解凍されたら1000年後。人類から男が絶滅してました。〜ピッチリスーツの性欲旺盛美少女たちに人類保全の種付けセックスを強要されるらしい〜 作:ユリイカ
旧人類探索艦〈ミグダル〉、艦載機格納庫。エアロックの扉が開き、翼を折り畳んだスワローがレールに沿って帰投する。整備員たちがすぐさま梯子を掛け、給油と損傷の確認を行う中、ゆっくりと降りてきたのは、地上降下部隊アルファの隊長アリサだ。
「……周辺に不審な船は、ありませんでした……。トウヤさんの発信機も反応は……」
顔面蒼白。足取りもおぼつかないまま、彼女はうわ言のように報告をあげる。それを聞いた艦長セイルもまた、深刻な表情だ。
アルファ部隊が直属の護衛につき、ベータとガンマがサポートを行いながらの、惑星〈ティリア〉観光。カフェのトイレに行ったトウヤが攫われたことに気が付いたのは、誘拐から数分も経っていないことのことだった。しかし、トイレの壁を破壊して通路を見つけたアリサ達だがトウヤの足取りは追えず、緊急でティリアの出入星を完全封鎖した。現在はティリアの治安維持部隊と共に不審船の捜索を行なっているが、それも成果は芳しくなかった。
命よりも大切な、人類の命運を左右する人物を失ったことで、艦内は通夜のように重苦しい空気に包まれていた。トウヤをトイレに案内したテレスなど、もはや任務遂行にさえ支障が出るほどに憔悴しきっており、医務室のベッドに臥せている。
「探索範囲を拡大しろ。レーダーは出力上限を超過してもかまわん。小惑星の裏側まで、隈なく探せ」
セイルの指示を受けるまでもなく、観測部は目を皿のようにしてトウヤの痕跡を探している。だが、彼の足跡は杳として見つからない。
「艦長。これは、デモニアが関わっていると思った方がいいんじゃねぇか……ですか?」
そう具申したのは、厳しい表情を隠しもしないベータ隊隊長ジェーン。彼女もまた、店の安全確認を担った一人だ。隠し通路や店員は数年単位で偽装されていた。それこそ、彼女達が旧人類捜索任務に就く以前から計画されていたことだ。とはいえ、トウヤを攫われたことを正当化できるわけではない。
彼女は拳をきつく握り締め、爪先から血を滲ませそうになりながら、今にも暴れ出したくなるのを必死に抑えている。
「十中八九、そうだろう。先の狙撃といい、デモニアは人類の裏切り者を取り込んでいるらしい」
ぎり、と奥歯を軋ませながらセイルが断ずる。デモニアの文化に反して、名乗りを上げない狙撃手。堂々と接客をした人間の女。彼女達が関わっていながら、トウヤの足取りが完璧に消されているということは、人類よりもはるかに高い技術を持つデモニアが関与していることも間違いない。そこから導き出されるのは、両者が手を組んでいるという、信じがたい事実。
「艦長、もう一度探索に……」
「アリサは休め。もう、スワローで探せる範囲にはいないはずだ」
「ですが……っ!」
セイルが心配しているのはトウヤの安否だけではない。アリサは明らかに疲労を見せているにも関わらず、わずかな燃料補給を済ませた途端、食事も取らずに〈ミグダル〉を飛び出そうとしていた。
「空間潜航で移動されていては、もはや追いつけまい。闇雲に探してもリソースを消耗するだけだ」
「そんな我々の思惑の裏をかいて、近隣に潜伏している可能性だってあります!」
「それならば観測部が発見しているはずだ!」
強情に声をあげるアリサに、セイルも思わず怒気を滲ませる。
「……観測部の成果を待て。お前には、その後で死ぬほど働いてもらう」
「……っ」
アリサは優秀な軍人だ。セイルの言葉の意味が理解できないほど子供ではない。
今も胸が引き裂かれそうだったが、唇を強く噛み締める。周囲の船員達の身を案じる視線も、彼女には針の筵のように感じられた。トウヤを失ったのは、自分のせいだと。
「アリサ」
「なに、ジェーン……んぐっ!?」
低い声で名を呼ばれ振り返ったアリサの下腹部に、強い衝撃が突き込まれる。目の奥が明滅するほどの打撃。肺が潰れ、空気が逃げる。崩れ落ち、意識を手放すアリサが見たのは、憐憫の目で見下ろすジェーンだった。
「……過労で倒れたみたいです。医務室に連れて行きます」
「分かった。先生によろしく言っておけ」
あまりにも白々しい釈明にも関わらず、セイルはすんなりと頷く。ジェーンは小柄な体で軽々とアリサを抱え上げ、肩に担いで歩き去っていった。
「ティリアの出入港記録を全て洗え。不審な積荷があれば、すぐに報告しろ」
広大な宇宙に逃げられれば、見つけることは難しい。広大な砂漠に落ちた一粒の砂金を見つけるようなものだ。セイルはティリア宇宙港に発着した貨物船に焦点を当て、不審なものがないかを総浚いする。麻薬や禁輸品の類は別にどうでもいい。宇宙唯一の宝さえ見つければ、それでいい。
刻一刻と時間は無情にも過ぎていくのだ。
「1時間あれば、敵は10光年離れると思え。全ての軍事基地との連絡を許可する」
人類の命運を担う〈ミグダル〉は有事には統一銀河政府の皇女に匹敵する権利が与えられる。その条件もまた、艦長の独断で可能であった。セイルは質量以上の重みのある軍服を正し、猛々しく号令する。
中央指揮所の観測部員たちは機器を操作し、強制的に全星系統一軍事ネットワークへとアクセスする。公にされているものから、そうでないものまで、全ての観測拠点、観測リソース、哨戒部隊を利用する。軍用、公共、民間の監視システムを掌握し、一斉に検索を実施する。
「目の届かない暗黒宙域には無人機を派遣しろ。近隣の民間企業から強制徴用してもいい」
全てはトウヤのため。ただ一人の男を見つけ出すため。
セイルの一言で、広大な統一銀河政府の版図が鳴動する。人類の威信にかけて、必ず見つけ出す。どんな手段を使っても。
「特務部にも特別捜査権限を付与する。裏切り者を炙り出せ。そこから全てを引き摺り出せ」
合法、非合法は問わない。旧人類捜索作戦は立法府も司法機関も擁する統一銀河政府主導だ。その強権を任されるセイルの言葉は、すなわち皇女の言葉に等しい。
特務部。それは〈ミグダル〉においてもごく一部の上級幹部しかその存在を知らぬ秘匿された部隊。あらゆる任務を遂行するための能力と装備を持ち、艦長の指示を受ければどんなことでも実行する。漆黒のスキンスーツは宇宙の闇に溶け込む忍装束だ。
「どうか無事でいてくれ……トウヤ殿」
考えうる全ての手を尽くし、トウヤを探す。指示を下したセイルは、もはや天に祈るほかにできることはなかった。
†
トウヤ喪失から、淡々と三日が過ぎた。その間に進捗と呼べるほどの成果はなく、現場には凄まじい緊張が迫る。アリサは拘束具に繋がれ、テレスには鎮静剤が投与された。
重苦しい声しか伝えない通信に、セイルも鋼の精神が蝕まれていくのを自覚している。それでも、ここで倒れるわけにはいかない。彼女はもはや、気合いだけで立っていた。
しかし、それももう限界か。
合理的な思考ならば、トウヤを失った時点で任務は失敗と判断しなければならない。統一銀河政府に第264次作戦の失敗を上奏し、艦長は責任を取るべきだ。その上で、第265次作戦の策定が始められる。
だが。
「まだ、あともう少し……」
セイルは諦めきれなかった。
我々は男を探しているのではない。霧雨トウヤ、彼を探すのだ。
その意思が強く、強く彼女の心に突き刺さっていた。その一本の糸だけで、倒れそうな体を支えていた。
「まだ、私はトウヤ殿に抱かれていないのだ!」
艦長室で強く独白する。
年増だからと遠慮していた。だが、失った途端に、燃えるような苦しみが心を締め付けた。彼を見つけ出し、この胸に抱かなければ、彼に抱かれなければ、決して癒えることはない。そうでなければ、死んでも死にきれない。
そして、この思いは自分だけのものではないはずだ。ジェーンも、プルーシェも、レイミも、そしてアリサたちも。
『艦長……』
「っ! バルディアか!」
狂いそうな衝動に身を震わせていた、その時。艦長直通の秘匿回線に反応があった。立ち上がり応じるセイルに、弱々しい声が届く。特務部部長バルディアのものである。
百戦錬磨の優秀な軍人であり、海千山千の敏腕の諜報員でもある彼女の衰弱した声を聞くのは、セイルも初めてのことだ。焦る彼女に、バルディアは絶え絶えに伝える。
『この、座標に……船が……。と、トウヤ様が――ひっ、ひぎぃぃいいっ!?』
「バルディア!? バルディア、報告を――おい!」
絶叫を最後に途絶する通信。常に冷静沈着な彼女にいったい何があったのか。混乱するセイルの元に、バイナリ信号が届く。高度に暗号化されたそれを復号すれば、統一銀河帝国内部で使用される全宇宙統一四次元座標の数値だった。空間と時間を加味した膨大な桁数の数字によって、宇宙のただ一点が示される。
「全船員に次ぐ。これより、〈ミグダル〉は目標座標へと急行する!」
特務部バルディアが遺した手がかり。そこにトウヤがいる。
その確信とともに、セイルは全速前進を命じた。