魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
パリィ――ン!!
「イナバ様! 来ました! ご注意ください!」
セレル様から注意喚起の声が上がる。
放たれた矢で大規模防衛魔法が破られ始めたのだ。
爆破魔法ではなく指向性の重力魔法エンチャントが付与されている為、風を割き物凄いスピードで真っすぐにこちらを狙ってくる。
ごり押しだ。
精霊魔法の風だろうと投石だろうと認識疎外だろうと物ともしない。
おまけに防御魔法すら砕いて着弾し始めてきた。
だが、爆破魔法のエンチャントはかけられていないので爆発する事はない。
それでも矢を受けてしまったりしたら大変な事になる。
当然ながら刺さり所が悪ければ死んでしまうかもしれない。
何しろ着弾した所が大きなクレーターになっているのだ。
「みんな、気をつけろ! 破壊力が狂ってる! 当たればヨロイなんてないものと思え! かわすんだ!」
俺はクラリスを守りながら周りに声をかける。
何人かの兵士が矢に当たり負傷していたが致命傷には至る者はいない。
セレル様はっ!? と思ったが多分彼女は本気を出せば俺より強い。
右へ左へ、華麗にかわしながら周りの兵士を回復して回っている。
この苛烈な攻撃を俺は知っている。
これはクラインの奥の手だ。
奴は弓矢による範囲攻撃の対策を打たれた場合にこの方法を取ってくる。
だが、逆に言えば俺達が奴らを追いこんでいる証拠でもあり予定通りだ。
この攻撃の後、必ずクラインは俺達に向けて突撃してくる。
接近戦になりさえすれば何とか出きるかも知れないがクラリスを守りながらはちょっと辛い。
なので護衛は他に任せて少し先行する。
「よろしく頼むぞ」
(――にゃん)
俺は範囲攻撃さながらの矢の壁に敢えて突っ込む様に駆け出した。
さすがの俺もこの矢に当たるとちょっぴり痛いので探索スキルを上手く応用しながら躱す。
フッと後方を見るとリリアがクラリスを守りながら一定の距離を開けて着いてきている。
この重力矢の嵐は明らかに俺だけを狙っている事が分かる。
敢えてリリア達を遠ざけたのだが正解だった。
「そろそろかな? どう思う?」
『攻撃の角度的に私もそうかと。後退はしてませんし寧ろ少しずつ近付いてきております。ダークエルフという種族は気配を絶つのに長けていますので努々油断為さらぬ様……』
そう言えばシャルルなのだが俺が部隊の指揮を取り始めてからだろうか。
普段はもちろん、戦闘中に特に感じるのだが言葉遣いが変わった。
なんと言うか前世を思い出すと言うか……。
まるで臣下が魔王に話す様な感じだ。
普通に話してくれと言ったのだがけじめは必要だと頑なに考えを変えてはくれなかった。
この頑固さは誰かさんを思い出すな。
【止まれっ!!】
来たっ!
姿はまるで見えないのに耳元で話されているこの感じは風の精霊魔法だ。
俺は目立たない様に後方に合図を送りその場に止まった。
(後方、繁みから近付いてこい)
探索スキルでリリア達が繁みに消えたのが分かった。
それにしてもリリアは隠密だからまだ分かるがクラリスの気配が本当に薄い――リリアと同等か、下手をすれば見失う位に――ダークエルフと言うのはここまで気配が絶てるのか。
【貴様……、俺の妹をどこにやった?】
おお、クラリス見事だ。
あのシスコンお兄ちゃんが君の気配を見失うとはね。まあ、そんな俺も気を付けてないと分からなくなりそうだけどね。
「我々が保護をしている。人間の賊から助けた。彼女から話を聞き故郷に送る方法を探していた」
【笑止っ! 妹に聞いたのならまっすぐ里に届ければ良い。上手い事を言ってお前達も善良な妹を言葉巧みに騙して拐う賊ではないのか!】
微かに後方で気配が乱れるが然り気無くゼスチャーでそれを落ち着かせる。
ここでクラリスを出せば説得が上手くいく可能性はあるが失敗すればかなり面倒になる。
クラインはエルフの秘術の一つ、「帰らずの森」が使えるからだ。
あれは一切の魔法やスキルを無効化してターゲットを森に閉じ込める術だ。
ゲーム当時の説明書きには異世界に封じ込めるなんて表現をされてたので或いは本当にそうなのかもしれない。
普段のクラインなら絶対にそんな事はしないのだが妹が関わっていると分かるとダメだ。
俺の話しも聞かず妹を回収し俺達を森に封印してそのまま放置するかもしれない。
当時、魔王時代の俺なら封印自体受け付けないが今はそこまでの抵抗力はない。
もちろん抜け出せない事はないがそれまでの間に何日も時間を無駄にしてしまうだろう。
今後を考えたらどちらも大切だが俺達はエルンヘイムに急がねばならない。
少しでもリスクは減らしたい。
「俺達は賊ではない。妹君もお返しする。ただ俺は族長、貴方と話がしたい! 姿を見せてほしい! こんなオーク如きにそのご尊顔も晒せない程に臆病者でもあるまい!」
空気が緊張した。
当然である。
何しろ100ある物語の全てに於いてオークはエルフにとって不倶戴天の怨敵なのだ。
その豚がダークエルフの族長に対して舐めた口を利けばその瞬間にも四方八方から矢の雨に襲われてもおかしくないのだ。
なら何でお前が来たのか?
そう言われてしまうと正直、返す言葉もないのだが……、仕方ないだろ? 前世で死に目にも会えなかったんだ。
そんな悲しい別れをした親友が俺を追ってくるなんて聞いたら……会いたくなんだろ。
「……良いだろう。お前の度胸に免じよう。小賢しきオークよ」
5メートル程の前方にダークエルフの男が音もなく現れた。
豪華なマントに身を包み光輝く銀髪をオールバックに撫で付けたその姿は王者の風格だ。
あ、あと当たり前だがイケメンだ。
さて、ようやくクラインを目の前に迎える事が出来たぞ。
まあ、ここからが本番なのだがな。
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