魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
俺は夜の闇に紛れてエルンヘイムに潜入した。
一度、魔王城に行こうと思ったが近付くにつれて兵士の数がどんどん多くなってくるのでリスクを考えて引き返す事にした。
しかもその兵士達がまるで操り人形の様に生気が一切なく、そのクセ、その瞳は確実に俺を仕留めてやるという殺気に溢れていたのだ。
決して怖気づいた訳ではないし文字通りに操られているだけならば戦ってしまうと同士討ちという事になってしまう。
そんな事態は避けなければいけない。
何とかしてこの怪しい状況を解消しなければいけない。
そんな事を考えながら目的地を変更して魔王軍ギルドに向かう事にした。
……あのギルマスなら無事かもしれないな。
おや?
魔王軍ギルドに向かう途中の脇道で何やら人の気配がする。
「この気配は……」
脇道の気配に近付くと微かに話声が聞こえてきた。
男性と女性、何と両方とも聞き覚えのある声だ。
「イナバさんに伝えるにゃ?」
「……その必要は無い様ですよ」
「えっ?!」
「リリアっ!? 無事だったか、……あ、あなたは?!」
やはり片方はリリアだった。
そしてリリアが話していた男性は……。
「ようやく……我々にも運が回って来たみたいですよ」
「イナバさんにゃん! どうしてここに?!」
「いや、帰りが遅くて心配だったんで……」
「イナバさんはお父さんかにゃん。まあ、でも手こずってしまった感は否めないにゃん。でも、ギルマスに会えたのにゃ!」
「うんうん、イナバ君。久しぶりだね、……おお、既にワーウルフに進化する条件もクリアしているね。さすがだよ」
「えっ? ああ、分かりますか? 一応アイテムは手に入れましたし戦闘は……まあ、数回死にそうにはなりましたしね」
「そうですね。あなたにも苦労を掛けました。エルンヘイム魔王軍本部を統括する者としてすまないと思っているよ」
「いやいや、ギルマスの所為なんかじゃないですよ。ベルリーザ皇国とサンダルファン王国の逆賊の所為です!」
「そうにゃん! やつら、碌でもないにゃん」
そうなのだ。
全てはあの2国のバカ者どもの所為なのだ。
お陰で周辺の別の国々まで戦乱にしゃしゃり出てきて旨い汁を啜ろうとしている。
まあ、もとはと言えば今の所、ルゼブナックが全ての元凶なのだが……。
一番悪いのは魔王マルファス(叔父さん)があっさりと負けた事だぁ!
「しかしながら魔王マルファスをこんなに早いタイミングで失う事は我々にとってはこれ以上ない痛恨事だったんだよ。できれば君がしっかりと進化を終えて訓練と実践を済ませてから満を持して禅譲させたかったと僕は思っているよ」
「ぜ……禅譲ぉ?! ギルマスは俺が魔王になれるとでも?」
「おやっ? 私はてっきりマルファス様も君もそのつもりなのかと思っていましたよ。君は……もう少し自分の潜在能力を信じた方が良いと思いますよ」
どうもギルマスは最初の種族進化以降、俺を高く買ってくれている様だ。
期待に応えられる様に頑張らなければな。
「おっと、そんにゃ事を悠長に話している場合ではないにゃん。イナバさん! 手紙の筒を背負ったリスがイナバさんの軍に辿り着かなかったにゃ!? エルンヘイムの街の現状を書いた手紙なのにゃ」
「手紙の筒を背負ったリス? そんなシュールなリスが居たら見てみたいぞ」
「ふにゃぁ~。辿り着かなかったにゃのね~」
なんでも訓練を施した特別なリスだったらしくリリアは酷く落ち込んでいたがなんとか気を取り直し現状のエルンヘイムのおかしな点を説明してくれた。
なんてこった。
それじゃあ、俺まで街に入ってきてしまったら色々リスクが高まるではないか。
……まてよ。
集団催眠の様な症状か。
確かゲームの時にそんな類の魔法スキルが得意なキャラが居たな。
それは俺の片腕である妖魔魔術師兵団長グリッシュだ。
……まさかな。
この世界に来てからというもの、日に日に人間だった頃の記憶が薄れてしまっている気がする。
いや、言いなおそう、ゲームの記憶を急速に失いつつある。
何故なのか、何か理由があるのかは分からない。
だが思い出そうとしても思い出せない、そんな気持ち悪さがある。
そんな感じなので記憶を頼りに動くのは危険すぎやしないか。
俺達は急ぎ打ち合わせをして今後の方針を決めた。
方針と言ってもそんなに難しいものではない。
リリアには街の外に脱出してもらい外の部隊と合流してもらう。
ギルマスも仲間の元に戻ってもらいその後にタイミングを合わせてエルンヘイムの内と外から混乱を起こす……その隙に俺が魔王城に潜入するという作戦である。
なので俺はギルマスと一緒に街の仲間と合流する事にした。
そうそう、
今後、不便なのでギルマスの名前を聞いたんだ。
フェルンデルというそうだ。
意外に可愛い名前だった。
☆★☆★☆★
結局、今街の外に向けて私は駆けている。
子飼いのリスが自軍に辿り着けなかったからだ。
「シラヴェル」と名付けたリスは私が訓練を付けた。
なかなかに芸達者なリスに育ったのに本当に残念だ。
どこでやられてしまったのだろう。
こんな時代にこんな仕事に就いているのだから慣れているハズなのに……死に目に会えなかったのは仕方ないにしても亡骸だけでも拾ってあげたい。
そう言えば私が手下の小動物に名前を付ける程に愛着を持ったのは初めてかもしれない……本当に残念だな。
まあ、でもきっとハインツが見つけてくれるにゃね。
おっと、心の声まで口調が猫人になってしまいました。
訓練で使い分ける事が出来る様になったというのに……。
はっ?!
やばい! 見つかった! 誰!?
後方に攻撃の気配を感じた私は――。
どかぁぁぁああああ――んっ!!
ううっ、振り替える事も出来ずに不意打ちを喰らいました。
「リリア、久しぶりやけんな。一体どこに行くっちゅうばい。うちと少し話でもするね?」
信じられない。
私に攻撃を加えたのは行方不明になったはずのアルシーでした。
ここまで読んでくださり有難うございます。
ようやくアルシーの伏線回収に入ります。
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