魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
「リリア、久しぶりやけんな。一体どこに行くっちゅうばい。うちと少し話でもするね?」
私は自軍に戻る際に行方不明になったアルシーさんから攻撃を受けた。
……とは言え、いくら信じられないと嘆いても目の前のこれは事実だ。
私はこれまで長い間、哨戒役を務めてきた。
昨日味方だった人物が今日の敵になる事など珍しくない。
でもこればかりは現実だとは思いたくはなかった。
咄嗟に私はどうにか逃げられないかと目の動きだけで辺りを見回す。
近くにいた時よりもアルシーさんの圧が強い気がするな。
全く逃げられる様な隙が無くて苦笑いしかでないよ。
「残念やけど逃がす訳にはいかんばい。さすがのエルンヘイムでも内と外から攻められたらちょいキツかと。なのでリリアはここで足止めさせてもらうけんね」
何故かは分からないがアルシーさんは私達を裏切った。
……それとも捕まって洗脳でもされたのか?
アルシーさんがそんなに簡単に操られるとは思えないけども……。
――っ?!
アルシーさんが無詠唱で魔法を撃ち出し辛うじてそれを躱す。
予備動作も殆ど無いから反射神経だけが頼りだ。
ぼかぁぁぁあ――ん!
よけた魔法が命中した家屋は爆音を響かせ瞬く間に炎上した。
危ない、殺意満々の魔法攻撃だった。
下手に弾き返さずによけて正解だったね。
「アルシーさん……、私達を裏切ったにゃんか?」
「裏切った……? その表現は適切ではなかとですね。私は貴方達と味方になった記憶は……ないけんね」
様子がおかしい。
記憶が混濁しているのだろうか。
記憶は無いと言った時、彼女は一瞬だけ苦しそうな表情をした。
まあ、だとしても私史上絶体絶命に陥ってるのは間違いないのだ。
仕方ない、身体がまだ万全じゃないけど……。
絶影スキルまではいかないけど私のスピードは如何にアルシーさんでも追う事は出来まい。
そう考えた時だった。
「私は……私はアルセイスだぁ――!! 私の中に入ってくるなぁ――!!」
急にアルシーが叫び声を上げたかと思うと魔力と圧力が爆発的に広がり彼女の身体が成人化し始めた。
まずいっ!
これだけの実力差があってはスピードで翻弄するなんて無理な話だ。
とにかく逃げようと思考を切り替えた瞬間に右腕の骨が砕ける音が聞こえ私は左側に吹き飛び家屋に叩きつけられた。
げほっ。
イタタタッ。
右腕と肋骨がイッたかな。
これで気絶しないのだから私も大概頑丈だ。
すると周りから兵士の声が聞こえ始めアルシーを見つけて何やら喚いている。
うん?
あいつら味方同士じゃないのかな?
あっ!
そんなに近づいたらダメだ!
なんか詠唱してる、危険だよ――
☆★☆★☆★
「なんだ?」
「どうしたんだい? イナバ君」
「なんか今、爆発音と地面が振動がした気がしたんだけど……」
エルンヘイムのギルマス、フェルンデルと一緒に地下水路を進みギルドメンバーの潜伏する施設に向かっていた時。
微かな爆発音とそれに伴う振動がした気がした。
「……ふむ、施設に戻ったら誰か偵察に出そうか」
「……」
「どうしたんだい? イナバ君」
「……いや、何か……不思議な感覚がしてね」
「疲れたのかもしれないね、着いたら少し休むと良い」
「そう……ですね」
俺はフェルンデルの後を急ぎ追う事にした。
☆★☆★☆★
「――」
どうやら私はまだ生きていたらしい。
アルシーを兵士達が取り囲んだ所までは覚えてるんだけど……。
ああ、彼女が何か詠唱してたから私は爆発に巻き込まれたのか。
どうりで全身ボロボロになっている訳だ。
折れた右腕と肋骨がズキズキと痛むし吹き飛ばされた時に頭を打ったのかン¥意識がぼーっとする。
私は瓦礫の上で仰向けで倒れている。
首を左右に動かすと私と同様に――こちらは既に死んでいるが――兵士達が倒れていたのが見えた。
そしてこちらにふらふらとアルシーが歩いてくるのが見えた。
あれだけの魔力を消費して魔法を放ったのにまだ身体は成人のままだった。
「リリア……。まだ生きてるんだね。大丈夫、私が殺してあげる……」
ダメだ、このままじゃ殺される。
こんな所で死んでる場合じゃないしアルシーさんを見つけた事も伝えなくちゃ。
相変わらずふらふらと殺気を漂わせながら近づくアルシーさんに捕まらない様にズタボロの身体に鞭を打って立ち上がる。
倒れそうになりながら私はどうにか彼女から距離を取ろうと必死に歩くがとうとううつ伏せに転んでしまった。
背後にアルシーさんが近づき片手に杖を具現化させる。
……もしかしてあれで突き刺されるのだろうか。
嫌すぎる、私、痛いの無理だしぃ――。
って今現在も身体中が痛いのに更に串刺し何て可哀そうな私!
最後の気力を振り絞り這ってでも前に進もうとするが既に四肢に力が入らない。
「おまたせ、リリア。あの世で魔王様にご苦労様って伝えておいて……」
もうダメだ!
そう思って私は両目を瞑り来る今生との別れの瞬間を覚悟して待った。
っと、背後から物凄い爆発音がしてアルシーさんが数歩下がったのが分かった。
顔を無理やりに後ろに向けるとそこにはまたもや懐かしい姿があった。
思わず涙がこぼれそうになるのを堪えて私は叫んだ。
「ヒルベルダ様――っ!!」
彼女は一瞬、私に微笑みかけるとアルシーさんに視線を戻す。
そして鬼の様な形相で彼女に声をかけた。
「何があったか知らぬが我が友への仕打ちと兵士に対する狼藉、許す訳にはいかないね。先ほど伝令を出しておいたので、まもなくイナバ殿もこちらに来るだろう。逃げ場はないよ、覚悟するといいっ!」
ヒルベルダ様はそう言って右手に光の剣を出すとアルシーさんに向かっていった。
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