※この作品はR-18です。

【Rewrite】命のカタチのその先は【瑚太朗×小鳥】   作:千月華音

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婚礼の詩(うた)③

 

 

 

 ――24時間前(瑚太朗がアンティークショップ『フォレスト』にいた同時刻)

 

 森の枯草をかき集め、少女の身体を埋めていた。

 こんなもので隠せるとは思えない。ガーディアンの中にいる『目』は、鼻が利く者もいる。だが少しでも森の匂いでごまかしたい。小鳥は必死になって泥や枯草で少女を埋めた。

「……ふぅ、こんなものかな」

 見た目は――ただの木の根元。

 あとはこの上に、苔や草で偽装すれば。

 鍵はまだ目覚めない。そういう薬を飲ませた。一時的だが、今はそれでいい。

「――聞いてる?」

 樹上を見上げながら、小鳥は挑発するように言った。

「もう時間がないのは知ってるよ。だけど……歌わせない。ギリギリまで。なんでかわかる?」

 答えの代わりに、森の木々の木霊が風とともに囁いた。

「あんたたちが魔物にしろと言ったあの男――あいつの子供が出来たかもしれない。笑っちゃうでしょ。あたしのこと、うまく利用したつもりなんでしょうけど、人はね、一人じゃ生きていけないの。ちびもすだってそう。お父さんもお母さんも、あたしはそんなもの欲しくなかった。――おあいにく様! 天王寺瑚太朗はね! あの男は、ただの魔物じゃありません!」

 風が――ざわめいた。

「わかる? ……そう、ドルイドの技術だけじゃないよ。鍵の知識も貰った。そりゃ頭がパンクしそうになったよ。脳を針でかき混ぜられてるみたいな激痛で死ぬ思いをした。……あはは! 耐えられたのは奇跡だよ!」

 ――ザワ……

 風が止んだ。

 纏わりつく湿った匂い。探るような空気。

 小鳥は。

 いま初めて、――森の敵意を感じた。

「……あたしたちの邪魔、しないで。もうここには来ない。……え? ああ、うん、使命ね。忘れてないよ。そういう約束だし。でも瑚太朗くんは、あげないから。あたしの身体でもなんでも、切り刻めばいいじゃない。お腹の子供ごと持っていけば? いいサンプルになるんじゃない」

 もっとも。

 そんな暇もないかもしれないけど。

 鍵が発動すればあっという間だ。それこそ一瞬で世界が終わってしまう。

「それでも――種は芽吹くよ。何もなくなっても、地球は残る。いつまた進化が起こるか、それは誰にもわからないけれど、あたしが彼を生かしたように、……命は続いていくの」

 さようなら。

 進化の終わった種族達。

 小鳥は泥だらけの手で顔をグイっとふき取ると、振り返ることなく立ち去った。

 

 

 

 

 

 時計を見る。

 ――22時。

 浴室内のデジタル時計の表示を見ながら、小鳥はあと2時間か、と湯の中で膝を抱えた。

 こんなことって、あるんだろうか。

 普通に何も知らない彼と一緒にテレビを見たり、ゲームをしたり、マンガでも読んだりして、じゃれ合いながらセックスでもして、そうしてキスでもしながら――消えていく。そんなふうに思っていた。

 それが。

 48時間耐久セックスレースなんて。

 瑚太朗くんらしい。スケベすぎる発想でお腹が痛い。笑っちゃうほど彼らしい。

 ……言ってみる?

 あと二日で世界は終わるって。

 言ってもどうせ信じられないだろうな。あたしの言うことなら、信じようとするだろうけど。……でも。

 何も……知らないでいて欲しい。

 世界中でこれを知ってるのは、あたしと、ガーディアン幹部の人たちと、ガイアの中枢にいる人たちだけ。

 もしかしたら。

 瑚太朗くんのご両親も――気づいているかもしれない。

 そうか、それで電話を……。最後に瑚太朗くんの声が聞きたかったんだろうな。

 あたしにあんなこと言ったのも、そうなんだ。

 ……おじさん、それにおばさんも。

 瑚太朗くんのこと、とても大事に思っているんだ。……いいな。

 瑚太朗くん、いいな。ずるい。あんなにいいご両親がいるのに、邪見にして。……もっとも。

 入院する前の彼の両親は、厳しい人たちだった。

 瑚太朗くんが家出したのもわかる。中学時代の彼は、荒れていた。いつも寂しそうだった。

 かといって、今のおじさんおばさんの過保護ぶりは、逆に彼を警戒させてしまっている。

 難しいものだな。

 ホント、家族っていう枠組みは、あらゆる人間関係の中で最も難しいものだ。

「小鳥、……着替え、ここに置いておくぞ」

 浴室の外から、躊躇いがちの声が聞こえた。

 めずらしい。いつも一緒に入ろうと誘ってくるのに。

「瑚太朗くんの、服?」

「下着はないけどな」

「ちゃんと洗ってくれた?」

「まだ洗ってない」

「……っ! 洗え! バカ!!」

「いやだ」

「~~っっ!! あのね! それないと、あたし、外に行けないんだけど!」

「行かせると思うか?」

「…………」

「さっき小鳥の家に行ったよ。誰もいなかった。家の中も片付いていた。……なにがあった?」

「…………」

 撃ち殺した。

 そうは言えなかった。

 もう利用価値はないから。いや……利用されたくなかった。

「……旅行に行くって」

「いつ戻るんだ」

「収穫祭までには……」

「……小鳥。おまえの部屋に行ったんだけどな、服がひとつもないんだ。おまえの下着すらなかった」

「…………」

「下着を漁るなと怒らないのか?」

「瑚太朗くん」

「うん」

「下着、洗わなくていいよ。捨てちゃって」

「……小鳥」

「服なんていらない。どうせずっと抱くんでしょ」

「……言っただろ」

「なにを?」

「二人だけの結婚式をしようって。俺はおまえを妻として扱いたい。だから俺のものを着せたいんだ」

「…………」

「そりゃ、本当に着せたいのはスケベ下着だけど……」

「いいよ。……着てあげる」

「ほんとか?」

「そのスケベ下着とやらは、見てみないことには、なんとも言えないけど。瑚太朗くんの服、着てあげるよ」

「…小鳥」

「時間までは、しないんだよね?」

「ああ」

「じゃあ……少し一人にさせて」

「わかった。あんまり長風呂するなよ」

 立ち去る音を聞いた後。

 湯の中に顔を突っ込んで涙を流した。

「……っっ」

 ……バカ。

 なんで嬉しいの。

 瑚太朗くんの言葉で、あたし、死んでもいいと思うほど幸せに満ちた。

 ずっと。

 ずっと、一人で……。

 今まで生きてきたのは、きっと、この時のため。

 もうあたし、瑚太朗くんがいれば、他になにもいらない。

「……バカ。……それどんな下着よ。……着てあげよっかな」

 胸で光る宝石のついたお月様。

 瑚太朗くんがくれたネックレスが、お湯の中でキラキラと輝いていた。

 

 

 

 

 

 瑚太朗くんの部屋に行くと。

 何やらパソコンに向かってマウスをクリックしていた。

「なにしてるの?」

 覗き見ると、――呆れた。

 女の子の裸体。しかもそういう行為の最中のCGだった。画面下の枠には女の子の喘ぎ声みたいなものが書いてある。

「これがエロゲ」

 マウスをクリックすると、

『いやあぁぁん……! あうっ、はあああんっっ! イ、イっくぅぅぅ……!』

 すごい音量で女の喘いでいる声が、聞こえた。

「…………」

「ご感想は?」

 いや、あの。

 どう言えばいいんだ。

 見たまんまを言えばいいのか。

「可愛い子だね」

 黒髪の、目が大きな胸のでっかい女の子。

 いまどきのエロゲって、こんなに絵が可愛いのか。

「声優もいいんだ」

「そ、そう…」

「この娘は最初のルートで攻略できるんだけどな。……ほら」

 画面が切り替わる。

 今度は、海辺でたたずんでいる一枚絵。……こっちの絵のほうが幻想的で可愛い。

 瑚太朗くんがロードした画面を出してきた。女の子と親しくなっていく様子がわかる。そうか、この女の子、画家なのか。それも天才画家らしい。

 主人公も、どうやら彼女を尊敬しているみたい。

 ……いや、待て。

 この主人公、なんかおかしいぞ。

 なんでヒロインにエロ本なんか見せてんだ。

「実はこのシーンが一番気に入ってる」

 場面はこうだ。

 女の子が主人公の部屋に泊まることになった。

 その部屋の押し入れに、隠していた画材や主人公の描いた絵を見ていくうちに、さらに奥から主人公愛蔵のエロ本――同人誌? とかいうのが見つかり、彼女が興味を持ってしまった。

 主人公は必死になって言い訳するようにそのエロ本を解説、しまいにはふたなりの百合はアリだなとか言い出す始末。

 ……ふたなりってなんだ?

「小鳥さん? そっちのロード画面はだな、まだ見るのは早いぞ」

「なんで?」

「おまえに言わせたいセリフが書いてある」

「…………」

「ゲームなんかじゃなく、おまえの口から直接聞きたい」

「エロいセリフかなんかでしょ?」

「いや、……そうだな、心にくるエロさだな」

「そんなに強烈なんかい!」

「……俺だけに言って欲しいんだ」

 ――ドキッ……

 瑚太朗くんの、……突き刺さる視線。

 あたしをジッとみてる。パジャマの隙間から空いた胸元まで、舐めまわすようにねっとりとした視線で。

 興奮――している。

 それも、今までとは比べものにならないくらい。

 下を見るのが怖い。きっととんでもなく膨張している。今まで抜いてなかったんだ。これを見ていても、あたしとするまで、興奮を維持したままでいる。

 それほど……。

 彼は、真剣なんだ。

「他のエロゲでも見てみるか?」

「……いい」

「おすすめは『ヌキゲーみたいな島に住んでる貧乳はどうすりゃいいですか?』ってやつで」

「いいっつってんだろ!」

「おまえとエロゲをするのが夢だったのに」

「あのねえ! どこの世界に、付き合う彼女にエロゲを見せる彼氏なんかがいるの!」

「案外いるかもしれないぞ」

「いるか!」

「だっておまえ、エロゲだって知らなかったとき、俺と一緒に見てたじゃないか」

 ぐっ……。

 それは本当に不覚だった。

 だって本当にただのミステリー小説みたいだったんだもん……。

「あのときやったエロゲはな」

「もういいってば! 解説すんな! 瑚太朗くんのバカ! もっと情緒のあること言ってよ!」

「…………」

「なんでこんなエロいゲームなんかでキラキラした目をしてるの? 普通、女の子を抱く前って、精神修養みたいな無我の境地になるんじゃないの?」

「そりゃどこの坊さんだよ」

「そうじゃなくて……! そういうこと言いたいんじゃなくて! あたしは、もっと、こう……!」

「小鳥」

 瑚太朗くんの手が。

 あたしの手を握った。……熱い手。

「わかるか?」

「…………」

「手だけじゃない。下もとんでもない熱を孕んでいる。さっき体温計ってみた。38度だったよ」

「か、風邪?」

「頭は冴えてるんだ。ただ身体が熱い。……俺、いま、上書きした」

「上書き?」

「おまえを抱くために、身体の一部を書き換えた。俺の……能力なんだ」

「へ……?」

「超能力みたいなもんだよ」

「…………」

「信じてないだろ」

「……なにそれ?」

「オカ研作った理由も、そのひとつだ。例えばさ……、クラスでかけっこが一番早いやつがいるとするだろ?」

「うん」

「俺はそいつを簡単に追い抜くことができる」

「なんで?」

「簡単なんだ。新陳代謝を早めればいい。細胞のひとつひとつを活性化させる。それをそいつがゴールする寸前で、瞬間的に増幅させればいい。そいつは自分がゴールしたと思って後ろを振り向くが、俺はすでにそいつの前にいるんだ」

「…………」

「体力だけじゃない。学力テストなんかもそうだ。一夜漬けなんか必要ない。テストの問題を見るだろ、その問題の方程式を手繰り寄せるだけだ。どんな学科だろうと問題さえ見ればほんのわずかの知力で済む」

「…………」

「バレない程度にやればいい、そう思っていたが、俺は――日常的に使っていた。なんの疑いもなく。それが普通だったからだ」

「……だって瑚太朗くん、テスト、いつもビリから2番目だよ」

「わざとだよ。本当は授業なんて受けなくても、教科書なんか見なくても、解けるんだ。わざと間違えていた」

「なんでそんなことを?」

「小鳥は俺を化け物だと思うか?」

「……ううん」

「そう思わない人間が多いってだけだ。……おまえに話したのはな」

 瑚太朗くんの手が。

 あたしの手を男根に押し当てた。

 ズボン越しなのに、なんて、熱……。

「この熱を受け止めて欲しかったんだ」

「……ホテルのときより熱くない?」

「あのときは射精で熱を増幅させていた。今度は陰茎そのものに上書きしたんだ」

「……???」

「あの熱い精液はおまえの中を壊してしまうからな。妊娠してるのにそれはマズいだろ」

「いや、まあ、熱かったけど……ちゃんと終わってくれたじゃない」

「あんなもので終わるわけがないだろ」

「……へ?」

「途中で終わらせたんだ。おまえを病気にしたくなかったから」

「…………」

「だけど今度はうまくいくと思う。……いや、いってみせる。この熱に馴染むまでやるからな」

「……瑚太朗くん」

「ん?」

「どうもね……、その……、なんていうか」

「なんだよ」

「思考がエロすぎて、ついていけない……」

「悪かったな」

「それで、その、スケベ下着ってのは、なんなの?」

「興味ある?」

「……いや、今はいい」

「あとで着せてやるからな。ちゃんと小鳥のサイズで注文したんだ」

「……あたしのスリーサイズ、どこから」

「日々のセクハラから」

「…………」

「さて……、あと1時間か。なんか飲むか? 飯はさっき食ったよな。アイスでも食う?」

「食う!」

「じゃ、持ってくるよ。ついでに酒でも飲もうぜ。この際だ、親父秘蔵のナポレオンでも開けてやるか」

「あたし、飲めないよ」

「俺が口移しで飲ませてやるよ」

「はわぁ…」

「酔った小鳥とセックスするのもいいな」

「ねえ、瑚太朗くん」

「ん?」

「あたしを瑚太朗くんの妻にしてね」

「…………」

「そういうセックスでお願いします」

「……ああ。あと1時間経ったら、おまえは俺のものだ」

 こめかみに軽くキスをされた。

 その唇からも、彼の熱が伝わってくる。

 ……ああ、あたし。

 ものすごく愛されるんだ。

 どうしよう。幸せすぎて死んでしまうかも。

 もうエロくてもいい。ムードもへったくれもないけど、この際変態でも構わない。

 変態どころか、超能力者だったのか。

 あ……。

 そうか。

 それで、瑚太朗くん――ガーディアンに入ったんだ。

 なあんだ。そっか。そういうことか。

 …………。

 …………。

 …………。

 あれ?

 超人――って、ことは。

 あたしのしたことは……。

「小鳥?」

「あ、……アイス、食べたいな!」

「よしよし、待ってろ」

 頭を撫でてから部屋を出る瑚太朗くんを見送り。

 考えを巡らせていた。

 何かを見落としている――そんな不安がよぎった。

 

 

 




瑚太朗がやってたエロゲは『サクラノ刻』です。
筆者が大好きなエロゲでもあります。
直哉がかっこよすぎる……。(主人公)
で。
いつになったら始まるのかというと、次回です。
いま苦戦中ですが、楽しいです。
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