犬猿の仲の剣士と魔術士、うっかり一線を越えたら体の相性抜群だった【書籍化決定】 作:猫屋敷てん
――この世界は、全て私のために存在している。
それが十四年生きたララエル・マグノリアが確信している現実である。
ふと今までの人生を思い返しても、思い通りにならなかったことはほとんどない。
ララエルが欲しいと一言発すれば、周囲はご機嫌を取るようにララエルの望みを叶えてくれる。
母も父も、誰もがララエルの召使いのように動いていた。
唯一姉だけがララエルの望む通りに動かなかったが、それは些細なことだ。結局格下でしかなく、後少し邪魔をするなら潰すだけ。
いずれ魔術の歴史を変える天才であると自負するララエルは、己こそが世界の主人公であると信じて疑わなかった。
それは非常に傲慢な考えであるが、それを肯定されるだけの力があることはまた確か。
十代前半でありながら飛び級で高等部までやってきて、高等部の生徒すらララエルに手も足も出ていなかった。
「な、何なんだよお前!」
剣士ユリオ・アーデルカスは、尻餅をつき無様な姿をさらしながらそう叫んでいた。
「えー。私のこと知らないの?」
「し、知ってはいるが……そういう意味じゃない!」
「へー。じゃあどういう意味?」
尻餅をつくユリオを見下しながら嘲笑うのは、少女ララエル・マグノリア。
周囲には他にも剣士達が数名転がっており、総じてみなボロボロだ。
無論ユリオ含めた周囲の剣士達は、決して弱くはない。国家の未来を担う優秀な若者達だ。
だがそんなユリオですら、三つ年下のララエルに傷一つつけられなかった。
「どういうつもりだって聞いてるんだよ!」
「わかんない? この部屋を私の休憩室にしようかなって思って。そしたら邪魔な剣士がいたら排除した。それだけだよ」
「馬鹿なこと言ってんじゃねえ!」
意味不明かつあまりに身勝手な言い分にユリオはキレるが、ララエルはそれが理解できないとばかりに首を傾げた。
「なんで? 私が欲しいって言ってるんだよ? 素直に差し出さないといけないでしょ」
「こ、ここは俺達「闘気研究部」の部室だ! 学園からの許可も下りてるし、お前のもんじゃねえ!」
「うーん。私が欲しいって言ってるのに、なんでそんな屁理屈言うんだろう」
ララエルはやはり、理解できない。
欲しいと言ったら手に入るのが当たり前で、周囲は全力でララエルのご機嫌をとるものだ。
故にララエルは、ユリオを敵だと認定。これ以上の会話は意味がないと、排除することを決断する。
「まあいいや。雑魚なお兄ちゃんはさっさと出てってよ」
「なっ――」
ララエルは両手に電気を纏い、それを限界まで高めていく。
その魔術の練度は、学生が誇って良いものではない。
それが容赦なくユリオに向けられ、逃げる暇すら与えられなかった。
「じゃあねー。ざぁ~こ♡」
とても愉快そうな笑みを浮かべたララエルは、その雷撃をユリオに向かって解き放った。
直撃すれば大怪我は免れない。そんな雷撃にユリオは恐怖のあまり動けず――
「お前どんな教育受けてるんだよ!」
直前で割り込んできたエルビンによって、その雷は四散した。
「あれ。エルビンさんじゃん」
「エルビンさん! た、助かりました」
「おう。何かララエルが暴れてるって聞いてきてみたら、こいつヤバいな」
エルビンはそう吐き捨てる。
まともな教育を受けていれば、人に対して己の我が儘を押し通すために魔術を放つなんてするはずがない。
これが天才故に甘やかされ、全てを肯定された末に生まれたモンスターだとでも言うのか。
「エルビンさん私の邪魔するんだ」
「するに決まってるだろ。レミエッタにもクレームを入れさせてもらおう」
「えー。そんなことしたら姉様怒るじゃん。そしたらさ、潰したくなるでしょ」
「たくっ……ここまで行くとガキの戯れ言じゃ処理できないな」
育成失敗とはまさにララエルを体現した言葉だろう。
大人達がその才能故に正しい教育ができなかったのなら、エルビンは俺がやるしかないと溜め息をつく。
「まあ元から決めてたことだ。ララエル、一旦お前を叩き潰してその鼻っ柱叩き折らせてもらおうか」
「へー。そういう戯れ言吐いちゃうんだ。良いよ、私がエルビンさんを叩き潰してあげる」
エルビンのその宣言に、ララエルは悪魔のような笑みを浮かべた。
それは敗北を決して疑わず、目の前に現れた障害を叩き潰すことを楽しむような笑みだった。
「ここじゃあれだ。一週間後、学園の訓練場でやろう」
「うんうん。観客は沢山呼ぼうね。エルビンさんが床に這いつくばるところ、みんなに見て貰わないと」
「そうだな。お前が泣いて謝るところを大衆の目に晒さないとな」
「…………生意気だなー」
ララエルはそう言って、エルビンの横を素通りする。
「一週間後、楽しみにしてるね。逃げたらラインベルの負け犬ってみんなに言いふらすから♪」
「お前こそ逃げるなよ」
最後までララエルは笑っていた。
身の程知らずのエルビンを、どう叩き潰すか想像しているのだろう。それはララエルの想像であると同時に、確かに訪れる現実でもある。
それを成せる力がララエルには存在するから、ここまで増長しているのだ。
「ララ!」
数分後、部屋にレミエッタが駆けつけてくる。
息を荒げて飛び込んできたレミエッタに、ユリオ達の鋭い視線が集中した。
「お前はレミエッタ! 何しに来た! お前の妹が俺達になにしたかわかってんのか!」
「ええ、それを止めに来ました」
「遅い! あんな意味不明な化けもん野放しにするとかどうなってんだよ!」
「まあそう言うなユリオ。あれは何もレミエッタの責任とも言えん」
息を荒げるユリオ達を、エルビンはどうどうと宥める。
あそこまで増長したララエルの責任を、姉というだけでレミエッタに押しつけるのは酷なことだ。
唯一ララエルを叱っていることを考えれば、責任などないとも言えるだろう。
「いえ。私の監督不行届です。それについては謝罪します」
「な、なんだよ」
反論してくると踏んでいたユリオ達は、レミエッタが素直に謝ったことに面食らう。
「レミエッタはまともだよ。お前らも、あんま嫌いすぎるな」
「エルビンさん……」
その言葉にユリオ達は押し黙り、レミエッタは話を進めようとする。
「それで、ララは?」
「取りあえず事は納めた。今度決闘するってことでな」
「なっ……あの子と決闘ですか!? 負けますよ?」
そしてその言葉に、レミエッタは大声を上げた。
エルビンがどれだけ強いか十分理解しているだろうに、レミエッタはそれでも勝てないと首を振る。
「まあ、厳しい戦いなのは間違いないな」
そしてエルビンもまた、それを暗に肯定した。
「どうするつもりですか?」
「考えはある。それは……まあまた後で話そう」
ララエルは世紀の天才である。それはエルビンすらも超えていく才だろう。
だがエルビンもまた、ラインベル家随一の剣士で間違いない。
ララエルの力を正確に認識し、勝つための策をその脳内で練っていた。
「これは逆にチャンスだ。俺はそう思っている」
そしてエルビンは、そう自信に満ちた笑みを浮かべた。
◇
ずっとずっと、考えていた。
剣士と魔術士の争いに、どこまでの意味があるのか。どうすれば終わらせることができるのか。
その大きな切っ掛けはテイン・カッシーナ事件であるとはいえ、もう十年前のこと。
俺は終わらせる方法をずっと考えていた。
それはレミエッタと体を重ねるようになってからか、あるいはこの争いに生産性がないと気付いた時か、あるいはもっと前からか。
それはわからないが、今大きな転機を迎えているのは間違いない。
ララエル・マグノリアという存在は、一つの切っ掛けである。
「はぁ、はぁっ♡ ちょっと、激しいです」
「そうか。もう少しゆるく行こうか」
「そうしてください。イキすぎて疲れました」
今日も密室で、俺達は体を重ねている。
ベッドの縁に腰掛けて俺にレミエッタがまたがり、いわゆる対面座位でセックスしていた。
すでに三回戦を終えており、少し休憩の意味合いを込めてのゆるゆるとしたセックスだ。
俺達は互いに結構疲れているためあまり動くことはなく、会話をする余裕すらある。
「それで、ララとの決闘大丈夫なんですか?」
「問題ない。俺はお前を信じているからな」
「そーですか」
レミエッタはそう言って、俺の首筋に顔を埋めてくる。
「私はあの子を正しく導けなかった。……嫉妬して、突き放して、ちゃんと向き合ってこなかった。それは後悔しています」
「……お前の責任じゃない、って言ってもお前は責任を感じるよな。そういう奴だよ」
レミエッタがそういう奴だから、魔術士達はレミエッタに従うのだ。
ララエルが恐怖で従えるのなら、レミエッタは人望とカリスマで従える。魔術の才能がどれだけあろうと、上に立つのが相応しいのはレミエッタだろう。
「俺がやるのは、叩き潰すだけだ。あいつのプライドを粉々にして、初めて挫折と敗北を与える。だから、その後は頼んだぞ」
「……はい。それは私の役目です」
レミエッタはそう言って、俺の体に強く抱きついてきた。
「大丈夫。上手くやるさ。その先に、俺の目的もある」
「……何があなたを、そこまで突き動かすんでしょうね」
「さて、何だろうな」
俺はそう言って誤魔化すが、レミエッタもわかりきっていることだろう。
だけど言葉にしないのは、俺達が互いに素直になりきれない人種だからだ。
「あなたは本当に、私のことが好きみたいです」
「ははっ。自意識過剰もそこまで行ったら滑稽だ……お前がよく言う台詞だな」
「……誤魔化さないでください。ばーか」
俺もまた、抱きついてくるレミエッタを強く抱き返す。
そして腰を少しだけ早く動かして、レミエッタの子宮にドプドプと精液を注いだ。
「熱い…………でも、本当に全部上手く行って、あなたが土下座で頼んだら、その……結婚してあげても良いですよ」
「言うなー」
俺達は最後の一線を口にしない。
でも同じ想いを共有している。
その想いを抱いたのは、いつだろう。
先日体を重ねただけの仲……いいや、違う。何かが違う。
ずっとずっと。ずーっと昔から、この想いがあったような気がするのだ。