犬猿の仲の剣士と魔術士、うっかり一線を越えたら体の相性抜群だった【書籍化決定】 作:猫屋敷てん
王都郊外にて、俺達は今日も顔を合わせる。
しかし今までの険悪な雰囲気はどこにもなく、無邪気な子供の会合が開かれていた。
「これはアルレイン王国のことが書いてあります」
「へー。そうなのか。ふうどき、ってやつか」
俺達は並んで座り、本を広げて覗き込む。
とても難しそうな文字が書かれているが、レミエッタはスラスラと読めるらしい。
文字を指差しながら読み上げてくれるが、一切詰まることもない。
アルレイン王国の歴史、地理、気候、生息する魔獣。特段面白いものではなかったが、レミエッタと共にそれを読む時間はとても楽しい。
昨日の険悪な雰囲気が嘘のように、そこには柔和な空気が漂っていた。
「レミエッタって頭良いな。大人みたいに敬語も使えるし」
「沢山勉強したんです。……でも、あんま意味なかったです」
レミエッタはそう言って、しょぼんとする。
親に褒められたい、という動機でそこまで必死に勉強したなら、意味はなかったと言えるだろう。
だけどそれは悲しいことだ。
「すげーよ。俺はちょー凄いと思う」
「何ですかいきなり」
「凄いと思ったら凄いって言う。それだけだ」
「うぅ……何か、調子くるう」
俺の言葉に頬を赤く染めてそっぽを向くレミエッタ。
少しだけ素が出た言葉遣いが出ていた。
「今度勉強教えてくれよ。俺は剣を教えてやるから」
そんなレミエッタともっと仲良くなりたいと、俺はそう提案してみる。
「別に、剣は良いです。……でも、勉強ぐらいなら、教えてあげます」
「よっしゃー。俺算数嫌いなんだよ」
「私は得意です」
レミエッタはふふんと自慢げに笑った。
そんなレミエッタが可愛くて、俺も嬉しくなってしまう。
「よし。おやつでも食おうぜ。うちの料理人に作って貰ったんだ」
「おやつっ……!」
丁度良い時間になったので、俺は今日のために頼んだクッキーを取り出して、それにレミエッタは目を輝かせる。
いくら頭が良いとはいえ、やはり子供。おやつの魔力には勝てなかった。
「美味しいです」
「だろ。うちの料理人は凄いんだ」
「うちの料理人と良い勝負ですね」
夢中になってクッキーを食べるレミエッタは、ハムスターのように可愛らしい。
あっという間にクッキーを食べ終えたレミエッタは、初めて見るような満面の笑みを浮かべていた。
「美味しいです。ありがとう、ございます。また食べたいです」
「へへっ。また料理人に頼んでみる」
「やった」
キラキラと目を輝かせて、楽しげなレミエッタ。
昨日のような泣き顔をもう見たくない。そう思っていた俺は、その笑顔にほっとしていた。
そしてとても、惹かれていた。
「また明日な」
「はい!」
多分この時から俺は、レミエッタに惚れていたのだろう。
◇
その後俺達は、秘密の逢瀬を交わし続けた。
王都郊外で毎日のように会い、一緒に勉強をしたり、剣を振ったり。ただ会話をするだけだったり。
それは楽しい日々であるが、俺がラインベルでレミエッタがマグノリアである以上周囲には言えず、王都郊外でひっそりと会うしかない。
それでも楽しいのだが、やはり俺達は少しだけ違うことがしたくなる。
だから仲良くなって一ヶ月が経過したある日、俺達は王都の中心部まで繰り出していた。
「とても、面白かったです。胸が、きゅんってしますね」
「だろ。恋愛映画ってのは良いものだ」
俺達はそう言いながら、映画館を後にする。
アルレイン王国と言えば映画が有名だ。普段は家族と見に来るものだが、今日はレミエッタと二人きり。
見る映画は恋愛ものだった。
「私は派手なバトルをする映画が好きですが、こういうのも良いです」
レミエッタは拳をぶんぶんとしながらそう言う。
見た目に似合わず格闘映画が好きらしい。
「特にお姫様にキ……キスをして目覚めさせるところは。……とても、良いです」
「お、おう。良かったよな」
「はい……」
そして感想を語り合うが、レミエッタは顔を赤くしてそう言う。
レミエッタが挙げたのは、今回の映画で一番盛り上がるちょっと大人なシーンである。
俺もそんなレミエッタに釣られるように、顔を赤くした。
決してレミエッタとのキスを想像したとかそういうのはない。
「また、来ましょうね」
「ああ。また来よう」
だから照れを隠すように、俺達はそう言い合った。
そうして俺達が大通りを並んで歩いていれば、ドタドタと足音が聞こえてくる。
「――こっちだ」
「ああ。急げ」
人混みをかき分け俺達の横を走って行ったのは、王都を守護する警備兵だ。
制服からして魔術士だろう。何か事件でも起きたのか、とても慌てた様子だ。
「何なんでしょうか」
「さあな。というか、俺達顔見られてないよな」
「大丈夫だと思います」
もし警備兵から親父に伝われば、どれだけ怒られるかわかったものじゃない。
マグノリアと仲良くしたとなれば、三日にわたる折檻は免れないだろう。
「……今日はもう帰りましょう」
「……そうだな」
怒られる未来を考えた俺達は、映画の楽しい余韻も消えてしまう。
今日はこのまま解散しようと、俺達はそこで別れた。
◇
「時にエルビン。お前は最近、どこへ行っているのだ?」
「っ!?」
その日の夕食時、俺は親父から問いかけられたその言葉に口から心臓が飛び出そうになった。
「べ、別に。何でもない。ちょっと修行っていうか。それだけ」
「そうか」
親父はそれで納得してくれたのか、それ以上の追求はしてこない。
だが俺の心臓はバクバクとうるさく鳴り続けていた。
「あまり危険なことはするなよ。エルビン」
「兄貴……大丈夫だ。ただの修行だから」
「それなら良いが。親父」
「ああ。……近頃王都が物騒だ。十分に気をつけ、出かけるなら人通りが多い場所に留めておけ」
そして親父は、俺に注意しろと言いつける。
俺はそれに頷きつつも、長いこと戦争も起きておらず、平和な王都が物騒だという話に首を傾げていた。
「親父、エルビンは幼い。しばらくは外出禁止の方が良くないか?」
「……あれは我々には何もしないだろう。問題はない」
「まあ、そうだけど」
そんな俺の目の前で、親父と兄貴は意味深な会話をする。
「それに、あまり大事にはしたくない。お前達は普段通りに生活しろ」
「……了解した」
「わかった」
俺には隠し事でもあるのか、その物騒なことの中身は言ってくれなかった。
無論気になることではあるが、あまりこの話題を広げすぎるとレミエッタの件がバレかねないと、俺は素直に頷いておく。
「物騒……か」
ただその言葉が俺の頭から離れてくれなかった。
だから口の中で言葉を転がして、ふと考える。
確かに昼間、警備兵が慌ただしく走っていたか。
少し嫌な予感を感じながらも、気を付ければ良いかと俺は夕食をかき込んだ。