した。
振り向くとリーザが見覚えのある魔物の首筋に剣を突き付けていた。
そしてその剣先をもう一匹の魔物が掴んで止めている。
なんたる馬鹿力だよ。
「……た、大将か?」
「ガンマル……アルノート、生きてたかっ!」
「ああ、……生きてはいる、生きてはいるが……済まねぇ、大将」
「んっ?」
「セレル様とファルスが敵の手に落ちてしまった。本当に済まねぇ、俺達が居ながらこんな体たらくに……」
「まずは!」
「?!」
「……お前らが生きてて良かったよ」
俺はアルノートとガンマルの手をがっちりと掴んだ。
二人は気まずそうな顔をしていたが再会できた事にホッとした様子だ。
「お取り込み中、申し訳ありませんの。その者達はお知合いですの?」
「ああ、そうか。リーザ、この二人は俺の仲間だよ。ジータンと同じゴブリン小隊のメンバーだ」
先行作戦に出る前にリーザから敬称と敬語は要らないときつく言い渡されてしまった。緊急時にコミュニケーションが阻害されない様にとの事なので従った。
「アルノート、ガンマル。こちらはリーザロッテ。戦場で倒れた俺とジータンを救い出してくれた」
「私は戦場で倒れていたのを保護しただけですわ。敵はイナバ様が既に倒しておりましたし……」
ゴブリン小隊の2人がさすが、と言う顔で見てくるが、やめてくれ。
俺はブチ切れて辺り一面を焼け野原にしただけだ。
状況が状況なだけに俺達は挨拶もそこそこに作戦の続行を打ち合わせた。
単純ではあるが正面から俺とゴブリン小隊の2人が陽動、裏側からリーザ達がセレル様とファルスを救い出す為に潜入する手はずだ。
人質さえ取り戻せてしまえば本隊の戦力を投入して何とかなるはずだ。
作戦開始は俺がシャルルに指示をして裏側のリーザに合図を出してもらう。
もちろん例のテレパシー能力でだ。
あれ、慣れるまでしばらくかかるんだよな。
実際にリーザも作戦前にシャルルにテレパシー的なあれで話しかけられて頭を抱えていた。
シャルルの声がいくら奇麗でも最初は気色悪いもんだ。
『何か失礼な事を考えていませんか? 彼女に合図を送りますよ』
おっと、そうだった。シャルルには考え事が筒抜けだったな。
俺はシャルルに合図を依頼すると砦の表門目掛けてファイヤーボールをぶっぱなした。
放たれた火の玉は物凄いスピードで砦の表門に着弾して凄まじい爆発を起こした……やり過ぎた?
「相変わらず無茶苦茶するぜぇ」
「主の魔法、凄い」
ゴブリン小隊2名からなぜか呆れの感情が見え隠れしたが奇襲をかける為に突撃を敢行したので俺も後に続く。
俺達が表で騒いでるうちに裏からリーザ達が攻めこむ。
出来る限りこちらに注目を集めたいものだ。
『まあ、私は知ってましたけどね』
すいません。
いまだに俺は魔法制御の甘いオークだ。
一抹の不安を抱えたゴブリン小隊は暗がりに浮かぶ山賊の砦で人質救出作戦を開始した。
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