オリシューとISヒロイン(ry 作:user
リーシュはふふんと鼻唄を歌いながらシャワーを浴びていた。
その間にバスタブへ湯を溜めるのも忘れない。
風呂が好きな男なのだ。
実を言えば、ヨーロッパには入浴の習慣がない。
誤解を招く物言いだがリーシュはそう思っており、嘆かわしいことだと日々心の中で叫んでいる。
当たり前だが体を洗う習慣がないわけがない。ただし、日本とは違ってシャワーで済ます者が多いのは事実。バスタブに湯を溜めて入浴したとしても、日本人の目からすればカラスの行水と突っ込みを入れたくなるほど短い。
湯の中で手足を伸ばし、心身を解きほぐす快楽を彼らは知らないのだ。
古代ローマではあれほど入浴が流行っていたと言うのに、嘆かわしいことこの上ない。
その点、日本人は風呂を好む。愛していると言って過言ではなかろう。
その日本人の主導で作られたIS学園の学園寮の大浴場。
いきなりの入寮に眉をひそめ、大浴場と聞いて心ときめかせ、男子不可と突き落とされた。
感じた落胆は、同じくガックリ来て愚痴をもらした一夏以上である。
その際の心の作用が、必要以上に楯無を責めた遠因であったかどうかはリーシュにもわからない。
シャワーで汗を流し、湯につかっていると細かいことがどうでもよくなってしまう。
何も考えず、完全なリラックス状態になることが心身と同等以上に思考へ良い効果があることを知っている。
何よりも、こうもくつろげるのは半月振りなのだ。
二番目のIS男性適合者と報道があってからISの起動実験。IS学園入学の打診と検討。業務の引継ぎ、最終決定者の選定。緊急時の連絡方法。社の理念が浸透しているかの再確認。IS概要及び各国のISバランス。IS学園の調査などなど。
最初の三日間は寝る時間もなかった。正確には心が震えて眠るどころではなかった。
感動ではなく怒りである。
順番が違うのだ。
ISを起動させたから報道があったのではなく、報道があったからIS起動実験が行われた。それ以前はISを見たことはあっても触れたことはなかった。
具体的な手段はわからないが、各国メディアへ同時に情報をリークし、男性であるリーシュでもISが起動できるように手を加える。誰の仕業か考えるまでもないことだった。
「あのウサビッチィ……」
知らず漏れでた呪詛に気付き、湯の中に頭を突っ込んだ。
風呂の中で考えることではない。
こういうのは寒空の下で腕組みしながらたくらむものだ。それが様式美と言うもの。
腹に湧き出た黒いものを湯で洗い流し、髪と顔の水気を手で軽く払ってから風呂から出た。
さすがはIS学園の学園寮である。
学生のための寮であるのに、バスルームに脱衣所がついている。学生が利用するならばトイレとバスが一体のユニットバスでも問題ないだろうにも関わらず、だ。一ヶ月の短期間であったが、リーシュが大学生活を送っていた際はそのような部屋だった。当時は若干の八歳児であったため、隣接するアパートのオーナー宅で過ごすことが多かったが。
脱衣所でバスタオルを掴み、頭に乗せながら部屋に戻る。
最低限の着替えは旅行鞄の中だ。
風呂に入るため、わざわざ脱衣所に着替えを用意するまめさをリーシュは持っていなかった。一人部屋になるのだから、このまま裸で眠ってもいいとすら思っていた。
「じゃ~~~ん。オリシューこんば……ん…………わ……………………」
可愛らしい人間大の狐がいた。
大きなお耳ともふもふっぽい尻尾がキュートである。
つぶらな瞳はまさに小動物であり庇護欲を誘う。
そうか。これが萌えか。萌えなのだな。萌えとは無垢なるものへの庇護欲なのだ。無垢なるものとはか弱い女性、そして何よりも無力無我の幼子である。幼子への庇護欲は子孫繁栄のために決して欠いてはならないものだ。そこから察せられる結論は、萌えとは人類繁栄のためにプログラムされた本能であるのだ。
「キャーーーーーーーーーーーーッッ!!!!! 服! 服着て服!!!」
所詮は想定外の事態がもたらした現実逃避だった。
羞恥心がどうのこうの言う遥か以前に、年頃の少女へ裸を晒すのはマナー違反どころではない問題外。
唯一身を隠せるバスタオルは頭の上。
何もかもを少女へ晒しきっていた。
「すまない! 言いにくいんだが着替えは全てバッグの中だ。俺がそっちへ行ってもいいかな」
きぐるみ少女は後ろを向いたままリーシュの旅行鞄を掴み、後ろを向いたままリーシュの所へ歩いてくる。壁にぶつかって方向を微調整し、口が開いたままの鞄を片手で引きずっているため中身がこぼれているのは見てみない振りをすべき。
「ありがとう」
重さが半分になった旅行鞄を受け取り、脱衣所へ引き返した。
リーシュが体の水気を拭き取り、着替えてから部屋に戻るときぐるみ少女はバスルームから一番遠い壁を前にして立ち尽くしていた。
ドアの音を聞いてぶるりと震える。
居たたまれない沈黙が満ちていた。
「……ちゃんと服着た?」
「あぁ、迷惑を掛けたね。もう大丈夫だよ」
きぐるみ少女はぎこちなく振り返り、リーシュに向き直ることなく一回転して再度壁に顔を向けた。
「着てない! 上! 上! 上もちゃんと着て!」
現れたリーシュの装いは、服装と言うのもおこがましい。ゆったりとした黒いハーフパンツを穿き、以上である。
上半身は裸体のままで、容姿の繊細さからは想像を外れる逞しい肉体をしていた。けして見せ付けたいから半裸でいるわけではない。
「着るものを持ってないんだが……」
裸族まではいかないにしても、部屋着には締め付けのないものを好んでいる。ビジネスの場では一部の隙もないスーツ姿で、靴に時計はもちろんのこと、ボタンにまで気を配っている。面談する相手ごとに装いを変えるのは当然。どのようなコーディネートが最も効果的かを判断出来るのはリーシュだけで、スタイリストは実行のための手足となる。
プライベートがだらしないのはその反動と自己分析していた。
楯無が小さすぎると評した鞄には、部屋着にパジャマをフルセットで入れるスペースはなかった。付け加えると、ホテル暮らしを想定していたのでバスローブで眠ろうと考えていた。
下半身がダメだとはわかっていた。彼女の反応を見るに上半身もダメだったらしい。
「わたしの貸すから!」
「いや、無理だろ」
「いいから!」
「いや、絶対に入らないって」
押し問答の末に制服のワイシャツを着る妥協案が提出され、承認されることとなった。
「昼とはまた違って可愛らしい格好だね、布仏本音さん。こんな時間に何の用かな? まさか誘いに来たわけじゃないんだろう?」
「……誘うってなに?」
「意味がわかる人だけに通す暗号みたいなものだよ。暗号だからわからないのが当たり前かな」
「ふ~~~~ん」
本音は感心したように頷いた。
布仏本音。IS学園1年1組所属。『更識』に仕える布仏の出。楯無の妹、更識簪と同い年と言うこともあり、簪の従者としての立場がある。
リーシュの傍にいて、リーシュを見ているときは間違いなく看視だろう。
そんな表層の情報は本音と言葉を交わして拭い去られた。
リーシュは1組の生徒全員と、短い時間ながらも顔を突き合わせて言葉を交わしていた。ほぼ例外なく、誰もが頬を染め目を反らす中で、本音だけが目を細めて微笑み、
『リーシュでオリオールだからオリシューだね』
と、早速ニックネームをつけてくれた。
ネーミングセンスの是非はさて置き、リーシュは本音へ対して、他のクラスメイトよりも一段と高い好意を感じていた。
全くの余談になるが、一夏も顔を赤らめていた。
昼食時に同席した際、
『男のくせに赤くなりやがって。ぶっ飛ばしてやろうかと思ったよ』
と軽口を叩き、互いに打ち解けた経緯がある。
一夏との友情はどうでもいいが、現状は問題だ。
何故に布仏本音がリーシュの部屋にいるのか。
本音に問うまでもなく、部屋を見渡した瞬間に氷解した。デスクやベッドに見慣れない小物が多い。床にも荷物が転がっている。
「つまり、本音さんが俺のルームメイトになるってことかな?」
「本音でいいよ。オリシューよくわかったね。すごいすごい」
聞きようによっては馬鹿にしている風に思えるが、本音は純粋に感心して手を叩いている。
先に遭遇した時の衝撃からは立ち直ったようだ。
これからよろしく、と握手を交わしてリーシュは固まった。
本音が使おうとしているベッドである。
思い返せば、リーシュの旅行鞄はベッドサイドに置かれていた。となれば鞄の主がそちら側のベッドを使うと考えるだろう。
そこまでは何の問題もない。
「そーいえばこっちのベッドはシーツがないね。なんでだろ~?」
シーツを代えなければならないような事をしたからである。
そんなベッドを本音に使わせるわけにいかなかった。
「本音。わざわざシーツの用意をするのは面倒だろう? 俺がそっちを使うよ」
「大丈夫だよ。わたしだってベッドメイクくらい出来るんだから」
「女性に掛けなくてもいい面倒を掛けるのは嫌いなんだ」
「わ~~っ! オリシューじぇんとるまんだー」
「レディ。お手をどうぞ」
「う~ぃ!」
喜劇であるように思えるが、実のところ突っ込み不在の悲劇である。
とにもかくにも、リーシュはベッドを交換することに成功した。
それが事の始まりだった。
『事』に『間違い』と当てはめるのは楯無。リーシュはシンプルに『始まり』と当て、本音は後に『幸せ』と当てはめた。
三話で終わる予定だったため四話以降は未知の世界
とりあえずの方位をざっと決める
多分十分くらいで決まった
後の全文はここで投げたものがどっかに落ちるまでの軌跡に入れた注釈