犬猿の仲の剣士と魔術士、うっかり一線を越えたら体の相性抜群だった【書籍化決定】 作:猫屋敷てん
限界までセックスして、倒れるように眠りについた俺達が起きたのは朝日が昇る時間だった。
大慌てで起き出して、レミエッタに男子寮まで送ってもらう。
どうなることかと思ったが、無事にバレることなく部屋まで戻ることができた。
レミエッタには蹴りをもらってしまったが、昨夜のことに後悔はない。最高の夜だったと断言できるだろう。
そして俺達には、日常が戻ってきた。
体を重ねようとも、俺達の関係が変わることはない。いつも通り剣士と魔術士のトップとして対立し、顔を合わせれば罵り合う。
あの夜のことは夢なのではと思えるほど、変わり映えしなかった。
端から見て、俺達がすでに二度もセックスをしたなど信じる者は皆無だろう。
だがそれはそれでとても悲しいものだ。
そんな悶々とした気持ちを抱えること一週間。俺の気持ちが落ち着くことはなかった。
「──以上が、テイン・カッシーナ事件の全貌だ。ここはテストに出るが、未だ議論されている事件なので古い情報を掴まぬよう気をつけること」
教師の声が聞こえてきた。今は現代史の授業中。その中でも最重要なテイン・カッシーナ事件を取り扱っていた。
それは十年前に起こった魔術士無差別殺人事件だが、その全容は未だ議論されている。
しかし俺はそんなのどうでも良く、レミエッタのことが頭から離れなかった。
あの小さくて可愛いおすましロリが、俺の心を掴んで離さないのだ。
本当に男というのは単純なもので、一度体を重ねればあれだけ嫌いだった女にも情が沸いてしまう。
俺はどうにもレミエッタのことが好きになりかけていた。というか好きである。
俺の下で可愛らしく喘ぐ姿はあまりにも愛おしいし、あの嫌味すら今は心地よく聞こえてしまう。
だが問題は、レミエッタは俺のことが好きではないということだ。
レミエッタはただ満たされぬ欲求を俺で満たそうとしているだけ。
性欲がなくなれば俺のことなど何とも思わないのだろう。
現にこの一週間、レミエッタと交わしたのは嫌味の応酬ぐらいだ。
次のセックスも、レミエッタの性欲が高まった時。それはいつだろう。明日かもしれない。一週間後、一ヶ月後――
あるいは他の誰かで解消する。レミエッタの側にいた男の魔術士で解消するかもしれない。そんなことを考えれば、胸がただただ痛くなった。
「エルビンさん。エルビンさん!」
「……なんだ?」
俺が気分を落ち込ませていたら、お付きのユリオが話しかけてきた。
「今日の放課後は剣士仲間で出かけませんか? 新しい映画が公開されたらしいっすよ」
「映画か。そうか。……それもありだな」
ずっとレミエッタのことを考えるわけにもいかないだろう。仲間達と映画でも観て気分転換を図るのもいい。
今日の授業を終えたことで、俺はそう考え立ち上がった。
◇
王都で一番大きな映画館まで遊びに来て、新作映画を鑑賞する。
その内容はラブストーリー、しかも報われないタイプのものであり、俺の心がただただ傷つく結果となった。
敵対する貴族の子同士が、恋に落ちて最後は敗れ心中するというストーリーは今の俺にあまりにクリティカルだ。
「いやー。よかったですねエルビンさん」
「恋愛ものもたまに見ると良いものです」
仲間達はワイワイと盛り上がるが、俺はちっとも盛り上がれない。
こんな気持ちになるなら、同時上映されている怪獣映画が見たかった。元剣騎士が主演でアクロバティックな映画らしい。
本当に心がズーンと沈んで──
「おや。なぜあなたがここにいるのでしょう」
今一番聞きたかった女の声が、俺の耳に届いたのだ。
「っレミエッ──」
「き、貴様はレミエッタ!」
「ええい。エルビンさんに何の用だ!」
俺が笑顔で返答しようとしたその瞬間、遮るようにユリオ達が前に出てレミエッタに応戦する。
「一人で映画でも見に来たのか? 寂しいやつめ!」
「そうだそうだ。やはり本当は付き従う者などいない寂しい女なのだな!」
普段は取り巻きを連れているレミエッタが、今日は一人。それをついてユリオ達は攻め立て、優位に立とうとする。
しかしレミエッタを相手にその程度の攻めで勝てるはずがない。
「理論が飛躍し、意味不明になっていることに気づいて欲しいですね。一人で映画を見にきては行けないのでしょうか? それがあなた達の攻撃手段になっているということは、一人が怖いという弱さの裏返しでもありますね。群れることしかできない矮小な方々には難しい話かもしれませんが」
「な、何だと。貴様! 屁理屈を並べやがって」
「そうだそうだ。これだから魔術士は駄目なんだ」
レミエッタに長文論破されたユリオ達は、顔を真っ赤にして怒り出す。それが己の品性を下げる行為であり、ひいては剣士という地位を貶める行動であると自覚して欲しいものだ。
「止めておけ。それ以上の喧嘩は害にしかならない」
「エルビンさん!」
「このやりとりにどれほどの生産性がある」
「っ──」
本当に、意味のない行動だ。でも俺達が剣士であり、奴が魔術士である以上、運命がそれを強制する。
だから俺はさっさと格付けを済ませ終わらせたかったのだ。
だが今は、その格付けすら無意味だと思っている。
剣士と魔術士、共に国家を支える重要な存在である以上、過去の遺恨を忘れて協力していきたいものだ。
「悪かったな。誰がどう映画を観ようと、俺達が何かを言う筋合いはない」
「わかったなら結構です。あなたは、唯一理解力があるようで関心しました」
「……そうだな」
ついでのように煽ってくるレミエッタの言葉は無視して、俺は静かに同意する。
そうすれば肩透かしを食らったように、レミエッタは口を結んだ。
そんなレミエッタに、俺はふと問いかける。
「お前は、どう思ってるんだ」
「というと?」
「俺達のやりとりに、意味があると思うか?」
それはレミエッタにずっと聞きたかったことだ。
レミエッタは頭が良い。だからわかっているはずだ。剣士と魔術士の対立に、過去の遺恨以上の意味などないと。
それをレミエッタと体を重ねることで俺は理解した。なら、レミエッタはどうだ。
「その返答を、今ここでするつもりはありませんよ」
レミエッタはユリオ達に視線をやった後、そう答えた。
その意味を俺だけは理解する。
「そうか」
「ええ。またいずれ」
そう言って、レミエッタは踵を返して去っていく。俺はその背をじっと見つめた。
「エルビンさん……?」
ユリオ達は今のやりとりがあまり理解できないのか、疑問符を浮かべている。
だが俺は説明することなく、首を振った。
「今日はここで解散するか」
「っ、す、すいません。あの女に、言いくるめられちまって……」
「すいません!」
ユリオ達はそう言って、思いっきり頭を下げてきた。
俺がレミエッタに負けたことを怒っているとでも思ったのだろう。
「別に怒っちゃいない」
「でも──」
「まああれだな。何で俺達は対立してるんだろうな」
「えっ?」
勝った負けたも意味がない以上、どうでもいい。
俺は今、意味のない対立を終わらせる方法だけを考えていた。だからそうユリオ達に問いかける。
「まあ、考えといてくれ。よーくな」
それだけ告げて、俺は映画館を後にする。
その足は自然と、レミエッタが去っていった方向に向かっていた。
◇
駆け足で通りを進めば、すぐにレミエッタの背中を捉えることができた。
チビなだけあり歩くスピードは遅く、俺はあっという間にその背に追いつく。
「よう、レミエッタ」
「……何ですか?」
勇気を出して声を掛ければ、ピタッと立ち止まったレミエッタは嫌そうな顔をしながら振り向いた。
「いやなに。映画面白かったか?」
「……あなたも下らないことを言いに来たのですか?」
「なわけないってわかってるだろ」
「まあ、そうですね。面白かったですよ」
嫌そうな顔をされようと、俺は臆することなく話しかける。そうすれば呆れたような顔をしながらも、レミエッタは付き合ってくれた。
前までなら口すら聞いてくれなかっただろうし、レミエッタとの距離も縮まっていると思いたい。
「レミエッタが見ていたのは新作の怪獣映画だろ。ああいうのを見るんだな」
「ええ。恋愛物など何が良いかわからないので。どうせ見るならスッキリするものを見ませんか?」
「一理あるな」
「でしょう」
そんな話をしながら、俺達は通りを歩いた。
その間険悪な雰囲気などは微塵もなく、ただただ楽しい時間だけが流れる。その時間が何よりも楽しくて、俺は永遠に続くことを望んでいた。
隣を歩くレミエッタから目を離せない。
白銀の髪をたなびかせ、楽しそうに何かを語るレミエッタは誰よりも美しかった。
普段の制服姿ではなく、今日は純白のブラウスにジャンパースカートと可愛らしい私服姿。お嬢様然としたとても似合う服装だ。
「何ですか? ジロジロと見て」
「いや、何でもない」
「誤魔化さなくて良いですよ。ふふふ。私のことが好きなんじゃないですか?」
「っ…………なわけないだろ。体だけの関係だ」
素直に認めれば良かったのに、俺のちっぽけなプライドが認めることを許さなかった。
言ってすぐに後悔するが、レミエッタはどこ吹く風だ。
「まあ、そういうことにしておいてあげましょう」
まるでお見通しだと言わんばかりの態度だが、今はそれがありがたかった。
ここで変に拗れていたら、俺は俺を一生許さなかっただろう。
「ふん……そういうことだ馬鹿」
でも素直に認められない自分のことが、どうにも俺は嫌いだ。
「そういえば、この後時間ありますか?」
「じ、時間だと?」
「ええ」
そしてそう言うレミエッタに、俺の心臓は大きく跳ねた。
「ああ! 問題ない」
「なら少しお時間良いですか? これからのことを話し合っておきたいので」
「おう! なら俺の部屋でどうだ? 周囲には漏らせない話だろう?」
「……何だか邪の思考が見え隠れしていますが、まあ良いでしょう」
レミエッタはそう言って、学園へ戻る道を歩み出した。
俺の胸はより高鳴った。
◇
透明化の魔術を駆使し、誰にもバレぬよう男子寮にある俺の部屋へレミエッタを通すことに成功する。
ラインベル家の次男ということで俺には個室が与えられているため、鍵を掛けレミエッタが防音の結界を張れば完璧な密室の完成だ。
「……意外に整理されていますね。もっと散らかっているかと思っていました」
「汚いのは嫌いだ。そうだろ?」
「まったくです」
レミエッタの部屋も整頓されていて綺麗だったが、俺の部屋も負けず劣らずだろう。
必要最低限の物しかないのは、人生において生産性を阻害するものを置きたくないから。
そんな他愛もない会話をする時も、俺はレミエッタから目が離せなかった。
個室で二人きりともなれば、否応なしに意識してしまうもの。特に一週間もお預けを食らっている俺は、己の性欲を鎮めるのに精一杯だった。
そんな俺を見て、レミエッタは目を細める。
「……で、話ってのは?」
「そうですね。ただその前に――」
俺はさっさと本題に入ろうとしたが、レミエッタは待ったをかけて近づいて来た。
距離十センチほどまで接近してきたレミエッタは、俺を見上げながら意地悪そうな笑みを浮かべる。
「話ができそうな状態ですか?」
「っ――」
レミエッタの纏う香りが俺の鼻腔をくすぐって、興奮はより掻き立てられる。
まるで全てを見透かすようなその目に、俺は手玉に取られたような感覚に陥った。
「ふふ。変態」
レミエッタはニヤニヤと楽しそうに笑う。俺はそれに、対抗するよう不敵そうな笑みを浮かべるので精一杯だった。
本当に、なぜレミエッタに夢中になってしまうのか。もっと胸や尻が大きく、魅力的な女は多数いる。だが背が低く小さくて、胸も尻も小さなおすましロリに俺は夢中になってしまったのだ。
「何がだ……?」
「とぼけないでください。それで優位に立つおつもりですか?」
「…………」
「まあ、良いですよ」
そう言って、レミエッタはくるっと背を向けた。
「一回出しますか?」
「えっ?」
「そんな状態じゃ、お話もできませんよね?」
「レミエッタ……」
チラっと振り向いたレミエッタは、まるで誘うような流し目を送ってきた。
俺はそれに惹かれるように、レミエッタを背後からそっと抱く。
「一回だけですよ」
「あ、ああ」
それ以上、言葉を必要としなかった。
スカートに包まれた小さなお尻にグリグリと股間を押しつけても、レミエッタは何も言うことはない。
一回だけ中に出すことを許可してくれた。
やはり俺達はもう駄目だ。
男と女の快楽を知り、抜け出せなくなっていた。