オリシューとISヒロイン(ry 作:user
正拳から中指だけを突き出した一本拳にて、狙うのは正中線。脊椎頂きぃ! と、外道過ぎる業を仕掛けるわけではない。
背面からの攻撃が既に外道だろう、と言ってはいけない。正面からだとリーチの差もあって、体まで届かないのだ。初めの内こそ突き出された腕を捕り、投げに移行できたが、今となっては通用しない。
鈴音が踏み込み、右の拳打を構えると同時にリーシュは振り向いた。鋭い突きをグローブ越しに、手の甲であっさりと弾く。
だが、これは牽制打。
本命は左からのロー。
右上段から左下段への対角線コンビネーション。
人間は、対角線への攻撃をわかっていても避けられない、と鈴音はマンガで読んだのを覚えていた。
必中の一撃だった蹴打を、リーシュは右足を半歩下げて難を避ける。
盛大に空振りした鈴音は、バランスを崩すことなく距離をとり、不適に笑った。
「今のを避けるなんて…………。やるわね」
「師父こそ…………。見事な一撃です」
本人達は至って真面目である。
体を動かすには、イメージがことのほか大切だ。
イメージトレーニングをしないスポーツ選手など、一人もいないだろう。
イメージを強固にするため、ロールプレイは有効である。と、鈴音は思ってしまったし、リーシュもそれに乗ってしまった。
本人達は至って真面目なのだ。
なにより、楽しいのが一番である。
仕切り直し、攻防を繰り返す。
繰り返し、いつものように鈴音の息が上がったところで休憩となった。
鈴音の持久力が劣っているわけではない。むしろ、人並み以上に元気溢れる少女だ。
神経を研ぎ澄ませてはいるが、基本的には不動のリーシュに対し、鈴音は全力で動き回っているのだ。フレームサイズの違いもあり、体力はリーシュのほうが上という事もある。
汗を拭き、スポーツドリンクを飲みながら、二人で今日の訓練を検討し始めた。
格闘技とは、武術とは、頭ではなく体で覚える技術だ。
地道に反復し、体に動きを摺り込んでいく。
運動神経に優れていても、リーシュがその域に達しているわけではない。ならば、何故最初の攻防で鈴音の攻撃を避けることが出来たのか。
鈴音の動きを読んだのである。
身をもって覚えてきたのだ。鈴音の癖は既に把握していた。
こう動く、と決めておけば難しいことではない。
的中率は九割を超え、今日の訓練では直撃を一度ももらっていない。
打撃こそもらわなかったものの、一度だけダウンを奪われた。重心移動の際にタックルを受け、耐え切れずに地を這った。
リーシュが得たいのは格闘技術ではなく、自衛の手段だ。
九割を回避できても、残りの一割で命を奪われたら終わりなのだ。
反省すべき点は多い。
鈴音にしても、リーチの差があり防御に徹している相手とは言え、ほとんど初心者同然のリーシュからまぐれでダウンを一度だけ、では不満足だ。こちらも反省すべき点が多い。
初めこそストレス解消とばかりにリーシュへ攻撃していた鈴音だが、今では自身も得ることが多くなってきた訓練である。
時に投げ遣りに言葉を投げる鈴音に対し、リーシュはいつも真摯に受け答えしてくる。
悔しいが、頭の出来はあちらの方が良さそうだった。
鈴音には思いもしない着眼点、そこから細に入る思考、導かれる結論は飛躍しているようでいて納得できることが多い。
その上、顔もいいし、口は上手いし、ずるい男だ。
鈴音がぼんやりと考え込んでしまい、リーシュは床に座り込んだまま今までの訓練を振り返る。
リーシュ自身が攻撃を防ぐなど、本当に最後の最後の手段だ。スイスでの生活の際には常に護衛がついているし、危険を感じる場所には近づかないよう注意をしている。
しかし、全てが自分の考える通りに行かないのは、十分すぎるほど承知している。何事も思うように進んで行くのだとしたら、IS学園に入学することなどありえなかっただろう。
何が起きるかなどわからないのだ。
だからこそ、出来ることを一つ一つ積み上げていく。
リーシュ自身が自衛の手段をとる事など、生涯に一度もないだろうが。
ちなみに、頬への平手を回避するために学んでいるわけではない。あれは必要なことだし、下手に避けたら後が怖いと知っているリーシュである。
「ねえ……」
思考から戻ってきた鈴音が、口を開いた。
心は遠くにあるようで、隣に座るリーシュを見ているようで見ていない。
リーシュは無言で続きを促した。
鈴音の心がこの場に戻ってくる。
リーシュを見て、言った。
「一夏の婚約者って嘘でしょ」
リーシュは微かに眉を顰めた。
女性の会話は時として飛躍するものである。それでも、格闘訓練の検討から、一夏の恋模様へ飛ぶのは飛躍が過ぎた。
「いきなりですね。それよりも師父の蹴打の方が気になるんですが」
「師父はもういいっての。で? 嘘なんでしょ?」
鈴音の目に、負の色はない。
リーシュは、ふぅと息を吐いた。
どこから感付いたものか、鈴音は確信しているようである。
「何か、気に掛かることがあったかな?」
「そんなのないわ、勘よ」
女の勘、である。
女の勘とは、主に男の弱みを抉るために発動するようだ。理不尽だ、と叫んでも意味はない。女の勘が出て来たら、男は開き直るしか道はないのだ。
リーシュは降参せざるを得なかった。
「正解。気付かれるとは思わなかったよ」
「あたしを甘く見ないでよね。どうしてそんな――」
「ただし」
鈴音の言葉はリーシュに遮られた。
先を言わせる前に、リーシュは鈴音に告げておかねばならない事がある。
「一夏が気に掛けてる女性がいるのは確かだよ」
「………………」
嘘だ、とは言えなかったし思えなかった。
一夏が箒へ、食事券を譲って欲しいと持ちかけていたのを、鈴音は目にしていた。
ペアのチケットだ。
一夏と、もう一人の分。
一夏と誰かが二人で。
男友達と、とは思えなかった。
わざわざ高価なチケットを入手して、男と二人でなんて思えなかったし、最近の一夏は女性へ、馴染み深い鈴音にさえ気遣いを見せるようになった。
嘘と思える根拠は一つもなく、本当と思えることは幾らでも出てくる。
鈴音は、深く息を吐いた。
リーシュが思うに、一夏は友人の妹である五反田蘭を誘うのだと推測している。それ以外に考えられない。
以前、休日で一夏と蘭を二人きりにしたとき。リーシュは蘭へマイク付きイヤホンを渡しており、状況に応じて逐一指示をしていた。
その時に蘭へ、
『このお店って美味しそうですけど高そうですね。今度、お小遣いを貯めて来てみよっかな』
と、言わせていた。
蘭の言葉を一夏が覚えていたかどうかはわからないが、一夏に好感触を与えたのは確かだ。
ウインドウショッピングなど、男が付き合っても退屈なことが多い。
ならば、一夏でも興味を持てるものに絞るのが正解だ。
リーシュ指導によるデートであっても、たった一日で一夏が蘭に恋をする、とは考えていない。しかし、何事も積み重ねていくことが重要なのだ。
IS学園で気の休まらない毎日を送る一夏にとって、蘭は貴重な癒しになることだろう。
一夏が誰を誘うのか、それは一夏にしかわからない。
それに、一夏には一夏なりの考えがあった。箒からチケットを譲り受ければ、リーシュが箒へ何かしらのフォローをするとの目算があったのだ。
リーシュに毒されようと、やはり一夏はいい奴である。
そして、一夏もリーシュも、誰も気付いていないことだが、リーシュと一夏には大きな行き違いがあった。
これに関しては、気付かないリーシュが悪い。
一夏は、IS学園に入学するまでを、限られた生活費で日々を過ごしていた。少しでも生活費の足しにしようと、アルバイト三昧の日々を送っていた。
たった一食で姉の月給が吹き飛ぶような食事があるとは、想像の範疇を遥かに超える事象なのだ。
一夏にとって優勝賞品の食事券とは、学食一食分に少しプラスアルファがある程度のものでしかなかった。
気軽に箒へ持ちかけるわけである。
「そ……っかぁ………………」
万感が込められた一言である。
鈴音が一夏へ抱く思いは、小学生の頃まで遡る。
日本に越してきた小学5年生から、両親の離婚のために中国へ戻る中学2年生までの4年間。一番近くにいた男の子で、一番好きだった男の子。
一年前の別離の際には、プロポーズ紛いのことまでしている。残念ながら、一夏は全く気付かなかったようであるが。
再会を楽しみにしていた。心待ちにしていた。今度こそ、きちんと気持ちを伝えたかった。恋人になりたいと思っていた。
一年間離れていたら叶わなくなっていた。
あの日、涙が涸れるまで泣いた。
再びの涙は湧いてこなかった。
「だれ?」
「それは教えられない。男同士の約束だからね」
「……………………」
リーシュと、弾で交わした約束である。
リーシュの陰に隠れているが、一夏は美男だ。リーシュの教育によって紳士力を増し、出るところに出れば、相当に女性受けすると思われる。
そこへわざわざ名乗り出る必要はない。
水面下で密かに関係を深めさせ、余人の入る余地がなくなったところで存在を明かせばよい。
それまでは、一夏と蘭のことは誰にも話さない、と話し合っていた。
ここでも、リーシュと鈴音とで行き違いがあった。
鈴音は、リーシュが約束した相手とは、当たり前のように一夏だと思ってしまった。
わざわざ約束してまで秘密にする。それほど思っている相手、と思ってしまった。
もしも、リーシュの約束相手が弾だと気付けば、中学時代は同級生で弾とも親しかった鈴音であるし、当時の弾は鈴音の恋を応援していたのだ。鈴音が一夏への執着を示せば、弾からリーシュへ話が伝わり、鈴音と一夏との仲が進展する可能性が無きにしも非ずだった。
所詮はありえたかも知れない可能性だった。
残念ながら、二人は互いの行き違いに気付かない。気付くわけもない。
人の世は、行き違い、思い違い、勘違いによって作られている。
だからこそ喜劇が生まれ、悲劇をも生み出すのだ。
「そっかぁ」
万感を断ち切る一言である。
鈴音の初恋は散った。はい、おしまい!
ダメとわかりきったものに、うじうじと執着する鈴音ではない。
それに、リーシュの嘘が嘘と気付けた理由を、鈴音は感じ取っていた。
一夏へ恋をしていたときとは違う。一歩引いて、客観的に一夏を見てしまった。
のめり込まず、ありのままの一夏を見てしまった。
そうと出来るだけの余裕が生まれてしまった。
一夏を見ても、再会直後のような胸の高まりが。
たった一人の異性ではなく、異性の友人として。
リーシュに残酷な嘘を告げられてから、恋が薄れてしまったのか。
今、静かに最後の火を吹き消した。
良かったのか悪かったのか。
もちろん、悪いに決まっている。失恋したのだから。
だから、いつかいい女になって、自分の魅力に気付かなかった一夏に。
見返すのか、誘惑するのか、見せ付けるのか、予定は未定だが、やってやると決めたのだ。
鈴音が心に整理をつけつつあるのを、リーシュは無言で見守っていた。
掛ける言葉はなく、抱きしめて慰めるほど近しい関係ではない。
出来るのは、汗で体を冷やさぬよう、鈴音の肩にタオルを掛けることと、冷たいスポーツドリンクを差し出すことくらいだ。
リーシュの行動に間違いはないはずなのに、鈴音がリーシュを見る目は冷たい。
半目になり、どこか責めるような気配がある。
リーシュが内心で首を傾げていると、鈴音は躊躇せずに言った。
「あんたって、あの子たちに手を出してんの?」
自分の恋が終われば他人の恋。
鈴音とて女の子だ。恋の話は大好物である。
そこで留まれば綺麗なのだが、リーシュは噂が多い男だ。特に、女性に手が早い、らしいと聞いている。つい釣られて好奇心が勝り、踏み込んでしまった。
二人きりの訓練で艶めいた空気になった事はなかった。それとは別に、自分以外の女生徒がリーシュの傍にいることを知っている。
一夏のことがある程度吹っ切れてからは、偶には1組へ遊びに行くことがあった。
一夏曰く、ファースト幼馴染の篠ノ之箒と、のほほんさんこと布仏本音が、リーシュを挟むようにしているのを何度も目にしている。ちなみに鈴音は、セカンド幼馴染、らしい。
最近は、そこへもう一人加わっている様子。
更には、他にもありそうな気配がある。
一体あんたは何やってんの、と。
不潔不潔! と騒ぐ鈴音ではないにせよ、呆れが混じるのは仕方なかった。
「失礼なこと言うね」
リーシュは不快を露に眉根を顰めた。
「あっ…………ごめ――」
「愛し合ってると言って欲しい」
「それを手を出したって言うのよ!!」
がおーと吼える鈴音は、さながら虎のようであった。
リーシュを囲む少女達を思い出す。
一夏の幼馴染であるからか、箒の姿が印象深い。
俯き、自分の体を見下ろす。
上げた目には涙が滲み、リーシュをきつく睨んだ。
「どーせあんたも大きい子が好きなんでしょ!」
鈴音が知る限り、リーシュの傍にいる少女は、例外なく大きいのだ。
とても大きいのと、やはりすごく大きいのと、標準より大きいのと。
何が、とは言えない。
言えば自分が傷つくだけなのだから。
リーシュは無言で立ち上がり、バッグから紙とペンを取り出して二本の線を引いた。
一本は直線、一本は曲線。
目にした瞬間、鈴音の心中に黒い殺意があふれ出す。
「殺す……」
ゆらりと立ち上がり、必殺の一撃を叩き込もうとする鈴音に、リーシュは困ったように笑った。
「それが答えだよ、鈴音さん。俺はまだ何も言ってないのに、鈴音さんはそうと思ってしまった。人間は変化がないものより、変化があるものの方が好きなんだよ」
「うぅ………………」
リーシュの言う通りだった。
自分で認めたも同然だった。
滲んだ涙が溜まってくる。
「個人的な意見を言わせてもらえば、大きさより感度の方が重要だ。男としては、やはり女性に悦んでもらった方が――」
「でも大きいのが好きなんでしょ…………」
「………………………………」
リーシュは何も言えなかった。
両手両膝を床について、悲しみに項垂れる少女。
手を差し伸べることも、声を掛けることすら出来ない。
直視すら辛い痛々しい姿を、目に焼き付けることしか出来なかった。
酷く、辛い空気が降りた。
自分と体は、切っても切れない関係だ。その体にコンプレックスを抱いてしまうと、解決は難しい。
コンプレックスを抱く必要はない。口で言うのは簡単だ。
言葉で納得できないから難しい。
なによりも、鈴音自身が認めてしまった。
心を慰めるには、心でもって真摯に接するしかないわけだが、鈴音は閉じこもってしまっている。
リーシュは、自分の無力を痛感していた。
「こんなこと……、あんたにしか訊けないんだけど…………」
鈴音らしからぬ弱々しい声だった。
「どうすれば……、大きくなるの?」
上げた顔は、声と同じく弱弱しい。
助けを求める迷子のような有様だった。
「…………やはり遺伝――」
「殺す!!」
生まれつきで、どうにもならないと言われたも同然だ。
この男は、乙女の一縷の望みを断ち切った。万死に値する。
鈴音は跳ねるように起き上がり、リーシュへ拳を繰り出した。
リーシュは危うげなく拳を受け止め、そのまま鈴音を羽交い絞めにした。
女性へこのような扱いをしたくなかったが、今の鈴音は猛るドラゴンそのものだ。野放しにするには危険すぎる。
「落ち着いて! 話を最後まで聞け! 遺伝も重要だけど、環境も重要なんだよ」
「そーいう環境になかったから、あたしは小さいって言いたいの!?」
「そうじゃなくて。女性が女性らしい体つきになるには、自分が女性だと意識するのが一番なんだ」
「あたしは女に決まってるでしょ!?」
「わかってるから少しは落ち着け。意識するとは言っても、体に意識させるんだ」
「…………どういうこと?」
話がなんだかそれっぽくなり、リーシュが拘束を解くと、鈴音はベンチに座りなおした。
「それこそ格闘技と一緒だよ。繰り返し、自分は女性だと体に教え込ませるんだ」
「…………どうやって?」
「女性の体の重要な部分で、否応なしに女性と意識させるには…………」
「…………」
鈴音は固唾を呑んでリーシュの言葉を待った。
「妊娠するのが一番手っ取り早い」
「出来るわけないでしょ!!!!」
鈴音は、またもがおーと吼えた。
リーシュの言葉は乱暴だが、あながち嘘ではない。
女性が妊娠すると、乳房が大きく張ってくる。それが出産後にも残るかどうかは人に寄る。
「もちろんそんな事は無理だ。1組では織斑先生から禁止されているし」
「………………」
先生に言われるまでもなくダメなことである。
鈴音の目には、リーシュを信じていいかどうか、迷いが浮かび始めていた。
「他によく知られている方法は、揉むこと、だね。自分で揉んでも脂肪を燃焼させるだけだから、むしろ小さくなることがある。異性にしてもらうのが一番いい」
女性ホルモンを活発化させるのだ。
歴とした科学的根拠がある言葉なのだが、鈴音は咄嗟にリーシュから距離をとり、守るように自分の胸を抱いた。
「あんた…………変な理屈つけて、あたしに変なことしようとしてるでしょ!」
「あのね、鈴音さん……」
言っていいものかどうか、リーシュは少し迷い、言ってしまった。
「こんなこと言いたくないんだが……。俺が嘘をついてまで、鈴音さんに手を出すほど困ってると思うかい?」
「うっ……」
鈴音曰く、大きな女性と関係があると認めたばかりなのだ。
リーシュの言う通りだった。
だが、言われてばかりではいられない。
止めておけば良いものを、鈴音は顔を上げてリーシュを睨みつけ、言ってしまった。
「あたしみたいな小さいのを好き放題したいだけかも知れないじゃない!?」
鈴音の言葉は諸刃の剣だ。
言葉の刃は、容赦なく鈴音の心を抉った。
自爆した、とも言う。
溜まる涙は溢れんばかりに。
涙ぐむ鈴音は、庇護欲を駆られて大変愛らしくもあるのだが、癇癪を起こした子供の様でもある。
どうにも収拾がつかなくなってきた。
いっその事、飴でも取り出してコントにしてしまおうかとリーシュが考え始めたとき、二人だけだった室内競技場に闖入者が現れた。
二人ともに、気付かなかった。
いくら自衛の手段を磨いても、事に気付かなければ意味がない。
リーシュは地味にショックを受けていた。
鈴音はそれ以上に衝撃を受けていた。
「嫁よ。訓練の調子はどうだ?」
ラウラだった。
ISの訓練をしていたのか、ISスーツを身にまとっている。
薄いこと限りないISスーツは、着用者の体のラインを余すところなく見せ付ける。そのくせ体を締め付けることなく、本当にありのままを見せ付けてくる。
鈴音はラウラをしばらく睨むと、顔を伏せた。
「ふっ……。大した意気込みだな、凰鈴音。だが、優勝をもらうのは私だ」
ラウラは余裕の笑みを見せた。
鈴音の視線を、トーナメントを見据えた心理戦と捉えたらしい。
「本当なら私が嫁の教導をしたかったのだが、先任を無下には出来ん」
ラウラは軍人だ。
軍とは、歯車が作る無機質な組織ではなく、濃密な人間関係が作る極めて有機的な組織だ。どんな役に就こうと、先任者の存在をけして軽視は出来ない。
ラウラの所属であるシュヴァルツェ・ハーゼは新設された部隊だが、軍のルールはしっかりと叩き込まれている。
「俺の仕事は避けるだけだからね。ラウラの教導にはついていけないかも知れないよ」
「嫁は私が守る。守られる者の心構えだけ学べばいい」
「頼もしいけど、男が女性に守られるだけ、ってのはね」
「……嫁もそんな事を気にするのだな」
「俺にだって人並みの見栄はあるさ」
談笑する二人に、鈴音は顔を伏せたまま。
また、と言い残し、ISの訓練に戻るラウラを見送っても尚、鈴音は顔を伏せていた。
肩が震えていた。
リーシュには鈴音の心中が手に取るようにわかったが、掛ける言葉が見つからなかった。
リーシュを嫁と呼ぶラウラだ。
鈴音でなくとも、二人の関係を勘繰ってしまう。
そして、ラウラ、なのだ。
お人形さんのように愛らしいラウラなのだ。
小柄な鈴音よりも更に小柄で、慎ましい。
勢いよく顔を上げた鈴音は、怒りか羞恥か、真っ赤に燃えていた。
「やってもらおうじゃないの!!!!」
誰もやってやるとは言っていない。
しかし、何を言っても無駄なのは、一目でわかってしまった。
ふぅと息を吐きたいところではあるけれど、迂闊な行動は鈴音へ刺激を与える。
真面目な表情を取り繕い、警戒し、威嚇する鈴音へ手招きをした。
唸りながら近付いてくる鈴音は、虎と呼ぶよりも、可愛らしい子猫のようだった。
気付いた方もおられると思うが刃牙ネタである
各エピソードにこーゆーネタを入れる余裕やら遊び心がこの頃にはあった
面倒になって止めたように思う