【Rewrite】命のカタチのその先は【瑚太朗×小鳥】 作:千月華音
この話ではエロがありませんが、続けて投稿する話ではエロになります。
小鳥は基本、どこででも寝られる。
眠ければ場所を問わずに居眠りする。授業中でも、公園でも、森の中でも。
だが――眠いはずだが。
俺の腕の中にいる時に限って、なかなか寝てくれなかった。
「はーなーしーてーっっ!」
昨夜からほぼ一睡もせずにセックスしていた。
明け方頃に睡魔に負けて寝てくれたが、それから目が覚めた後はもう、抵抗ばかりして寝てくれそうもない。
学校に行くのだと言ってきかない。
出席日数が足りないから、だとか。そろそろヤバいらしい。そういえばよく小鳥は欠席していた。
だが。
今日ばかりは休んでもらう。ていうか寝てもらう。時間はまだ8時前だが、せめて昼くらいまでは眠って欲しい。
「学校には俺から連絡するから」
「…なんて言うつもり?」
「風邪ひいて寝込んでいるので俺が看病しますって」
「昨日までピンピンしてたんだけど?!」
「ある意味、腰が立てないだろ?」
「誰のせいだ!」
「いいから寝てろ。まだ中に注いだものもそのままだろ」
「シャワー浴びさせてよ! 綺麗に洗い流してやる!!」
「えー……せっかく出したのに」
じゃあ、せめて。
「俺がやってやるよ」
「結構ですっ!!」
全力で否定された。
小鳥は脱いだ服を拾ってベッドから降りようとしたが、その腰を掴んで引き寄せた。
「ちょっ……!」
「小鳥さん。今日は何の日だ?」
「はい?」
「俺たちが結ばれた日の朝だ」
「……はい?」
「いわば初夜みたいなものだ。古典で習っただろ。昔の平安貴族は初夜が明けると、三日夜の餅を男女で分け合って食べる習慣があったって」
「…で? それがなに?」
「つまりだな、初めてを分かち合うというのは、おめでたいことなんだ。セックスは別に恥ずかしいことじゃない。むしろめでたい。わかるか?」
「…わからん」
「なんでわかんないの?」
「あのねぇ! 自分のしたことわかってんの?! ありとあらゆる体位を試したくせに! なんであんなにしつっこく何度も何度も何度もしたんかい!」
「若気の至りってやつだ」
「瑚太朗くんは若くないでしょうが!!」
「……は?」
――はた、と。
小鳥は「しまった」という顔になり、目を逸らした。……いまなんて言った、こいつ?
「おい、なんのことだよ」
「…………」
「小鳥? おーい、小鳥さん?」
「…………」
「こっち向きなさい、小鳥さん」
背後から腰を掴んでいるので小鳥の顔は見えない。
埒が明かない。そのまま引き寄せて身体をこっちに向けさせると。
小鳥はバツが悪そうな顔をして、唇を噤んでいた。
「そりゃな、誕生日は……まあ、俺のほうが早いけどさ」
「…………」
「なぜか最新の曲より古いPOPSのほうが好きだし、持ってるゲーム機とかなぜかみんな古いし、クラスのみんなとも会話がズレてたりして、自分でもジジむさい気がしなくもないけどさ」
「…………」
「小鳥にズバッと言われるほどとは、思わなかったな」
「……違うの」
「ん?」
「いまのは、……違うから。そんなふうに、思ってない。瑚太朗くんは、瑚太朗くんだよ。エッチで、スケベで、変態で、絶倫の男の子で」
「……その通りだが、それはそれでズバッと言わなくても」
「ジジむさいとか、思わないで。みんなもそんなふうに思ってないよ。瑚太朗くんはバカで能天気でスケベなやつだって、みんな思ってる」
「思ってんの?! 俺のこと、そんなふうに思ってんの?!」
「クラスの女子にセクハラとかしてるじゃない」
「あっ、はい、そうっすね。いや小鳥さん、あなたの前ではしませんよ。ふしだらNGだってチョップするじゃん」
「……もう二度としないで」
「しません! 小鳥以外の女に手を出したりなんぞしませんから!」
「…ほんと?」
「なんなら、また……する?」
小鳥の顎に手をかける。
目を瞑ってくれる小鳥を見て、内心飛び上がりたいほど嬉しくなったが、直前で唇の前に小鳥の指が立てられた。
「学校、行く」
「小鳥ぃ」
「その前にシャワーだけ浴びさせて。お腹たぷたぷなんだもん」
「じゃあ俺が手伝う……ってぇ!」
乳首を引っ張られ、抓られた。
「やめ! そこ急所だから!」
「また言ったら捩じ切るからね。瑚太朗くん。覗いたら怒るよ」
「一緒に…」
「ダメ。またするつもりでしょ」
「じゃあ、……じゃあ、今夜またやらせて!」
「…………」
「だ、だめか。それなら明日。明日の夜は?」
「……瑚太朗くん」
「は、はい」
「おじさんとおばさんは、当分帰ってこないんでしょ」
「ぎくり」
「擬音を言うな」
「その通りです」
「瑚太朗くんが、明日、あたしに会いに来なさい。ここじゃなくて」
「どこにいるんだよ?」
「自分で考えて。居所がわかったら、好きにしてもいいから。明日の12時までに来なかったら、セックスは当分してあげない」
「ええっ?! そ、そんなぁ」
「これはテストだよ。あたしの居所がわかれば、瑚太朗くんの気持ちをちゃんと汲んであげる」
「テスト?」
「あたしのことをどれだけわかってるかのテスト。……前の瑚太朗くんなら、すぐにわかってたよ」
「前って、いつだよ?」
「…教えない。じゃあ、覗いちゃダメだからね!」
小鳥は。
シーツを引っ張って身体に巻きつけ、そのまま服を持って部屋を出ていった。
下着のひとつくらい残してくれてもいいのに。せめて小鳥の匂いで余韻にもっと浸りたかった。
……こういうところが変態だと言われる所以だろうか。
ともかく。
明日の夜までの課題がひとつ出来てしまった。
小鳥の居場所?
自分の家……じゃないよな。あいつが家にいるところを、実はあまり見たことがない。寝る場所くらいにしか思ってないのだろう。フラフラと出歩いていることのほうが多い。
それでママさんに頼まれて連れ戻したりしてた。小鳥の親もいいかげんなものだ。いくら親しいっつっても、隣人の男に娘を探させるなんて。
……あいつの居場所か。
あらためて考えてみると、どこなんだ。
普段はいつも公園とか、森とか……。
いや、それは居眠りの場所か。でも眠るくらいだから、居心地はいいのか。……自分の家よりも?
わからない。
前の俺ならわかってたとか、前っていつだ。中学の頃か。いや、入院してたっけ。見舞いに来るのは小鳥だけ。そんな状態の俺がどうやって小鳥のいる場所がわかっていたというんだ。
考えれば考えるほど、わからない。
これは結構な難問かも……。
――10年前
「小鳥」
暗闇の中で蹲っていた小鳥は、目の前に差し出された手を見て唇をキツく噛んだ。
……ここなら見つからないと思ったのに。
「見つけたぞ。…たく、ややこしい所に隠れやがって。手間かけさせんな」
グイっと引っ張られて抱きあげられた。
尻を持ちあげられ腕の中に閉じ込められる。父親にしかされたことがない幼い子供をあやすような仕草に、思わず小鳥は腕を突っ張って離れようともがいた。
「こら、暴れんなよ」
「はなしてっ」
「いいから大人しくしろ! また逃げられたら面倒なんだよ!」
「なんであんたなんかが来るの?!」
「理香子さんに頼まれたから仕方なくだ。あんまり心配かけさせんな。俺、おまえの母親苦手なんだよ。言葉遣いとか正してくるし」
「瑚太朗くんが乱暴な言い方するからじゃない」
「減らず口言うな。……おまえ軽すぎるぞ。ちゃんと食ってるのかよ」
「はなしてよ、この…っ! この、この……っ!!」
「なんだよ、それ。癒しにしかなってないぞ」
「小鳥ぱんち!」
「癒しぱんちだな」
必死になって暴れる少女を腕の中で抱きかかえて歩く。
はっきり言って児戯の抵抗。気絶でもさせて大人しくさせてやろうかと思うが、小鳥の両親に頼まれた以上、手荒な真似はやめたほうがいいだろう。
歩いているうちに、次第に抵抗がやんできた。
「……どうして」
「ん?」
「どうして……居場所がわかったの?」
抵抗はやんだが、胸のシャツを強く握りしめてしがみついてきた。
制服のネクタイが苦しい。引っ張るなと言いたいが、言えば引っ張りそうなのでやめた。
「一人になりたかったんだろ」
「…うん」
「俺にも覚えがあるってだけだ。親に叱られるなんて惨めなものだからな。一人になれそうな場所くらいわかる」
「あんたも叱られたの?」
「そんなのしょっちゅうだよ。うちの親は厳しいからな」
「……お父さん、まだ、怒ってる?」
「ちゃんと謝るんだ。いなくなってごめんなさい、と一言言えば済む。圭介さんだって心配してたぞ」
「だって……お祭り……行きたかったんだもん」
「俺が連れてってやるよ」
「ほんと?」
「ちゃんと親に謝ることができたらだ」
「うん……!」
「…たく、現金なやつ」
その二日後に。
小鳥は両親とともに旅行に行くことになり、約束が果たされることはなかった。
――翌日。
自習は昨日で終わり。今日から前夜祭の準備で当分学校は休校になる。
なので行く必要はないが、小鳥が来ていないかを確かめるために一応来てみた。
だが、……やはりどこにもいない。
一応クラスメートにも聞いてみたが、誰も小鳥を見ていないと言う。学校には来てないのか。前夜祭の準備でもしてるのだろうか。なんか参加するとか言ってたし。
ふう――、と中庭に腰を下ろした。
小鳥が行きそうな場所。
だいたいが緑がある場所だ。この風祭市は緑があちこちにあるが、小鳥が立ち寄りそうな場所はその中でも一際濃い緑の匂いがするところが多い。
この中庭もそれなりに生い茂っているが、手入れされているからそれほど匂いはしない。……やはり森だろうか。
だけど森といっても……。
広い。
手当たり次第に探すには時間がない。12時まであと……10時間。それまでに探さないと。
そもそも。
なぜ会いに来いなんて面倒なことを言ったのだろう。
デートしたいのならそう言えばいくらでもしてやるのに。
……そういえば、俺、小鳥とまだ一度もデートしてない。
どさくさとはいえ彼女に……したよな。何回も抱いたわけだし。彼女って認識で合ってるはず。
なのに一度もデートしてないとか、順番がおかしいだろ。
まあ、収穫祭を一緒に見てまわろうな、とは言ったが。
俺にまたなんかされると思って警戒しているようだった。そりゃなんかするだろ。付き合うってそもそもそういうもんだし。
テストとか言ってたな。
俺が小鳥をどれだけわかってるかどうかとか……。
それ、そんなに大事なことか?
自然とそういうのわかっていくもんじゃないの?
とは思うが、小鳥としばらくセックスできなくなるという事態は避けたい。
なんとかして居場所を特定せねば。
「――天王寺くん!」
後ろから聞き覚えのある声。……同じクラスの女子だった。
「神戸さん、さっき見たわよ」
「ほんとっ?!」
まさに地獄に仏。
伏し拝むかのようにその子の手を握りしめた。
「ちょ…」
「どこ? どこにいたんだ?」
「手、手を、あの」
「榊原さん、だっけ。助かるよ。小鳥のいた場所って?」
「……後ろ」
へ? とその子の視線を辿った先に。
ふるふると小刻みに震えている小鳥がいた。
「小鳥――!」
「お邪魔しました!!」
小鳥は。
何かを誤解したのか、ダッシュでその場から離れた。あっという間だった。あんなに早く走れるとは知らなかった。
いやそれはともかく。
せっかく見つけたのに、逃げられてしまった。一体なにがいけなかったんだ。
「天王寺くん……」
見ると、榊原さんが顔を真っ赤に染めていた。
はっ――と手を離す。ずっと握りしめていた。そうか、これか。これがまずかったのか。
すぐさま誤解を解かねば。
「ご、ごめん!」
そう一言謝ると、瑚太朗はその場からダッシュで走り去った。