オリシューとISヒロイン(ry 作:user
1年1組に転入生があった。二人同時に、である。
前回の転入生は2組だったので、今度は1組と言うことに、なのかどうかはわからない。
織斑一夏がISの男性適合者として発見され、IS学園入学と報じられて以降、今年度の入学希望者は比して多かった。
更に、年度開始直前になって、リーシュ=オリオールの入学が発表された。
男性適合者の情報はどこの国も、どこの研究機関も喉から手が出るほど欲しい。それ以上に、リーシュ=オリオールとの繋がりが欲しい。会おうと思って会える人物ではないのだ。
たまたま選挙で当選した政治家が会える人物ではない。面会要請を出しても形式的に断られるのが常だ。
軍人であろうと官僚であろうと、たかが公務員が会える人物でもない。背景にいる組織を頼もうとしても、リーシュ自身に合理的な利益がなければけして動こうとしない。
仮に恫喝紛いの事をすれば、リーシュから利益を得ている他国から睨まれる。そうでなくとも、リーシュを敵に回せば国家とて危うい。
無知か無謀か、リーシュを敵に回し、干上がり蒸発した組織は幾つもある。リーシュがした事はシンプルで、金の流れを掴み、塞き止めるだけ。自然、された組織は困窮し、解体されるならば良いほう。自暴自棄の末、犯罪行為に手を染めて刑に服す者も稀にある。
リーシュ=オリオールとは、それを世界規模で為せる男なのだ。
そのリーシュと、何のリスクもなく接触することが出来る。
各国が力を入れて、IS学園へ選りすぐりを送るわけである。
教壇脇に、二人の転入生が並んで立っている。
一人は金髪、一人は銀髪。
方や柔らかく、方や硬い。
少年と少女。
対比が美しくもある二人だった。
教室内はエネルギーを撓め溜め込んでいるかのように静かだ。けして、織斑先生の眼光が恐ろしいからではない。
副担任の山田先生に促され、一人が一歩前に出た。
「フランスから来ました。シャルル・デュノアです。みなさん、よろしくお願いします」
背まで届く金髪を首の後ろで緩くまとめ、浮かべる笑顔は柔和そのもの。
華奢と呼べるほどに小柄なのがいかにも可愛らしい。
それはよい。
よろしくないのが、シャルルの服装である。
一夏やリーシュと同じ、白いスラックスを穿いている。
足からすすす、と視線を上げれば胸は薄い。もとい、ない。
男性、であるらしい。
優しい童話に出てくる優しい王子様そのもの。
つまりは男性であるらしい。
三人目の、IS男性適合者である。
シャルルが一礼し、教室は沸いた。
男らしいリーシュ。女顔ながら、やはり男性らしい鋭さがある一夏。そこへ、美少女然とした美少年である。
15歳の少女達が興奮しないわけがなかった。
中でも一部生徒の興奮には甚だしいものがあった。
(シャルオリ? オリシャル? おりシャル? シャルおり? それともやっぱりおりオリオリおり……)
ある生徒は組み合わせを網羅し、
(三人? ……一人あぶれちゃう。…………とらいあんぐるハート?)
ある生徒は人間関係の複雑さに思い煩う。
表面上は柔らかい笑顔を絶やさないリーシュだが、彼の内心を知る一夏は、気の毒そうに視線を投げかける。
それがよくなかった。
彼女らの胸中は割愛するが、二人の男子生徒へ向ける視線が熱いものになったのは確かである。
「静かにしろ! 他のクラスの迷惑だ」
織斑先生が一喝し、黙らせる。ブリュンヒルデの貫禄である。
リーシュからすれば、担任教師にあるまじきオーダーを一生徒に投げる有能な怠け者である。とは言え、この時ばかりは感謝した。
続き、促されてもう一人の生徒が前に出る。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
小柄なシャルルよりも更に小柄なラウラは、さながら綺麗なお人形さん。
白い肌に銀髪をおろし、整いながらも厳しい表情は作り物を思わせた。
シャルルと同様に、こちらの制服もパンツ姿であるものの、僅かに胸部が膨らんでいる。
髪型からも、少女であるとうかがえる。
左目を覆い隠す眼帯が目を引いた。露な右目はルビーの赤。
厳しい雰囲気に、誰も声を上げられない。
「それだけか、ボーデヴィッヒ?」
「はい、以上です。教官」
「私はもう教官ではない。織斑先生と呼べ」
「はい、織斑先生」
毅然。
その言葉がしっくりくる。
私は私で完結している。余人は不要。
言外にそう言っているようだった。
二人、自己紹介を終え、空いた席へ向かう。
シャルルは真直ぐに席へと向かったが、ラウラは男子生徒の前で立ち止まった。
「貴様が織斑一夏か?」
「あ? ……ああ、そうだ」
座る一夏を睨めつけるラウラ。
一夏としては、初対面で睨まれる理由がわからない。困惑するしかなかった。
「貴様のおかげで私は教官に……、織斑先生に出会うことが出来た。礼を言う」
「……………………よくわからないんだけど……」
一夏の言は尤もである。
が、ラウラに説明するつもりはないらしく、答えずに移動してしまった。
睨むように見えたラウラだったが、どうやら素であるらしかった。
一夏の姉は織斑千冬である。
千冬は、ラウラの故国であるドイツで軍の教導を担っていたことがあった。
一夏は与り知らぬ話であるが、千冬がドイツ軍に関わることになった直接の原因は一夏にある。
数年前にドイツで行われたISの世界大会、モンド・グロッソ期間中に、観戦に訪れていた一夏は誘拐された過去がある。それをドイツの軍と警察が速やかに解決へ導いた。知らぬ間に弟の命を救われていた千冬は、ドイツ国とどのようなやり取りがあったものか、ドイツでISの教導を行うことになった。
ラウラと千冬は、そこで出会っている。
ラウラはドイツ軍所属の代表候補生なのだ。
ラウラは再度、もう一人の男子生徒の前で足を止めた。
「貴様がリーシュ=オリオールだな?」
「名前と顔を知っててもらえて嬉しいよ、ラウラさん」
「…………ドイツの一国民として、貴様に礼を言っておく」
かつて、ドイツが東西に分断されていたのは歴史の教科書にも記されている。
統一後、ドイツの経済は目覚しく発展し、ヨーロッパ経済の原動力となった。しかし、旧東西ドイツの経済格差は依然として残っていた。それを完全に払拭したのがリーシュだ。
『ドイツ人の得意なことをしてもらっただけです』
リーシュは、そう言葉を残している。
国力が増し、必然的にヨーロッパ内での発言力も増し、ドイツは空前の成長期に突入した。一夏の誘拐事件はそんな空気の中で起こった事件である。
誘拐である。即ち、奪われたという事だ。略奪だ。敵だ。ドイツから奪おうとする侵略者だ。
国威発揚の真っ只中で起きた誘拐事件だ。ゲルマンの血が怒りに燃えた。
一夏が車に押し込められたのを瞬時に監視カメラが捉え、軍と警察が出動する。三分後には、誘拐犯の車を二十を超える銃口が狙い、前後を完全武装したISが抑えた。
一夏は無事に救出され、誘拐犯は確保されることとなった。
余談だが、その事件がリーシュの耳に入り、背後にある組織を良い様にしてしまったのは別の話になる。
「そして、私も貴様に救われた一人だ」
言って、ラウラは眼帯を外した。
現れたのは金眼。
赤と金の異色虹彩。
ラウラが眼帯を外す意味を、親交があった千冬はある程度察していた。
リーシュも、おぼろげながら察するものがある。
赤と金。赤と青。二人とも銀髪に白い肌。
見詰めあい、手を取り合い、一つに溶けてしまうのではないか。
誰も声を上げられない。何物も二人を汚してはならない。
一服の絵のような、神聖さすら漂う雰囲気があった。
「よって、貴様を私の嫁にする」
そして台無しになった。
ラウラの表情は崩れない。彼女は心から、真面目に、真摯に、主張している、らしい。冗談ではなく。
発言の落差に、リーシュは奥歯を噛み締めて、噴出すのを堪えるのに必死だった。
「私は貴様の子を孕むために生まれたのだ。国家は関係ない。私は貴様の子を――」
その体で無理だろ、と突っ込んではいけない。
ラウラは真面目に真摯に訴えているのだ。
しかし、15歳の少女達が学ぶ学園の教室で。
子供を宿すには、その前段階が必要で。
リーシュも困った風に苦笑せざるを得ず。
ラウラの声だけが響く教室で、ぷつり、と。
誰かの何かが切れる音が聞こえた。抽象的に堪忍袋の緒なのか、理性の糸なのか、具象的にどこかの血管なのか。
その人物は、まさに血管が切れたかのように顔を怒りの真紅に染め、爆発する直前、正義の鉄鎚が下った。
「貴様は……、神聖な学び舎で、一体何をほざいている………………………………!」
出席簿が振り下ろされた。
金属音にも聞こえる硬質な音を響かせ、ラウラの頭頂部に激しく落ちた。
一撃昏倒である。
「いいか貴様ら。在学中の妊娠出産は私が許さん!」
その前段階はいいのか。
誰も突っ込めなかった。
織斑先生も困惑していたのだ。
喜劇染みた一幕があったものの、ホームルームはいつものように進んでいく。
リーシュの目の前で気を失ったラウラは、リーシュが抱き上げて指定の席まで運んだ。この程度で保健室は贅沢であるらしい。
ホームルームを終え、去り際に織斑先生がそっと爆弾を置いた。
「デュノアも学園寮に入ることになる。部屋はオリオールと同室だ。同じ男子生徒、留学生同士、面倒を見てやれ」
「えーーーーーーっ!?」
本音の叫びは黙殺された。
教室の空気が、一部でざわついている。
リーシュと、シャルルを見る目が違う。
一夏は無言で距離をとった。
そこへ、箒が嫉妬の炎を投げ入れた。
「ふん……、いくらオリオールでも、デュノアを毒牙に掛けるわけにはいかないだろう」
一夏を始めとする大多数の良識ある生徒は、嫉妬して安心する箒ちゃん可愛い、と思った。
暖かい視線で箒を見守るのだが、やはり一部の生徒達は違った。
(オリオールさんの毒牙…………)
(シャルル君が毒牙に…………)
(リーシャルっていい響きだよね)
(!?)
笑顔を貼り付け、リーシュは固く拳を握っている。手の平に爪が食い込まんほどに。
あのね箒さん、と苦言を告げようとしたところ、箒は、違うそうじゃない! と火消しに走っていた。
そしてシャルルが全てを吹き飛ばした。
「ボクなら大丈夫だから、気にしないで」
教室内の微妙な空気を読んだのだろう。わからないなりに、なんとかフォローしようとしたと思われる。
「…………………………」
「…………………………」
『…………………………』
『…………………………』
(…………………………)
(…………………………)
「あ、あれ……?」
一部の女子生徒たちは、何も本当にリーシュとシャルルの関係を怪しんだわけではない。
妄想と現実をはっきりと区別し、妄想は妄想として楽しんでいたのだ。
ヨーロッパの留学生からリーシュの噂を聞いて、そんなことはありえないと思っていた。
あちらでの噂を聞き、不潔と思う者がいれば、うわぁと思う者もいる。
ゆえに、ありえない妄想として楽しんでいたのだ。それこそ、寝て起きたら異世界のお姫様になっていたと同レベルの妄想として。
それが、妄想と現実の境界を揺るがす言葉があった。
まさに、うわぁ、である。
(…………どうしよう。シャルル君の受け入れ態勢が整ってる)
(え? 嘘? 本当に? やばくない?)
リーシュは一夏を見た。
一夏は力なくうなだれ、頭を振っている。
箒を見た。
だらしなく口を開き、目はこれでもかと大きく開かれている。
本音を見た。
頬を膨らませている。単に、部屋の引越しが不満なだけかも知れないが、異常事態である。
気絶から復活したラウラが、リーシュとシャルルに刺さる視線を捉え、最後の一撃を加えた。
「よ、嫁!? 男同士のまぐわいは不毛だぞ!?」
ざわ・・・
ざわ・・・
一体誰が悪いのか。
織斑先生は、公的な連絡をしたに過ぎない。
箒は、可愛らしい嫉妬から皮肉をぶつけただけだ。
シャルルは、わからないなりにフォローしようとした。
ラウラは、他意のない純心から叫んだまで。
リーシュには、誰が一番罪深いのか見えていた。
太古より、無知とは罪なのだ。
土地の掟を知らないがため、悲劇に見舞われた例は枚挙にいとまがない。
それこそ神話の時代まで遡る。
しかし、リーシュは寛大だった。
罪を裁こうとは思わない。無知を無知と教え、知るべきを教えてやろうと考えた。
そして、人は往々にして他者の言葉を聞かないものだ。
痛い目を見て尚懲りず、同じ過ちを繰り返す。
そうならないためには、心身ともに深く刻み込まなければならない。
これは教育なのだ。けして復讐ではない。
完璧な理論武装を整え、リーシュはシャルルへの復讐を決意した。
本作を読み返すと、よく書いたもんだと思います。
このあたりはまだまだ受けが良かった記憶あり。