犬猿の仲の剣士と魔術士、うっかり一線を越えたら体の相性抜群だった【書籍化決定】 作:猫屋敷てん
あの女と仲良くするとかありえないから
──多分、どこかで何かが間違ったのだ。
「っぅ……。へ、変なところ♡ 触らないでくださいっ♡」
俺がこの女と触れ合うなど、本来ありえるはずがないことなのだから。
「しかたねえだろ。暗いからよくわかんないんだよ。お前も甘い声出してるじゃないか」
「っ不本意です! さっさと、終わらせてください。っぅ♡」
口では喧嘩をしながらも、体は非常に正直だ。
俺はこいつの制服の上から胸や秘部を触っている。
ショーツの上からそっとおまんこをなぞるたび、甘い声と共にどんどん愛液が溢れていた。
それに俺も興奮し、今すぐ犯したいと本能が叫ぶ。
「はぁ、はぁ♡ 手、いやらしい♡ これだから、変態は」
「変態言うな。お前も発情してるだろ」
「不本意です!」
「俺もだ馬鹿!」
口ではいやいや言いながら、体は一切抵抗しない。俺も憎まれ口を叩きながらも、スカートに包まれた尻に下腹部を擦り付けていた。
「なんか、グロテスクなものが、お尻に当たってるんですけど」
「今からこれを入れるんだよ」
「っ──♡♡♡」
声にならぬ甘い悲鳴を上げた。
暗い洞窟の中で、発情した男女がそれを慰め合う交尾が始まる。
これは互いにとって不本意で、決して起こるはずのなかった行為だ。
なぜこんなことになったかと言えば、それは数日前に遡ることになる──
◇
この世界には、どうあがいても相容れない人間というのが存在する。
たとえば性格がクソだったり、絶望的に相性が悪かったり。その立場によって仲良くすることが原理的に不可能だったり。
相容れない人間というのは様々なパターン存在するものだが、今俺の目の前にいるのはそんな全てを併せ持った一人の女だった。
「五つの教科で一位を取った私と、四つの教科で一位を取ったあなた。どちらがより優れた人種であるか、誰の目からみても明らかでしょう」
肩口まで伸びた白銀の髪をたなびかせ、アルレイン国立学園の制服を着こなした女は深紅の瞳でこちらを見下していた。
150に満たない小さな背丈だというのに、まるで物理的に見下ろされていると感じるほどだ。
しかしそれが俺に効くことはない。
「たかだか学園が用意した尺度で上回った時しかイキれないその小物臭。さすがは名家マグノリアのご息女だ。なあ、レミエッタ嬢」
「ふふふ。負け惜しみのボキャブラリーだけは豊富ですね。さすがはラインベル家のご令息、エルビンさんです」
にっこりと笑顔を貼り付けて、順位表の前で嫌味を言い合う。
レミエッタの野郎はおすまし顔が崩れることはないが、腕を組んだ指がトントンと早く動いてるのは見えている。
「やはり棒きれを振り回しているから、頭が悪くなって言い訳ばかりが上手くなるんですね」
「おおっと、魔術とかいう悪魔の術を扱うだけあって嫌味がお上手だな」
「剣術とかいう時代遅れの伝統芸能を自慢げに披露するあなたほどではありませんよ」
「邪法に傾倒する法律スレスレのお前には負けるよ」
嫌味と皮肉の応酬に、俺達は貼り付けた笑みが崩れていく。
俺は腰の剣柄に手を置いて、レミエッタはすっと杖を構えた。
「「…………」」
もう一言何かを発すれば、戦闘が勃発するだろう。
剣術と魔術。どちらが優れているかを決める戦いだ。
「エルビンさん。俺達も続くぞ!」
「「「おおお!!」」」
俺の背後から同じ剣術を扱い仲間達の雄叫びがあげる。
「レミエッタ様。棒きれを振り回す猿共に天罰を下してさしあげましょう」
「「「おおお!!!」」」
同じくレミエッタの背後でも、魔術を扱う奴らが雄叫びを上げた。
この国における剣術と魔術の対立。それは学生達の箱庭の中でも変わらず行われるものだ。
剣術の名家ラインベル公爵家の次男である俺と、魔術の名家マグノリア公爵家長女のレミエッタ。俺達が対立するのはもはや定められた運命とすら言えるだろう。
魔術と剣術、どちらが優れた術なのか。何十年、何百年と決着のつかぬ命題に、終止符を打つための戦いが始まる。
これは国家の行く末を担う者達による、下らない争いだ。
「だが、問題は俺は格下とは戦わないという信条を持つことだ」
「へえ。なら確かに戦えないですね。あなたが格下なので」
「いやいや。お前の自意識過剰には頭が下がるよ」
嫌味を言い合いながらも、心の中で溜め息をつく。
本当に意味のない戦いだ。この戦いの先に生産性があるはずがなく、確かに奴らは気に入らないとはいえ無駄としか言いようがない。
だがやらねばならないというのが下らない話だ。
「戦闘なんてしても意味がない。故にこうしよう。もっとフェアな力比べで優劣をつけようじゃないか」
「聞きいれるぐらいはいたしましょう。具体的には?」
「話が早くて助かるよ。成績優秀な俺達には、今度特別課題があるよな」
「ええ。魔獣との戦闘試験が……なるほど」
そこでレミエッタは俺の言わんとすることにたどり着いたのか、小さく頷く。
頭の良いレミエッタならば、この戦いに生産性がないことを理解しているはず。もっと簡単に決着をつけることを望むだろう。
「どちらが多くの魔獣を狩るか。それこそが国家の武力たる剣術と魔術の優劣をつけるに相応しいことじゃないか?」
「あなたが考えるにしては良いアイデアですね。それで良いですよ」
そう言ってレミエッタは小さく笑みを浮かべた。
そのおすまし顔が崩れることはなく、俺の敗北を決して疑っていないのだろう。
「それで終わりだ。どちらが上か、それで決める」
「あなたの吠え面を楽しみにしていますね。エルビンさん」
互いに捨て台詞を吐き合って、踵を返しこの場を後にする。
俺が剣術を使い、奴が魔術を使う限り、仲良くするなどありえない。
学園を卒業し、それぞれ家を継ぐようになっても変わらず仲が悪いままだろう。
俺達の親がそうであるように、魔術と剣術は相容れない。
だから今のうちに決着をつけておこう。それが最も生産性の高い決断だ。
◇
アルレイン王国において、剣術と魔術の対立は根深いものだ。
その歴史は長くなる故触れることはないが、いつまで経っても相容れることなく啀み合う。
どちらが優れているか、どちらが国を支える力か。それを百年以上も争うのが俺達だ。
そしてそれぞれのトップの子である俺達も、歴史に習うように学生時代から啀み合っていた。
「エルビンさん! 魔術師共はいつまでも調子に乗ってるんですよ。悪魔の技術を使った異端者なのに。エルビンさんならあいつらだって滅ぼせるはずなのに……」
「まあ落ち着け。あいつらは油断できないのは間違いない。焦ると食われるぞ」
「くっ……」
先ほど剣術科を先導し、俺の付き人も務めるユリオという男子生徒は、悔しげに拳を握っていた。
かつては悪魔の術と貶されていた魔術も、すっかり市井に受け入れられた。
伝統あるアルレイン国立学園の教科にも取り入れられ、王国に巣くった魔術を今さら滅ぼすなど難しい話だろう。
「ユリオ、目標を見誤るな。滅ぼすのはもう不可能。故に最善は優劣を付けること。どちらが優れているか、民に。そして王に知らしめれば自ずと魔術は衰退していくだろう」
「っさすがエルビンさんです。なんという慧眼!」
俺の言葉に大げさに驚くユリオ。
幼少の頃から付き人のように従っているだけあって、俺への信頼は絶大なものがあった。
「そのためにはあの女と決着をつけないとな」
「だから、特別授業ですか? でもレミエッタの野郎が強いのは事実ですよ」
「俺を疑うのか?」
「いえ! エルビンさんが世界一です!」
ユリオは慌てて撤回し、俺を煽てるように声を上げる。
とはいえユリオの懸念はもっともだ。マグノリア家の長女であるレミエッタが、魔術の天才であることは周知の事実。
一見小さなおすまし女にしか見えないが、すでに学園の魔術士達を全て従えた傑物だ。
上級生どころか教師すら奴には頭が上がらないと聞く。
しかし、その上で問題ないと俺は言う。
「俺を信じておけ。お前達が信じた俺をな」
「っ、はい!」
ユリオの
ここでこの下らない戦いに終止符を打つ。さっさと優劣を決めて、剣術こそが優れていることを知らしめよう。
そして俺はこの国で長く続く魔術との争いも全て終わらせるつもりだ。剣術こそが素晴らしいという結果を以て。
――俺はこの時、そう思っていた。