【Rewrite】命のカタチのその先は【瑚太朗×小鳥】 作:千月華音
――24時間前(瑚太朗がアンティークショップ『フォレスト』にいた同時刻)
森の枯草をかき集め、少女の身体を埋めていた。
こんなもので隠せるとは思えない。ガーディアンの中にいる『目』は、鼻が利く者もいる。だが少しでも森の匂いでごまかしたい。小鳥は必死になって泥や枯草で少女を埋めた。
「……ふぅ、こんなものかな」
見た目は――ただの木の根元。
あとはこの上に、苔や草で偽装すれば。
鍵はまだ目覚めない。そういう薬を飲ませた。一時的だが、今はそれでいい。
「――聞いてる?」
樹上を見上げながら、小鳥は挑発するように言った。
「もう時間がないのは知ってるよ。だけど……歌わせない。ギリギリまで。なんでかわかる?」
答えの代わりに、森の木々の木霊が風とともに囁いた。
「あんたたちが魔物にしろと言ったあの男――あいつの子供が出来たかもしれない。笑っちゃうでしょ。あたしのこと、うまく利用したつもりなんでしょうけど、人はね、一人じゃ生きていけないの。ちびもすだってそう。お父さんもお母さんも、あたしはそんなもの欲しくなかった。――おあいにく様! 天王寺瑚太朗はね! あの男は、ただの魔物じゃありません!」
風が――ざわめいた。
「わかる? ……そう、ドルイドの技術だけじゃないよ。鍵の知識も貰った。そりゃ頭がパンクしそうになったよ。脳を針でかき混ぜられてるみたいな激痛で死ぬ思いをした。……あはは! 耐えられたのは奇跡だよ!」
――ザワ……
風が止んだ。
纏わりつく湿った匂い。探るような空気。
小鳥は。
いま初めて、――森の敵意を感じた。
「……あたしたちの邪魔、しないで。もうここには来ない。……え? ああ、うん、使命ね。忘れてないよ。そういう約束だし。でも瑚太朗くんは、あげないから。あたしの身体でもなんでも、切り刻めばいいじゃない。お腹の子供ごと持っていけば? いいサンプルになるんじゃない」
もっとも。
そんな暇もないかもしれないけど。
鍵が発動すればあっという間だ。それこそ一瞬で世界が終わってしまう。
「それでも――種は芽吹くよ。何もなくなっても、地球は残る。いつまた進化が起こるか、それは誰にもわからないけれど、あたしが彼を生かしたように、……命は続いていくの」
さようなら。
進化の終わった種族達。
小鳥は泥だらけの手で顔をグイっとふき取ると、振り返ることなく立ち去った。
時計を見る。
――22時。
浴室内のデジタル時計の表示を見ながら、小鳥はあと2時間か、と湯の中で膝を抱えた。
こんなことって、あるんだろうか。
普通に何も知らない彼と一緒にテレビを見たり、ゲームをしたり、マンガでも読んだりして、じゃれ合いながらセックスでもして、そうしてキスでもしながら――消えていく。そんなふうに思っていた。
それが。
48時間耐久セックスレースなんて。
瑚太朗くんらしい。スケベすぎる発想でお腹が痛い。笑っちゃうほど彼らしい。
……言ってみる?
あと二日で世界は終わるって。
言ってもどうせ信じられないだろうな。あたしの言うことなら、信じようとするだろうけど。……でも。
何も……知らないでいて欲しい。
世界中でこれを知ってるのは、あたしと、ガーディアン幹部の人たちと、ガイアの中枢にいる人たちだけ。
もしかしたら。
瑚太朗くんのご両親も――気づいているかもしれない。
そうか、それで電話を……。最後に瑚太朗くんの声が聞きたかったんだろうな。
あたしにあんなこと言ったのも、そうなんだ。
……おじさん、それにおばさんも。
瑚太朗くんのこと、とても大事に思っているんだ。……いいな。
瑚太朗くん、いいな。ずるい。あんなにいいご両親がいるのに、邪見にして。……もっとも。
入院する前の彼の両親は、厳しい人たちだった。
瑚太朗くんが家出したのもわかる。中学時代の彼は、荒れていた。いつも寂しそうだった。
かといって、今のおじさんおばさんの過保護ぶりは、逆に彼を警戒させてしまっている。
難しいものだな。
ホント、家族っていう枠組みは、あらゆる人間関係の中で最も難しいものだ。
「小鳥、……着替え、ここに置いておくぞ」
浴室の外から、躊躇いがちの声が聞こえた。
めずらしい。いつも一緒に入ろうと誘ってくるのに。
「瑚太朗くんの、服?」
「下着はないけどな」
「ちゃんと洗ってくれた?」
「まだ洗ってない」
「……っ! 洗え! バカ!!」
「いやだ」
「~~っっ!! あのね! それないと、あたし、外に行けないんだけど!」
「行かせると思うか?」
「…………」
「さっき小鳥の家に行ったよ。誰もいなかった。家の中も片付いていた。……なにがあった?」
「…………」
撃ち殺した。
そうは言えなかった。
もう利用価値はないから。いや……利用されたくなかった。
「……旅行に行くって」
「いつ戻るんだ」
「収穫祭までには……」
「……小鳥。おまえの部屋に行ったんだけどな、服がひとつもないんだ。おまえの下着すらなかった」
「…………」
「下着を漁るなと怒らないのか?」
「瑚太朗くん」
「うん」
「下着、洗わなくていいよ。捨てちゃって」
「……小鳥」
「服なんていらない。どうせずっと抱くんでしょ」
「……言っただろ」
「なにを?」
「二人だけの結婚式をしようって。俺はおまえを妻として扱いたい。だから俺のものを着せたいんだ」
「…………」
「そりゃ、本当に着せたいのはスケベ下着だけど……」
「いいよ。……着てあげる」
「ほんとか?」
「そのスケベ下着とやらは、見てみないことには、なんとも言えないけど。瑚太朗くんの服、着てあげるよ」
「…小鳥」
「時間までは、しないんだよね?」
「ああ」
「じゃあ……少し一人にさせて」
「わかった。あんまり長風呂するなよ」
立ち去る音を聞いた後。
湯の中に顔を突っ込んで涙を流した。
「……っっ」
……バカ。
なんで嬉しいの。
瑚太朗くんの言葉で、あたし、死んでもいいと思うほど幸せに満ちた。
ずっと。
ずっと、一人で……。
今まで生きてきたのは、きっと、この時のため。
もうあたし、瑚太朗くんがいれば、他になにもいらない。
「……バカ。……それどんな下着よ。……着てあげよっかな」
胸で光る宝石のついたお月様。
瑚太朗くんがくれたネックレスが、お湯の中でキラキラと輝いていた。
瑚太朗くんの部屋に行くと。
何やらパソコンに向かってマウスをクリックしていた。
「なにしてるの?」
覗き見ると、――呆れた。
女の子の裸体。しかもそういう行為の最中のCGだった。画面下の枠には女の子の喘ぎ声みたいなものが書いてある。
「これがエロゲ」
マウスをクリックすると、
『いやあぁぁん……! あうっ、はあああんっっ! イ、イっくぅぅぅ……!』
すごい音量で女の喘いでいる声が、聞こえた。
「…………」
「ご感想は?」
いや、あの。
どう言えばいいんだ。
見たまんまを言えばいいのか。
「可愛い子だね」
黒髪の、目が大きな胸のでっかい女の子。
いまどきのエロゲって、こんなに絵が可愛いのか。
「声優もいいんだ」
「そ、そう…」
「この娘は最初のルートで攻略できるんだけどな。……ほら」
画面が切り替わる。
今度は、海辺でたたずんでいる一枚絵。……こっちの絵のほうが幻想的で可愛い。
瑚太朗くんがロードした画面を出してきた。女の子と親しくなっていく様子がわかる。そうか、この女の子、画家なのか。それも天才画家らしい。
主人公も、どうやら彼女を尊敬しているみたい。
……いや、待て。
この主人公、なんかおかしいぞ。
なんでヒロインにエロ本なんか見せてんだ。
「実はこのシーンが一番気に入ってる」
場面はこうだ。
女の子が主人公の部屋に泊まることになった。
その部屋の押し入れに、隠していた画材や主人公の描いた絵を見ていくうちに、さらに奥から主人公愛蔵のエロ本――同人誌? とかいうのが見つかり、彼女が興味を持ってしまった。
主人公は必死になって言い訳するようにそのエロ本を解説、しまいにはふたなりの百合はアリだなとか言い出す始末。
……ふたなりってなんだ?
「小鳥さん? そっちのロード画面はだな、まだ見るのは早いぞ」
「なんで?」
「おまえに言わせたいセリフが書いてある」
「…………」
「ゲームなんかじゃなく、おまえの口から直接聞きたい」
「エロいセリフかなんかでしょ?」
「いや、……そうだな、心にくるエロさだな」
「そんなに強烈なんかい!」
「……俺だけに言って欲しいんだ」
――ドキッ……
瑚太朗くんの、……突き刺さる視線。
あたしをジッとみてる。パジャマの隙間から空いた胸元まで、舐めまわすようにねっとりとした視線で。
興奮――している。
それも、今までとは比べものにならないくらい。
下を見るのが怖い。きっととんでもなく膨張している。今まで抜いてなかったんだ。これを見ていても、あたしとするまで、興奮を維持したままでいる。
それほど……。
彼は、真剣なんだ。
「他のエロゲでも見てみるか?」
「……いい」
「おすすめは『ヌキゲーみたいな島に住んでる貧乳はどうすりゃいいですか?』ってやつで」
「いいっつってんだろ!」
「おまえとエロゲをするのが夢だったのに」
「あのねえ! どこの世界に、付き合う彼女にエロゲを見せる彼氏なんかがいるの!」
「案外いるかもしれないぞ」
「いるか!」
「だっておまえ、エロゲだって知らなかったとき、俺と一緒に見てたじゃないか」
ぐっ……。
それは本当に不覚だった。
だって本当にただのミステリー小説みたいだったんだもん……。
「あのときやったエロゲはな」
「もういいってば! 解説すんな! 瑚太朗くんのバカ! もっと情緒のあること言ってよ!」
「…………」
「なんでこんなエロいゲームなんかでキラキラした目をしてるの? 普通、女の子を抱く前って、精神修養みたいな無我の境地になるんじゃないの?」
「そりゃどこの坊さんだよ」
「そうじゃなくて……! そういうこと言いたいんじゃなくて! あたしは、もっと、こう……!」
「小鳥」
瑚太朗くんの手が。
あたしの手を握った。……熱い手。
「わかるか?」
「…………」
「手だけじゃない。下もとんでもない熱を孕んでいる。さっき体温計ってみた。38度だったよ」
「か、風邪?」
「頭は冴えてるんだ。ただ身体が熱い。……俺、いま、上書きした」
「上書き?」
「おまえを抱くために、身体の一部を書き換えた。俺の……能力なんだ」
「へ……?」
「超能力みたいなもんだよ」
「…………」
「信じてないだろ」
「……なにそれ?」
「オカ研作った理由も、そのひとつだ。例えばさ……、クラスでかけっこが一番早いやつがいるとするだろ?」
「うん」
「俺はそいつを簡単に追い抜くことができる」
「なんで?」
「簡単なんだ。新陳代謝を早めればいい。細胞のひとつひとつを活性化させる。それをそいつがゴールする寸前で、瞬間的に増幅させればいい。そいつは自分がゴールしたと思って後ろを振り向くが、俺はすでにそいつの前にいるんだ」
「…………」
「体力だけじゃない。学力テストなんかもそうだ。一夜漬けなんか必要ない。テストの問題を見るだろ、その問題の方程式を手繰り寄せるだけだ。どんな学科だろうと問題さえ見ればほんのわずかの知力で済む」
「…………」
「バレない程度にやればいい、そう思っていたが、俺は――日常的に使っていた。なんの疑いもなく。それが普通だったからだ」
「……だって瑚太朗くん、テスト、いつもビリから2番目だよ」
「わざとだよ。本当は授業なんて受けなくても、教科書なんか見なくても、解けるんだ。わざと間違えていた」
「なんでそんなことを?」
「小鳥は俺を化け物だと思うか?」
「……ううん」
「そう思わない人間が多いってだけだ。……おまえに話したのはな」
瑚太朗くんの手が。
あたしの手を男根に押し当てた。
ズボン越しなのに、なんて、熱……。
「この熱を受け止めて欲しかったんだ」
「……ホテルのときより熱くない?」
「あのときは射精で熱を増幅させていた。今度は陰茎そのものに上書きしたんだ」
「……???」
「あの熱い精液はおまえの中を壊してしまうからな。妊娠してるのにそれはマズいだろ」
「いや、まあ、熱かったけど……ちゃんと終わってくれたじゃない」
「あんなもので終わるわけがないだろ」
「……へ?」
「途中で終わらせたんだ。おまえを病気にしたくなかったから」
「…………」
「だけど今度はうまくいくと思う。……いや、いってみせる。この熱に馴染むまでやるからな」
「……瑚太朗くん」
「ん?」
「どうもね……、その……、なんていうか」
「なんだよ」
「思考がエロすぎて、ついていけない……」
「悪かったな」
「それで、その、スケベ下着ってのは、なんなの?」
「興味ある?」
「……いや、今はいい」
「あとで着せてやるからな。ちゃんと小鳥のサイズで注文したんだ」
「……あたしのスリーサイズ、どこから」
「日々のセクハラから」
「…………」
「さて……、あと1時間か。なんか飲むか? 飯はさっき食ったよな。アイスでも食う?」
「食う!」
「じゃ、持ってくるよ。ついでに酒でも飲もうぜ。この際だ、親父秘蔵のナポレオンでも開けてやるか」
「あたし、飲めないよ」
「俺が口移しで飲ませてやるよ」
「はわぁ…」
「酔った小鳥とセックスするのもいいな」
「ねえ、瑚太朗くん」
「ん?」
「あたしを瑚太朗くんの妻にしてね」
「…………」
「そういうセックスでお願いします」
「……ああ。あと1時間経ったら、おまえは俺のものだ」
こめかみに軽くキスをされた。
その唇からも、彼の熱が伝わってくる。
……ああ、あたし。
ものすごく愛されるんだ。
どうしよう。幸せすぎて死んでしまうかも。
もうエロくてもいい。ムードもへったくれもないけど、この際変態でも構わない。
変態どころか、超能力者だったのか。
あ……。
そうか。
それで、瑚太朗くん――ガーディアンに入ったんだ。
なあんだ。そっか。そういうことか。
…………。
…………。
…………。
あれ?
超人――って、ことは。
あたしのしたことは……。
「小鳥?」
「あ、……アイス、食べたいな!」
「よしよし、待ってろ」
頭を撫でてから部屋を出る瑚太朗くんを見送り。
考えを巡らせていた。
何かを見落としている――そんな不安がよぎった。
瑚太朗がやってたエロゲは『サクラノ刻』です。
筆者が大好きなエロゲでもあります。
直哉がかっこよすぎる……。(主人公)
で。
いつになったら始まるのかというと、次回です。
いま苦戦中ですが、楽しいです。