オリシューとISヒロイン(ry 作:user
カーテンが閉められ薄暗くなった室内で、リーシュはベッドに横たわる千冬を見下ろし、思考を巡らせていた。
織斑千冬を組み伏して興奮しないわけがない。支配欲と劣情に炙られ、すぐにでも千冬を滅茶苦茶にしてやりたくなるが、暴れる本能を理性で押さえつけた。
リーシュは、千冬を心身ともに屈服させなければならない。
それが千冬のためであり、一夏のためでもある。
一夏が異性からの好意に鈍感なのは、両親から愛情を受けてこなかった影響が間違いなくある。いくら千冬が頑張ろうとも、千冬自身がまだ愛情を必要とする子供だったのだ。これには時間を掛けるか、形から入って実が伴うのを待つか、いずれにせよ時間が掛かる。
それに加え、千冬が姉であることが大きい。
兄妹だと、兄も妹も、どちらも異性受けが良いと言われる。兄は年長者として妹を守ろうとするし、妹は兄の強さを見て育つのだ。一般論にまで落とせるわけではないが、その傾向は確実にある。
それが逆になってしまうと、あまりよろしくない。
弟は姉の強さに萎縮し、女性の強さを刷り込まれてしまう。姉は下にいる弟を見て、それを男の典型と見てしまう節がある。
あくまでも、そのようなケースがあるに過ぎないのだが、千冬と一夏は悪しき典型だった。
強すぎる千冬を見て、一夏は女性は強いものだと思い込み、千冬は一夏を見て、男は守ってもらうどころか庇護対象と、対等ではない格下に見てしまう。
彼女らに、けして非はない。言うなれば環境が悪かった。
リーシュは、二人の外れた道を正さなければならない。
自己弁護を完了してリーシュは千冬へ近づき、軋むベッドに千冬は身を震わせた。
どうでもいい余談だが、一夏がIS学園に入学してから女性への壁を高くしてしまったのは、間違いなくリーシュの存在が大きい。
しばらく前のこと、本音と箒に加え、シャルロットと親しくなったリーシュを見て、声荒く詰め寄ったのだ。
箒のことはどうするのだ、と。
リーシュは事も無げに応えた。
『一生面倒を見るに決まってるだろ?』
何をわかりきった事を尋ねるのか、と。心底不思議そうな顔で言い放った。
箒のみならず、本音とシャルロットのことも同様に。
一夏が受けた衝撃は大きい。
女性と付き合う。即ち生涯共に、即ちゴールインであり人生の墓場であり、覚悟なく迂闊に触れようものなら一生を尽くして責任を負わなければならない。
一夏が学園の女生徒たちへ、一定の距離を持つようになったのは極自然なことだった。
当たり前だが、これもリーシュの策である。
弾との約束を守るためではあるが、見えない鎖で縛り付け、自由を奪う遣り方は卑劣極まりない。
相手を選ばず、誰に対しても悪い男だった。
「早く……しろ…………」
ベッドに寝かされたまま、触れようとしないリーシュに不安を感じたのか、千冬が掠れた声で訴えた。
不安と少しばかりの後悔と、男女との行為を何も知らない自身の無知への羞恥と。
それ以上に、リーシュに抱かれることへの期待と高揚と、触れられた部分から沁みこんで行くような熱さが。
平静でいられるわけがなかった。
「早く? 千冬さんは、何をどう早くして欲しいんですか?」
「なっ……! わ……、わかってるだろう…………」
「わかってるつもりですが、俺と千冬さんの意見が違ってたら困るでしょう?」
「お、お前と言う奴は………………。好きにして、いい…………」
「………………へぇ?」
リーシュ相手に、余りにも迂闊な発言だった。
千冬は、時に突飛な発言をするリーシュを知っているが、女性と二人きりになったリーシュがどうなるのか、全く知らないのだ。
女性相手には、紳士的で優しいリーシュしか見ていないのだ。
女の色香と少女の初々しさを矛盾なく同居させる千冬は、もしかしたらロマンチックな行為を想像していたのかも知れない。
「いいんですね?」
「いい…………。だから、早く……」
言質はとった。
リーシュの口角が、サディスティックに釣り上がる。
千冬はこれからすることを思い、羞恥の余りにリーシュを正面から見ることが出来ず、顔を背けていた。
弟がいるのだから男の裸程度はなんとも思わないのだが、自分が抱かれることになるとは、今日の今まで想像すらしたことがなかった。
準備も予習の時間もなく、頭が茹り、身を強張らせて待つことしか出来ないのだ。
リーシュの指が、千冬に触れる。
千冬は、我を失い、狂いそうな悦楽の中で、リーシュに自身の女を教え込まれた。
リーシュの思惑は順調すぎるほど順調に進み、明後日の方向へ飛んでいくことを、今はまだ誰も知らない。
一方その頃。
クロエの戦場は過熱していた。
簪がぽつりぽつりと語り、鈴音にバトンタッチしたところでセシリアが切れた。
鈴音は、セシリアのように一部始終を事細かに語ったわけではない。ぼそり、と。時間と場所を口にしただけだ。
だが、セシリアは知っている。
その時間と場所で、今まで何が行われてきたのかを。
セシリアだけではない。一年生は全員が知っている。
放課後の室内競技場では、リーシュと鈴音が格闘訓練を行っていたはずだった。セシリアは二人の残酷な格闘訓練を見て、鈴音を信頼したのだ。だのに何が起こってしまったのか、二人が愛を交わす場所に成り果てていた。鈴音には迷惑この上ない話だが、セシリアにとっては許しがたい裏切りだ。
顔を真っ赤に染めて、鈴音に食って掛かった。
自分の話は誇らしく歌い上げたと言うのに、人の話は聞いていられない。
セシリアはわがままなお嬢様だった。
鈴音とて言われるままでは済まさない。
椅子を蹴って立ち上がり、あんたには関係ない、と言い放つ。
二人とも、ISを展開しかねないほどに熱くなっている。
1組のクラス代表と2組のクラス代表。
クラスリーグマッチ再びとなってしまうのか。
二人の様子を、クロエは落ち着いて見守っていた。
話し合いの場で冷静を失い、暴力に走るなど下の下である。
屋内でISを展開し、暴力行為を働くとなれば教職員が、なによりもリーシュが黙ってはいない。
嫌い、見放すことはないだろうが、当分は冷淡にあしらわれてしまうだろう。
それをわかった上で、クロエは手も口も出さなかった。
彼女らをリーシュから引き離すことが、クロエがIS学園に入学した目的なのだから。
「いい加減にしろ!」
楯無が実力行使を考え始めた頃、鋭い声が議場を貫いた。
幼くも鋭い、厳しい声。
年は同じでも、現役のドイツ軍少佐の一喝は、セシリアと鈴音を止めるには十分だった
「貴様らは勘違いしている。嫁は貴様らの玩具ではない。貴様らが嫁のものなのだ」
「…………………………」
「…………………………」
正論のように聞こえる暴論だが、真理を掠めていた。
彼女らが争ったところで、リーシュが首を縦に振らなければどうにもならない。
男女関係とは、一方だけの想いで成立するものではなく、相手がいるものなのだから。
「ラウラさんの仰る通りですわね…………」
「わたしは別にあいつのものってわけじゃ…………」
和解、までは至らなかったが、二人は席に座りなおそうとして、
「そして嫁は私のものだ」
「何を仰るんですの!?」
「何勝手なこと言ってんの!」
ラウラが一言付け加え、二人はまたも立ち上がった。
クロエはリーシュと長い。リーシュの好みは知り尽くしている。リーシュはもっと落ち着いて理性的な、自分のような女性が好みなのだ。
話し合いの場で感情的になってしまうような粗暴な女性は、
「そもそも貴様は一体なんだ? どうしてそんなに私に似ている?」
「誰が誰に似ているというんですか! むしろあなたの方が私に似ているんです!」
特例ゆえの同学年であっても、クロエの方がラウラより年が上なのだ。
後に生まれたラウラの方が似ていると言うべきなのは確かだが、些細なことである。
他人から見れば些細なことであっても、当事者にとっては自身のアイデンティティを揺るがしかねない一大事だ。
ラウラは知らないが、クロエは知っている。
自身の出生を、ラウラの出生も。
認めることなど出来はしない。しかし、外見がこうも似ていれば、ラウラでなくとも両者の関係に思いを馳せてしまうだろう。
結果的に、楯無は助かった。ついでに真耶も助かった。虚もやはり助かっていた。
議長がヒートアップしてしまい、スケジュール調整どころか、それ以前の聞き取り調査すら完了しなかったのだ。
話の流れが元に戻らないように、三人は争う面々へ、こっそりと燃料を囁いていた。純心だった子供も、大人になると汚い技を覚えるものなのだ。
結局は今まで通りに。
リーシュの都合次第という事になってしまった。
不毛な争いに皆疲れ果て、太陽はとうに沈み、一人、また一人と会議室を後にする。
消耗しなかったのは争いから距離を置いていた妹主従と、瞑想していた箒の三人だけだった。
妹主従は何も不安に思うことなく、皆のやり取りを楽しく見守っていた。
この場には楯無がいることだし、荒事にはならないと知っていた。
皆がどれほどリーシュを好きでいるか。どれだけリーシュの事を考えているか。
リーシュの凄さを再確認するようなものだった。
瞑想する箒は、リーシュのことで過度に思い悩むのは無駄なことだと悟っていた。
リーシュを矯正すると言ったのは嘘ではない。
しかし、人を変えるには、先ず自分から変わらねばならないと、リーシュからそれとなく教えられていた。
変えたい相手から諭されるのは本末転倒である気がしなくもないが、それで言葉の価値が変わるわけではない。と、これもリーシュからそれとなく教えられていた。
箒は剣道の実力者だ。瞑想は深く、剣禅一如の境地に近付きつつあった。
「またね、くーちゃん。明後日から楽しみだね!」
「………………ありがとう、ございます」
まともに礼を言えないほど、クロエは消耗していた。
明後日は来ない。
本音には教えたくなったが、言えなかった。
終始のほほんと微笑んでいた本音を裏切るのは心苦しい。しかし、既に決まっていることを覆すことは出来ない。
敗北感と罪悪感で、クロエは力なく項垂れた。
簪はぺこりと頭を下げ、本音と一緒に退室していく。
クロエは、極々基本的なことを見落としていた。そもそも知らなかった。マンガやアニメに触れている鈴音や簪なら知っていたかもしれない。
即ち、男女の恋愛関係において。
障害とは、あればあるほど燃えるものなのである。
クロエがしたことは、彼女らをリーシュから引き離すどころか、リーシュへの想いを強くしただけだった。
「申し訳ありません…………束様…………………………」
窓の外では夕日の残光すら消え果て、クロエの呟きは虚空へ吸い込まれていった。
とぼとぼと一人部屋に戻り、荷物の整理も忘れてベッドの上に座り込む。
今日からリーシュと同室なのだ。
同じベッドで眠ったことはあっても、同じ部屋で暮らしたことはない。束のオーダーが失敗に終わったことは、残念だが仕方ない。
クロエも女なのだ。
過ぎ去ったことは忘れ、これからに胸をときめかせていた。
リーシュの女性関係で気を揉んでも、精神衛生によろしくないだけと、とうの昔に悟っている。
仕方ないことよりも、今夜の事を考えていた方がよほど心ときめく。
ごろんと寝転び、枕を抱きしめる。
もちろん、リーシュが使っている枕だ。
枕に顔を埋め、夕食も忘れてリーシュを待ち続けた。
ひたすらに待ち続けた。
待ち続けた末に、東の空が白み始めた。
リーシュはいまだ、戻ってこない。
「………………………………女の敵……」
クロエは、ほろりと涙を零した。
千冬は僅かな悪寒を感じて、薄っすらと意識を取り戻した。
千冬は、リーシュの上に跨っている。
腰の上ではない。かと言って先ほどした様に、腹の上に馬乗りになっているわけでもない。
千冬はリーシュの顔の上に、跨っていた。
体には何も身につけてない。
タンクトップもブラジャーも、リーシュの手で脱がされた。
リーシュに誘導され、今の体勢になる前に、ジーンズも、パンツも脱がされていた。
どのように脱がされたか覚えている。
リーシュがどのように触れたか覚えている。
甘い快楽に突き落とされても、何が起こったかを千冬は全て覚えていた。
今更ながら羞恥を覚えるが、我を取り戻したところで余裕がないのは同じだ。
リーシュが千冬のどこを見ているか、どこに口付けていたか。
今は中断され、戻ってきた意識が目の前に見つけたのは、リーシュの股間だった。
全て脱がされた千冬に対し、リーシュは制服姿のままでいる。
当然スラックスも履いたままで、千冬の目に映る部分が、不自然に膨らんでいた。中でどうなっているのか。経験がない千冬でもさすがに知っている。
「!」
千冬の太ももを抱き、尻を撫でていたリーシュの手が、千冬の視界に映った。
千冬の乳房を弄るためではない。
ブレザーの前を開き、スラックスのベルトに伸びていた。
千冬の目の前でベルトの止め具が外され、解かれ、スラックスのジッパーが降りていく。
千冬は手伝うでもなく、止めることも出来ず、固唾を呑んで見詰めていた。
「あ……ぅ………………」
一夏のものを見たことはあった。
それは遠い昔のことだし、近年は離れて暮らしていたのだからそのような機会があるわけもなく、千冬の記憶にあるのは、指よりも細い小さなものだ。
幼児ではなく、少年でもなく、青年のものを見たことはなかった。
まして、固くそそり立っているものを見たことがあるわけもなかった。
千冬の目の前で。
それこそ吐息が掛かる、唇から数センチの距離で、リーシュの勃起した男根が顔を出した。
太く大きく。
リーシュ自身が贅肉とは無縁な体をしているのとは全く関係がなく、男根にたるんだ肉がついているわけもなく、千冬の目の前で、逞しくそそり立っていた。
目の前で見せ付けて、一体どうしろというのか。
千冬はわかりきった答えを自問した。
リーシュが自分に何をしていたか、それを考えれば答えは出てくる。
「……あぁぅ…………」
リーシュの腕が再び千冬の太ももを抱え込み、舌で舐め上げる。
何処を舐められたか、千冬にはわからなかったが、千冬の肉体は知っている。
同じ事をしろと、リーシュは言っている。
千冬は目を固く閉じて舌を伸ばし、目の前にある男根に、亀頭に触れた。
舌が触れると同時に、リーシュはゆっくりと腰を浮かせる。
亀頭が千冬の唇に振れ、割って入り、千冬の口の中へ、少しずつ入り込んでいく。
千冬は、歯が触れないように口を開け、受け入れていく。
リーシュの腰がベッドへ沈んでいくのを追いかけるように、千冬は頭を下げていった。
根元まで口に含み、口内で舌を這わせる。経験がなくとも、今している行為がフェラチオと呼ばれることを知っていた。
互いの性器を口や舌を使って刺激しあう今の体位を、シックスナインと、シクスティナインとも呼ぶことを知っていた。
舐めることで興奮し、舐められることで甘い疼きが子宮に溜まり、肉体がより強い刺激を求めているのを、千冬は感じつつあった。
だが、そこへ手を伸ばす前に、再びの悪寒が襲ってきた。
この悪寒には覚えがあった。
毎日とは言わないが、忙しいときには頻繁に覚える感覚。
開放させなければならないのはわかっているが、今この時はいけない。絶対にいけない。
千冬の意識とは裏腹に、悪寒はますます強くなっていく。
意識でどうにかなるものではないのだ。
体が勝手に強張り、下半身が緊張していく。
今、リーシュの顔に跨っている。
絶対に不味い。
「まて――っ!?」
リーシュを止めようと声を掛けた時、外部からの刺激で緊張が否応なく高まった。
あってはならない部分に、あってはならない感覚がある。
異物感。
どこであるか、わかりたくもないが知っている。
リーシュが何かしているのはわかったが、声が出ない。
今度こそ意識して体を緊張させるが、叶わなかった。
異物感からの開放が強制的に体を弛緩させた。同時に、リーシュが強く吸っている。
千冬は悲鳴のような声をあげ、開放されてしまった。
リーシュは、開きつつある千冬の性器を見て、そろそろ、と思い始めた。
整えられた陰毛は、滴る愛液にぐっしょりと濡れている。
千冬や楯無だけではなく、IS学園に所属している女性は全員が陰毛を整えていることに、本音と関係した時点で気付いていた。
レオタードのようなISスーツをまとうのだ。整えなければはみ出てしまう。
尚、リーシュがかつて本音を手酷く怒らせてしまったのは、陰毛を処理している場面を偶々見てしまった時だった。中身は見るに留まらず色々なことをしてしまっているのだが、剃っているのを見られるのは恥ずかしいらしかった。女性とは難しいものである。
始めの内こそ閉じられていた千冬の秘唇は、執拗な愛撫によって薄く開かれつつあった。
着色はなく、陰唇が伸びているようなこともない。
成熟した肉体とは裏腹に、千冬の性器は初心な少女のようだった。そのギャップが、リーシュの劣情を煽り立てる。
それに加え、今は千冬が男根をしゃぶっている。
技術は拙く、口に含んで舐め上げているだけに過ぎないのだが、あの織斑千冬が舐めているのだ。口に含まれただけで、達してしまいそうな興奮を覚えた。
出来れば舐めているところをじっくりと観察し、千冬の羞恥を煽りたいところではあるものの、辱めが過ぎて拗ねられるのは困る。
年長者の意地か、未経験者の強がりか、千冬は面倒臭かった。俗に、処女を拗らせる、と呼ばれる症状だ。
好きにしていいと言ったものの好きにさせてくれず、少しずつ警戒と肉体を解し、69にまで運んだのだ。
面倒ではあるが、その面倒もまた、可愛らしく思える。
自分の色に染めていくのが実感でき、堪らない愉悦を覚える。
リーシュが触れる度に、薄皮を剥ぐように女になっていく。男として、喜ばしくないわけがなかった。
リーシュが千冬から口を離すと、膣口から溢れた愛液が滴り落ち、顎を濡らした。
十分すぎるほどに解れ、感じている。
このまま次に移っていいのだが、一度、深い快感を刻んでしまおうと思ってしまった。
幸か不幸か、リーシュは千冬が感じるであろうポイントを知っていた。
舐めているところから少し上。
膣口から指一本の幅を挟み、薄く色づいた窄まり。
左手の中指を立て、膣口を撫でて愛液を絡めさせる。
意図した行為と気付かれないよう、性器や尻を撫でるついでに指先を這わせ、少しずつ解していったのだ。千冬の呼吸と脈動を読み、緩んだ隙に、千冬の肛門へと突き入れた。
寸前、千冬が何か言いかけたが、止められるわけがなかった。
リーシュの興奮とて強いのだ。泣かれるのなら兎も角として、声を掛けられた程度で止められるわけがない。
中指が第二間接まで、千冬の肛門に埋まり、千冬の体が緊張に固まる。
クリトリスに唇をつけ、強く吸うと同時に指を引き抜いた。
「!」
「あぁっ!? …………あ……あぁあ…………!」
突き入れた指が栓となり、栓が引き抜かれたからか。
それとも、リーシュの唇が吸いだしてしまったのか。
千冬は今まで感じたことのない深い快感とともに、悪寒を開放させてしまった。
喘ぎ声には快感と開放と、絶望の響きが混じっていた。
「……………………」
「うっぅ……………………」
ビールをガロン単位で飲んだのだ。ガロンは容積の単位であり、アメリカとイギリスでは分量が違う。USガロンで約3.8リットルとなる。
アルコールの分解能力が高くとも、体に入れた水分が消えるわけがない。
空調で部屋の温度を調整しても、夏の日差しとリーシュとの行為で、たっぷりと汗をかいてしまった。それが体を冷やしてしまったのだろうか。
千冬を襲った悪寒の正体は、排尿感だった。
よくあることではないけれど、けして珍しいことではない。
リーシュは千冬へ、気にしないよう声を掛けたが、千冬は体を震わせるきりで聞いていなかった。
量が多く、体温が下がったのかも知れない。排尿に伴って体が震えるのは、体が下がった体温を上げようとするからである。
千冬が開放された瞬間、リーシュは反射的に口を閉じ、飛び散らないよう千冬を手で押さえたが、止まるわけがなかった。
幸いにもベッドのシーツを濡らす事はなかったが、その分、リーシュの被害は甚大だった。
制服のブレザーが、ぐっしょりと濡れている。
薄く色づき、微かに臭う。
唇を舐めれば、汗に似た塩気が舌を刺した。
リーシュは、このようなプレイを好んではいない。好んではいないが、珍しいことではないのだ。勿論、似たようなことは何度も経験済みである。さすがに、顔に掛けられたことはなかったが。
放心している千冬の下からそっと抜け出し、バスルームで制服を脱いだ。
浴槽に湯を掛け流し、脱いだ制服を放り込む。シャワーを浴びたいところだったが、千冬をそのままにしておけない。
濡らしたタオルで顔と上半身を軽く拭い、部屋に戻ると、千冬はベッドサイドに立っていた。
依然、全裸のまま。
薄暗い室内だからか、肌は青ざめているように見えた。
顔を伏せているため、前髪が降りて顔を見せない。
異様な雰囲気だった。
異様を決定付けるのは千冬の右手。
千冬の右手には、血に濡れた日本刀が握られていた。
千冬が顔を上げる。
千冬の涙は、赤かった。
亡者のような有様だった。
比喩ではない。千冬は一度死んだのだ。
失禁である。幼児語でお漏らし。幼児がしてしまうものなのだ。
小学生の低学年であれば、同級生から指で差され笑われることだろう。
幼稚園児であれば、保母さんが『あらあらうふふ』と笑いながら着替えを用意してくれるだろうが、してしまった幼児は泣くだろう。
幼児でさえ、恥と知っている行為なのだ。
千冬は、幼児ではない。成人した女性だ。
成人した女性にも関わらず、お漏らし。それだけで致死に値するほどの羞恥であるが、更にその上、男の顔に、憎からず思う男の顔に、掛けてしまったのだ。大量に。
ブリュンヒルデの貫禄も、教師の威厳も、年長者としての意地も、それどころか女として、それ以前の人間としての尊厳ですら、木っ端微塵になってしまった。
千冬の心が死ぬのには、十分すぎた。
亡者が蘇り、生者に何をなすのかは、知れたこと。
木刀を血まみれの日本刀とリーシュに幻視させるほど、千冬には殺気が滾っている。
「貴様を殺して……、私も死ぬ…………」
先の無人機襲撃の比ではない。
真実の、命の危機だった。
翌日、一学期最後のホームルームが始まった。
千冬はいつものように、教壇脇に立っている。
リーシュも、自分の席に着いている。
二人ともに、死なずに朝を迎えることが出来た。
リーシュの尽力により、二人は命を長らえさせることが出来たのだ。
命の危機だったのだ。リーシュの舌も回るというもの。
千冬を刺激しないよう優しい声と笑顔で、失禁がおかしいことではないと、例えを上げて説明したのだ。むしろ、千冬が深く感じた証拠でもある。喜ばしいとも語った。
参考映像も見せた。
リーシュと誰かとの行為だったのだが、リーシュが愛用するバングルには人の顔を自動識別してモザイクを入れる無駄機能があったため、見せることに抵抗はなかった。無駄機能がなかったとしても、命の危機だったのだ。見せてしまったことだろう。
映像では、少女がリーシュに手指で責められて、泣きながら失禁していた。
失禁への羞恥を薄れさせた千冬だったが、それ以上の行為は出来なかった。
映像に出てきた少女は悲鳴のような声をあげて、千冬をたじろがせた。楯無の声は大きかった。
あちらでは秘密が保たれた楯無だが、こちらではそれ以上を暴露されていた。
映像の少女が楯無であると、千冬が気付いたかどうかはわからない。
その夜、千冬はシーツを変えたベッドの上で、リーシュはソファーの上で眠った。リーシュは部屋に戻ろうにも、制服が全滅したのだ。洗い、乾くまで戻れるわけがなかった。
千冬が眠ったのを見計らい、リーシュは千冬が眠るベッドに潜りこんで、しかし手を出すようなことはせず、千冬に背を向けて眠った。
朝、リーシュが目を覚ましたとき、千冬はリーシュの背中にすがり付いて寝息を立てていた。
千冬が夜半に目を覚ましたのか否か、リーシュに知る術はない。
真耶が、いつものように出席を取る。
千冬に、いつもと違う様子は見られない。真耶とは違うのだ。公私を完全に分けるなど、当たり前のことである。
リーシュも、昨夜の事を匂わせるようなことはけしてしない。公私を分けるのは、リーシュにとっても造作もないことである。
出席を取り終え、明日からの臨海学校に向けての話が始まる。
スケジュールや注意点が真耶から話され、最後に千冬から一言あった。
「オリオール。お前の臨海学校への参加は、不許可だ」
「なん・・・だと・・・?」
「貴様、教師に向かってその口の利き方はなんだ?」
「……申し訳ありません、千冬さん…………。いえ、失礼しました。織斑先生」
リーシュと、千冬の視線が真っ向からぶつかった。
睨み合い、視殺戦。
1年1組において、珍しい光景ではない。
千冬が篠ノ之と口にする度に睨んでいたリーシュだ。しばし睨み合い、リーシュが苦々しく視線を逸らし、千冬へ謝罪の言葉を入れて、終了するのが常だった。この日は違った。
教室のあちらこちらから、さざなみのようなざわめきが湧いた。
副担任の真耶が注意しても、生徒達のざわめきは止まなかった。
織斑先生が、織斑千冬が、最強であるブリュンヒルデが、目を逸らした。
リーシュの視線は変わらず千冬を射抜き、千冬がリーシュから視線を逸らしたのだ。
生徒達の、中でも一夏の驚愕は大きい。
千冬が、リーシュの威圧に負けたわけではない。
ただ、睨み合いだろうと何であろうと、リーシュと見詰め合っていれば、思い出してしまうのだ。思い出してしまえば、平静ではいられない。
プライベートなら兎も角として、就業時間帯にそれは不味い。
「…………学園の上と、お前の会社が協議して出した結論だ」
挙句、言い訳めいたことを口にする。
リーシュを臨海学校に参加させないことは、無人機襲撃直後には決定していた。決定直後に話さなかったのはリーシュを懲らしめるため、あえて秘密にしておいたのだ。今となっては無意味となってしまったのだが。
千冬が、言い訳をした。生徒達の驚愕はより大きくなっていく。
特に、リーシュを見る一夏の目は輝いていた。この男になら、姉を任せられるかも知れない。そう思い始めていた。
各種セキュリティを完備したIS学園から離れてしまえば、リーシュの安全が担保できない。リーシュを臨海学校に行かせないための建前である。
リーシュは下手人を睨みつけると、彼女はサングラスを付けたまま、すまし顔で前を向いていた。
社の意見を集約させたのは、クロエである。
リーシュは、年不相応に子供っぽいところがあると知っているクロエだ。臨海学校には、さぞ行きたかったことだろう。しかし、行かせてしまえば、二人きりの時間が取り辛くなる。
一時的にリーシュの恨みを買ったとしても、誰にも邪魔されない二人きりになりたかった。一刻も早く、二人きりになりたかった。
社の意見を集約した結論ではあるものの、発端はクロエの独断である。
クロエとて、独占欲ある女なのだ。
「代わりにクロニクル。お前は強制参加だ」
「異議あり! 私はリーシュ様の護衛として入学したんです――」
「だからこそだ。臨海学校中に、私がお前の実力を見極めてやる」
千冬の言葉は、他意のあるものではない。
昨夜の経験から、リーシュとクロエの関係を薄々察してはいるが、それでどうこうするほど千冬は子供ではない。リーシュの担任として、クロエが入学する前から決めていたことなのだ。
「くっ…………」
クロエが苦々しく着席する。
果たして、この場に勝者がいるのだろうか。
リーシュは、待ち望んだ臨海学校へ参加することが出来ない。
千冬は、体を許しても構わない男を裏切ってしまった。
クロエは、リーシュと二人きりの時間どころか引き離されることになった。
人の世は、勝ち負けだけが全てではない。
誰もが勝者になることがあれば、誰もが敗者になることもあるのだ。
その夜、リーシュはまたも自室へ戻らなかった。
クロエがほろりと涙を流すのだが、クロエの気持ちより自身の感情を優先させた。
千冬の部屋を再度訪れているわけではない。
共犯者の元へ、クレームを付けに訪れていた。
「どうして俺が参加できないんですか?」
「私に言われても困るよ。君の会社から申し入れがあったんだ。厳正な協議の結果だよ」
何故、千冬はリーシュが飲酒している証拠を掴めなかったのか。
リーシュの部屋へ踏み入れることは、昨日まで一度もなかったのだ。現物を掴めなかったのは仕方ないが、何故、空き瓶に空き缶すら見つけることが出来なかったのか。
答えはシンプルで、共犯者が証拠を隠滅していたからだ。
IS学園の、用務員のおじさんである。
「オリオール君はまだまだ十代の子供なんですから可哀そうですよ、あなた」
「さすがに学園長はわかってらっしゃる。こんなおっさんの相手なんかしてないで、俺とどうですか?」
「私みたいなおばさんに何言ってるの」
「見た目の若々しさだけがその人の全てではない。貴女なら、それくらいとうにご存知でしょう?」
リーシュとIS学園の上層部は、言ってしまえばズブズブの関係だった。
自分が入学する学園なのだ。
IS学園の運営については、念に念を入れて調査をしていた。自身が経営者であることから、学園の運営に強い興味を持っていた。
学園長の人となりと学園の運営から察せられる人格。その乖離から、真に学園を動かしているのは誰か。早い段階で気が付いていた。
「夫の前で妻を口説くとは褒められた行為じゃないねぇ?」
目の前で妻が口説かれて面白く思う男は、特殊な嗜好を持っていない限り、いない。
穏やかな風貌を険しく固まらせる壮年の男の名が、轡木十蔵。学園長の夫であり、IS学園の事実上の運営者であった。
「轡木さん。妻は夫の所有であり、いつでも傍にいると思っていたら大間違いですよ? それは前世紀の考えだ。時代遅れも甚だしい」
リーシュはIS学園の実情を把握してから、学園に寄付することを決めた。
寄付は元から考えていたが、金額は未定だったのだ。
学園から保険料として受け取る額の、10倍以上とした。
IS学園の年間予算を、とまではいかないが、数割はカバーできてしまう莫大な金額だ。
勿論、用途には注文をつける。定期的に査察をいれ、使途を厳しくチェックする。
学園は、リーシュの提案を受け入れた。リーシュがわざわざ抜け道を用意したからだ。
寄付金をそのまま使うには厳しいチェックを入れるが、寄付金を運用に回し、そこから得た利益には何の注文もつけない。
当然のように、リーシュの会社へ運用を依頼した。
一見、無意味に見える行為かも知れないが、金とは回さなければ意味がないのだ。
学園は運用益として自由に使える金を手に入れることが出来、リーシュは金を手放すことなく、新たな顧客を手に入れ繋がりを太くすることが出来る。
このように、両者ともに勝者になることはけして不可能ではないのだ。
それはさて置きこの場では、轡木が苦く顔を歪め、リーシュは学園長の手料理を口に運んで口元を隠し、学園長は期待に満ちた視線で轡木を見詰めている。
リーシュが何を言わせようとしているのか、学園長が何を望んでいるか、経験豊富な轡木にはわかってしまった。
「…………あ……、愛してるよ、お前……」
「私もですよ、あなた」
例え夫婦であっても、愛の言葉は重要なのだ。
轡木は年に似合わず頬を染め、学園長はにこにこと満面の笑みを湛えている。
リーシュの口角が釣り上がる。
「よし、乾杯しましょう!」
「あ、ちょ! それは! こないだ君にあげたじゃないか!」
リーシュが立ち上がり、冷凍庫から持って来たのは、千冬に没収されたのと同じ、ラベルの貼られていない四号瓶だった。
凍らせて飲むお酒である。
傾ければ、シャーベット状の日本酒がグラスに落ちてきた。
リーシュがこれだけはと願い、轡木が惜しむ酒。
所謂非売品であり、金があっても手に入らない名酒である。轡木が自身の伝手をフルに使い、ようやく手に入れた秘蔵の酒なのだ。一本は、リーシュのよく回る舌に惑わされ、何故かプレゼントする羽目になっていた。
『乾杯!』
「…………かんぱい……」
一体誰が勝者なのか。
もちろん、誰もが勝者なのだ。
リーシュの舌には鋭く玲瓏と感じられ、学園長には甘い美酒であり、轡木にはほろ苦く感じられた。
同じ酒でも、人によって味が違う。
不思議でもなんでもないことである。