魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
俺の前方5メートル程の位置にイケメンダークエルフが降り立った。
王者の風格を纏うダークエルフに対しこちらはオーク一匹。
おまけに周りは恐らくエルフの弓矢部隊に取り囲まれている。
事態としては最悪だ。
ではなぜ俺が一人で来たのか?
答えは簡単、森の中でエルフの感覚を誤魔化す事など不可能だからだ。
リリアの隠密スキルとクラリスの気配を完全に絶つスキルが無ければ瞬く間に見つかってしまうだろう。
リーザとガンダルフはその様なスキルは苦手だ。
セレル様は一応身につけてはいるがエルフに見つからないのは無理だ。
だから俺は最少人数でここまでやって来た。
「もう一度、聞いてやる。オーク、心して聞け」
うんうん、なかなかイライラしてきてる。
良い傾向だ、クラインはイライラするとゴブリン並みに扱いやすい。
四天王になって大分、改善されたがこの頃はまんまゴブリンだ。
「クラリスを速やかに返せば俺達は引いてやる。早くここに連れてこい」
「族長、俺の話を聞いてほしい。妹君は速やかにお返しする。俺は魔王マルファスの身内で有りベレルメーゼン帝国の姫君の後見人をしている」
「……お前の様なオークがか? そんなおとぎ話を俺に信じろと?」
「俺が現在率いている部隊、先ほど族長が攻撃を仕掛けたあの部隊。あれはベレルメーゼン帝国を簒奪したニルスから逃れてきたセレル第一王女をお守りしながらエルンヘイムに向かう部隊だ。なんなら今から誰かに見にいかせ確認してほしい」
「今の話、偽りならどうなるか、分かっているな?……続けろ」
微かな気配でエルフの一人が後方の部隊の方向に駆け出したのが分かった。
さすが森の中のエルフはスピードが違うな。
ゴブリン並みのクラインはややもするとすぐに襲い掛かってくる。
しかしながら覆しようのない事実を見せてやると恐ろしい程にそれを信じ込む傾向がある。冗談みたいだが本当の話だ。
ダークエルフには変な奴が多い、……俺の偏見かも知れないけどな。
「世は何人かの愚かな施政者の所為で戦乱が広がっている。挙句に妹君が攫われた一件には人間族が関わっている。俺達が始末した賊に人間が混じっていたが相当な手練れだった。世界の平和を守る……等と言う大それた事は言わない。ただせめてこの島の平和を守る為に俺に力を貸してくれないだろうか?」
「……しばし、待て」
そう言うと彼は腕を組み目を閉じて座ると瞑想するかの様に静かになった。
そして数分後――
もう帰って来たのか。
偵察に向かったエルフから風の精霊魔法を通して報告を聞いている様だ。
そして状況が確認できたのかゆっくり立ち上がると近づいてきた。
「今回に限り例外として偵察にセレル姫へ身分を明かし話を聞いてこさせた。お前の話は正しい事が確認された。まずはお前の事を信じるとしよう」
「そうか! 良かった。有難う」
「しかし、お前に力を貸すかは別の話だ。……と言うのも私一人の判断では決められないからだ」
「それはその通りだ。可能な限りの協力で構わないし敵対しないだけでも俺達にとっては大きいよ」
「いや、私達はお前達の部隊の命を危機に晒した。お互いに全滅する事も有りえた。いや……逆上していた私の指揮ではこちらが負けていただろう。……判断は今すぐには出来ないが私達の里全てがお前の配下に加わる事を約束しよう」
「配下だって?!」
「そうだ。急にはそちらも困るだろうからまずは部隊の半分がお前達の指揮下に入る。お前達が拠点を得てから後の半分とその家族を受け入れてほしい」
一つの里でそこまでの大人数はないだろう。
しかもエルフだしな。
拠点か……、確かに考えなければいけない事の一つだ。
あわよくばエルンヘイムを拠点に出来ればと思っているが上手く行かない場合も考えておかないとクライン達を受け入れられない。
よしっ!
「……数は?」
「家族合わせて800だ」
「わかった。全力で拠点を手に入れる様に頑張るよ」
「そんなに慌てなくてもいい。その為に半数を里に残す。それに我らエルフ族は魔族よりも数倍寿命が長い」
「俺はイナバだ。姓はまだないのでイナバと呼んでくれ」
「クライン・マリユーグという。この森のダークエルフの首領をしている」
俺達はお互いどちらともなく握手を交わした。
自然と顔も緩む、俺は強力な味方を手に入れた。
今の所は良い事尽くしだ。
あ、そうか、クラリスを返してやらないと。
それにしても説得が上手くいって良かった。
この2人の兄妹喧嘩は見ていられないからな。
「リリア、こちらに」
俺は後方に控えるリリアに声をかけた。
「イナバさんっ! あぶにゃいっ!! 上!!」
突然、リリアから鬼気迫る注意喚起の声!
反射的に上を向くと何か光る人工物が俺達の頭上に投げ込まれたのが見えた。
ヤバイ!
第6感と言うのだろうか。
俺は彼がエルフである事も忘れてクラインの上に被さる様にして倒れた。
――っと、急に閃光が走ると空中で大爆発を起こした。
「ぐはっ!!」
圧倒的な圧力と苦痛を背中に受けて苦悶に表情を歪める。
瞬間的に治るとは言えやはり痛いものは痛い。
「大丈夫か?! イナバ!」
「すげー痛いが……平気だ。クライン、君は大丈夫か?」
「すまない、私が油断した」
「いや、俺はケガやダメージの回復は異常に速いから心配ない」
後方から悲鳴が聞こえた。
リリアが人間と思わしき集団に囲まれている。
クラリスを庇いながら油断なく辺りに目を光らせている。
なるほど、俺達を始末すると同時にクラリスを狙う作戦か。
悪くないぞ、ほぼ不死身の俺がいなかったらな。
あ、あとクラインの目の前でそんな事をしたらどうなるか知らんぞ。
ぷちん
あー、本当に知らんからな。
産まれた事を後悔するが良い。
「ぎざまだー!! いぎでがえでどぅどおぼうだよっ!!(貴様等ー!! 生きて帰れると思うなよっ!!)」
この日、クラインは切れた。
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