魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
リーザの部下の一人、テレサは恐らく不幸にもロマリアスに目を付けられ弟を人質にされたがために満足に抵抗も出来ず潜入スパイとして利用されてしまったようだ。
そして捕虜の口から秘密が漏洩する事を恐れた彼女は自身で命を絶ち今までの報いを受けた。
彼女達は秘密を洩らすと自爆する呪いを受けていた。
自分の命を捨ててでも俺達を巻き込んで爆発してしまうリスクを避けたかったのだろう。
それにしてもスパイが自分で命を絶つという選択をした場合は爆発させないという点がロマリアスの凶悪さを思わせる。
自分の名前は爆発のキーワードにするクセに……。
ただ……彼女がそんな不幸を受ける程の事をしたのか?
そんな問いに俺は当然、答えを見つけられずにいた。
「テレサの後任となりましたクインシー・ベントレンゼンです。よろしく」
「……どうも、よろしく」
彼女が手を差し出してきたので握手を交わす。
組織と言うのは感傷に耽る暇もないようだ。
テレサの後任はメガネをかけた知的な少女だった。
紺色の長い髪が美しい彼女は手も小さければ背も低い。
この様な戦争に縁の無さそうな子も戦うのか。
とは言え、クインシーと名乗るその女性ももちろん知勇兼備の剣士だ。
ただテレサという女性の不幸を思うと割り切れない部分も残る。
まあ、人は慣れていくもんだろう、良くも悪くも……。
リーザ隊300は賊の殲滅戦でほとんど損害を出していない為、騒動の後に間もなく出立し道中の山脈を超えサンダルファン王国の国境近くまで辿り着いた。
俺達はそこで想像もしていなかった光景を目にする事になった。
それは国境近くの小さな村に着こうかとしていた頃だった。
「リーザ様! 煙が上がっています。村が、村が燃えています!」
「なんですってっ?!」
先頭にいた騎馬兵から唐突に報告が入った。
慌てて前方を見るとまだ遥か遠いが確かに家屋が燃えていた。
「くっそっ! 一体何が起きているんだ」
「イナバ様、お乗りください!」
リーザは自分の騎馬の後ろに俺を乗せ現場の村に駆けた。
そこは……地獄そのものだった。
家屋は燃え黒煙は空高く立ち上り村人は根こそぎ切り捨てられ雑な殺され方をしていた。
飼育されてたであろう家畜やペットも無造作に頭や四肢が切り落とされていた。
「これは……酷いですの……」
「くそっ、何の為に……こんな」
「イナバ様、あれは……まさか……」
セレル様が村の中央で何かを見つけて駆け出した。
慌てて後を追うと山の様に積み上げられた屍の山に旗が突き立てられていた。
それは……サンダルファン王国のニルス王子隊の旗だった。
「あの男は……本当に……何をやってるんですかっ!!」
普段、冷静なセレル様が怒りを爆発させた。
無理もない、占領するならともかく何故こんな殺戮をする必要があるのか。
ただこれで分かったのはサンダルファン王国は既に国王の権威が及ばなくなりつつある領地があるという事だ。
そしてニルス王子の叛意が確実となった。
だが今の俺達にはそれを報告し助力を頼める勢力がない。
「セレル、予定通りにサンダルファンの城に向かうかい?」
「……そうしましょう、父が無事か、心配です。申し訳ありませんがサンダルファンに向かいましょう」
「わかった。リーザ、出来る限りで遺体を埋葬しよう。火を消す隊と分けて作業しよう」
「わかりましたわ。急ぎ! 準備を!」
俺達は村の犠牲者を埋葬する隊、火事を消火する隊、瓦礫を片付ける隊に分かれ作業を開始した。
埋葬する隊の精神的負担を考え少しづつ交代させた。
作業完了後も急いではいるが充分に休息を取りサンダルファンに向かう事とした。
作業は順調に終わったが日が傾いた為、リーザは夜営の準備を隊に指示する。
本当にリーザ隊はしっかり統率が取れていてお互いに協力し合って行動出来るな。
これも彼女の統率力とカリスマ性がなせる業か。
俺が部隊の手伝いをして作業をしていると焚火の監視をして考え事をしているセレル様を見つけた。
「セレル、どうかしたかい?」
「ああ、イナバ様。……王の事を考えておりました。ニルスの反乱は最早疑い様の無い事実と思えます。そうなるとニルスに従う兵もそれなりにいるという事で王の身辺が心配です。もしかしたら国外にも協力者がいるかも……ベルリーザのルゼブナックの様に……」
「確かに……こうなるとエルンヘイムもどうなっているか分からない。今はとにかくサンダルファンの状況を見て今後の方針を決めないと……王を救出しないと」
「……有難うございます。ただこれはダメだとイナバ様がお考えになられたのなら躊躇なく部隊に転進のご命令を出してください。今のエルロアに必要なのは……サンダルファン王ではなく恐らく貴方です。イナバ様」
「……」
俺がなんと返答しようか迷っているとけたたましく言い合う声が聞こえてきた。
何事かと思い声の方を向くとリーザと部下達が何者かを連れてこちらに向かって来ていた。
「こらっ! 大人しくするんですのっ! 悪い様にはしませんのよ!」
「うるさいにゃーっ! 私はエルンヘイムに戻らなきゃいかんのにゃ!」
……んっ?
この声は……!
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