※この作品はR-18です。

犬猿の仲の剣士と魔術士、うっかり一線を越えたら体の相性抜群だった【書籍化決定】   作:猫屋敷てん

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二人が結ばれるその時は

 レミエッタ・マグノリアは天才である。

 

 というのは俺どころか誰もが認めることだろう。ララエルという超天才がいたせいで影に隠れがちではあるが、レミが天才であることは疑いようのない事実だ。

 

「これは……どういうことだ、レミエッタ」

 

 マグノリア邸にて、魔術士のトップにしてレミエッタの父。グラゼフ・マグノリアは冷や汗を掻きながらレミエッタと相対していた。

 ソファに腰掛けているが、グラゼフの顔面は蒼白しており、対してレミエッタは余裕の笑みだ。

 

「お父様なら察していただけると思いましたが、言葉にしなければいけないようですね。その当主の座を、譲っていただけませんか?」

「っ……」

 

 レミエッタの言葉に、グラゼフは息を呑む。

 娘から告げられた突然の宣言に、言葉が出ない様子だった。

 

「もし譲っていただけないのであれば、お渡しした資料にあるように、お父様の犯した罪を告発しなければならないでしょう」

 

 レミエッタが指差すのは、グラゼフの手元にある紙束。

 竜化実験の全容について、レミエッタが独自に調査した情報が記されたものだ。

 

「りゅ、竜化実験は全員の同意の下行われたものだ。罪なんてそんな」

「ふふふ。調べはついています。被験者カッシーナは我が家に対し大きな借金を抱えていたとか。果たしてそんな関係で得た同意は、同意と呼べるのでしょうか。魔術士カッシーナを無理矢理竜化実験の被験者にし、決して戻らぬ竜へ変えた。これは大きな罪です」

「ぐっ……」

 

 レミエッタは実の父を追い詰め、裁いていた。

 そこに肉親だからという容赦は感じられない。いや、当主の座を譲ってくれれば告発はしないと言うのは、優しさかもしれない。

 

「しょ、証拠はあるのか。私がカッシーナを無理矢理竜化実験の被験者にしたという証拠は! 確固たる証拠がなければ、司法が動くことはない!」

「それは国家機関の捜査に任せましょう。証拠があろうとなかろうと、お父様が竜化実験をやっていた。その被験者は我が家に莫大な借金があった。これは事実です。今の状況でこの事実が表に出たらどうなるか、お父様ならおわかりですよね?」

「…………」

 

 グラゼフは、完全に押し黙った。

 今、魔術士達は先の一件もあり追い詰められている。テイン・カッシーナ事件の原因となった非道な竜化実験。それを解決した俺の記憶を操作して剣士を攻撃する材料にしたり、何なら捕らえていたテインを逃してそれを隠蔽した挙句王都に膨大な被害を出したり。挙げ出したらキリがないほどのやらかしで、魔術士の地位は失墜していた。

 

 もうこれ以上の失態は明るみに出てはいけないという状況で、そのとどめを刺しにきたのがレミエッタだった。

 すでにこの場はレミエッタの独壇場だ。

 

「レ、レミエッタよ。竜化は魔術の神髄だ。剣士どころかこの世の全てを超越できる可能性だ。我々魔術士がこの世界に君臨できる切っ掛けだ。トップたるマグノリアは世界の王にすらなれる。わかるだろう? この素晴らしさが!!」

 

 どうしようもなく追い詰められたグラゼフが行ったのは、レミエッタの説得だった。

 竜化の魔術がいかに素晴らしいかを熱弁し、レミエッタを引き込もうとする。

 

 だがそれは、何の効果もない愚策としか言えないだろう

 

「さて。まったくわかりません。私にとっては、好きな人と共にいる時間ほど素晴らしいものはないので」

「レミエッタ!?」

「当主の座を譲っていただけませんか? そうすればお父様は安らかな隠居生活を送ることができます。ただ譲っていただけないのであれば……お父様ならわかりますね?」

「…………」

 

 グラゼフは、顔を伏して沈黙した。

 積み上げてきた権力が、ガラガラと崩れる音がその耳には聞こえているのだろう。

 

 もし何か間違いがあるとすれば、竜化実験だ。

 竜化実験さえ行わなければ、こうはならなかった。剣士に勝ちたいという下らないプライドから、こうして崩壊してゆくのだ。

 

「わかっ……た。私は、お前に、当主の座を譲ろう」

 

 項垂れたグラゼフは、顔面を蒼白させながらそう告げる。

 それにレミエッタは、とても可愛らしい笑みを浮かべていた。

 

「ありがとうございます。お父様」

「……お前は、こんなことをして、何をしようと言うのだ」

「……私は、より良き未来を作りたい。それだけです」

「…………そうか」

 

 俯くままに、グラゼフはそう呟く。

 そんな父に、レミエッタはさらなる言葉をかけた。

 

「私に全て任せてください。先のテイン・カッシーナ事件をきっかけに失墜した魔術士の名声も全て取り戻し、より良き未来を作ることを約束します」

「っ…………すまなかったな」

 

 グラゼフは最後に消え入るような声で謝罪して、ずっと俯き続けていた。

 

 

 

 レミエッタはあっという間に当主の座についた。

 それをなしたのが学園に在籍している間。卒業を控えた三年次の時だ。

 俺は顔を隠して一従者のふりをしてその様子を見ていたが、端から見ているだけで恐ろしさすら感じたものだ。

 

 その後も次々と魔術士を従えていき、レミエッタは混乱していた魔術士を一つに纏めてしまう。

 剣士への敵対心が強固な古い世代はテインの一件や竜化実験の罪を上手く使って失脚させ、若い世代にはレミエッタ自ら説得して回る。

 

 レミエッタが魔術士を纏める傍らで、俺も負けてはいない。

 まず兄貴を説得し、そのまま親父もなし崩しに説得。最後まで魔術士と仲良くすることを渋っていたが、レミエッタと何度も関わるうちに、考えを変えてくれた。

 

 剣士のトップと魔術士のトップが仲良くする意思を見せ、そこに王家も全力で協力してくれる。

 

 結局この争いに、意味などないのだ。あるのは過去の遺恨と下らないプライド。少しでも歩み寄る姿勢を見せれば、変わるものが確かにあった。

 

 そうして数年の月日が経ち――

 

 

 ◇

 

 

 穏やかな風吹く庭先で、俺は空を見上げていた。

 別になにか目的があるわけじゃない。暇つぶしのように空を見て、声をかけられればすぐにそれを中断する。

 

「お待たせしました」

「おう、って何してんだよレミ」

 

 トレーにお茶とお菓子をもって家から出てきたレミに、俺は慌ててそれを受け取りテーブルに置いた。

 今日は少し時間があったため庭でお茶でもということだったが、それをレミが持ってくるのはあまり褒められたことではない。

 

「そういうのは使用人に任せろよ。無理できる体じゃないんだ」

「十分気をつけてますよ。鈍ってしまうくらいです」

 

 そう言ってレミエッタは、大きく膨らんだお腹をそっと撫でた。

 

「そもそも悪いのは誰でしょうか? 私達の婚約が決まったその日に孕ませた誰かさんのせいな気がします」

「そ、それは……」

 

 俺はその言葉に詰まる。

 剣士と魔術士の関係改善に奔走し、ようやくそれが実り始めた頃。ダメ押しとばかりに発表された俺達の婚約と、その夜にした種付けセックス。

 

 かなり重要な時期であり、本来は状況が落ち着いてから子作りには励むべきだ。

 しかしいろいろあって、一番重要な時期にレミは妊娠していた。

 

「……しかしレミエッタ様がおねだりになられた記憶が」

「エルだってのりのりだったでしょう! 女の子は好きな男の人の赤ちゃんを産みたくなってしまうのです。それを止める責任はエルにもあると思います」

「…………まあいっか」

 

 そんな可愛いことを言われては、全ての責任を背負うしかない。

 恥ずかしそうに言うレミエッタは可愛いのでもう全部良しだ。

 俺も俺でちゃんと動いているし、レミが妊娠しようと見据えている未来は何も変わらないのだ。

 

「出産が近づけば私は暫く動けません。頼みましたよ」

「おう。問題はない。アルベダの野郎と協力して、反対勢力の切り崩しは大詰めだ」

 

 俺の友にして、第二王子のアルベダとは深い連携を築いている。

 強固に反対する勢力を切り崩すまであと一歩。無論長く残った因縁はそう簡単に解決しないが、形だけでも手を取り合えば、次の世代が変えてくれるはずだ。

 

「では全て任せちゃいます」

「おう任せて安静にしておけ。レミは体も小さいんだし、無理をしちゃいけない」

 

 小柄なレミにとって、出産は大変なこととなるだろう。それに備えて準備をしてはいるが、不安は拭えない。

 

「私も頑張ります。この子は……希望の子です。剣士と魔術士の子が、未来を繋いでくれるはずです」

「そうだな」

 

 未だかつて剣士と魔術士が子をなした正式な例はない。

 あったとしても抹消されているから、これが公式的には初めてとなるだろう。

 

 剣士の闘気と、魔術士の魔力。そのどちらを受け継ぐのか、あるいは二つとも持つのか。

 それに多くの者が注目しているが、俺としてはどうでも良い。ただ健やかに育ってくれれば。それを願うばかりだ。

 

「まあ頑張るか。より良い未来を作るために」

「ええ。……ですが、エルは頑張るためには私とえっちをしないといけないんですよね?」

「……まあ、そういうことだ」

「しょうがない人です。今は安定しているので、今夜優しく抱いてくれるなら、してあげます」

「ありがたき幸せ!!」

 

 明るい未来は見えている。

 俺はその未来を確実なものとすべく、レミを強く抱きしめた――




●あとがき

 最後まで読んでいただきありがとうございました!
 これにて本作は一旦完結です!

 ツンデレ敬語ヒロインが書きたいというただそれだけで始まった今作ですが、結構大きなストーリーになってしまいました。ただイチャラブが書きたかっただけなのに……。
 ですが、無事に完結できて良かったです。

 本作はこれにて完結ですが、この後二話後日談を更新予定。
 後半はエロがほとんどなかったので、そこら辺は後日談で書いていきます。
 
 次もまたこういう純愛作品を書いていく予定です。過去作も似たような純愛物なので、もっとイチャラブが読みたいという方はぜひTwitterにあるリンクから読んでみてください。
 それではまたお会いしましょう。

 猫屋敷てん
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