オリシューとISヒロイン(ry 作:user
『ご無沙汰しております、ミスオルコット。あの日の貴女は素晴らしく可憐でした。それでも、今日の美しさはあの日描いた想像を遥かに越えています。再びお会いすることが出来、光栄です』
朝から雨が降っていた。
セシリアは、日々己に課しているISの訓練を取り止め、一人で早目の夕食をとった。
ツーマンセルトーナメントが終了した直後であり、誰もが燃え尽き、気が抜けていた。
祭りの後の、心地よく物寂しい余韻。
それに加え、半ば屋外であるアリーナでは雨に打たれる。雨天の利用者はいつも少ない。
セシリアがアリーナに姿を現さなくても、誰も不思議に思わなかった。
ゆっくりと食事をとる。
メニューは数枚のトーストにスープ、たっぷりのサラダ、色鮮やかなカットフルーツ。肉類はスープにも含まれていない。
美しくすらある完璧なマナーで、スプーンでスープを掬う。
一人、静かに食事をしていると、思い出してしまう。
いけないこと、よくないこととわかっていても思い出してしまう。
思い出すのは、先のツーマンセルトーナメント。
全身全霊で優勝を目指した。
即物的で恥ずかしくなってしまうが、優勝賞品がリーシュと二人きりでの食事だったのだ。真剣にならざるを得ない。
しかし薄汚い裏切りにあい、叶わなかった。
凰鈴音。
彼女ならば、と信頼していた。
クラスリーグマッチで死闘を演じた鈴音とは、確かに通じるものがあった。何かを通じ、リーシュとの残酷な格闘訓練を見て、彼女ならばと信頼したのだ。
裏切られた。
セシリアは険しくなる表情を自覚し、目を閉じて心を落ち着けた。
季節のフルーツを口に運び、爽やかな甘味で心を慰める。
食事を終え、ナプキンで口元を拭うとすぐには立ち上がらず、今日までを振り返った。
フランスから来た小娘が脳裏をかすめる。
シャルロット・デュノア。
三人目の男性適合者として、IS学園に転入してきた。
可愛らしい男の子と思っていたら、とんでもない。誰も彼もを欺き、男装までしてリーシュに近づいた尻軽なフランス娘。
極刑に値する。
ツーマンセルトーナメントで、引導を渡してやりたかった。
ISを用いてのゲーム上ならば、事故で通る。
出来なかった。
搭乗者の安全を守るISの絶対防御が優秀だったし、例え絶対防御を抜く手段を見つけたとしても、きっと出来なかった。
リーシュは暴力を嫌う。ルールから逸脱することを憎悪する。リーシュから嫌われることを出来ようはずがない。
なによりも、血に濡れることが怖かった。
人の死に触れるのは、もうたくさんだ。
人影の少ない食堂で軽く食休みをとり、セシリアは部屋に戻った。
寮の自室に戻ると、ルームメイトはまだ戻っていなかった。
セシリアは制服を脱いだ。タイを外し、ブラウスも脱ぐ。パンティストッキングも脱ぎ捨て下着姿になり、ベッドに身を投げた。
セシリアのベッドは外部から持ち込んだ特注品だ。どこまでも柔らかくセシリアを受け止め、セシリアを包み込む。
あの日、あのフランス娘が本性を現した時、決意したのだ。
ツーマンセルトーナメントの優勝賞品を聞いて僅かな望みを掛けたが、やはり自分以外は頼りに出来ない。自分だけの力で、自分が行動して、勝ち取らなければならない。
そろそろ準備を始めなければ遅くなってしまう。
セシリアは下着を脱ぎ、ヘアバンドも外してバスルームへ向かった。
シャワーを浴びながら、バスタブへ湯を溜める。
イギリスにいた頃は、自分でバスの用意をするなんて思いもしなかった。今では手馴れたもの。
軽く汗を流し、バスタブに溜まっていく湯をぼんやりと見詰める。
ポニーテールの少女を思い出す。
篠ノ之箒。
箒もまた、鈴音やシャルロット同様に、思ってもみなかった女だ。箒は、もう一人の男性適合者、織斑一夏へ想いを寄せていたはずだった。
口にこそしなかったものの、セシリアは箒の恋を応援していた。恋する女同士、一方的ではあったものの、密かな共感を覚えていた。
違った。
一夏を利用して、リーシュへ近付いた策士だった。
忌々しい。
自分の魅力で勝負出来ない、卑怯な女。
いけない。
そんなことを考えていてはいけない。
セシリアは頭を振り、バスルームの隅に並ぶ小瓶から一つを選ぶ。
一滴。二滴。少し考えてもう一滴垂らした。
バスルーム内に芳しい香りが満ちる。
お気に入りの、ローズオットーのエッセンシャルオイル。
バスタブの縁に腰掛けて、足で湯をかき回す。それから静かに湯へと入った。
今夜のこれからを想像すると、不安が、恐怖が、嫌なものがどうしても過ぎってくる。
いけない。
未来と、幸せを見なければならない。
何も考えず、湯の中で手足を伸ばす。
心が解れてくる。
布仏本音の顔が思い浮かんだ。
邪気の無い、可愛らしい少女。
妬ましく羨ましいことに、本音はリーシュのルームメイトだった。
疑わしいほどに仲が良く、けども男女の仲を連想させず、頼りになる兄と、甘えたがりな妹のように見えた。
仮に本音がリーシュとの関係を持っていたとしても、きっと憎めないと思う。
男は、リーシュは、本音のような女性が好きなのだろうか。
湯から上がり、セシリアは体を洗い始めた。
スポンジを使って、石鹸を泡立てる。安っぽい残り香を残さない、天然由来の高級石鹸。
きめ細かい泡を作り、スポンジで直接体を擦るようなことはせず、手指を使って洗っていく。
擦るではなく、撫でる。磨く、と言っていい。
セシリアは、丹念に肌を磨き上げた。
もちろん、一番大切な秘部も洗っていく。秘唇の内側も外側も、優しく指で撫で上げる。クリトリスも包皮を剥いて同様に。痛みを感じるほどにやり過ぎてはいけない。
最後は指で広げ、シャワーで流した。
最後に髪を洗った。
輝く金髪は両親から受け継いだもの。自慢に思っているし、誇りに思っている。
一人で髪を洗うのも、最早慣れたものだった。
バスルームから出て、バスローブをまとい髪を乾かす。
ゆっくりと時間を掛けて。
タオルで水気を拭き取り、ドライヤーで乾かしていく。ブラシを入れながら丁寧に乾かしていく。
無心では出来なかった。
クラス代表になれた日を思い出す。
嬉しかった。
とても嬉しかった。
あの日の喜びは十五年の生涯において、五本の指に入るほどのものだった。
リーシュと、一緒にいることが出来る。
クラス代表の自分と、代表補佐のリーシュ。
二人きりで共同作業を行って、心と、想いを共に育んでいけると思っていた。
そんなことは一度も無かった。
自分はISバトル。リーシュは細かな事務仕事。完全に役割分担されていた。交わす言葉は味気ない業務連絡めいたものばかり。担任の織斑先生がクラス代表である自分を通さず、リーシュへ直接に仕事を投げているようだった。
もちろん抗議した。クラス代表は自分なのだ、と。
却下された。ISに集中しろと言われた。代表候補生として恥じない己でいろと言われた。そんな事はわかりきっている。
髪も体も乾かし終え、肌のケアも完了して、セシリアは一糸まとわぬ姿のまま、部屋に戻った。
異性には一度も晒したことのない姿で、チェストから衣服を引き出す。
ベッドに並べ、吟味を始めた。
戻ってきていたルームメイトには一瞥もせず、彼女もまたセシリアへ声を掛けず、どれが相応しいか選び続ける。
手に取り、姿見の前で自分の体に当ててみる。
鬼気すら漂わせるセシリアを見て、ルームメイトは息を殺して部屋の隅に避難した。
テディか、ベビードールか、それとも合わせるか。
真剣に考える。
自身の魅力を最大限に引き出すには。
考えて考え抜いて、ベビードールを選んだ。
肌の白さを引き立てる、黒いシースルーのベビードール。
乳房を覆う部分には細やかな刺繍が入り、腰には可愛らしいリボンを模したサッシュがついて、体のラインを強調することが出来る。そこから下は一般的なものと違い、ゆったりと膨らむようなことは無く、腰部から深く入ったスリットが前と後ろを分けている。
正面から見れば陰毛すら透けて見える。
まるで下着の意味を持たない、男を誘うためだけの卑猥な衣装。
今まで、何度か身に着けたことがある。
リーシュが部屋を訪れてくるのではないか。
そんな夢を見て、身に着けていた。
ストッキングも穿いた。
いつものパンティストッキングではなく、ベビードールとセットになっているノンガーターストッキング。
その上に、白いナイトガウンを羽織る。
こちらはシースルーではなく、パジャマ代わりにも使える一般的なもの。
香水を使うのは止めておいた。
身にまとうものは、何も要らない。
自分だけがあればいい。
時間を掛けて準備をしただけあって、外はとうに暗くなっていた。
誰もが食事を終え、部屋で休んでいる時間。
頃合だった。
「行って参ります」
ルームメイトに言葉を残し、応援の言葉は無く、けども、確かにセシリアを応援する心で見送られた。
セシリアは廊下に出た。
目指す場所は決まりきっている。
彼は他に誰もいない、一人部屋、なのだから。
IS学園入学から今日に至る日々を思い出し、気付かないでいられるわけがなかった。
自分は、セシリア・オルコットは、リーシュに、リーシュ=オリオールに、避けられている、と。
『ご無沙汰しております、ミスオルコット。あの日の貴女は素晴らしく可憐でした。それでも、今日の美しさはあの日描いた想像を遥かに越えています。再びお会いすることが出来、光栄です』
あの人は知らないのだ。
いや、心の機微に聡いあの人のことだ。知っているのかも知れない。
あの日、再会した日のことを。
覚えていてくれた。
一体どれほど嬉しかったことか、喜ばしかったことか、感激したことか、感極まって目に涙が滲むのを、あの人は目にしなかったのだろうか。
もう、昔になってしまったこと。セシリアは、両親を列車事故でなくした。
兄妹はいない。
孤りになった。一人ではなく、孤りになった。
一人で、幼いセシリアは家を守り続けた。
オルコット家は名門である。一般の人間達から見れば、信じ難いほどの資産がある。
守るのは、幼いセシリア唯一人。
有象無象が、金の亡者が押し寄せてきた。
たった一人で守り続けた。
死んでしまった母を思い、泣いた。
死んでしまった父を思い、泣いた。
母へは愛ゆえに涙を零したが、父への涙は怒りがあった。父は婿養子だった。オルコット家では母よりも立場が弱く、卑屈で、惨めで、孤り残されてからの時間が、父への怒りとなっていくには十分すぎた。
父は、男は、あんなものなのだと。
卑屈で惨めな生き物なのだと。
セシリアは、たった一人で家を守り続けた。
出来るわけが無かった。
成人しているならいざ知らず、十になるかならないかの小娘に出来ることではないのだから。
人間の汚さを、いやと言うほど見せ付けられた。
心が悲鳴をあげ、一人泣かない夜はなかった。
そんな最中のことである。高いIS適正を見出され、イギリス政府から国家代表候補にならないかと打診された。代表候補になってくれれば、オルコット家の資産を守るために力を貸すと約束された。
家のために自分を犠牲にするのか。
よいことなのか、わるいことなのか。幼いセシリアにはわからない。
返事はいつでも、出来るだけ早く。矛盾した言葉をもらった。
考えても考えても答えは決まりきっていた。他に手段が無いのだ。
イギリス政府が痺れを切らし、セシリアからイエスを強制しようとする直前になって、彼らはセシリアの前に姿を現した。
今から四年ほど前のことになる。
オルコット家は資産家である。
資産の形は様々であり、動産があれば不動産もある。各種債権などの有価証券も当然ある。当時のセシリアは知らなかったが、資産の過半はスイスのプライベートバンクに預けられ運用されていた。
毎年、資産の運用報告書が届けられていた。セシリアが見てもよくわからない。興味も無かった。
報告書が届くのに前後して、その銀行から電話があるのが毎年のことだった。今年の運用成績は、と。
その年は違った。
報告書を伴い、わざわざ人が遣って来た。
後に聞かされたところによると、オーナーである父の後を継ぐため、顧客への挨拶回りを兼ねた修行の一環であるらしかった。
会っても会わなくても良かった。どちらかと言えば、セシリアは会いたくなかった。きっと、彼らも卑屈な男で、汚い金の亡者なのだ、と。
だけども、オルコット家の資産を預かる銀行家なのだ。門前払いがまずいことくらい、セシリアにもわかっていた。
仕方なく屋敷に通すと、現れたのは銀髪の青年と銀髪の少年。
青年はわからなくもないが、少年はわけがわからなかった。セシリアと幾つも違わないように見えた。
幼い頃から美しいものに親しんできたセシリアをして、目を見張るほど美しい少年だった。
少年は、セシリアがどれほど可憐で美しいかを褒め称え、セシリアが呆気にとられている間に手の甲へとキスをしてくれた。
キスをされたと気付き、きつく睨みつけると、少年はおどけた様に笑って後ろへ下がった。
青年が少年を睨みつけてから咳払いをし、セシリアへと報告を始めた。やはり青年が主体であるようだった。
報告は、幼いセシリアへもわかり易く噛み砕かれている。けれど、セシリアには興味が無かった。それよりも、少年の容姿が珍しく、ちらちらと視線を飛ばす。美しい容貌もそうだし、右と左で色の違う瞳はもっと珍しかった。
少年は、セシリアの視線に気付く度に、左右の目で交互にウインクをしてくる。気障な振る舞いが気に障り、睨みつけたが、少年は悪戯ぽく微笑んだまま。
報告が終わり、軽い世間話も終えて、二人が席を立とうとした時、それらはやってきた。
それらは焦っていた。
イギリス政府がオルコット家の保護に動こうとしている。国家の保護下に置かれては、手の出しようが無い。オルコット家の資産は、幼いセシリアからしかるべく者の元に移さねばならないのだ。
幸いにも、オルコット家の資産を預かるバンクの人間がいる。更に喜ばしいことに、若造と子供。どうにでもなると内心で狂喜し、セシリアの前で訴えた。
こんな子供に、と。
使用人たちは慌てふためき、青年は表情を消して静かに対応した。
セシリアは黙って睨みつけた。
セシリアは、怒りと、憎悪と、嫌悪と、恐怖でもって、醜いそれらを睨みつけることしか出来なかった。
少年は笑っていた。
『黙れ』
混沌とした場に、少年の声が響く。
少年は、笑っていた。子供らしい残酷さで笑っていた。
『クソのようなクソどもが。クソと一緒にキャベツ畑の肥やしになるか? 俺はザワークラウトが大好きなんだよ』
ザワークラウトはドイツ生まれのキャベツの漬物である。
静まり返り、老人が激昂し、ステッキを振り上げた。自分の年の半分どころか、更に半分でもまだ足りない、孫のような子供に侮辱されたのだ。馬鹿な子供は、体に教え込まなければならない。
睨まれ、無様に尻餅をついた。
セシリアは見た。
少年の瞳に、燃え盛る憎悪と凍てつく冷酷が同居しているのを。
『ジジイ…………。決めたぞ。お前は檻の中で死ね』
少年が酷薄に笑った。
『リーシュ! お前はお客様の前でなんて事を……。俺達は父さんの名代で来てるんだぞ!』
『いや、俺は違うし。それに俺達が一番にしなければならないのは看板じゃない。顧客の利益だろ?』
『そんなことはわかっている! だからと言ってやり方というものが――』
『あれは人の財布に手を突っ込もうとする盗人だ。ルールを守れない畜生だ。害獣は処分と決まってる。それにあのジジイ……、舐めやがって…………』
押しかけた無法者はとうに消えていた。
『いいか? 絶対に無茶をするなよ? 絶対だぞ? 兄さんとの約束だぞ?』
『もちろんだよ。俺が兄さんに心配掛けるわけないって』
『出鱈目を言うなぁ!? だから連れてきたくなかったんだ……』
『兄さん……。可哀そうに。苦労しているから、まだ若いのに頭がそんなに白くなって…………』
『俺の頭は生まれつきだ! お前だってそうだろうが!』
少年は、青年の言葉を聞いていなかった。
セシリアの前で優雅に微笑み、手を取った。
『あれらは私がしかるべく対応します。ミスオルコットは、どうかお心安らかに』
恭しく、手の甲にキスをした。
セシリアは、少年の手を振り払えなかった。
優雅な微笑みの中で、セシリアは見た。十分の一秒だけの、獰猛な笑みを。
セシリア・オルコットは、心臓を貫かれた。
その夜。セシリアは眠れなかった。枕を濡らすこともなかった。
事の顛末を、セシリアはいまだ知らない。
ただ、あの日以降、金の亡者に煩わされることは唯の一度もなかった。
イギリス政府からの打診があった。
最早、遺産の保護のために政府を頼りにすることはない。
セシリアは、代表候補となることを決めた。
あの後すぐ、少年と、資産を預けている銀行について調べたのだ。
銀行は、オルコット家が資産の過半を任せただけあって、歴史と伝統あるプライベートバンクだった。顧客名簿には世界中の王族や貴族の名が連なると聞いた。
少年についてはよくわからなかった。
名前は、リーシュ=オリオール。
あれだけ美しくて、男らしくて、紳士で、有言実行で、一角の人物になるのは間違いないと思われた。
だから、リーシュを迎えるのに相応しい自分になろうと決意した。
資産はある。残るは名誉だ。
代表候補となり、国家代表となり、ISの世界大会で優勝して誰もが賞賛する名誉を手に入れ、リーシュをオルコット家に迎えようと。
セシリアが地に足をつけ、高みを目指している間、リーシュは飛翔していた。背には翼があるのではと思われるほどだった。
セシリアは遠くから、眩しく、胸を締め付けられる思いで、リーシュを見詰めていた。
財界の巨人。世界の流れをたった一人で押しとめた男性。世界に並び立つ者は一人もいない。
ISや国家など、そんな小さな枠組みに囚われる人間ではなくなっていた。
暗澹とした気持ちで毎日を送り、いつしか初潮を迎えて女を意識し、オルコット家の後継について考えることもあったが、リーシュ以外の男を愛せるとは思えなかったし、そんな事はあり得なかった。
身の入らないセシリアへ、セシリアの幼馴染で専属メイドでもあるチェルシーが、朗報を持ってきた。
リーシュが、精子バンクに登録していると。
当然、年齢も名前も伏せたまま登録してある。提供される情報は、ドナーの顔写真と健康状態に簡易な経歴のみ。
しかし、リーシュの顔を見間違えるわけがなかった。
この時、セシリアの将来は決定した。
代表候補としてIS学園に入学し、卒業後は国家代表として勤め、二十一歳になったら引退し、バンクからリーシュの精子を提供してもらう。
子供を産んだら、オルコット家の跡継ぎとなるよう、大切に大切に愛すると決めたのだ。
そしてIS学園に入学した。
リーシュと再会した。
廊下を歩くセシリアは人目を引いた。
夕刻はとうに過ぎ、夜と言ってよい時間。寝巻き姿で出歩く少女は多かったが、ナイトガウンで歩いているのはセシリア一人。
セシリアは美人だ。
1年1組を見れば、美少女と目される少女が幾人かいる。
例えば、篠ノ之箒。凛とした姿は誰もが振り返る。
例えば、シャルロット・デュノア。本人は気にしているようだが、中性的な容貌は誰の目も引く。
例えば、布仏本音。彼女の姿を見て、愛らしいと思わない者はいない。
例えば、ラウラ・ボーデヴィッヒ。小柄で白い肌に銀色の髪。隠された瞳は異色虹彩。神秘的ですらある。
彼女らは美しく生まれつき、彼女らなりに気を遣っているのだろう。
セシリアは違う。
青い血を引き、美しく生まれることが約束され、幼い頃から磨かれ続けてきた。意識してからは、自分の手で磨き続けてきた。言ってしまえば、美しさに掛けるお値段が違った。
その場にいるだけで周囲の空気を変える、華のある美人なのだ。
そのセシリアが胸に凄絶な決意を秘めれば、凄惨な美が宿る。
すれ違った者は息を飲み、目を見開いてセシリアの姿を焼き付けた。
1021号室の前で、二人の少女とぶつかった。
着ぐるみ少女と、パジャマを着た眼鏡の少女。
布仏本音と、1年4組のクラス代表。
今になって、睨み付ける様なことはしない。静かに一瞥すると、眼鏡の少女は後ずさった。
本音は微笑み、セシリアの手をとった。
渡されたものが何であるかを確認し、自分の手の中と、本音の顔とを何度も視線を往復させた。
本音は微笑んでいる。
セシリアは、大切に両手で握りしめ、胸に抱いた。
「…………ありがとう……ございます……………………」
本音は微笑み、セシリアの頬を拭った。
「泣いちゃダメだよ、セッシー。頑張ってね」
「…………はい………………」
本音は眼鏡少女の、簪の手をとって自室へ戻って行った。
セシリアが本音から渡されたものは、1021号室のキーだった。
「いいの?」
「うん。セッシーはずっとオリシューのことが好きだったんだよ。オリシューが悪い」
本音は女神だ。例え相手がリーシュであろうと、悪は容赦なく裁くのだ。
「そっか…………。セシリアさん、綺麗だったね」
「うん。セッシー、美人だよねー」
セシリアは、1021号室のドアをノックし、ロックを外した。
室内からの応答を待たず、ドアを開ける。
全てを捨て、全てを捧げる覚悟を胸に、セシリアは1021号室へ足を踏み入れた。
色々と印象深い回