魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
俺達はサンダルファン王国に向かう途中にリリアと再会した。
既に王国ではクーデターが起こり第一王子のニルスの手に政権は落ちた。
全く、どうしてこう次から次へと……一息つく暇もないのが辛い。
リーザに支援を受けられるとは言え国の後ろ盾のない状況では所詮一部隊の戦力で砦の防衛など出来ない。
俺達は国の象徴であるマルファスを失ってしまったが未だ健在であろう魔王軍首都のエルンヘイムに向かい撤退する事に決めた。
俺達に随伴する部隊はリーザの率いる1,000名、今や運命共同体だ。
砦からはありったけの物資を持つて来た。
次に補給が出来るのは何時の事になるか不明な状況だからだ。
エルンヘイムまでの道中で補給の為にウェル二ーに協力を求めようか。
……もちろん、あの大都市が無事だったらの話だ。
☆★☆★☆★
「イナバ様、少しいいかしら?」
「えっ? どうかしたかい、リーザ」
ウェルニーに向かう最中に騎乗のままリーザが俺に話しかけてきた。
「イナバ様、これよりこの部隊の指揮権を貴方に譲りたいんですの」
「はっ?! 突然どうした?」
「サンダルファン王国は弱小ではありますが……前王の賢政のお陰で平和でしたの。そんな王国で私は戦闘に長けておりましたので部隊長に任命され幸せにも多くの仲間に恵まれましたわ。ですが、私は部隊長として戦場全体を見るのが苦手で……今までは先陣を駆けて強引に士気を上げて勝ちを拾ってきましたが……それはあくまで平和な世界の小さな戦いでの事。正直、本当の戦争を指揮官として戦う自信がありませんの」
「だからと言って俺がいきなり引き継ぐなんて……部隊の皆が賛成しないぞ」
「既に中隊長や小隊長達には話しましたかしら。イナバ様は大きな戦いを2度くぐり抜けましたが結果的に1人の戦死者も出さず生き延びていますわ。それは戦場を俯瞰に見る事が出来て即断即決が的確でなければ不可能です。イナバ様は戦場で味方を守る事の出来る指揮官だと思いますわ」
確かに俺はゲーム時代は仲間を率いて数多の戦場を勝利に導いてきた。
……だが時にはこっぴどく負ける事だってあった。
しかもそれはゲームだから取り返しはついたのだ。
だがこの世界で起こるのは本当の戦争だ。
味方も敵も、俺自身も本当に死ぬのだ。
人間の頃は自分一人の人生も満足に舵取り出来なかったのに大勢の命の生き死にに俺如きが責任は負えるのだろうか。
俺はそんな事を彼女に説明した。
「……イナバ様、私は魔王という立場は自らなるものではないと考えますかしら。周りから推され期待され望まれて即位するものだと思うのですわ。民衆や兵は自ら考えこの魔王ならばきっと良い世を作ってくれると信じて付き従いますの。私にはその様なカリスマはございません。平時ならそれでも構わないのですが今の世に必要なのは貴方の様な人を惹きつけてやまない御方ですわ」
「私もそう思います」
声は後方、第一中隊長のイツハさんだった。
リーザロッテの第一の腹心である。
「リーザ様は戦闘では鬼神の様な強さを発揮しますがご本人が仰りました様にそれは一人の戦士で、という事になります。戦術、戦略という事になりますと失礼ながらリーザ隊長よりも優れている者は我が隊の中でも数人おります。隊を率いるのなら私も貴方の様な魔王候補がすべきと考えます」
うむむ、それを言われたら困ってしまう。
確かにリーザは個の能力がズバ抜けており戦闘の趨勢を左右する存在だ。
だが戦場全体、味方と敵を見て戦術や戦略を練り神算鬼謀を発揮するのは専らグリッシュの役目であった。
彼女の役目はとにかく先頭を駆けて敵をなぎ倒すだけで良かった。
「イナバ様、私の後ろ盾となってください」
ダメ押しの一手がセレル様から放たれた。
彼女もイツハさんの隣に騎馬を並べていたのだ。
きっと彼女は戦場に出ても目立つし、とても映えるだろう。
第一王女ながら素晴らしいカリスマと能力である。
「わかったよ、正直に言うとセレル様の方が能力的に向いていると思うが王女にこの役目は押し付けられないよね。王女の傍で頭を使うのは俺の役目……だな。いざと言う時には俺も戦えるし、な」
……結局、こうやって俺はこの世界でも魔王の座を争う争奪戦の様な流れに巻き込まれていくんだろうな。
ゲームの頃にはプレイヤーだったから話の流れもあってみんなが俺を魔王に祭り上げてくれた。
まさかこの世界に来てもそれと同じ様にみんなが俺に期待してくれるとは思わなかったよ。
正直な話物凄く驚いている。
自分の仲間は必ず守る、それが俺がこのゲームをやっていた頃のモットーだった。
それを貫く時が来たかな。
俺はこの世界に来て時代の勢いに流されてしまった。
知らない人物、知らない戦い、知らないイベント、正直ゲームの知識が十全と役に立つ場面も限られてきている。
いや、もはやほとんど無いと言っても良いだろう。
そんな中で今度はサンダルファン王国王女に後ろ盾になる様に要請を受けた。
笑えてしまうじゃないか、一介のゴブリンが魔王への一歩を踏み出した偉大な瞬間だ。
いいだろう、やってやろうじゃないか。
ここまで読んでくださり有難うございます。
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