魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
「あは――っ、あはは、いやー、ごめんなしゃい、こげんコミカルなステータスは初めてやけん……」
俺は苦々しい顔をしつつ、彼女を眺めていた。
笑いすぎて涙を流しながらアルシーは一息つく。
「……で! これから、どうすればいいかな」
何度目かの同じ質問をアルシーに向ける。
「そうやなあ。魔王様は魔法の知識と戦闘技術には長けとるけん、基本的な身体的性能ばあげないかん思うとるけん。つまりはレベルアップやね。そん後は近くの都市、ここならウェルニーが近かかね、そこを拠点にして四天王ん情報ば集めるばい。こん当時は皆様はまだ魔王軍に所属する事ものうて散り散りに活動しとりますけん。そもそも、そん魔王様は今現在はうちん目の前の雑魚モンスターやけんねwww」
草を生やすな、草を。
俺だって好きで雑魚モンスターになった訳じゃねーよ。
「なるほどね、それにしてもグリッシュはよくもまあこんな状況を予測してたな」
グリッシュは我が魔王軍の中でも異常と思われる程の神算鬼謀の持ち主、まれにドン引きする程、未来がわかっているのかと思う位に先手を打ってくる。
……それにしたって今回の件は大概ではあるが。
「グリッシュ様は勇者との戦いに向けて強か不安ば口にされとりましたばい。と言うのも――」
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これは魔王城前で勇者の凄惨な殺戮劇の始まる一週間前の事。グリッシュ様は魔王様との作戦会議から自室に戻られた後、ずっと机に向かい難しい顔をされ思案されていました。
「グリッシュ様、どうかしゃれたと? 戻られてから何か考え事ばされとー様子ばってん……」
「アルシーか、魔王様から勇者戦の作戦立案を任されたんですが……、これを見てください」
グリッシュ様は机の引き出しから一つの報告書を私に差し出しました。
彼女の持つ精鋭の情報部隊が持ち帰った勇者の情報なのでしょう。
私はそれを受け取りパラパラと目を通すと信じられない内容が目に入りました。
「な、なんか!? こん勇者ん能力は!? 絶対切断斬撃に絶対物理魔法防御……こげなと無敵やなかと! どげんして倒せっちゅうんか……」
「その二つは神の祝福を受けた勇者固有の万能スキルです。彼の持つ伝説の剣と防具の性能と合わせてその力は貴女のいう通り、無敵と言えるでしょう。そしてその仲間達でさえも同じ様に神に祝福された勇者スキルに準ずるものを持っています。今現在の魔王軍の戦力は決して弱くはありません、むしろ充実していると言えますが、この勇者達の力を鑑みるに、それでも絶望的な状況と言わざる負えないでしょう。」
「グリッシュ様! 撤退を! 撤退を進言しましょう! 今回の戦いは無意味です、今すぐ魔王様に……」
「魔王城を捨てて恥も外聞もなく脱兎の様に逃げろ……、と? 魔王様は今回の戦いに必勝の決意を固めています、とてもそんな進言はできません」
「くっ、しかし、全軍が壊滅してしまっては元も子もありません……。事情を話して説得すれば……」
「アルシー、ですから私はこう考えました。一度魔王軍を壊滅させ人間共の目を惑わせてやろう、と。例え今の魔王軍が壊滅しようとも事前に魔王城全体に大規模な時間遡及魔法を仕掛けておきます。魔法発動後に魔王様には過去へ旅立って頂き勇者達の目から魔王様を隠して再起を図って頂きます。魔王様さえご存命なら魔王軍は復活可能です、……必ずや今回の記憶を元に華麗に復活を遂げてくださいます!」
常々、味方さえも恐れさせ当然の様に神算鬼謀を実現させるグリッシュ様をもってしても、どうにもならない事を知ります。
私はグリッシュ様にこの様な理不尽な決断をさせた魔王様を恨みました。
グリッシュ様の自身をも顧みない作戦を聞き四肢の震えが収まらず只々涙を流すしかなかったのです。
その後、グリッシュ様は部下の中で一番信頼を置く魔法知識に長けたものに魔法の準備をさせました。
そして自分達は時間稼ぎをする為に勇者達に勝ち目のない戦いを仕掛けます。
もちろん四天王全員もそれを知った上で戦いに赴きました。
途中まではデタラメな力の勇者達を相手に善戦していた魔王軍ですが魔法の仕上げにグリッシュ様が戦場を抜け、その発動に残りの全魔力注ぎ込みました。
……勇者にその魔法がばれない様に隠蔽する為にもその時の全魔力、グリッシュの生命を費やす必要がありました。
そしてそれは魔王軍瓦解の序章となりました。
まずグリッシュ様という実力的にも精神的にも重要な柱が抜けた妖魔魔術師兵団が、続いてその魔法の援護を受けて戦っていたダークエルフ弓矢部隊、次に竜人重装歩兵団、最後に悪魔剣士団が次々と壊滅をしていったのです。
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「その後に俺が勇者と戦い完膚無きまで叩きのめされ敗れ去ったという訳か……、本当にすまん」
「恨んでなか……と言えば嘘になるけん、よかばい、全てはグリッシュ様の作戦通りやけん」
……なるほど、ログアウトした俺にメッセージを見せて強制的にゲームの中に戻したのはその魔法の為というわけか。
そして、わざわざ俺をゴブリンまで戻して人間、ひいては勇者達から身を隠しやすい様にしてくれたと……。
「あ、グリッシュ様は敢えて魔王様を劣化種族に退化させる際に選りすぐりんスキルば付与される様に準備もしとった。さすがに一度に付与しきるとは3つが限界やとも言いよったな。それ以上はゴブリンに戻った魔王様ん身体が持たんっちゃろうと。再生スキルは傷んだ身体ん復活を瞬間的にできるが死ぬ事自体は防げなと」
なんて事だ、あいつはどこまで未来を見通していたんだ、預言者かよ。
まあ、しかし魔王軍の全員が命を投げ出して俺一人に全てを託してくれたんだ。
その重圧は計り知れないが皆の願いを無駄にする訳にはいかない。
「グリッシュ様は地獄よりも悲惨な戦場で魔王様の無事と過去転送の成功ば祈っとった。時間ば惜しいけん、さっさと場所ば移動して動き出すばい」
グリッシュ……、お前ってやつは……。
ん?
移動だって?
ああ、街を拠点にして活動するんだったな。
とっとと街に向かう事にしよう。
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