幼馴染を交通事故から助けて死んでしまったけど、なんかそのまま現代にショタ転生して幼馴染に拉致監禁されました。 作:ひざぎ
しかも、まだ導入故エロシーンありません……。ごめんなさい……。
◇
裸でいる、ということを忘れていたわけではないが、俺は何の気なしに信号を渡っていく。信号の先には確かに穂波がいて、そうして幼馴染である彼女が泣き崩れているから、なんとか声をかけてあげたい、と、そんな気持ちで青信号を渡っていく。
……うん、今度はトラックも来ていない。いや、あんな違法運転が日常に跋扈していたら大問題だけれど、それで一度死んでいるからこそ気にしてしまう。ともかくトラックや他の車などが来ている様子はない。
そうして横断歩道を渡っていく。裸足だとアスファルトのごつごつが足の平に刺さっていたい。うぐっ、と声を漏らしそうになるのをこらえながら、それでも穂波の方へと近づいていく。
「おーい、穂波ー」
そんな間延びした声をあげてみた。やはりいつもの自分の声とは異なっているような、そんな高さを覚えてしまうくらいだけれど、それでも構わずに彼女へと声をかけてみる。
やはり周囲に穂波以外の人はいない。こんな裸である状況で人の目が合ったら即逮捕だな、とかどうでもいいことを考えながら、ようやく知っている人間に話しかけられることに安堵をする。
……だが、俺の声掛けに対して穂波が反応をすることはない。いつまでもぐす、ぐす、と過呼吸みたいな息を漏らしながら、ひたすらに信号脇にある電柱にしゃがみこんで「翔太ぁ……、翔太ぁぁぁ……」と吐き出していた。
信号を渡り切ってから「お前の望んでいる翔太ならここにいるぞ」と少し格好をつけながら、彼女の近くで声を出してみる。けれど、それでも彼女から反応は返ってこない。
「うぅ……、翔太ぁ……」
「……いや、だから俺はここに──」
「──うう、幻聴まで聞こえてきたぁ……」
「幻聴じゃねぇ!」
バシッ、と俺はチョップをするような形で彼女にツッコミを入れてみる。一瞬、彼女の反応だけを見ると俺が幽霊であるかのような錯覚を受けてしまったけれど、こうしてチョップをしてみればきちんと穂波の身体に触れることはできるし、感触もある。そもそもアスファルトを歩いていたときから痛みがあるのだから、俺が幽霊、ということはないだろう。
「いてっ」と穂波は声を漏らす。そこまで勢いよく小突いたわけではないけれど、それでも大げさなくらいの声を彼女は吐き出して、それから「す、すいません」と俺の方へと振り返った。
「ここ、私の幼馴染が亡くなった場所で、──って裸?!」
「あっ、これにはだな、事情があってだな……」
事情も何も、いきなり裸で世界に投げ出されただけだから理由も何もわかってはいないのだけれど、それでも言い訳のように言葉を並べてみる。
「というか、めっ、だよ! 君みたいな子どもでも変なことをしたい、って気持ちがあるのはわかるけど、裸で歩くのはだめっ!」
「いや、わかってる。わかってるから。とりあえず話を聞いてくれ、ほな──」
「──なんで私の名前が穂波だって知ってるの?! もしかしてもう私に性的好奇心を持って、私に話しかけちゃった系の変態の男の子……?!」
「……あー」
なんとか事態を説明しようとするけれど、捲し立てるように穂波が話をさえぎってくるから、いまいち話題を転換することができない。ともかく、俺が翔太という人間であることと、なんか生き返ったということを説明したいのだけれど、穂波は俺の言葉を聞いてくれない。
「えっとさ、あの──」
「いやね、君ね。子どもは確かに少年法っていうのがあってね、それで露出をしても禁固刑にはならないかもしれないけれど、それでも人前でその、……えっと、その、……お、おちんちん、出すのはやっぱり駄目だよ……」
「いや、違くて。とりあえず穂波、話を──」
「あと、いきなり面識のない人の名前を知ってる、ってことは調べたってことだよね。それもだめ、ストーカーっていう立派な犯罪になっちゃうんだよ? 私は君のことを知らないし、……もしかしたら知っている子かもしれないけれど、私はそれを忘れてるし。ともかく、そんな人にいきなり名前で呼んじゃだめだよ……。もし、これから好きな人ができたら嫌われちゃうよ……」
「待て、待って。ステイ、ストップ。まずは俺の話を──」
「だめ! 悪い子の言い訳は聞きません! ……ていうか、なんかキミ、見たことある顔してるね。やっぱり私とどこかで会ったことのある子? ……もー、私が好きだからって、いきなりこういうえっちなことをするのはよくないんだぞっ!」
……だめだ、まったく話を聞いてくれない。
某少年推理漫画を見ているとき、『いや、子供になったくらいじゃすぐに正体ばれるだろ』とかそう思っていたけれど、ここまで事態が進展しないことなんてあるだろうか。……この場合、正体がどうのこうのというよりかは、単純に穂波が話を聞いてくれない、というだけかもしれないけれど。
「いいか穂波。まずは落ち着いて聞いてほしいん──」
「あと! 大人の人をそんな風に下の名前で呼び捨てするんじゃありませんっ! せめて穂波さん、とか敬称をつけないとだめでしょ! 学校で教えてもらうことだよ?」
……と、この後何度も弁解をするように言葉を挟もうとしたけれど、そのことごとくを同じような流れで遮られていく。説明をさせろよ、と本気で怒りたくなったが、そんな怒った声でさえも穂波による「だめだよっ!」という説教で上塗りされてしまう。
「もう! ここまで聞き分けのない子初めてだよ!」
それはこっちのセリフだが?
そんなツッコミも声にすることも面倒くさくなって、俺はとりあえずもう頷くだけを返した。だって説明しようとすれば否定から始まるし、本当に面倒くさかったから。
俺の頷きにようやく穂波は納得したようで、よしっ! と言葉をあげて、俺の頭を撫でてくる。
おいおい、俺は翔太だぞ……。
そんな悲しいツッコミも声にすることはなく、ただ虚しいだけの気持ちを心の中にしまい込むことしかできなかった。
◇
そのあと、穂波は「どうしたもんかな」と悩んだような声をあげた後、事細かく俺に質問してきた。
お母さんは? お父さんは? と迷子にするような質問。その質問の解答である『俺は翔太だ』という言葉を吐きだそうと思ったが、散々邪魔されてしまったから面倒になって、ぜんぶ「わかんない」で押し通していく。
「うーん。迷子なんだろうけど、どうしたもんかな。近くのデパートではぐれた子だと思うけど、だとしてもこんな時間だしなぁ」
「……」
さて、ここで一考を挟んでみる。
現代に再び転生することができた俺。そして、丸裸の状態で投げ出されているこの状況。その上で幼馴染である穂波に話しかけても事態は進展せず、俺が翔太だ、ということも話しかけられない意味の分からない状況、というか聞き分けのないこの幼馴染。
その上で、もし迷子という扱いを受け、様々な機関に連絡をされたらどうなるだろうか。デパートであれば迷子センター、そこから行きつく先は警察、とかそんな流れになるのだろう。
ただ、いきなり転生をした俺のこの身体に身元となる何かがあるわけでもないだろうし、警察に行きついたとしても、戸籍のない子供だとか、もしくは親に捨てられた、とかで孤児院や里親とかに預けられる可能性だってある。もし俺が翔太として生きていた両親の名前を呟いたとしても、それを然るべき機関が信じてくれるかどうかもわからない。なんせ、俺が翔太である、ということを知ってそうな幼馴染がこの反応なのだから、両親だって気づかない可能性だってある。
もし、孤児院とか里親とかの方面に行ってしまえば、さらなる面倒が起こることについては想像しなくてもわかってしまう。うん、絶対に面倒くさいことにしかならない。
そうであるのならば、目の前にいる穂波に何とかこの状況を伝えて、その上で保護、そして転生した、という突拍子のない現実を穂波や両親に受け入れてもらう、とか、そういった方法が一番面倒くさくなくてスマートなやり方だと思う。……まあ、今の穂波だと聞く耳を持ってはくれないかもしれないけれど、それでも今は穂波に頼るしかない。
だから、ここはあくまで翔太としての振舞いではなく、見知らぬ少年になりきる振る舞いで。そして、だんだんと状況が落ち着いた時に穂波にすべてを打ち明けて受け入れてもらえればいい。
「うぅ……、お姉ちゃん……」
自分でも名演技だな、と思うくらいにすんなり泣き声のような言葉をあげることができてしまう。涙こそは滲んでいないけれど、それでも泣いている雰囲気がたっぷりあるこの演技は、誰もが騙されるだろう。
「そ、そうだよね。君も心細いよね。裸で」
別に裸であることが心細いわけじゃない。いや、それもあるだろうけどさ。
「と、とりあえず警察の方にでも行ってみよっか。そしたら大人の人たちが──」
「──警察はやだぁぁぁぁ!」
──割と心の底から、本心のままに言葉を吐きだす。
「そうだよね! うん、そうだよね、裸だと逮捕されるの怖いよね、そうだよねぇ……」
そうじゃねぇよ。
そんなツッコミを心の中に隠しながら、それでも今は泣き崩れていた子供を演じ続けてみる。
「と、とにかく一回落ち着こう! そうだ、私のお家とか、ね! それだったら君も安心できるでしょ?!」
「……すん、すん。……うん、お姉ちゃんのお家なら──」
「よし、決まりっ!」
穂波は子供である俺をなだめるようにしながら、優しい声掛けをしてくれる。
へへ、ちょろいもんだぜ、と思うのは流石に失礼だろうな、という自覚はあるものの、それでもそう思うしかない。とりあえずこれでなんとか状況は落ち着く──。
「でも、帰るとき裸でいるところを他の人に見られたらまずいよね。ああでも、夏だから一枚しか着てないし……。──そうだっ!」
何かを思いついたように穂波は声をあげる。
「──まずは私のお家につくまで、私の服の中に隠れててっ!」
「──えっ」
俺は彼女の言葉に唖然とした声を返すことしかできなかった。
次回、正体を穂波に告げることができるのか?!