オリシューとISヒロイン(ry 作:user
クロエが戦場の真っ只中にいる時、リーシュは千冬の私室に招かれていた。
しばし茫然自失となり、何も言わずに動き始める。
何も言わないのは、リーシュの思い遣りであった。
千冬の部屋は、散らかっていた。
千冬にとって、弟と大して年の違わないリーシュであっても、異性であることは間違いない。
部屋の外で少し待たせ、衣類、特に下着類は目の触れないところへ押しやり、凛然としたレディーススーツからラフな部屋着に着替えて、リーシュを中に入れた。
衣類以外はそのままである。
彼女の名誉のために注記しておくと、千冬は片付けられない女ではない。片付けない女なのだ。
整理整頓が苦手な人間は、方向音痴であることが間々ある。そこには空間認識能力が関わっている。
宙を飛び交い激しくぶつかり合うISバトルにおいて、名実ともに最強である千冬が、空間を認識する能力に劣っているわけが無い。
やろうと思えば出来るのだ。
やらないだけである。
つまり、やらないでも問題ない環境に置いた一夏が全て悪い。
そのあたり、リーシュもよく似ている。
リーシュは兎角要領がよく、合理的であることを旨としている。必然、気の抜けたプライベートであっても、抜け方には限度がある。比較優位と言う屁理屈を持ち出したりもするが、理由あって片付けないのであって、片付けられないのとは違う。と、本人だけは思っている。
リーシュが部屋を片付けている間、千冬は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、封を開けた。
偶然か否か、リーシュから没収した缶ビールと同じ銘柄であった。
千冬がリーシュを招いたのは、リーシュの目の前で没収したアルコールを飲み、悔しがらせるためではない。
没収したアルコールは千冬の部屋に一時保管するが、千冬が飲み干してしまうためではなく、あくまでもしかるべく処理をするための仮置きである。
リーシュがある程度の片づけを完了させ、テーブルを挟んで千冬が座るソファーの対面に座ったときには、千冬は二本目のプルタブに指をかけていた。
ちなみに、リーシュは床の上に正座している。しなければいけないと感じていた。
残念ながら、千冬の服装はタンクトップとジーンズのタイトなパンツであり、下着が覗けるようなことはなかった。
思い返せば、色々とやってしまったことがあった。
本音は、教師の目があろうとなかろうと抱きついてくる。
シャルロットは、リーシュと肉体関係があることを、一体何がそうさせてしまったのか公言している。
セシリアは、自覚無しに千冬を煽っていた。
真耶が何をしたかは知らないでいるが、担任と副担任である。何らかのやり取りがあったのではないかと思われた。
クロエの態度もよろしくなかった。
言っても思ってもいけないことだが、一夏によると、織斑先生には恋愛経験が少ない。もしかしたら皆無であるかも知れないのだ。
まさか性的に襲われるのではなかろうか。
万が一にもそうであったら万事休すである。
色男、金はあっても力はないのだ。
「お前、あのバカと何があった?」
楽しい妄想の時間は終わり、千冬が口を開く。
リーシュの想定の内、一番嫌なものが当たりそうだった。
一本目のビールは喉を潤すためであり、二本目のビールはグラスに注いでから呷っている。
千冬は、制裁のためにリーシュを招いたわけではない。
飲酒への罰は、アルコール類の没収と、適度な注意で終えるつもりでいた。
リーシュ自身は常に節度を保ち、目に余る振る舞いを見せないでいるのだ。表面上は。
問題は、リーシュと関係を持った少女達の言動なのだ。こちらについては、これ以上目に余るようなことがあれば注意する予定でいる。
「織斑先生……、いえ、千冬さん。実の弟を馬鹿呼ばわりは酷いでしょう…………。座学の成績はこれまでの蓄積が足りませんから劣っていますが、努力していますし、努力の芽も出ようとしています。千冬さんが思うほど、一夏は馬鹿ではないですよ」
就業時間ではない放課であるからか、リーシュに名前を呼ばれても千冬は正さなかった。
「バカはお前だ。誰が一夏の事を言った。私が言ってるのは、あのバカ。束のことだ」
束は親友、と千冬は思っていない。
親友とまでは行かなくても、親しいと思いたくはなくても、互いに近しく、よく知った仲であるのは確かだ。
親友とは呼びたくない。友だち、と呼ぶのはもっとしっくり来ない。
疫病神か、言葉を選んで妥協して、悪友と言ったところ。
そんな関係なのだから、どこで死のうと生きようと知ったことではない。だけれども、天才にして天災とまで呼ばれる束が、人知れず野垂れ死ぬとは想像も出来ない。何があろうと起ころうと、飄々と笑いながら潜り抜けていくに違いない。
だがここに。
目の前に座る男が手を出せば、どうにかなってしまうのかも知れない。
千冬はIS学園の教師だ。生徒達よりも遥かに詳しく、リーシュの事を知っている。何をしてきたのか。何が出来るのか。千冬が想像できるほとんど全てのことが、出来てしまう気がする。
リーシュは、つい先ほど千冬の目の前で、束を排除する、と口にしたばかりなのだ。
束のことなどどうでも良いと思う千冬だが、後味が悪いのは御免だった。
排除するにせよその正当性を、千冬が納得できる何かがあるのか、千冬と共有できる価値がそこにあるのか。
クロエとリーシュとの会話から、どうやらなかったことになりそうだが、一度あったことが二度はないとは限らない。
正座するリーシュは、目を細めて千冬を見上げた。目に宿る強い光を見せないように。
軽かった空気が瞬時に重くなる。
正面から睨まれれば、千冬とて気圧されかねない。束のことで神経をすり減らすなど、千冬にとって愚にもつかない愚行の極地だ。飲まなければやっていられなかった。
「あ」
リーシュの目に気をとられすぎたか、ビールが半分ほど残っていたグラスを奪われた。
千冬が唖然としてる間に、リーシュはグラスの残りを飲み干して、けふ、と息を吐いた。
開かれた目から険しい厳しいものは薄れていたが、顔つきは依然険しい。
リーシュは、束との因縁を殊更に隠すつもりはなかった。
訊かれないから、話さないでいるだけだ。
面白いことではないし、思い出せば気分が悪くなる。誰の得にもならないつまらない話を、わざわざ吹いて回る趣味は、誰であろうと持っていない。
あからさまに機嫌を悪くしたリーシュからあえて話を聞こうとする勇者は、箒以外にいなかった。
面と向かって訊かれれば、隠すつもりはない。
だが千冬だけは。
千冬だけは訊くべきではなかった。
「白騎士事件がすべての発端ですよ」
リーシュの口から、嫌な言葉が飛び出てきた。
白騎士事件。
世界各国のミサイルが一斉にハッキングされ、2000発以上が同時に発射された。それが白銀のパワードスーツをまとったたった一人の女性によって、完全に無力化された。
更には戦闘機・巡洋艦・空母・監視衛星すら一人の命を奪うことなく破壊し、次世代の兵器、インフィニット・ストラトスを世界に知らしめた事件である。
「生まれて初めて地球儀を見たときから、ずっと夢見てきたものがありました。どうすれば実現できるか、実現するには何をすべきか、何が必要か、何時何処で何をすればよいのか、ずっと考え続けてきましたよ。実現する可能性を作り出し、具体的な計画に落とし、最初の一歩を踏み出す前に白騎士事件が台無しにした」
10年前の事件である。
リーシュの中では既に決着がついた事件ではあるものの、蒸し返せば当時の怒りを思い出す。
あの事件が、全てを台無しにした。
土台から崩れ、全てを一から作り直すことを余儀なくされた。
言ってしまえば逆恨みである。
だからと言って、無心で受け入れるのは無理だった。
白騎士事件があった日の夜。リーシュは怒りで眠れなくなることを知った。
「…………だが、白騎士事件があったからこそ、お前の会社は伸びた。違うか?」
保身ではなく、事実の指摘だ。
リーシュは、白騎士事件の影響で紙くず同然になった会社を買い集め、経営を立て直して資産を築き始めた。何よりも、基幹産業に手を出せたのが大きかった。
それら全てが表に出たのは、3年前のことになる。
白騎士事件後の大恐慌を潜り抜けた世界に名だたる企業が、重化学工業で、金融業で、運輸業で、資本の移動が始まった。合併した企業も少なくない。
あらゆる業界で再編が進み、気付いたときには、幾つもの企業グループが、コングロマリットが形成され、それらの一番奥にリーシュがいた。
白騎士事件のように、目で見てわかる事件ではない。だが、世界経済に、国際情勢に聡い人間からすれば、白騎士事件の比ではない大事件だった。
世界が軋み、この世に文明が生まれてから蓄え続けてきたエネルギーが、一斉に吹き出したかのような地殻変動、と例えられた。
それら企業の全てが、リーシュの手腕によって恐慌を潜り抜け、成長を続けることが出来たのだ、と。
世界が認めざるを得ない事件だった。
リーシュが白騎士事件で受けた恩恵は、非常に大きい。だからこそ許せなかった。
「運が良かった。貴女はそう言いたいわけですか? 俺は道に落ちていたコインを拾っただけのラッキーな男だった。そう言いたいんですか? 俺は、そんな物乞い同然になり下がるつもりは、ありません」
「お前こそ、全てが思い通りになるとでも思っているのか? 現実を受け止められないほどバカなのか?」
「………………………………」
「………………………………」
二人、しばし睨み合った。
「……申し訳ありません。少し、当たってしまいました」
リーシュが苦く顔を歪め、視線を逸らした。
新しい缶ビールの封を開け、空になったグラスに注ぐ。飲み干そうとしたところ、千冬に奪われた。
憮然とし、立ち上がってキッチンからグラスを持ってくる。同じ場所に座りなおし、今度は正座ではなく足を崩した。
手にしたグラスにビールを注ぐリーシュを見て、千冬は何も言わなかった。今は教師としての立場ではなく、そんな些細なことに目くじらを立てるつもりは毛頭ない。
表情はいまだ崩していないが、激情を零すリーシュを前にして、酷く、疲れた。
「それで、お前が考えていた計画とは一体なんだ? ついでだから話してみろ」
「長くなりますよ?」
気分を入れ替えて、リーシュは悪戯ぽく笑った。
千冬はリーシュの笑みを見て、何故リーシュに惹かれる女がいるのか、一端を知った。
普段は見せない笑い方だ。自分だけに見せる笑顔。自分だけに特別に。
それが女心をくすぐるのだろう。
知ったからと言って、見せられたからと言って、それでどうにかなる千冬ではない。
顎でしゃくり、続きを促した。
「短期の計画は、経済力をつけることでした。最短でも30年掛かる予定が、たった5年で終わってしまった……。子供のころから真剣に考えてきたのに…………。俺の気持ちがわかりますか?」
「そんなこと私が知るか」
一刀両断である。
リーシュは肩をすくめ、続きを話し始めた。
「中期では、得た経済力を形にすることです」
金とは誰かの血である。だが、幻想でもある。
紙幣が一体何かと言えば、ただの紙切れだ。国家が発行し、国家の信用があるからこそ、ただの紙切れに価値が生まれる。
そして国家の実体は何かと言えば、そんなものは何もない。国土があり、国民があっても、国家と言う実体はないのだ。高級官僚あたりは勘違いしているかも知れないが、デフォルトでもすれば、発行された紙幣などただの紙きれ以下になり下がる。
勿論、その可能性は限りなく低い。
しかしそこまでいかなくとも、日々変動する為替を見れば、通貨が儚い幻想であると、実体など何もないと、わからないわけがない。
幻想を実体にするにはどうすればよいのか。
そんなことは不可能だ。
不可能であるからこそ、より大きく金を使うために、国家の都合に左右されないために。
「そのために独自の通貨を発行――」
「長期はなんだ?」
千冬はリーシュの言葉を遮り、続きを促した。短期・中期と続けば、長期があるのは道理である。
経済がどうのこうのは、千冬の興味の範疇外にあったらしい。
自信満々にこれからの計画を話そうとしたところにこの仕打ち。
リーシュは、泣きはしなかったが肩を落とし、ビールを呷ってから溜めに溜め、続きを口にした。
まだ誰にも話していないが、既に端緒となるものは動き始めている。
千冬に明かしてしまっても問題ない。千冬が口外するとは思えないし、たとえ口外したとしても、既に気づいている者は確実にいるだろう。拒否したいからと言って流れを止めることなど何者にも出来はしない。
歴史の必然となる流れには、強力な個人であろうと超大国であろうと、押し流されるしかない。
仮にリーシュが全力で抗おうにも、出来はしない。
クロエには、事を直接ではないが話している。だが、日々の業務に忙殺され、それが何を意味するのか辿りつけないでいた。当然、クロエが束に話すようなことはなかった。
楯無は、リーシュとクロエが話している場に同席していた。だが、同時に語られた計画が想像を遥かに超えて大きく、聞き逃していた。
リーシュは唇の端を釣り上げ、不敵に笑った。
「世界地図を書き換えるんです。千冬さんの子供が、今の千冬さんくらいの年になる頃には――」
「今…………、何て言った?」
「世界地図を、国境を書き換えるんです」
幼くあどけないリーシュが初めて地球儀を見たとき、拭い難く感じた違和感。
リーシュでなくとも、先入観なく地球儀を見れば誰もが感じる違和感。
地形を無視した直線的な国境線。
何故あのような線が引かれたか、一体誰が引いたのか。
あれこそ、ヨーロッパが生んだ負の遺産である。
最早、時代が違うのだ。あのような国境など、害にしかならない。書き換えた後も混乱は続くだろう。
例えリーシュが手を出さなくとも、安価なエネルギーが供給されるようになれば、産油国を中心に大混乱に陥ることは必至である。先進国であっても鎖国する国、破滅する国が出てきてもおかしくない。
世界経済はエネルギー消費の増加に伴って拡大してきたのだから、そこに一撃を加えれば、今までとは全く違う世界が開けてくる。
精緻で大胆な、そして柔軟な対処が求められる。
言ってしまえば、子供の我が侭だ。
気に入らないから変える。その一事に突き動かされてきた。
邪魔なものは全て、懐柔するか排除するか、いずれかの手段でもって無力化してきた。
例外は一つもない。
窓のない暗い実験室で分厚いレンズの顕微鏡を覗き込んで他人には理解されがたい実験をして誰かに迷惑を掛け続けるウサビッチではけっして出来ない仕事だ。
リーシュが強く主張したいところである。
「それじゃない。今、何と言った?」
「…………? 世界地図を………………!!」
「誰の子供が、幾つになったら、だと?」
リーシュの背に、嫌な汗が湧いて来た。
意図したわけではない。
遠回しな厭みをぶつけるほど、リーシュは暇な人種ではない。
意図したわけではないのだが、自身の発言を振り返り、千冬の地雷を踏み抜いたことを悟った。
「私が、誰の、子供を、産むんだ!」
千冬は、既に5本目となったビールの空き缶を、くしゃり、と握り潰した。
アルミ缶である。握り潰すくらい、リーシュでもわけはない。
しかし、自身が潰される様を幻視してしまうほどの迫力があった。
千冬は、人間の、うら若き女性である。単細胞生物のように、細胞分裂をして子孫を残すわけではない。子供を作るには、パートナーが必要だ。
一人では出来ないのだ。
子供を作るのに必要なことを千冬は一度もした事がなく、当然、パートナーとなりうる男性がいたこともなかった。
一夏の推測は的を射て、千冬は恋人を持ったことが、唯の一度もなかったのだ。
そもそも、恋人を欲しいと思ったことは一度もない。欲しいと思える余裕もなかった。
最近になって真耶が目覚めたらしい女の悦びになど、微塵の興味も無い。
だが、である。
恋の喜びを全身で表現する少女達が教え子に、仕事を同じくする同僚にいれば、それが好いものなのだろうとの推測はつく。興味はなくとも、自分が持っていないものを楽しんでいれば羨ましくもなる。憐れまれれば気に障る。
積もり積もったものを吐き出す場所が、相手がなければ、些細な鬱憤であっても熟成される。ストレスを溜め続けて善いことは一つもない。
ブリュンヒルデともてはやされ、尊敬を集める教師であろうと、千冬も一人の人間なのだ。
一応は生徒であり、年下の異性であり、信頼はしても親しいとは言い切れないリーシュの前で失態であるが、酒の酔いが勢いづかせた。
アルコールとは、理性を失わせるのではない。感情を増幅させるのだ。
怒りか妬みか不満か、湧き出た負の情念が増幅され、理性では止められないほどになっていた。
千冬はグラスを空にすると、6本目は缶から直接呷った。
千冬にとって、飲み過ぎからは程遠い酒量である。
「ここにいい男がいますよ?」
「ハン!」
優しく柔らかく微笑むリーシュを、千冬は鼻で笑った。
「お前のような子供が相手になるか」
一刀両断である。
千冬は、世界中の誰もが知るブリュンヒルデだ。
男であれ女であれ、憧れない者は少ないだろう。
当然、アプローチしようとする男は多かったのだろうが、高嶺の花だった。
見事に花を摘み取れればよいが、踏み外せば地上まで真っ逆様。落ちれば死ぬのである。
男として死ぬ可能性があっても千冬を欲しいと思った男は、もしかしたらいたのかも知れない。彼らが一体どうなったのか。リーシュは想像したくもなかった。
千冬の隣には誰もいない。それが全てだった。
リーシュは、千冬からの言葉の刃を耐え抜き、戦死した男達へ短く祈りを捧げた。
千冬が6本目を空にするのを見て、冷蔵庫から冷えたビールを取りに立ち上がった。
ソファーに座る千冬は足を組み、見るからに機嫌が悪い。
迂闊に口を開き、飛び火しては堪らない。
最善はこの場から逃げることだが、それでは目的が果たせない。
リーシュは千冬のグラスにビールを注ぐ。
共通の話題は学園と、一夏のこと。
期末試験の結果が生徒へ返却されてから間がなく、一夏の成績を肴にグラスを空にしていく。
空き缶が二桁になっても、千冬が酔いに乱れる気配はなかった。
リーシュはふぅと息を吐き、千冬の肩に手を乗せた。
「許可なく私に触るんじゃない」
「アルコールで気を紛らわせるより、マッサージでリラックスした方が良いですよ」
「ふん。…………変なことをしてみろ。只では済まさないからな」
「わかってますよ」
千冬はリーシュを睨みつけはしたものの、手を振り払うことはなかった。
リーシュも、まさか鈴音の時のようなことをするわけにはいかない。下心と他意は大いにあっても、千冬の肩だけを揉むつもりでいる。
「ん………………」
柔軟な筋肉のおかげか、千冬の肩は凝ってはいなかった。
強くではなく軽く、揉むよりも叩き、リズム良く刺激を与えていく。
千冬は心地良いのか、グラスを呷るペースが落ちていた。
背後でリーシュがほくそ笑んでいることに気付かず、悪かった機嫌も治まり、目を閉じてリーシュに任せている。
心地よく続いていたリズムが止み、リーシュに両の肩を掴まれたところで、千冬は目を見開いた。
「何のつもりだ?」
声は、低い。
肩もみくらいなら、させても問題ない。
それ以上を許すつもりはない。
千冬にとって、リーシュは美しい青年であっても、色恋の対象とは思えず、年下の子供に過ぎないのだから。
「千冬さんに、訊きたいことがあるんですよ」
凄む千冬を前に、リーシュに怯む様子はない。リーシュの策は既に成っていた。
パチンと小気味良く指を鳴らすと、テーブルの上に置かれたバングルが起動した。千冬の前で使用したことは一度もない。
千冬の肩に手を乗せて、唇の片端を釣り上げる様は、まさに邪悪であった。
『あ……ぅんっ…………』
「!?」
空間に映像が投射された。
妙齢の美女の顔が映し出されている。
頬は艶かしく上気して、瞳は軽く閉じている。艶やかな唇を薄く開き、艶めいた音が漏れ出ている。
言葉として意味を成さない音は美女の声であり、声の響きと美女の妖艶さが相まって、喘ぎ声にしか聞こえない。
千冬の艶姿だった。
頬が上気しているのは酒の酔いであり、目を閉じているのはリーシュのマッサージに身を任せているからだ。
漏れ出る声は喘ぎ声から近くて遠いが、快感から漏らした声なのは間違いない。
実際にどうであったか、など何の問題にもならない。要はどう見えるか、だ。
千冬の艶姿にしか見えなかった。
リーシュは、ここまでするつもりはなかった。
片付けるついでにカメラを仕掛けたのは、精々が飲みっぷりの凄まじさを映像として収め、教師がこれなのだから生徒ではない生徒である自分も、と主張するつもりでいた。
だが、どうしても聞きたいことが出来てしまった。
既に終わったことである。
知ったところで、どうにかなるものではない。
しかし、目の前に答えがある。
伏せられたカードを反せば、そこに答えが書いてある。
我慢する必要はなかった。
「貴様………………!!」
「データはスイスの本社に保存されています。こちらからではどうやっても削除できませんよ」
ブラフではない。
怒りに紅潮する千冬をブラフで脅すのは、愚が過ぎると言うもの。
怒りに震える千冬と、悪辣に笑うリーシュ。
どちらを相手にしたいかと一夏に問えば、全力で両者から逃げだすことだろう。
「千冬さんから教えて欲しいことがあるんですよ。それさえ教えてもらえるならば、先の映像は削除すると約束します」
「…………教師を恐喝するとは、覚悟が出来ているんだろうな?」
「手段の正邪は結果が決めるんですよ? 今は脅す形になっていても、後になったら千冬さんから感謝されるかも知れない」
「覚悟は出来てるようだな…………」
リーシュに肩を押さえられようと、それで阻めるならブリュンヒルデと呼ばれていない。
リーシュは笑みを崩さない。
余裕があるのではなく、楽しいのだ。
リスクがなければリターンを得ることはない。
リターンは一つの真実。リスクは、とんでもなく痛い目を見る程度。それと凄まじいまでのスリル。
今の千冬であれば、先の襲撃にあった無人機など、生身で打ち倒すくらいわけもないと思われた。
手の中に、激発寸前の暴力がある。言葉を間違えれば弾け飛ぶ。
楽しくないわけがなかった。
リーシュは軽く笑い声を立て、続きを口にした。
「白騎士はあなたですね?」
「!?」
手に、力をいれたわけではない。
掴んではいるものの、依然変わらず乗せているだけ。
リーシュは言葉を間違えなかった。
「10年前の白騎士事件。白銀のパワードスーツを駆り、2341発のミサイルを砕いたのは、織斑千冬。……あなたですね?」
千冬の動きが止まった。
リーシュは、入学以前から千冬の事を知っていた。
IS学園で、一番強く輝いている人物だ。入学が決定してから調べなおしたし、それ以前からも詳しく知っていた。
千冬の経歴を、よく知っている。
いつどこで生まれ、どこの学校に通い、家庭環境がどのようであったか、社会に出てからどのようであったか、漏らさず全てを知っている。
千冬は、ISの世界大会モンドグロッソで連覇を果たしたブリュンヒルデだ。情報は幾らでも出てきた。公表されていない情報も、人を遣って調べ上げた。
千冬の経歴は、重なるのだ。
それこそ、幼い頃から重なっているのだ。
稀代の天才にして天災と呼ばれる、篠ノ之束と。
「…………そんなことを知ってどうするつもりだ?」
「どうもしませんよ。どうにかしたところで何も変わらない。知りたいだけです。…………少し違うな。確認したいだけですよ。あなたが、白騎士である、とね」
「………………………………」
少しの間、沈黙が降りた。
リーシュは、千冬が白騎士であると確信している。
10年前の時点でISに近い場所に居り、2000発を超えるミサイルを落とせるのは、千冬しかいないのだから。
千冬にとって、隠し通さなければならないことである。
時代を塗り替えた白騎士も、見ようによってはただのテロリストであると、後年になって気が付いた。
リーシュにならば。
知りたいだけだと言っていたことだし、公言するとは思えない。したところで得るものは何もない。
だが、リーシュが一時漏らした激情が、数瞬とは言え、千冬を躊躇わせた。
千冬は深く息を吸い、そして吐き、何度か繰り返し、
「そうだ」
と答えた。
リーシュにとって、予想した通りの答えだった。
既に知っていたことだった。
千冬の口から聞いたところで、やはり、と思うだけだろうと思っていた。
「やっぱりか!!」
だから、リーシュにとっても予想外だった。
声が荒くなり肩を掴む手に力が加わり、10年も前の事件に、真意に真相を知った上でさえ、今尚震える怒りが残っていたのだと。
千冬に投げ飛ばされて、宙を舞いながら、自制の緩さを自嘲した。
リーシュに強く肩を掴まれ、千冬はリーシュの腕をとって反射的に投げ飛ばしていた。
流石はブリュンヒルデの技だった。
格闘技とは、体に刷り込む技術だ。
体が頭で考えた通りに動くように、頭で考えるより先に動くように。
頭で考えるよりも先に、千冬はリーシュを投げ飛ばしていた。
リーシュも、投げ飛ばされるだけではなかった。
空いた手で千冬の手を掴み、床に落ちるときには受身を取った。鈴音との格闘訓練は、しっかりと芽を出していた。
二人、もみ合い、転げ回り、千冬が上になった。
床の上に大の字になるリーシュの上に、千冬が馬乗りになっている。
酔った状態で体を動かしたせいか、千冬の息は荒く、顔も険しい。
リーシュを見下ろし、より険しくなった。
「…………何がおかしい?」
見下ろされるリーシュは、笑っていた。
悪辣に笑っているわけではない。
自分の愚かさを自嘲しているわけでもない。反省など、一秒でも長過ぎる。
目を細めて微笑み、千冬を見上げていた。眩しさに目を細めているようだった。
「ブリュンヒルデは強すぎる。そう思っただけですよ」
ブリュンヒルデ。
美貌と実力に敬意を払われ、付けられた称号。
北欧神話に登場する戦乙女の名前であり、ワーグナーが戯曲に取り上げたことから、戦乙女の中では最も知られていた。
今や、ブリュンヒルデと聞けば誰もが千冬を思い起こす。
千冬は、ブリュンヒルデの称号が嫌いだった。
神話のブリュンヒルデは、主を裏切り、愛に溺れ、愛を裏切られ、最後には破滅した。
如何に強さを称えられる戦乙女であろうと、好きになれるわけがない。
「周囲がそう呼ぶのは、もう仕方ない。あなたは強い。それは事実だ。だけども、そんなに強いままでいる必要はないんじゃないですか?」
「…………何が言いたい?」
リーシュの微笑が、微かに歪んだ。
千冬は、今まで通りにいたいのであれば、リーシュに問いかけるべきではなかった。
悪魔は甘言を弄する。
最善は関わらないことであり、次善は無視をすることだ。
互いに至近であり、部屋には夏の日差しが入り込み、千冬はリーシュが浮かべている表情を知ってしまった。
「一夏のことなら心配要りませんよ。あいつはいずれ、男性IS適合者の旗頭になる。上からは帰属を求められるでしょうが、そこは俺がどうにかします。と言うか、そうなります。そうすれば、あいつにも俺にも、互いに得るものがある。今になっても千冬さんの保護を必要とするほど、軟弱な男じゃありません」
「……だから、何が言いたい?」
リーシュの表情が、気に障った。
「千冬さんが一夏の面倒をみなくても、何の問題もないということですよ。学園卒業と同時に経済的に自立できるでしょうし、生活面でも心配は何もない。可愛い恋人もいることだし」
「なっ……………………。何が言いたいんだ!」
いずれそうなるであろう未来を、さも確定したかのように話すのは、リーシュの詐術とも言えない習性のようなものである。遅いか早いかすら気に掛けない。嘘にするつもりはさらさらなく、弾と約束しているのだから。
怒りに声を荒げる千冬が馬乗りとなっていても、リーシュは慌てる素振りもなく、ただ表情を深めた。
リーシュが浮かべる表情が、酷く千冬の気に障った。
「先に言った通りですよ。そんなに強い必要はない。家庭のために、家族のために身を粉にする必要は、もうどこにもない。千冬さんが頑張らなくても、一夏は上手くやっていく。違わないでしょう?」
「……貴様…………………………」
リーシュの表情が、酷く気に障った。
リーシュは、薄く微笑んでいた。
目を細め、千冬を直視しないように、眩しいものを見るかのように。
寂しく、悲しく笑っていた。
千冬を憐れんでいた。
折れず挫けず、今日まで最強であり続けた千冬の強さを憐れんでいた。
「貴様に……何がわかる…………!」
千冬は、怒りの色が塗り替えられていくのを、醒めた理性で感じていた。
寮則違反。目に余る異性との交遊。僻み妬みのような、つまらないものではない。
よりにもよってこの男は、一番触れて欲しくないところに触れたのだ。
わかったような口を利かれ、自分が圧倒的に優位だと勝手に思い込み、一方的に同情される。
見下されている。
一方的に見下されて、それでも笑っていられる寛容さを、千冬は持っていない。
頭のどこかで醒めている理性は、怒りを制御しようとしなかった。
リーシュの胸倉を掴み、もう片方の手では拳を作り。
「俺は貴女じゃないんだ。わかるわけがない。……だけど、知っています」
千冬の拳が振り上げられるよりも、リーシュの方が早かった。
「あなたも親をなくした子供なんだ。あなたの苦労は誰もが賞賛するほど見事に実っている」
千冬の拳は、振り上げられなかった。
リーシュは成功した事業家として、社会還元の一環にシングルマザー及びシングルファーザーへの支援を行っている。
親を片方失っただけで困窮する。経済的に、だけではない。子供の心にどのような傷を残すのか、実際に見て、触れて、知っている。
片親が残ってさえそれなのだ。
両親を一遍に失えばどうなるのか。
誰を頼りにすることなく、姉が弟を養えるものなのか。
出来るわけがないのだ。
千冬がそれを為しえたのは、姉が千冬であり、弟が一夏だったから。そして何よりも幸運が味方した。
可能性としてはありえるかも知れない可能性を、千冬は形にした。
経済的に困窮することなく、一夏が捻くれて育つこともなく。なによりも千冬が千冬のままで。
早くから自立したリーシュや楯無とは全く違う。
千冬とて、親の庇護を必要とする立場であり年齢だったのだ。
苦労しないわけがない。心が傷つかないわけがない。
それでいて、千冬がそれを可能としたのは、強かったからだ。
「あなたは強すぎる。もう、そんなに強くなくていいんです」
束は、千冬の親友を自称する束なら、気付いていたかも知れない。
だが、千冬は強かったのだ。
他人の心配など不要であり、織斑千冬のままで、今日まで生き抜いてきた。
弱みを見せず、傷つかないと思われ続け、最強とは孤高であると、口にすることなく体現し続けてきた。
「お疲れ様、千冬さん。これからは、もっと楽に生きる術を学ぶべきだ」
リーシュは、胸元を掴む千冬の手を、そっと外した。
支えを失ったのか、千冬がリーシュの胸に倒れこんできた。
リーシュは、千冬を避けることなく迎え入れ、頭を優しく手の平で叩く。
千冬はされるがままでいた。
酔っているのか。
酔った上で暴れたからか。
そうでもなければ、千冬が弟と対して年の違わない異性に、黙って頭を撫でられている道理がなかった。
千冬は、声を上げるようなことはなかった。
肩を震わせることもなかった。
ただ、リーシュの胸に顔を埋め、微動だにしなかった。
日の落とす影が少し動き、千冬はのろのろと頭を上げた。
項垂れて前髪が顔を隠し、下から覗き込むリーシュにも、千冬の目は見えなかった。
「……………………人の、傷を抉る趣味でもあるのか?」
ブリュンヒルデらしからぬ声だった。
ブリュンヒルデの声ではなく、千冬の声なのだから。
「傷があるなら、患部を確認しないといけないでしょう?」
リーシュの声に、悪戯めいた調子が戻っている。
千冬は笑い飛ばそうとして、失敗した。
「ふん………………、減らず口を…………。……高いからな…………」
何が、とは言わないし言えない。
年下の異性に言うには、千冬のプライドが邪魔をした。
そこで素直になれるくらいだったら、ブリュンヒルデになっていないし、孤高であり続けることもなかっただろう。
けども、今そのような態度をとるには、相手が悪かった。
リーシュは、11歳を過ぎた頃には今とほとんど変わらないメンタリティを身につけていた。そこから様々に濃密な経験を重ね続け、精神の成熟度合いで言えば、千冬に勝っていると言ってもおかしいことではない。
それに愛称の一つが、リリスの愛人、なのだ。
泣かせた数は、数え切れない。
「これでもビジネスマンですからね。高くつくなら、相応のものを貰わないと」
リーシュは悪戯ぽく笑い、体を起こした。
不意打ちだった。
酔いのせいなのか。
感情の振れ幅が大きくて、体がついていかなかったのか。
極度の緊張からの弛緩が、体にも伝わったのか。
リーシュの動きが素早かったのか。
おそらくはいずれもであり、それ以外にもあり、千冬はリーシュに不意を突かれた。
リーシュは体を起こし、千冬は驚いて顔を上げ、リーシュは千冬の濡れた目を見て、千冬の唇に、リーシュの唇が重なった。
千冬は反射的にリーシュを押しのけ、逃げる唇をリーシュは追いかけ、もみ合い、転げ回り、今度はリーシュが上になった。
千冬の上に圧し掛かり、両腕を押さえつけた。
吐息が掛かる距離に互いの顔があり、千冬は顔を背けた。
横を向いた拍子に、溜まった涙が再び流れた。
悔しいのか悲しいのか。
どうしてまた涙が溢れるのか、千冬にもわからなかった。
「……………………弱った女に手を出すなんて……最低だ…………」
千冬らしからぬ弱々しい声も、千冬の声だった。
年下の異性に組み敷かれ、心はともかく体を許すつもりはなく、それでも拒絶する力が湧いてこず、今の千冬に出来る精一杯の拒絶は、顔を背けることだけだった。
千冬の罵りを、リーシュは鼻で笑った。
千冬の腕を開放し、千冬の顎をつかんで前を向かせた。
鼻と鼻が触れ合う距離で、リーシュは千冬の瞳を覗きこむ。
「その程度であなたを抱けるなら安過ぎます」
安過ぎて心配になるほどに安過ぎる。自分の価値がわかっていないのか、どれだけ魅力的な女性であるか知らないでいるのか。
リーシュがIS学園に入学するに際し、一番に目を引いたのは言うまでもなく織斑千冬だ。
強く美しくとは、千冬のためにある形容と言って過言ではない。
実際に授業を受け、間近で接して、実直な性質の中に情の深さを感じてきた。
十代の少女には見られない、色の深い切れ長の瞳が堪らない。
IS学園から無条件で一人選んでよいと言われれば、考える余地なく千冬を挙げていたことだろう。
当初は、教師陣からの引き抜きは遠慮しようと思っていたが、今や入学前とは状況が違ってきている。
千冬が腕の中にいて、何もしないと言う選択肢があるわけがなかった。
千冬は、リーシュの、左右で色が違う瞳を、間近で見れば眩暈すら感じさせる瞳を、右の瞳は左の目で、左の瞳は右の目で、それが許される距離で、覗きこんだ。
そして、何故、幾人もの少女達がリーシュに惹かれるのか、知ってしまった。
リーシュは、千冬を見ていた。
千冬だけを見ていた。
千冬を世界の中心に置いて、千冬以外の存在を許さず、千冬だけを見ていた。
10代半ばの少女達は、経験の不足から思慮が浅く、思い込みで行動する節があるが、感受性は豊かなのだ。
顔がよく、口が上手く、財力がある。それだけで、幾人もの少女達が、リーシュに恋焦がれ続けるわけがない。一時の麻疹ではなく、添い遂げようとまで思うわけがない。
楯無のように人の裏表を知っている人間までが、そうなのだ。
感受性豊かな少女達が、自分を抱いている男が他の女のことを考えていれば、わからなくても感じるものはある。
自分だけを見ている。
自分にだけ見せる。ではなく、自分だけを見ている。
他の一切を感じさせず、微塵も頭になく、自分だけを求めている。
千冬は、同年代の女性に比べれば、遥かに濃密な時間を過ごしてきた。
嘘を言っているのかどうかくらい、見破ることはわけもない。
リーシュは嘘を言っていない。
千冬だけを見ている。
千冬を抱きたい、と言っている。
こんなもの、わかっていても防げるわけがない。
リーシュは、最悪の、女殺しだった。
青ざめていた肌に、血の気が戻ってくる。
酒のせいだと。
酒の酔いが理性を失わせているのだと、言い訳したかった。
他の誰にでもない、自分自身に言い訳をしたかった。
缶ビールの数本で理性を失うほど酔える千冬ではなく、とっくに醒めていると知ってはいたが、認めたくない。
認めてしまえば、目の前に迫る男をどう思ってしまったのか、認めざるをえなくなる。
リーシュが首をやや斜めに傾け、千冬の顎を少し持ち上げて、千冬は咄嗟に二人の体の間に手を差し込んだ。
リーシュを撥ね退ける力は、湧いて来ない。
だけどもせめて、言わなければならないことがある。
千冬の目つきは更に険しく、顔はガロン単位でウイスキーを飲んだかのように真っ赤になり、リーシュの胸板で乳房が潰され、動悸が伝わっているか心配する余裕はなく、上擦り掠れた声で、リーシュに告げた。
「せめて、カーテンを…………」
最後まで言えなかった。
可愛らしくなった千冬に、リーシュは優しく微笑みかけ、
「キスをしてから」
焦らすことなく、千冬の唇に、唇を重ねた。
床を背にした千冬が後ろに逃げられるわけがなく、リーシュの肩に触れた手は、跳ね除けるどころか掴む形になって。
千冬は自分の意志で、リーシュの唇を受け入れた。
本作は31年末まで予約投稿してあります
本話が出たって事は早くも一年経過