魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
第96話 オークとリリアとギルマスと
さて、リリアがエルンヘイムに潜入して数時間が経った。
日が暮れて夜の帳がエルンヘイムを包む。
街の灯りは見えず不自然に暗く静まり返っている。
うむむ、一人で行かせたのはマズかっただろうか。
でも彼女の斥候能力はズバ抜けているのは分かっている。
きっとあのエルンヘイムだし少し手こずっているだけだと思いたい。
「イナバ様、リリア様は大丈夫でしょうか……」
あー、俺の心の声でも漏れてたかな。
セレル様が心配そうに俺に話しかけてきた。
「リリアなら大丈夫だと思いますが……確かに遅いですね」
何度見ても街は静まり返っており何の騒動も起きてはいないだろう。
だがこれで静観を続けてリリアに何かあったらと思うと何か胸騒ぎがする。
うーん、考えても仕方ないぞ。
それなら――。
「よしっ! 俺もエルンヘイムに潜入してきます。リリアと合流して街の様子を探ってきます。すいませんが部隊を少し後退させて夜営の準備をお願いします」
「……わかりました。イナバ様、くれぐれも無理はなさらぬ様に。あなたはベレルメーゼン帝国の後ろ盾になっている事を忘れないでくださいね」
「止めないのですね」
「止めたら思いとどまってくれるのですか? ふふっ、イナバ様?」
バレたか……。
俺はオロオロするリーザと静かに動揺するガンダルフを宥めるセレル様に見送られて夜の闇に紛れながらエルンヘイムに向かった。
☆★☆★☆★
私は今エルンヘイムの街に潜入している。
街に潜入した頃には夕方だったけどすっかり夜になってしまった。
私的に仕事の速さにプライドを持っていたので残念な結果だ。
なぜこんなに遅れてしまっているのか。
それにはきちんと訳がある。
現在エルンヘイムは元魔王軍の兵士が警備をしているのだが様子がおかしい。
魔王が倒れた今、盗賊や野生のモンスターが街を襲ってくる可能性が高いがこの街の安全は保たれ続けている。
街を守る兵士や魔法使いの士気はとても高く練度も素晴らしい。
ただ……どことなく皆の様子がおかしいのだ。
なにがどうおかしいのか?
そう聞かれるとよく分からない。
みんながみんな、目の焦点が合っていないと言うか……ハイライトがないというか、目が怖いのだ。
何を子供じゃないのだから怖いとか……なんて言われるかもしれないけど一度話を聞こうと思って裏道で接触しようと思ったら問答無用で切り付けられた。
まあ、そんな簡単にやられる私ではないので返り討ちにしてやったのだが……。
そこで元々顔見知りの兵士さんに接触しようと酒場で声をかけようと思ったら「すぐに街を出ろ!」と言われて追い出されてしまった。
訳を聞こうとしたけど命が惜しければこの街には二度と近づくな、と言われて取り付く島もない状態だった。
そんな感じなので街の要所に忍び込んでやろうととりあえず夜が更けるのを待っていたという訳だ。
使命を完遂する為とは言えこんなに遅くなってしまって皆心配してるだろうな。
そう思って訓練したリスに現在の状況を書いた手紙を背負わせてイナバさんの部隊に向けて放ったのだが辿り着けただろうか。
結構、苦労して育てたリスなのでどこかで捕まっていたらとても悲しい。
そんな事を考えながら魔王軍ギルドの様子を遠巻きに監視していた時だった。
誰かが後ろに居る!
私がこんなにも簡単に背後を取られるとは?!
驚きながらも反射的に振り返り短刀で切り付けようとしたらパンッとその腕を止められてしまった。
「ふにゃっ!?」
不覚にも私は驚愕の声を上げてしまった、潜入中であるのにも関わらず。
それだけ自信の一撃を止められてしまった。
やられる!
そう思った瞬間、その人影は口元に人差し指を近付けシーッというジェスチャーをして見せた。
「確かイナバ君の仲間のリリアさんだったね? 僕の事を覚えているかい?」
そこにいたのは魔王軍ギルド、エルンヘイム本部のギルドマスターだった。
☆★☆★☆★
「うんうん、なるほど。するとイナバ君の部隊はエルンヘイムの近くまで来ているんだね。この情勢で思ったより早かったですね、流石です」
「レニーさんは無事かにゃ? それと街の人達はどうしちゃったのかにゃ~」
「レニーは無事です。申し訳ない、僕がこの街に居ながらこの体たらくです。街の兵士は恐らくほぼ全員が操られているのでしょう。君が酒場で会った知り合いの兵士はレジスト出来た希少な人材だったのでしょうが多勢に無勢で今は大人しく潜んでいるのだと思いますよ」
「無事で良かったにゃ。でも操られているって誰にゃん?」
「魔王様が倒れてからなぜか魔王城に入れなくなりましてね……、魔王軍ギルド本部ギルドマスターの僕が……ですよ。1部の関係者しか知らない隠された出入り口にも兵士が居るので十中八九、敵は魔王城に居ると思われます」
「では、どうするにゃん? 私は斥候が専門なのでこういう事態は分からんにゃ」
「そうですね……。魔王軍ギルドの職員は大部分がレジストに成功できました。ただそれでもこの街の兵士に比べれば微々たる人数でしかありません。しかも訓練はしているものの非戦闘員が殆どです。……ですが、イナバ君の部隊が居れば……」
「イナバさんに伝えるにゃ?」
「……その必要は無い様ですよ」
「えっ?!」
その瞬間、またもや人の気配がした。
今度は馴染のある人物の気配だった。
「リリアっ!? 無事だったか、……あ、あなたは?!」
ギルマスの次に現れたのは私の今の上司イナバさんだった。
「ようやく……我々にも運が回って来たみたいですよ」
ギルドマスターがニヤリと笑った。
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