【Rewrite】命のカタチのその先は【瑚太朗×小鳥】 作:千月華音
――33時間前
「ふん、ふん……♪」
寝そべってノートパソコンを見ているのは、鍵――篝だった。
瑚太朗の父親が所有しているものだった。勝手に部屋に入って盗……もとい拝借した。Wi-Fiがあるので簡単にネット接続できた。その辺の知識は以前、瑚太朗の部屋に侵入……もといエロゲ等を漁……更にもとい、忍びこんだときにいろいろパソコンを弄って得たものだった。
暗くて狭い場所だが、こういう場所が彼女には落ち着いた。そう、ここは。
瑚太朗の部屋の真上、屋根裏部屋にあたる場所だった。
「おお……。小鳥の脚がこれほど広がるとは。あまり苦しそうには見えませんが、……瑚太朗もやりますね」
監視カメラの映像である。
今まさに二人がセックスの最中のライブ中継映像だった。
彼女には覗き見という概念がない。
これはガーディアン本部が仕掛けたカメラからの映像をハッキングしているだけの、ただの監視だ。他の人間も同じことをしているのだから、鍵である自分がしても何も問題がない。
二人の性交をつぶさに観察することにより、彼女は彼女なりに瑚太朗の能力を見極めようとしていた。
何しろ。
ガーディアン本部の極秘ファイル――これもハッキングから得た資料だが――には、天王寺瑚太朗がかつて能力者の力を喪失させたという記録があった。
それも性交による可能性が高いとあり、俄かには信じられなかった。そんなことが出来るのを知っていて、なぜ彼をただの監視対象としているだけなのか。まあ要危険人物ファイルの中にはあったのだけど。
「……なんと」
小鳥が絶頂した。
それもあんな下着――およそ下着の意味がないような、局部を曝け出すような下着をつけた状態で、その感度がどれほど高いのか見ただけでわかる。
なるほど……。
乳首の動き。いま瑚太朗が吸い上げているあそこを、ああすることで、小鳥の感度がよりあがる――と。
それにしてもなんという腰の動きなのか。まるでゴムまりのように跳ねている。それほど瑚太朗の陰茎の動きが凄まじいのだろう。あそこまで突き上げられたら、それこそ腹部全体を圧迫されて苦しくなりそうなのに、小鳥のあの表情……あれが快楽というものなのか。
篝は。
人間の快楽をこのとき初めて見た。
生殖のため、それだけの性交ではないということを小鳥の表情から窺うことができた。瑚太朗も同じなのかと思って見てみると。
「…………」
わからない。
ただわかるのは、瑚太朗は満足していないということだ。
あれほど小鳥を悶えさせておいて、しかもあれほど多く射精――結合部から溢れる量を見ればわかる――しているのに、小鳥のような満ち足りた表情はまったく見られない。
男の性欲がそれほど強いということだろうか。
いや――これでも瑚太朗のエロゲをいくつかやってみた経験から、女よりも男のほうが射精による快感が強いということはわかる。それに一度出せばほとんどそれで満足している。もっともゲームによる表現といえばそれまでだが。
この男は女に自分と同じ性欲を求めている。
能力喪失はその行き過ぎた欲求の副産物だろう。小鳥ではおそらく瑚太朗を満足させられないかもしれない。すでに小鳥は瑚太朗の上書きによる影響を受けている可能性が高い。
「ここは……篝ちゃんの出番でしょうか」
あの男を懲らしめてやりたい。
性交とは男だけのものではない。女の包容力こそが肝要なのだ。それをあの男はわかっていない。
ただ……。
今さら、二人の間に割って入っても、瑚太朗が篝に興味を示すかどうか。
瑚太朗の趣味はなんとなくわかっている。篝では、あまり性欲をそそられないだろう。どうすれば。
――ポン。
手を叩く。
我ながらナイスアイディア。
人類滅亡と引き換えならば、乗ってくるに違いありません。
もともと瑚太朗の種は、頂くつもりでしたし。サンプルとして。
早速星と交渉してみましょう。――え? 45時間以内に帰還せよ? それなら好きにしていいと?
では。……おっと。
どうやら浴室へと向かったようです。あそこにはカメラがないので詳しくは見れませんが、それまで少しの間、ここで休んでいるとしましょう。
……すやすや。
「ふう……。ここはこんなものか」
立ち寄った形跡を残し、罠を仕掛けた。ここにおびき寄せられた追手は、自分たちが死のトラップに嵌ったことを知る時、すでに手遅れだということに気づくだろう。
だが。
…………。
ガーディアンの中には、ルチアと静流もいる。
あいつらもおそらくは埋めこまれている。俺ですら気づいていなかった。わかったのは瀕死になったとき、上書きをしようとしたそのときだ。モグリの医者に乱暴に摘出してもらってようやく自分が危険な組織にいることがわかった。だが、――結局。
いや。
篝と出会えた運命に感謝しよう。
それにもう決めたんだ。たとえ人類を滅ぼしてでも……またあいつに会いたい。
「――っ?!」
気配。
ビルの隙間に身を潜めた。……三人。見た目からして、……Sランクの能力者。
やるか。
なるべく派手な動きはしないほうがいい。やるなら一瞬だ。どうやら追手のようだが。
「……こちらA区画。暗対の姿は確認できず。……はい、痕跡はあります。今からそちらと合流――っ?!」
脚力を瞬時に増幅させ、三人の目をナイフで潰した。一瞬怯む。その隙に――!
「ぐあっっ!!」
起爆装置を起動させた。そう、コードはすでに解読している。生体モニターでチェックしていたそのデータごと盗んだ。なので網膜パターンをさっきすでに暗視スコープで読み取っておいた。
これで……。
バタッ――、と倒れた三人の刺客を見下ろした。……こんなに呆気なく死ぬものか。やはり能力者に対しての警戒は思っていた以上だった。おそらくは電磁パルスのようなものが脳細胞を一瞬で破壊するのだろう。これではどんな能力者でも対処する暇もない。
……俺。
これを、ルチアと静流にも、……やるのか。
だが、そうしないと……。…………。
その場から立ち去り、顔を上げた。
やるんだ。
もう決めたことだ。
時間もない。この地にいる能力者をすべて殺さないと、鍵は起動しない。
無線のインカムを押した。
「小鳥、そっちはどうだ?」
『来たよ。およそ8人。網膜パターンは照合済み。いまから別のポイントに行くね』
「悪いな。妊娠中だってのに」
『もう今さら何言ってんのさ。時間がないんでしょ』
「ああ、……気をつけろよ。絶対に見つかるんじゃないぞ」
『わかってる。……委員長はまだ来てないよ』
「そうか」
『……やるの?』
「例外はない。あいつらも駆り出されてるだろう。俺がやるから、おまえはただ報告すればいい」
『…………』
「小鳥、もう決めたことだ。じゃあ一旦切るからな。何かあったら無線で知らせろ」
あと10時間。
それまでにすべて片をつける。
――3時間後(場所:ガーディアン本部地下指令所)
緊急アラートが鳴っていた。
特SSランク緊急事態宣言発令。すべての能力者は暗対――天王寺瑚太朗を抹殺せよ。
その指令で追われていた。
「――どういうことだ! なぜ能力者の起爆コードが解除されている?!」
「暗号を解読された模様です! コードを書き換えようとしてもウイルスがばら撒かれて対処の仕様がありません!」
「くそっ! このままだと生体モニターも停止せざるを得なくなる!」
「どう対応すればっ?!」
「とにかく早く天王寺を見つけて殺すしかない! やつと行動を共にしているはずの神戸小鳥も同様にだ!」
「江坂司令! モニターを……!」
「な……っ?!」
すでに。
市内に張り巡らされていた包囲網の生体モニターが……一桁になっていた。
この短時間で。
やつは――数百人の能力者をやったというのか?!
「……私が出る」
「ですが、あなたを失うわけには!」
「ここは放棄する。君たちは避難したまえ。この地下壕にはシェルターがある。能力者ではない君たちなら生き延びることができるかもしれない」
「江坂……司令」
「私がケリをつける。全員撤退――通達を」
それでも。
現場にいる彼らは命令を無視するだろう。
仲間をこれだけ殺されたのだ。彼らの憤りは深い。……私も含めて。
「……天王寺」
鍵を――発動させるつもりか。
やはりあのとき、殺しておくべきだった。
見逃したのは……。
「……私も、年をとったな」
江坂は、長年使っていない日本刀を取り出した。
「……あと二人」
いや、……三人か。俺を含めて。
ふう……。
腕、……大丈夫だ、これくらいなら汚染能力でなんとか。
足もまだ動く。一応上書きで身体能力は書き換えてあるとはいえ、……やっぱり能力者相手だとキツい。
小鳥はもうパワースポットに篝を運ばせていた。あいつのいる場所は、いまのところ一番安全だ。
あとは、俺が……。
くそ……。
目が霞む。
しっかりしろ。
これくらいの怪我、たいしたことないだろ。戦場だともっとヤバかったときがいくらでもあった。
……10年のブランクがあるからな。
意識がなかったのは、上書きの影響だ。身体中の細胞を入れ替えたわけだからな。そりゃ時間もかかるか。
なんで……。
俺なんかをずっと観察してたんだ。
小鳥だけじゃない。おまえだ、おまえ。――篝。
知ってるぞ。
病院の窓の外から覗いてただろ。
俺、目を開けてたから。見えてなかったと思ってるだろうけど、見てたよ。しっかり。……ただ見てただけだけど。
意識はなかったけどな。
でも見た記憶はちゃんと残っている。……たまに窓から入ってきたな。俺の顔を触ってたりしてた。
柔らかい手だった。
キスのひとつでもしてくれたら、目覚めたかもしれないのに。
小鳥が見舞いに来た後だったな。夜中とか。夜行性なんだろうか。どうでもいいが。
心配そうに覗き込んでいた。
たったそれだけの、――それしかない、接触。
だけどさ。
嬉しかったんだ。
意識はなかった。でも……。
一人じゃないんだって思えたから。
俺なんかを気遣うやつが、ここに二人もいるんだって、そう思ったらなんだか……。
ずっと微睡んでいたくなった。
……篝。
おまえを、……連れ戻すからな。
待ってろ。
俺はしつこいんだ。執念深いんだ。諦めが悪いんだ。
おまえがオッケーしてくれたんだから、その責任はちゃんと取れ。
「……来たか」
森の入口。
いつも小鳥が居眠りをしている大樹の根元。――その近くに。
かつての師が佇んでいた。
「……お久しぶりです」
「記憶が戻ったのだな」
「ええ。……長いことご無沙汰してました」
「それがこの有様か」
「自分の身は自分で守れと、そうあなたに教わったので」
「確かに。――ではもう、お互い言い残すこともないな」
居合――抜き打ち。
この人の抜刀術は瞬時で決まる。……ならば。
本気を――出す。
――キィイイイン……!
ナイフを構えた。最大の器を解放した。俺がいま出せるすべての上書きで書き換える……!
脱稿しました。
⑱まで連続投稿します。
最後までお付き合いください。