【Rewrite】命のカタチのその先は【瑚太朗×小鳥】 作:千月華音
――1年半前
車から降りた瑚太朗くんが自分の家を見上げた。
どうもまだピンとこないようだ。首を傾げている。自分の家だと言われても実感が湧かないらしい。
やはり記憶処理は成功していた。
病院から付き添ってついてきてよかった。これを確認したかった。
「じゃあ、あたしはこれで」
「…っ?! おい、待てよ!」
手を引っ張られた。
思わずつんのめってしまった。とっとっと――、と躓きそうになるのを彼の腕が支えた。そのまま成り行きのように抱きしめられる。
おい。
どさくさに紛れて胸を触るんじゃない。
「瑚太朗くん、――手!!」
「行くなよ! なに帰ろうとしてんだ」
「手を離せっての! いや帰るもなにも、あたしの家は隣なんだけど」
「は……?」
無理やり引き剝がして離れると、すぐ隣の家の表札を指さした。
「こうべ?」
「かんべ! 神戸小鳥だ! 瑚太朗くんの家は、こっち!」
隣の家だとわかると、少し安心したのか、ホッとした顔をした。
――が。
また手を引っ張られた。
「ちょ…」
「ついてきて」
「はあ?」
「家の中まで、頼む」
「あのねえ…」
「あの親がいるんだろ?」
あの親。
退院しても病院に来ることはなかったが、家にはいるらしい。瑚太朗くんの帰りを待っていた。
なぜかお見舞いには一度も来なかった。いや――来ていた。ただ会うのを避けていた。
それはそうだろう。瑚太朗くんから両親の記憶を消したのはあたしなのだから。
消したというより、記憶操作の過程でほぼ覚えてない状態になったわけだが。
彼のご両親には申し訳ないと思うけれど……。
手を握る瑚太朗くんの哀願する表情。
――仕方ないか。
今まであまり接触することがなかったわけだし。
「……いいよ」
「小鳥っ」
「抱きつくな!」
ついでにキスしようとすんな!
ひっつく瑚太朗くんをなんとか離し、家のチャイムを鳴らした。
すぐに玄関の扉が開いた。
「瑚太朗――!」
おばさんが飛び出して、瑚太朗くんに抱きついた。
うわ……おばさん、やつれた。あんなに痩せちゃうなんて。おじさんも後ろで泣きそうな顔だ。
抱きつかれた瑚太朗くんは、戸惑うように隣のあたしを見た。
いいから、といった顔で促すと、瑚太朗くんがおばさんを抱きしめかえした。
「元気になってくれて……本当に……本当に……」
「すまないね、小鳥さん。家にまで付き添ってもらって」
「いえ…」
「ちゃんとご飯は食べていたの? 顔色もよくなって、……うぅっっ」
「…………」
「さあ、入りなさい。ちゃんと部屋もそのままにしてあるからな」
「えと……その」
「じゃあ、あたしはお邪魔みたいなので」
「行くなよ!!」
「…はい?」
「そうよ、小鳥ちゃんも一緒にご飯、食べていってくださいね。あなたには本当になんて感謝したらいいか……」
「いや、あの、あたしは」
「すまないが、瑚太朗を部屋まで案内してやってくれないか」
…………。
どうしてこうなるの!
なかば無理やりといった感じで天王寺家の敷居をまたいだ。
くそお、早く帰って魔物を作らないといけないのに。結界もそのままだし、やらなきゃいけないことがたくさんあるのに。
瑚太朗くんが手を引っ張ってくる。……今日だけだからね!
彼の荷物をおばさんに渡し、諦めたように2階にあがった。
自分の部屋についても、瑚太朗くんは他人の家みたいなよそよそしさを感じているようだった。
「…………。なんか、ぜんぜん散らかってないな」
「前は瑚太朗くんが出て行ったまま、散らかってたけど、さすがに片づけたみたい」
「出て行った?」
しまった。
家出したことは彼の記憶から消えていた。
「……入院する前、ってことだよ」
「ふうん。……なあ、あのさ。俺、なんで入院なんかしてたんだ?」
おかしいな。
整合性あるように操作しておいたはずなのに。
「事故でね、ずっと意識不明だったの」
「そっか。……心配、かけたんだな」
「いいご両親でしょ?」
「そうか? 見舞いにも来なかったんだぜ」
来てたんだよ。
ただ怖かったの。見た目の全然変わらない息子に、普通に接することなんてできない。
いまみたいな普通に嬉しそうに振舞えるようになるまで、ずいぶん時間がかかってるんだよ……。
「小鳥、こっちに来い」
「へ?」
「いいから」
ベッドの隣を、ぽんぽん、と叩く瑚太朗くんに、なんだかわからないけど促されるまま座った。
すると――。
肩を引き寄せられ、胸の中に抱きしめられた。
「ちょっ…!」
「小鳥の匂いがする」
「…っ! どんな匂いだ! ていうか、離せっ!!」
「いやだ」
「瑚太朗くんっ!」
「もう小鳥に会えなくなるのはいやだ!」
……へ?
なんのこと?
会えなくって……隣の家にいるんですが。
「お隣に、いるよ?」
「違う、そうじゃなくて……いや、それはそれで嬉しいけど」
「毎日会えるじゃない」
「毎日は無理だろ」
「まあ、……そうだね。学校にも行かなきゃだし」
「俺も行く」
「あ、そうだ。瑚太朗くんの入学手続きとってくれたって、おじさんが」
「小鳥と同じ学校?」
「そう、同じ高校」
「同じクラス?」
たぶん同じだろう。
おじさんから瑚太朗くんの世話を頼まれている。
障害持ちであることを、クラスメートに周知させて、本人には気づかれないようにとのことだ。
「一緒のクラスだよ」
「…ならいい」
「ね? 明日迎えに行くから、一緒に行こ?」
「…………」
「早起き大丈夫? モーニングコールしよっか?」
「小鳥の声で?」
「小鳥さんが起こしてあげよっか」
「代わりに野鳥の鳴き声を電話口に流すんじゃないだろうな」
……バレたか。
朝っぱらから瑚太朗くんのセクハラボイスなど聞きたくはない。
「んーとね、小鳥さんの声を聴きたいなら、千円で」
「たけぇな、おい!」
「一音千円ね。文字数が多ければ多いほどいいよ」
「それ数千円じゃきかねぇだろ!」
「野鳥の声ならタダだよ」
「……いい。払うから、小鳥の声で」
「払えるの?」
「なんかかなりの小遣いをもらった」
ポケットから通帳を取り出して、中を開いて見せてくれた。
……小遣いって額じゃないぞ、これ。
高校生に与える金額ではない。もっとも瑚太朗くんの年齢は、……なるほど。これ、あれだ。ガーディアンからの労災かなんかだ。職務中の事故だし、瑚太朗くんは障害年金も受け取っている。
……それにしてもかなりの金額。10年近く使ってなかったからか。
振込先は瑚太朗くんのお父さんの口座からになっている。
全部、息子の口座に入れたのか。……おじさんらしい。
「小鳥。……さっきから通帳とにらめっこしてるが、おまえ、金に弱いの?」
ぎくり。
お父さんの遺してくれたお金はまだあるけど……そろそろなんとかしないと尽きてしまう。
といってお金を稼ぐ手段は、…………。緑化運動でもやってみるか。風祭市で奨励してる奉仕活動だ。いわばボランティア。だけど街の住人からの信頼を得られる。生活する手段も見つかるかもしれない。
「それ、やるよ」
とんでもないこと言いやがった!
「ダメ! これは瑚太朗くんのお金なんだから、ちゃんとしまっておきなさい!」
「…小鳥」
「瑚太朗くんのお父さんが、瑚太朗くんのために残しておいてくれたお金なんだよ。今は使い道がなくても、お金っていうのはいつどこで必要になるかわかんないんだから」
「……なんかやけに実感のある言葉だな」
「いや、その……あたしのことはいい! いいからこれは、ちゃんと金庫にでも入れて、そんなポケットに突っ込むんじゃない!」
「小鳥」
瑚太朗くんの手から通帳を取り、どこかにしまおうと立ち上がったそのとき。
また抱き寄せられた。
しかもなんだ、今度は髪に顔を埋めてやがる……!
セクハラもいい加減にせい!
「あのねえ! ちょっと、瑚太朗くん、離れてってば!」
「小鳥、……俺と恋人になって」
「……へ?」
「付き合って欲しい」
「…………」
「もうおまえがいないと、俺ダメなんだ」
「…………」
「入院中に何度も言っただろ」
……言ってたけど。
本気で言ってるの?
…………。
瑚太朗くんの告白は、何度かあった。
中学の卒業式の日にも告白された。断ったが。
諦めずに何度も告白してきているが、これで……ええと、何回目だろ。
そのたびに記憶操作してるが、もういい加減、疲れた。
何回やり直しても告白してくる。
たぶん、自宅に戻ったことと、学校に通うことへの情緒不安定があるのかもしれないけど。
……仕方ない。
落ち着かせれば、なんとかごまかせるかもしれない。
「……あのね。瑚太朗くん。髪の匂いを嗅ぐの、やめて」
「俺の髪の匂いは嗅いでたくせに」
「あれは嗅いでたんじゃなくて、梳いてたの! ……たく、これ普通にセクハラだから、やめて」
「小鳥、返事は?」
――ちっ。ごまかせていない。
「小鳥さんはそういうのよくわかりません」
「何も難しいこと言ってないだろ。俺と付き合ってくれって言ってるだけだ」
「あのねえ! なんか勘違いしてるようだから言うけど、瑚太朗くんがダメっていうのは、あたしに清拭してもらえなくなること言ってんでしょうが!」
「…………」
「あれは入院してたからなの! もう普通に生活できるんだから、いいでしょ?」
「小鳥に拭いてもらえなくなるのは嫌だ」
「いい加減にせい! 女の子を口説くのに見返りなんか期待すんな! 学校行って別の女の子でも見つけなさいよ!」
「……そうしてもいいのかよ」
「瑚太朗くんなら引く手あまたでしょうよ。わりとイケメンだし。正体はただのスケベだけど、うまく隠せばなんとかなるでしょ。だからさっさと離し……っっ、……っ?!」
瑚太朗くんの顔が。
キスしようと迫ってきていた。
やだ……!
腕を突っ張って思いきり突き放した。
「――アセット。…………■■■■、……■■■」
――バタン……
瑚太朗くんがベッドに倒れた。
あ、危なかった……。
もう少しでキスされるところだった。
リミッターは……大丈夫、解除した。修正しないと。表層人格の形成法……パターンを、以前とは違うものを。
倒れた瑚太朗くんにのしかかる。
額と額を合わせて、脳内シナプスを検索した。……ここを、ほんの少しだけ変えてみる。
いけるか?
「……起きて」
パチッ――、と指先を鳴らすと、瑚太朗くんの目が覚めた。
「……小鳥?」
辺りを見回している。
「あれ……? 俺の部屋……いつの間に」
組み換え――成功。
ほっ、とため息をつくと、ベッドから離れて微笑んだ。
「今日退院したんだよ」
「そうか、……小鳥が連れてきてくれたのか?」
「うん。あたしはそろそろお暇するね」
「あ、待てよ。なんかいい匂いするから、母さんが夕飯作ってるぞ。小鳥も食べて行ったら?」
「あたしはいいよ。せっかく退院した日なんだし、家族でどうぞ」
「……そっか。悪いな、じゃあ、またな」
「うん。明日、学校でね」
学校に行くという情報は残しておいた。
これで明日の朝、迎えに行けば問題ないだろう。
…………。
これでいいんだ。
余計な感情なんて必要ない。
入院していた瑚太朗くんにした数々の観察行為が、彼の感情を昂らせたなんてことは、あってはならない。
問題は。
彼がまた感情を揺り動かすようなことがなければいいのだけど……。
……気持ち悪い。
吐きそう。
家に帰ってから、洗面所で思いきり吐いていた。吐くものがなくなっても胃液がドバドバと出てくる。目の前がチカチカする。胸が熱い。
「こうなることを望んでたはずじゃない……っ!!」
――バンッ……!
鏡を叩きつけた。
「くうん……」
「ちびもす…」
心配そうに足元に寄ってきたちびもすを抱きしめる。命の鼓動を感じる。仮初の命なのに、こんなに暖かい。
「あたしね……好きな人、できちゃった」
しかも。
自分で作った魔物だ。
作ったというより組み替えた。そうしなければ彼は死んでいた。でも、助けるつもりなんてなかった。森が囁いたからだ。この男は利用価値がある――と。
そのつもりだったのに。
なのに。
なんで……。
こんなに……苦しいの。
「くぅ…ん」
「ごめんね。ちびもすは悪くないよ。そう、……誰も悪くないの」
…………。
瑚太朗くんを、――利用なんてさせるか。
普通に学生生活を送らせてあげるんだ。普通は……たぶん無理だろうけど。クラスのみんなはぎこちないだろう。隠し通すことがプレッシャーになる。だけど瑚太朗くんにそれを気づかせるわけにはいかない。
元の――元というか、もともとそうだったのか、よくわかんないけど。
セクハラ好きの男の子に、一旦、戻してみようか。
ただ、……よくわからない。いつからそうだった? 入院中は確かにスケベだった。あたしの身体にしょっちゅうセクハラしていた。スカートの中に手を突っ込まれたこともある。ひっぱたいたけど。
目覚めたばかりの頃の瑚太朗くんは、そうだった気がする。
あれが元の瑚太朗くんなの?
あんなスケベなやつが?
…………。
あたしの憧れを返せ。
いや、まあ、どうでもいいけど。
……だけど。
学校に行って、他の女の子にちょっかいをかける姿なんて、見たくない。
いやだ。あの瑚太朗くんはあたしのものだ。抱きしめてきて、告白を迫って、キスしようとしてきた――あの彼は、あたしだけのものなんだから。
いずれ……元に戻る。
時間が経てば、入院中の記憶も少しずつ戻っていく。
日々の生活が記憶の整合性を合わせ、あたしに告白したことも――…………。
でも。
瑚太朗くんには、何も知らないまま過ごして欲しい。
お願い。
篝、――瑚太朗くんに、近づかないで。
彼を取らないで。……お願いだから。
ベッドに下ろされ、再び口づけられた。
なんて、激しいキス……ついていくのがやっと。舌をすくい上げ、絡み取り、喉まで押し込めてくる。
瑚太朗くんの情熱が伝わってくる。
あたし……愛されてる。こんなに愛されていたなんて知らなかった。彼の想いをここまで読めていなかった。
あ……。
あたしの……髪。
口づけの合間に髪にひと房、口づけた。匂いを嗅いでいる。そのまま髪に顔を埋めた。
……なにしてんの?
キスはどうした。
「…瑚太朗くん?」
キスが途中までなんだけど。
そう言おうとしたが、頭を抱きしめられて再び髪に顔を埋めてきた。
おい。
いい加減に……。
「……あのときこうしたかった」
瑚太朗くんの低い声が、耳元で響いた。
熱い吐息。興奮はまだ続いている。だけど声音は落ち着いていた。
「あのとき?」
「退院した日だよ」
「…………。覚えてるの?」
「小鳥に告白しただろ」
「…………」
「ショックだったよ、他の女の子でも見つけたら? なんて言われて」
「…………」
「あのとき、俺、おまえを抱くつもりだったんだ。親がいようと関係なく。むしろ見られたら既成事実になる。それくらいの気持ちでいた」
「…………」
「小鳥の髪の匂いに、どうしようもなく昂って……抱きしめた身体の細さに、身震いするほど興奮した」
「だ、だって……あたし……普通に帰ったよ」
「それなんだよ。なんで俺、小鳥を帰したのか、いまだにわからない。そのときの記憶がすっぽり消えている。だけど……小鳥を抱きしめたのだけは、はっきりと覚えている」
……覚えている?
というより、思い出した?
ありえない……。消したはずだ。
「入院中も、ずっと小鳥の髪の匂いを嗅いでいたんだ」
「はい……?」
「ほら、清拭するとき、顔を拭くだろ。小鳥の髪がさ、俺の顔に落ちてきて」
「そんなに近づけてたっけ?」
「俺が小鳥の髪を引っ張った」
「……そういや、そんなこともあったような」
「いい匂いがしたんだ。髪だけじゃなくて、近づいた小鳥の吐息とか、なにもかもすべてがいい匂いだった」
「あの……別に香水とかつけてたわけじゃないんだけど」
「そんなんじゃなくてさ、女のフェロモンみたいなもんだよ」
「あのね……」
「まあ、あの頃は毎日小鳥を見てたからな。今もそうだけど、入院中のほうがおまえの顔ばかり見ていたよ。目を瞑っていても小鳥の顔が浮かぶんだ。それくらい……見惚れていた」
「み、見惚れて?」
「恋したんだ。――おまえに」
――ドキッ……
見つめる瑚太朗くんの、真剣な瞳にたじろいだ。
数々のセクハラ行為はそういうことだったのか。
瑚太朗くんの想いに、気づいてはいたけれど……。
当時はそれを受け止める気にはなれなかった。瑚太朗くんへの後ろめたさもあったから。
「だからショックだったんだ。告白をスルーされたこともそうだけど、俺がなんで好きなのかを訊こうともしないおまえに、まるで気持ちが伝わっていない気がして」
「なんで……?」
「今から教えてやるよ。俺がおまえを好きになった理由はな」
「…うん」
「俺の命を救ってくれたからだ」
――っっ?!
うそ……っ?!
知るはずがない!
落ち着け。
瑚太朗くんが知るはずがないんだ。一度死んだのだから。
この人は、一度死んで、再び生を与えられた。
だから、――話をすり替えてみよう。
「えと……救ったって、あたしはお見舞いに来てただけだよ」
「そうだな。毎日3時間も、1年以上も、見舞いに来てたよな。おまえだけだった。親も来なかったのに、小鳥だけは毎日来てくれたな」
「ご両親はね、……いろいろあってね、本当は来てたんだよ。でも、会うのを躊躇って……」
「俺さ、親父とよく話すんだ。その頃なんで来なかったのか、問いつめたよ。お袋にもきいてみた。なんて言ったと思う?」
「なんて言ってたの……?」
「小鳥の邪魔をしちゃいけないという気持ちがどうしても邪魔したんだってさ。変だよな。別に小鳥がいないときでも構わないのに。だけどその強迫観念みたいなものがずっとあったらしい」
そう。
あたしが遠ざけた。瑚太朗くんの両親を。
観察の邪魔をされたくはなかったから。
「なんであんなに毎日来てたんだ?」
「それは……」
「俺としては嬉しかったけどな。毎日小鳥の顔が見られて、日々胸が大きくなっていくおまえを見られて」
「……っ、そんなとこばっかり見て!」
「あの生意気そうな口の減らないガキが、ずいぶん大きくなったなぁって」
「……え?」
「苦労したんだろ、小鳥」
「…………え? ……、……え?」
「死体処理はちゃんとしておけ。おまえん家の地下室はコンクリートで埋めといた。圭介さん、土木関係の仕事してたんだよな。庭の倉庫にあったからそれを使わせてもらった」
「……………………」
「なに、鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔してんだ」
「……瑚太朗、……くん」
「ありがとな、小鳥。おまえのおかげでこうしておまえを抱くことができるんだ。感謝の言葉もないよ」
「――っっっ!!!!」
涙を堪えて。
瑚太朗くんの腕の中から逃れようと起き上がったが、――後ろから抱きしめられた。
「離してっっ!!」
「小鳥」
「違う! 瑚太朗くんは死んだの! こんなのってありえないっ!!」
「俺は生きてるよ」
「違う違う、違うっっ!! あんたは誰?! 魔物じゃないなら幽霊かなんかなのっ?!」
「俺の能力、教えただろ?」
「能力って……上書き?」
「そう、上書きだ。命の欠片を使う能力なんだ。ほんのひと雫でも注ぐだけで万能の力を手繰り寄せられる。……わかるだろ?」
「まさか……」
「おまえが使った命の生成と同じやり方だ」
「ど、どうしてそれを?」
「全部を思い出したわけじゃない。それに思い出したのは――ついさっきだ。おまえが風呂に入ってるときな、鍵が来たんだよ」
「……っ?!」
「少女の見た目をしていた。それで思い出した。俺は彼女を殺そうとして、逆に殺されかけたってな。どうやらおまえは俺が死んだと思って魔物生成技術で蘇らせようとしたようだが」
「…………」
「俺は死を上書きして魂の書き換えをした。生まれ変わりみたいなもんだ。だから記憶はなくなる。でもな、さっき――鍵が返してくれたんだ。俺の記憶。圧縮して、とっておいてくれた。それで小鳥がしたこともわかったんだ」
「…………」
「あと二日で世界は終わるんだってな。教えてくれたよ。だけど、――小鳥をよろしく、ってさ。最後まで一緒にいてあげてくれって」
「……っ」
「小鳥……身籠ってくれて、嬉しいよ」
「だ、……って……っ! もう、……意味、ないっっ」
「そんなことないさ。だって新しい命なんだ。鍵だって喜んでいたぞ」
「うそ……」
「別の枝世界でそれを見たそうだ」
「枝世界?」
「俺と小鳥が夫婦になってる世界がある」
「そう……なの?」
「俺とちはやが夫婦になってる世界もあるそうだ」
「うそ……っ?!」
「まあ、それを見ることはできないが……。小鳥と夫婦になることはできるだろ?」
「……うん」
「小鳥……結婚しよう」
「……はい」
「やっと、プロポーズに応えてくれたな」
「瑚太朗くん、……なんだね」
「うん?」
「あたしの知ってる、昔からの……瑚太朗くん……だったんだね」
「そうだよ」
「……こんなにスケベだったんだ」
「男はみんな、スケベなの」
「……ずるい」
「なにが?」
「こんなにスケベで変態なのに……大好きなんだもん。ずるいよ。……瑚太朗くん」
「ん?」
「抱いて……ください」
「ああ、最初から飛ばしていくぞ。……俺にしっかり掴まってろ」
涙を流す小鳥を、唇で涙を拭いとり、――そして。
最後の性交が始まった。
次回予告詐欺ですみません(苦笑)
ですが、やっと書きたかった部分が終わりました。
小鳥を幸せにしてあげたかったんです。
彼女が惹かれた、10年前の瑚太朗――彼に、会わせてあげたくて。
実際こんなスケベではなかったと思いますが。
もう少しだけ続きます。よろしければお付き合いください。