【Rewrite】命のカタチのその先は【瑚太朗×小鳥】 作:千月華音
小鳥は人気者だ。
街を歩いているだけで声をよくかけられる。露店の店主に至ってはタダで商品を渡してきた。俺の分はきっちりと金を取られたが。
普段と違う装いをしているのも声をかけられる要因になっていた。
「小鳥ちゃん、彼氏とデートかい?」
「やだもぉ、おじさんってば! 彼氏とかじゃないですよー」
……違うだろが。
そこは肯定しろ。
「小鳥嬢、本日はいつにも増してお美しい」
「もー! お世辞言ってもダメなんだからね!」
満更でもなさそうな顔をしていた。
はい瑚太朗くん、と言ってタダで貰ったフランクフルトを手渡してきた。食べ歩きながら小鳥を見る。
……そうか。
普段からこうやって小鳥はみんなから親しまれているのか。
緑化運動をしてるせいもあるだろうけど、……なんていうか。
俺とは住む世界が違う人間のような気がしてきた。
「なんかほとんどお金払わなかったね」
祭りの喧騒を抜けて、一休みできる東屋を見つけたのでそこに腰を下ろした。
もうすぐ昼近くだが、食べ歩いていたせいですでに満腹になっていた。
「ほとんどっていうか、おまえの分はタダだったな。……なあ小鳥。おまえ、この街の上役かなんかか?」
「はい?」
「上流階級並みの扱いをされていたぞ。拝まれてもいた。マフィアのボスでもああはならないと思うが」
きょとん、とした顔で俺を見ると、鼻から吹き出して笑った。
「おい」
「あっはっは。だから前から言ってたでしょー? 小鳥さんはアイドルで、ステージがあって、サイン会があるって」
「真面目に訊いてるんだが」
「んーとね、瑚太朗くん。これはね、あたしの処世術なの。この街でね、暮らしていくには、誰かの助けをしてあげないと。いろんなことをしてきた、その積み重ねかな」
「おまえが人助けを?」
「そればかりじゃないけど。瑚太朗くんも知ってるでしょ。あたしの手」
――ギュッ……
小鳥が手を握りしめてきた。
柔らかくて小さな手。……だけど、よく見ると肌が荒れている。手の甲だけじゃない。掌を拡げてみると、潰れた肉刺や、切り傷、擦り傷……。
「すぐに怪我しちゃうからね、治しても怪我が増えちゃうの。だけどこれがあたしの手」
……気づいていた。
いや、ずっと前から知っていた。知っていたが見ないフリをしていた。小鳥が手を荒れさせてまでしていること。
「最近は、それでもかぶれにくくなったんだよ」
「樹液でよく肌がかぶれてたよな」
「えへ。手袋してたら植物の状態がわかんないもんねぇ。今は毒の見分けがつくようになったけど」
「爪も伸ばせないんだよな……」
「せっかくのデートなのに、ごめんね。付け爪してもこの手じゃね、不格好になるだけ」
「……いや、小鳥の手だよ」
――チュッ……
小鳥の指先を唇にあてると、はわわわ、と慌てたように手を引っ込めようとした。――が。
その手を掴んで腕ごと引っ張り、胸の中に抱きしめた。
「ここっ、瑚太朗くんっ?!」
「誰も見てない」
「いや、ここ、ふきっ晒しだから! 外! 外だから!」
「抱きしめるだけでもダメか?」
「う……あ、あの……そ、そーゆーのは、場所を……」
「そーゆーのって?」
「だから! そーゆー……ほ、抱擁! こ、恋人同士だと思われる!」
「思われたくないのか?」
「あ、揚げ足とるなぁ!」
「さっきもおまえ、俺を彼氏だと言われて否定したよな」
「それ、は…」
「これはデートで、俺たちは付き合ってる。そういう認識で合ってるはずだ」
小鳥が腕の中で唇を噛み締めた。
別に虐めてるつもりはない。正論しか言ってない。だが小鳥のこの様子は……。
「…瑚太朗くん」
「ん?」
「こーやって……いつも女の子を口説くの?」
「はい?」
「こんなふうに抱きしめたりして」
「なんのことだよ。小鳥以外の女なんて口説いたりしてないぞ」
「会長さんの胸を揉む話は?」
「あれは結局ダメだっただろ!」
「だけど揉むという話はあったんだよね?」
「おまえ妬いてんの?」
「瑚太朗くんが女たらしだってことを再認識しただけだよ」
「あのな。あれは交換条件だよ。そもそもダメ元で言っただけで、しかもあの女、できるわけがないとか抜かして鼻であしらったんだぞ。口説いてるつもりなんてこれっぽっちもなかった」
「…………」
「ジト目で睨むな! …たく、さんざん俺に抱かれたくせに、まだ疑うわけ?」
「瑚太朗くんはモテるから」
「それな。俺はちっともそんな気がしてないよ。なにせおまえに何度も告白したのに、素通りされ続けたからな」
「……信じられなかったんだもん」
「は?」
「あたしの知ってる瑚太朗くんは……そんなこと言う人じゃないから」
「はい? なにそれ?」
「あたしに告白したりとか、あたしを抱いたりとか、そんなこと絶対しない」
「……しましたが」
「……したね」
「まだ信じられないのか?」
「……正直、まだ、瑚太朗くんってこんな人だったっけ、って思ってる」
なるほど。
小鳥の中では、俺のイメージみたいなものがあって、それが今の俺と重ならないわけか。
そういえば。
イメージが地の底に落ちたとか、そんなこと言ってたな。
いったいどんなイメージだったんだ。
「参考までに聞いてもいいか。おまえが思い描く俺ってどんな感じの男なんだ?」
「……んー……、言ってもいいの?」
「言い淀むほどのものなのか」
「あのね、……カッコいいの」
「はい?」
「冷たい態度で、無口で、ぶっきらぼうなんだけど……困っていたら助けてくれて、とても頼りになって」
「誰だそれ?」
「瑚太朗くんだよ。でも、こんなにスケベな男の子だったなんて、知らなかったな」
「あのな、男はみんなスケベなの。……それがおまえの俺へのイメージなのか?」
小鳥は。
答える代わりにギュッと背中を抱きしめてきた。
そんな小鳥の頭を軽く撫でる。……無口で、ぶっきらぼう。そんな態度とったことあったっけ。
入院してた頃だろうか。記憶が曖昧だからな。機嫌悪いときもあったかもしれない。
だが、……カッコいい?
困ってたら助けてくれる? ヒーローかなんかか?
……ダメだ。
小鳥のイメージがわからん。
「それで、今の俺はどう思ってるんだ」
思いきって聞いてみた。
小鳥からの告白をもぎ取ろうと考えているが、興味半分もある。好きだと言わせたいが、こう訊けばこいつの気持ちが少しは掴めるかもしれない。
小鳥は顔をあげて俺の頬に軽くキスをしてきた。
「……小鳥?」
「エッチでスケベで変態の男の子だと思ってるよ」
「……それ以外でだ」
「もう無理。そうとしか思えなくなった」
「悪かったよ! さんざんイかせたのを根に持ってんのかよ」
「あたしも気持ち良かったしねぇ……。ねえ、瑚太朗くん。なんであんなにセックスが上手なの?」
「なんでって……」
「なんか、瑚太朗くん、……無理してなかった?」
「はい?」
「あたしばっかりイかせてたでしょ。瑚太朗くんも、そりゃ、たくさん出したけど……」
――サワ……
新緑の風の匂い。
こんな公衆の場で語るような内容ではない。幸いというか辺りには誰もいないが。
ふう、とひとつだけため息を吐いてから、黙っていたことを話すことにした。
「ムリじゃないけどな、我慢してたことがある」
「なに?」
「俺さ、射精の間隔がほぼない状態で連続して出せるんだ。普通に自慰するときもそうしてた」
「じい…?」
言葉の意味がわかってない。
そんな小鳥を微笑ましく思ったが、耳元に口をあてて小声で意味を教えた。
「……っっ?!」
「おまえは、したことある?」
「あ、あるわけないだろ!」
「男の生理現象みたいなもんだ。……でだな、出しても出しても止まらない状態なのがさすがにおかしいと思って、いろいろ調べてみた。だけどないんだ。どこにもそんな症状。一応、図書館まで行って医学書とかも見てみたんだけど」
「…………」
「病院まではさすがに行く気がしなかった。別にオナニーするのに特に支障ないからな。ただ、普通に出すより、そっちのほうが何倍も気持ちいいんだ」
「そ……、……そう、……なの」
「それを小鳥にしたかった」
「……っ!」
「だけどおまえに嫌われたくないからな。我慢してたんだ。それを無理してると思ったのもわかるが」
小鳥は声をなくして、しがみついていた腕を離した。
俺から離れて座って、膝の上に両手を置いている。
まあ、小鳥に気味悪く思われたとしても、……それはそれでショックだけど、言わないよりは言ったほうが、なんか胸のあたりがスッキリする。
それくらいの気持ちだったのだが。
「……してもいいよ」
「はい?」
「あたしに、……それ、して」
…………。
…………。
……なんか、とんでもないことを聞いたような。
「小鳥さん?」
「瑚太朗くんが気持ちいいなら……あたしにしてもいいよ」
「……マジで?」
「マジだよ」
「じゃ、今からやろうと言ったら?」
「……さすがにそれは」
「ラブホテルに行こう。ここからすぐ近くにある」
「行ったことあるの?」
「エロゲでよくヒロインを誘ってた」
「いや、ゲームじゃなくて!」
「実際に行くのは初めてだ。だけど仕組みはわかってる。……行くか?」
こくん――と。
小鳥は頷いた。
その顔はなんの恐れも戸惑いも見られない。いつもと同じ笑顔だ。
俺のアレに、付き合う気でいる。
…………。
やればわかる。
小鳥は泣くかもしれない。いやきっと泣く。耐えられないかもしれない。逃げようとするかも。
だけど――。
これはチャンスなんじゃないか。
小鳥の告白を引き出せるチャンスなのかも。
だが、苦し紛れの告白なんて聞きたくない。
あの連続射精を小鳥も快感に思ってくれれば、あるいは……。
「じゃあ今から行こうか」
「……あの、また後日とかは、ダメ?」
「ダメ。おまえまた逃げる気だろ」
「……せっかくのデートなのに」
「なに言ってんだ。デートでホテルに行くなんて普通だろ」
「そうなの?」
「少なくとも俺はどのヒロインルートでも、デートでホテルに誘ってたぞ」
「ゲームの話はもういい!!」
小鳥の手を引っ張って歩き出した。
手から伝わるわずかな震え。――意地っ張りなやつ。変なところで気を遣いやがって。
だけど。
たとえ興味本位でもいい。俺に同情でも構わない。……小鳥にあれを出来るのなら。
すでに下半身は興奮で滾っていた。それを誤魔化すかのように、小鳥の手をギュッと握りしめた。
部屋はわりと空き部屋が多かった。
どの部屋にする? と小鳥に決めさせようと聞いてみた。小鳥は「…なんかよくわかんない」と言いつつ、結構なオプション付きの部屋を選んだ。しかもわかってんのかこいつ、割とハードなオプションだぞこれ。まあ別に使う気はないけど。
値段を見て目を白黒させる小鳥に、クスッと笑って金は気にすんなと言ったら、瑚太朗くんお金持ちだねぇ、と感心したように呟く。俺の金じゃなくてこれはおまえに渡されている生活費なんだが。それを俺がくすねただけだ。
部屋に着くと、小鳥は「広い、ひろーい!」と言ってはしゃいでいた。おまえが選んだ部屋だぞ。
変な冷蔵庫あるよー! と言って無知な小鳥が中にあるものを取り出している。……ああ、取ったら料金が発生するのに。まあいいか。せっかくだし使ってみるか。
ふおおお、とよくわからない雄たけびをあげて極太のディルドを触っている。なんとも卑猥な絵面だが、顔を真っ赤に染めながら触っている小鳥は、どう見ても無邪気で微笑ましい。エログッズをそんなにしげしげと触るんじゃない。
「ねえ、瑚太朗くん。これ、なあに?」
枕元にある小さな袋を手に取った小鳥は、見てわかりそうなものなのに、わかってないようだった。
「見たことないのか?」
「なに? これ? 薬かなにか?」
「コンドームだよ」
「こ…っ?!」
こ、こ、これが?! と言いつつ、袋を破った。破るな。使う気か。
「ほ、ほんとだっ!」
「おまえな……。そんな物珍しそうにするものか?」
「保健の授業でね、一回だけ見た。……そうかあ、こんなふうに袋に入ってるんだね。なんかこれ、いい匂いする」
「ローション塗ってあるからな。香料でも入ってんだろ」
「ねえ瑚太朗くん」
「なんだ?」
「なんでそんなに落ち着いてるの?」
――…………。
なんか。
同じようなことを……前も聞かれたような。
「落ち着いてるか?」
「なんだかすごく、普段と変わりないというか……」
「……。おまえは?」
「あたし、テンパってるの、見てわかんない?」
「そのディルドはそこにちゃんと置いておけ。……見た通りだな。はしゃいでると思ったが、テンパってんのか」
「…………。ねえ、瑚太朗くん」
「うん?」
「さっきから苦しそうだよ、それ」
小鳥が俺のズボンでテントを張ってるのを見て、いたたまれない顔になった。
そりゃ……な。
さっきからそればっかり考えてるし。
「フェラしてくれるか?」
「……紳士の瑚太朗くんは、どこに?」
「まあ、そういう約束だったよな。だけどおまえから付き合うって言ったんだぞ」
「…あう」
「嫌ならいいけど」
「いやじゃ……ないよ」
「ほんと?」
「ちょっと待ってね、シャワー浴びてくる!」
「ちゃんと歯も磨いてくるんだぞ」
「わかってるっつーの!」
シャワールームに入る小鳥を見送り、小鳥が破いたコンドームをゴミ箱に捨てた。
こんなものを使う気はない。
あれは小鳥の中に出さないと意味がないものだ。もとよりゴムなど着けてしまったら内部で破裂してしまう。それほど勢いがあるものだと自分でもわかっていた。
果たして小鳥に受け止められるだろうか。
いや……。
もうやると決めたんだ。
一度してしまえば、もう止まれない。オナニーでは決して得られない快楽を小鳥で試すことができる。……試す?
…………。
なんだろう。
初めてじゃない、ような……。
いや、なに言ってるんだ。オナニーでしかやったことないだろ。実は入院中もやっていた。もちろん誰にもバレずに済んだが。
……なぜか小鳥で抜いていた。
あの頃は、手近にいた女が小鳥しかいなかったせいもあるが。
見舞いに来た小鳥の姿を思い出し、小鳥の口でされることを想像したら、もう止まらなかった。だからほとんど病室でやってたんだ。あいつの見舞いが終わった後に。
その小鳥が。
これからフェラしてくれるんだ。
それを考えただけでドクンドクンと脈動が治まらない。
……なのに。
その小鳥になにをしようと考えたんだ。
告白を……引き出すんだろ。
そうじゃない。
俺は。
アレを小鳥で試そうとしている。
小鳥なら、……限界までやれるんじゃないかと。
「…………。…………は?」
そこまで考えて。
自分のことながら愕然とした。
エロは次回にまわします。
すみません、途中で力尽きました。
書き直します。もう少しお待ちください。