妹しか居ない異世界にイッたので妹ハーレムを作りました 作:ぶっかけ龍之介
02
「いいですか、くれぐれも女王陛下に失礼な態度をとらないように」
女騎士のよく通る声が大理石の壁に反響する。待機部屋という小さな宝石箱のような一室は玉座の間へ迎えられる前に、諸々の準備を整えるためのものらしい。
無垢な白い壁と、柔らかく沈む絨毯。天井からは豪奢なシャンデリアが吊られ、無数のクリスタルが乙女のため息のように揺れている。
「結局、貴方を兄とする妹は見つかりませんでしたね……」
次いで「しかし、陛下なら何か知っておられるはずです」と、自分に言い聞かせているような独り言を呟く女騎士――――そう、公園にアスカの姿はなかった。アキトの半径5メートル以内には常に居る、振り向けばそこに居るはずの最愛の妹は居なかった。
それどころか、この街――いや、この国にアスカの姿はない。アキトにはそんな予感がある。
(なんで、それが分かるかは知らんけど……)
妹しかいない世界に転生したおかげなのか、それとも重度のシスコンのせいか、とにかく、アキトにはアスカの気配が分かっていた。
(女王ってのはアスカじゃないけど、1番近い存在……そんな気がする)
生まれて始めて経験する、最愛の妹に似ている存在。アキトは出会う前から、女王のことを『別人だが、6割くらいはアスカっぽい』――そんな風に認識していた。
「……話を聞いているのですか?」
隣からキツい視線を向けられる。アキトは緊張をほぐそうと笑みを向けるが、
「うっ……なんですか、その死にそうな顔は――」
そうなのだ。さっきから重力が5倍くらいになったような、それくらい身体が重い。声を出すのも億劫で、指1本動かすのも辛い。目蓋は勝手に閉じようとし、頭の奥がじんじんと鈍く痛む。
これまで最愛の妹の手による完璧な栄養管理と規則正しい生活で、病気1つなったことがないにも関わらず――。
(空腹はそうでもない……痛みもない……何かが――ナニかが足りない……)
不足している。欠乏している。焦燥感が胸を渦巻いている――これは、きっと重い病だ。妹しか居ないこの世界特有の、己にとって致命的なものに違いない。
「だ、大丈夫ですか……? お腹が減った、とか?」
女騎士が怪訝8割、心配2割の目を向けてくる。そしてしばらく思案した後、
「陛下の前で倒れられても困りますね……仕方ありません。これをあげましょう」
やたら勿体ぶって言いながら、女騎士がビスケットを差し出してきた。
(そこはフツー医者じゃね……?)
この堅物女騎士――シルヴィアは天然というか、お母さん気質というか、とにかく『お腹に何か入れれば元気になる』と本気で思っている。病は気から、気は食から――みたいな謎理論を信じている。
(5歳の頃に高熱を出して、それで食いまくって元気になったからって……その経験を万能薬扱いしたらダメだぞ……シルヴィアさん)
アキトは心の中でそっと女騎士をたしなめるが、そんなものは伝わるはずもなく――
「さあ、早く食べなさい。別に毒は入ってません。食べて元気になりなさい」
即断実行を信条とする騎士妹の『あーん』が唐突に開始される。硬いビスケットをまるで剣を扱うように、口へと突きつけてくる。
「食うなら早くしなさい。でなければ捨てます」
目だけで拒否していたら、半ば脅しのような追撃を食らう。食欲はなかったが、しかしシルヴィアの気遣いに報いようと、アキトが口を開き――
(……硬い……石かよ……)
愛する妹の手料理が懐かしい。
女騎士のように硬すぎるビスケットを、どうにか噛み砕き、飲み込んだ。
03
(……この男、やはり怪しい……)
シルヴィアは、もそもそとビスケットを頬張る青年を横目で見ていた。その瞳は警戒の色が滲んでいる。
(しかし、これと言った特徴もなければ、強者特有のオーラもなく…………どこまでも普通ですね)
得体の知れない男は、見れば見るほど『凡庸』だった。中肉中背で、かつ容姿にこれと言った特徴がない。唯一珍しいのは、この国――アルヴェリスでは見かけない、黒い髪くらいのものだ。
しかし、どうしても意識が……視線が引き寄せられてしまう。一目見るだけで、まるで名匠によって生み出された美術品を前にしたかのように胸が高鳴り、静かな興奮を覚えてしまう。
(この男は……私のことをどこまで
それに、最も気がかりなのは己のことを己以上に『知られている』という点だ。
初対面だというのに、この男には自分の名前や性格、口にしがちな言葉や動作の癖、それに、誰にも話したことのない過去の思い出までをも知られている――それは気のせいではなく、確信めいた予感だった。
(なのに、こちらは男のことを――――アキトのことを何も知りません)
どこから来たのか、どうしてこちらのことを知っているのか――――『彼』なのか。
(一瞬だけ見えた、瞳に浮かぶ紋様は間違いなく『彼』の証…………いえ、違います。あれは見間違い……性急に考えすぎです)
興奮と共に沸き上がってくる願望を、シルヴィアは即座に打ち消した。『彼』の発見は、シルヴィアの任務の1つだった。
(たとえ瞳の紋様が見間違いではないとしても、もう1つの『彼』の証を持っていない……この男ではありません)
異常事態の連続に、考え方が乱暴になっている。シルヴィアはかぶりを振って考えを改めた。
(しかし、それとは別に、あの場に妹がいなかったのはどう考えてもおかしい)
『妹と兄は常に共にある』――これは世界の常識であり、国教である『OD教』の教義でもある。妹にとって兄の放置は恥ずべき罪であり、厳しく罰せられるのは言うまでも無い。
(世界は深刻な兄不足……妹は多数いても、兄の数は少数。『一兄一妹制度』は崩壊し、女王陛下にすらパートナーである兄王はいません。この国で兄を持つ者は、ほんの一握り……)
まして、現在アルヴェリスで起こっている混乱を考えれば、あの場に兄がひとりきりで、しかも全裸で居るのは考えられない。
(直接問いただせば良いだけの話を……私はなぜ躊躇っているのでしょう)
訊けば、答えが得られるかもしれない。しかし、そうすることをシルヴィアは恐れていた。もしかして、と抱いた淡い期待が、落胆へと変わるのが怖かった。
(『彼』ではない……しかし、もしこの男が『彼』なら――)
不安と期待と興奮が綯い交ぜになり、思考が終わりなく拡散されていく。
この得体の知れない感情がどこから湧いて来るのか――――シルヴィアは心の裡にその源泉を探るが、どうにも見つかりそうになかった。
(触れれば……分かるのでしょうか……?)
揺れるシルヴィアの心を、一瞬の閃きが照らす。そしてその考えは、すぐさま確信へと収束していく。
(触れるなら…………手?)
アキトは隣で、携帯糧食のビスケットをもそもそ頬張っている。隙だらけで、手に触れることなどシルヴィアには造作も無い。
(少しだけ……軽く触れるだけです)
そう、造作も無いことだ。それでもシルヴィアは息を呑み、まるで命を賭けるような覚悟で臨んでいた。
(ゆっくり……ゆっくりです……静かに……スローに……)
恐る恐る手を伸ばす。顔は真っ直ぐ正面に向けたまま、目標に向けて静かに腕を動かす。
アキトに視線を向けることもなく、慎重に――――。
「シルヴィア殿、どうぞ玉座の間へお越しください」
しかしその時、ドアの外から声をかけられた。
「はっ! ただ今参ります!」
女騎士はバッと立ち上がり、胸の前で拳を当てる。その機敏な動作に、隣のアキトは驚いた様子でシルヴィアを見上げている。
「……何を見ているのですか。早く立ちなさい」
冷静に叱咤しながらも、しかしシルヴィアの胸には、アキトに触れられたなかったことへの落胆が渦巻いていた。
(がっかりしている……? なんなのですか、私は……何を落ち込んでいるのです)
アキトに出会ってから、シルヴィアは経験したことのない感情にばかりさらされていた。
「行きますよ。陛下をお待たせしてはなりません」
シルヴィアはもう1度厳しく告げ、扉を開け放った。
長い廊下の窓から覗く新緑が、わずかに冷静さを取り戻させてくれる。
胸に渦巻く混乱を押し隠しながら、女騎士はその元凶ともいえる男と共に、玉座の間へと歩を進めた。
04
「ご苦労様でした、騎士シルヴィア――ついに、見つけたのですね」
淡く光る玉座の間。
清らかな静寂が満ちるその中心――純白の玉座に優雅に腰掛けていたのは、新雪のように白き少女だった。
「長きに渡る『彼』の不在でしたが、ようやくこの国――アルヴェリスにも現れたのですね」
瞳を閉じたまま静かに相対する姿は、まるで冬の朝霧の中に佇む幻のよう。儚げな雰囲気は今にも消えてしまいそうな存在感だ。
「この危機的状況に救いの手が現れるとは……これも女神様のお導きでしょうか」
月明かりを映したような銀髪が、ふわりと肩にかかって揺れている。清楚な美貌には柔らかな微笑が浮かび、母性的な包容力さえ感じられた。
しかし、彼女が身に纏っているのは大胆な純白のドレス。胸元は大きく切り込まれ、豊かな双球の半分が露わになっている。
慎ましやかな雰囲気と背徳的な肌の露出――そのアンバランスな姿が、アキトの目と心を奪っていた。
(…………かわいい…………着痩せするタイプなんだな)
ドレスから覗く美しい半球は控えめだが、あれは仮の姿だ。彼女の胸は決して小さくない。
(けど、やっぱりアスカじゃなかったか……このセラフィーナ女王ってのは)
セラフィーナ女王――セラは、たしかに妹に似ていた。
兄の性癖を歪め、撃ち抜き、そして最後は性癖そのものになった――――最高で至高で最愛の妹に。
(アスカとの新婚初夜プレイ……懐かしいなぁ……)
まるで花嫁のようなドレスで佇むセラの姿は、かつての濃厚な夜を思い起こさせた。
(本物のウェディングドレスを買ってきたアスカには驚かされてさ………………思い出したら、なんだか興奮してきたな)
ついさっきまで感じていた5倍の重力や倦怠感が、興奮の向こうに押しやられていく。身体中の血液がふつふつと沸騰し、1つの場所に集まっていく――――そう、勃起だ。
妖しい熱を帯びた目で、舐めるようにセラを見つめるアキト。その淫らな視線に、騎士シルヴィアは気づかず、
「女王陛下、お言葉を返す無礼をお許しください。私は怪しい男を見つけただけで、『彼』だと断定したわけではありません」
騎士らしい真っ直ぐな物言いに、女王は小さく首を傾げた。
「そうなのですか……?」
「はい。このような限りなく怪しい男が『彼』ではあるはずがありません。見た目も凡庸ですし、言動も不明瞭。さらに、この男を所有する妹も見つからないのです」
「そうでしたか……あなたが直接知らせてきたので、気持ちがはやっていたようです」
女王の目蓋がゆっくりと持ち上がる。
「私は、そちらの方が『彼』だとばかり――――」
紫青の宝石のような瞳が、熱に濡れたアキトの視線を正面から受け止める。
その瞬間、女王の表情が固まった。
「……シルヴィア、この方は……なぜ、裸なのです……?」
凍てついた声音が、静寂を震わせた。
背中に剣を突きつけられ、家畜のように連行されたアキトは未だ全裸だった。
「し、失礼しました! だっ、誰か! 誰か羽織るものを持ってきてください!!」
女騎士の悲鳴じみた声が響き渡る。
「くっ……この無礼者! 女王陛下の御前でそのような無作法――万死に値します!」
(おいおい、俺が悪いのかよ……)
射殺すような視線を、アキトは力なき眼で受け止める。興奮は女騎士の悲鳴で霧散していた。
救いの手は、案外すぐに現れた。
「友よ、こちらを」
光る裸体を上質なマントが包む。
「おめでとうございます。ついに現れたのですね――『彼』が」
アキトのすぐ傍らに、ひとりの美しい青年が立っていた。落ち着いた顔立ちに柔和な笑みを浮かべている。まるで絵本の王子様のようだ。
「ロイド卿! い、一体いつアルヴェリスに……!?」
「先程ですよ。私のことよりも、この方が『彼』かどうか、確かめてみるのが早いのでは?」
「それは……そうですが」
躊躇いを見せる騎士に構わず、青年は懐から凸型の石を取り出し、
「友よ、ちょっと失礼」
アキトの首筋へと当てた。
石がピピピと電子音を奏でると、待ちきれないとばかりに青年はそれを見つめ、
「なんと……! これは……素晴らしい! お兄ちゃん力212京212兆――――桁違いです。私よりも遙かに高い」
「なっ!? ノクスヴィール国の兄王であるロイド卿よりも!? そんなバカな!?」
女騎士が青年の手から強引に石を奪い取る。そこに示されているものと、アキトを交互に見比べる。
「う、ウソです! 女神様の加護を212兆も持っているなんて! あ、ありえません! こんなのは出鱈目です!」
「シルヴィア殿、この"兄スカウター"は最新の物です。計器に間違いはありません」
「し、しかし……このドヘンタイが、ロイド卿を超える力を持つなど……!」
「しかし数値に間違いはありません。私はこちらの方を信じますよ」
ロイドは装置を取り返すと、女王のもとへ跪いて差し出した。
「これは……やはりこの方がそうなのですね」
セラは紫紺の瞳を閉じ、大切な宝物を受け取ったとばかりに、無骨な計器を胸に抱いた。
「この方こそ、私たちが長きに渡って待ち続けた神話の存在。全ての妹の兄であり、創世の女神様のパートナー。その名は――」
「お、お待ちください女王陛下! よくご覧ください! データ上はそうであっても、この男には『証』がありません!」
たった1人否定派の女騎士は、アキトのマントを乱暴にめくりあげた。そして、
「この男の手には紋章が――な、なんですか! この感覚は……っ!? あっ、ンっ♥ んぁっ♥ や、やめ――あっ♥ あぁっ♥ イクッ♥ イクイクッ♥♥ イックゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ♥♥♥♥」
その手に触れた瞬間、シルヴィアの身体に快楽の稲妻が落ちる。
白亜の城に、女騎士のドスケベ絶頂アクメ声が木霊した。
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