魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
許せんのだよなー。
ようやっと国を安定に導こうとしていたマルファスを討ち取りやがって。
俺の強化はまだ終わってないでしょうが。
強くならなきゃいかんのだが碌な拠点がない。
支援も味方もほとんどいない、かつて……いや、この場合未来のか。
四天王や俺の魔王軍ともリーザ以外、合流できていないし今の所、手掛かりすらもつかめていない、そんな状況だ。
それでいて敵を倒して島を統一に導くなんて……難易度爆上がりではないか。
「イナバ様にはマルファス様に通ずる”この人に任せておけば何とかしてくれる”という謎な安心感があります。サンダルファン王国としては最早、役に立つ事はできませんが……私に付随する権力や戦力を上手くお使いください。もちろん先ほどもお話ししましたがリーザ隊は既にイナバ様の指揮下に入っております。イナバ様の実力を遺憾なく発揮できる様に尽力いたします、ですので……ご安心を」
セレル様は胸に手を置き目を閉じて言葉を紡ぐ。
その言葉を受け止めて俺は一つ息をついてから前を向く。
その瞬間だった。
「後方1キロに敵影っ!」
「?!」
全く、油断させないな!
もう追手がついたのか、速すぎだろう。
「数はっ?!」
「魔族と思われる人型凡そ5,000! 魔物凡そ5,000! 総数約10,000!」
リーザの問いに部下が答えるが10倍の敵か。
もうその程度の事では驚かんよ。
いくぞっ!
「リーザ、隊をとめて集まらせてくれ」
「わかりましたわ」
俺の指示に滞りなく答え次々と指示を出していくリーザ。
これを見る限り、十分に将器はあると思うけどな。
やがてやや広めの広場で速やかに部隊は集結する。
俺とリーザとセレル様が部隊の前に出る。
ゴブリン部隊は俺達を守れる位置に既に配置していた。
実は俺はリリアと再会後に清拭と着替えを終えた彼女に頼んで周囲に偵察に出てもらった。
疲れ切っている所に本当に申し訳なかったが彼女は快諾してくれた。
驚く事に敵影発見の報告と共に彼女は帰ってきていた、速すぎる。
まあ、お陰で俺は相手の編成を誰よりも早く把握する事ができた。
さて、俺に期待してくれたみんなに俺の力を見せてやるか。
☆★☆★☆★
私はイナバ様にサンダルファン王国を託したいと言うリーザ様とセレル様の意思を後押ししましたが……私には一抹の不安があります。
イナバ様の戦闘力や人柄については本当に信用をしております。
ただ、私はリーザ様やセレル様ほど私はイナバ様を信頼しておりません。
いくら強かろうとイナバ様は一人。
私達の部隊の全ての命、……引いては国民全員の命を彼は背負ってくれるのでしょうか。
まあ、魔王候補の一人となったからにはそれは当然の事なのですが。
幸いと申しますか、不運と申しますか……。
今現在、私達は母国サンダルファン王国から追手を仕向けられました。
指揮権をお譲りしたイナバ様の初陣となります。
私、イツハ・ルース・ルーベンも彼の手駒となりましょう。
これで彼の能力を見せてもらいたいと思います。
その後、私達は騎乗したまま早急にイナバ様から戦略の説明を受けました。
「部隊を4つに分ける」
「なっ?! 敵は10,000の大軍ですよ! それに比べて我々は1,000です。更に分割してしまっては各個撃破されすり潰されるのがオチです!」
くっ、イナバ様に任せるのは時期尚早だった。
こうなればやはりリーザ様と私が指揮を執るしか……。
「本来であればそうだ。だが、俺には策がある」
「策……ですか?」
その後に明かされたイナバ様の策はセオリーを無視した驚くべきものでした。
☆★☆★☆★
「中央に俺とセレル様で敵の攻撃を受け止める、リリアは囮、リーザには伏してもらう」
「イナバ様とセレル様が中央ですって?! あり得ない! 危険ですわ! そもそも壁役は私達の役目かしら!」
「今回に限っては違うな。この部隊で一番足が速く突破力を持つのはリーザ、君の隊だ。そして先の戦いを見て壁役として粘り強く戦えるのは俺とリーザ様だと俺は感じた。攻めを捨てて守備に専念すれば俺とセレル様はリーザ、君の攻撃でも30分は耐えて見せるよ」
「な、何を根拠に……」
「リーザ、君がセレル様を守りたいというとてつもなく強い意志を持っているのは当然俺も知っている。ただ君達の部隊は一点突破に非常に優れてはいるがそれ故に足を止めて守るのには向いていないし能力的に勿体ない。遭遇戦や近距離の敵には力が完全に発揮できない。君達が戦闘で強いのは騎馬による速さと兵の馬術スキルの高さだと俺は考えている。今回はその突破力を活かす為に多少、リスクを取ろうと思う。だが、ハマればこの戦力差でも勝てる!」
「……それで……どうするおつもりかしら?」
「俺とセレル様はしばらく戦って撤退する」
「はっ?!」
「いや、撤退の振りをして後退する。そしてこの先にある丘陵に囲まれた袋小路の平地に誘い込む。そこで丘陵の入り口に伏したリーザが大将部隊に狙いを絞り急襲してもらう」
「単純ですのね、そう上手く行きますの?」
「寡兵を追う大軍と言うのは得てして油断をするものだ。ただそれのみを頼みにする程に俺も甘くない。そこでリリアに頼みたいんだけど。敵軍に混ざっているモンスターを上手く挑発して撤退する俺達を追わせてもらいたい」
「……にゃるほど」
「ただ、そこまで無理をしなくても奴等は俺達を追ってくるよ、必ずね」
「え? それはなぜですの?」
「この世界に俺が来てからずっと種を蒔いてきた。その成果がそろそろ出るはずだ」
「イナバ様が蒔いてきた種……」
俺とてもう雑魚ゴブリンではない。
戦闘でも役立つイナバさんを見せてやんよ。
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