魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
俺達リーザ隊改めイナバ隊はなんとかウェルニーまで後退する事に成功した。
てっきりウェルニーには門前払いもあり得ると思っていたのだがギルド長代理バルトロメオの判断は予想外の物だった。
なんとイナバ隊の門外駐留を許可した上に食料と飲料水の補給の協力、そして怪我人の保護まで約束してくれたのだ。
お陰で俺達は公式にではないがウェルニーの保護の元に物資の補給が出来たし、ゆっくりと休息を取る事にも成功した。
荒野の真ん中でいつ襲撃を受けるとも分からない状態で見張りを立てながら休むのとは雲泥の差である。
当時は当たり前の事と考えてウェルニー解放戦に力を尽くしたのは正解だった。
褒められたくて頑張ったのはここだけの秘密だ。
「イナバ様、ウェルニーの協力で本日の食事は良いものが出来ました」
「ああ、有難う。セレル様」
サンダルファン王国の王女直々に食事を作ってもらえる俺は幸せ者である。
もちろん部隊の食事は当番制であり部隊の食事は大量に作った肉と野菜の入ったスープが提供されている。
俺の食事も同じものだが個別でセレル様自身が作ってくれたという点がポイント高いのである。
「美味しいにゃん! セレル様」
「さすが姫様ですの。素晴らしい味わいですわ」
まあ、直々に作ってもらえたのは俺だけではないがな。
いいだろ、こんな事態なんだから少し位、優越感に浸ったってさ。
「お粗末様でございます。イナバ様、今晩はここに駐留し明日、エルンヘイムに向かうのですね」
「その予定だね。怪我人はウェルニーが収容してくれたので行軍速度は上がるはずだ。戦力的には少しダウンするが仕方ないだろう。やり様はあるかな」
戦力ダウンを嘆く俺の言葉にあまり深刻さを感じなかったのかセレル様は苦笑いしながら聞いてくれていた。
確かに実際に頭を抱える事体ではない。
――と言うのもここから先は腐っても旧魔王領なのだから。
敵も多いが味方もどこかに潜伏して仲間の到着を待ってるかもしれないのだ。
「そうそう、イナバ様。このウェルニーで是非部隊に加わりたいという者が居りまして、そろそろ合流する予定なのですが……」
え?
俺達の部隊に合流?
それは願ってもない幸運だけれども。
ニルス暫定王の強襲を退けたとはいえイナバ隊はまだまだ沈む船も同然だぞ。
有難いけど……物好きな奴らもいたものだな。
ところがその人物に会った俺は度肝を抜かれる程に驚いたのだった。
「久しぶりだ。 イナバ殿」
「ギ、ギルベルトぉ、久しぶりだなぁ! あははははっ!」
合流してきたのは何とウェルニーで別れたギルベルトだった。
単独でもメチャ強い竜人族で有り重装歩兵団の一員である。
こんなに心強い助っ人はいないではないか。
俺は正直、少々浮かれていたが続けて放たれた彼の言葉に更に驚く。
「我の父上が、マルファス王と共に戦死した。だから、我はガンダルフの名跡を継ぐ事となった。 我は、今、ガンダルフである。よろしく頼む」
深々と頭を下げるギルベルト……いやガンダルフ。
やはり俺の第一印象は間違ってなかったのか。
何という事だ、そうだった。
なぜ、忘れていたのだろう。
ガンダルフと言うのは竜人重装歩兵団の団長が世襲していく名跡だった。
ゲーム時代で先代のガンダルフはマルファス王と共に戦死した為、俺の側近で有った竜人が次代のガンダルフを継いだんだった。
お前だったのか、ガンダルフ!
ガンダルフはイナバ隊に200の戦士と共に合流した。
これで俺が作った魔王軍四天王のうち、2柱が揃った。
確実に、少しづつではあるが俺の方に風が吹いて来ている。
俺が表には出さない様にしているが心の中で燥《はしゃ》いでいると、いつか聞いた事のあるそれがまたもや俺に向けて提案された。
「イナバ殿、良ければ食後の運動として我と一戦、お願いできないか?」
「なっ、聞いた事あるぞ。その言葉」
「なにか?」
「いや、何でもない。うん、喜んでお願いしたい」
さてリーザに続いてギル……ガンダルフにも手合わせの申し出を受けた俺である。
彼の強みは頑強な防御力を誇りどんな攻撃でも跳ね返すのだ。
防具や盾で防ぐ?
そんな生易しいものじゃないよ。
ヒントはガンダルフが全部で3本の訓練用の木刀を持ってる事だ。
攻撃は最大の防御と言う事を物理的に映像で見せてやるよ。
よく見てろよ!
「いやぁぁあああ――っ!!」
俺は訓練用の木刀を振りかぶり一刀を入れるべく振り下ろすがガンダルフは避けない、避けようとしない。
俺の木刀が直撃しようかとする瞬間、何かに弾き飛ばされた。
「うわぁっ!」
たまらず尻もちをつく俺にガンダルフの一撃が力任せに振り下ろされる。
ひっ、死んじゃう。
俺は必死の形相で回転して避けるがガンダルフの奴は両手に木刀を持って俺を追いかけてくる。
ガンダルフは全くの無表情で淡々と攻撃を続けるので俺との温度差が激しい。
もう止めて!
こんなの模擬戦でも何でもないぞ!
浅いクレーターを作りながら追ってくるガンダルフの攻撃を俺は回転しながらなんとか避けていくが何かに引っかかって強引に止められてしまった。
「ちょっ、どいてっ!」
見上げるとそこにリーザが立っていた。
絵画の様に凛々しく立つ彼女は手にした木刀でガンダルフの強烈な一撃を優雅に、且つ、軽い感じで受け止める。
本当にその細い身体のどこにそんな力があるんすか?
「もうお止めなさいな。これはではもう模擬戦とは呼べません事よ」
「む! 失礼した。我は試合の流れを読むという事が不得手で……イナバ殿はまだ本気を出していないだろう? それでも止めるべきであったのか?」
「はぁ?! これだけの威圧感と馬力でイナバ様を追い詰めておいて貴方から見て一向に本気を出している様に見えなかったから続行可能だと思ったんですの?」
「あ、ああ。イナバ殿は、まだまだ本気、出し切ってない。全力を出せば、我は一撃で倒されるだろう」
「そんな訳ないよ! ガンダルフ、……死ぬかと思ったよ」
「……、なるほどかしら。ガンダルフさん、私も同意ですわ」
「むっ! ……そうか、痛み入る」
俺は自分がガンダルフの頬にごく小さな傷をつけた事もガンダルフが全力で防御した事も気づかなかったがリーザは気付いていた様だ。
「何を話してるんだぃ」
「なんでもございませんよ、イナバ様、お立ちくださ……」
リーザと俺は同時に相手を見たが目が合う事は無かった。
なぜなら俺の視線の先にあるのはリーザのスラリと細く引き締まった2本の足であり更にその先にあるのは――美しい、美しすぎる――。
「きぃやぁぁぁああ――っ!! 何するんですの――っ!」
ずががががががが――っ
ああ、
ヒルベルダ様を思い出すぜ。
どこかで生きていてくれ……。
ところでリーザよ、
何をすると君は言ったが俺は何もしていない。
ただ、上を向いたんだ。
幸か不幸か、そこにパラダイスがあっただけの話さ。
俺はリーザの強烈なストッピングを喰らい意識を失った。
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